要約
本稿では、アナログ・ビデオ信号について包括的に解説します。対象とするのは、放送のアプリケーションとグラフィックス(PC用)のアプリケーションです。ビデオ信号の構造、フォーマット、標準的なビデオ信号の電圧、ガンマ補正、スキャン・レート、同期信号などについて詳しく説明します。
現在、一般に使用されているビデオ信号には、放送用の形式とグラフィックス用の形式の2つがあります。放送用の信号のフォーマットは、地上テレビ放送に基づいています。それに対し、グラフィックス用の信号のフォーマットは、ワークステーションやPCにおけるニーズを満たすように開発されました。そのフォーマットは、テレビ信号の伝送に必要となるフォーマットや帯域幅の制限とは無関係に定められています。放送用のフォーマットは、米国のFCC(連邦通信委員会)や欧州のITU(国際電気通信連合)といった専門機関によって規定されています。一方、グラフィックス用のフォーマットは、業界や企業が策定した規格として定められています。もともとはどちらのフォーマットも、EIA RS-1701で規定された共通のベースバンド信号の構造を採用していました。しかし、1953年にテレビ放送にカラー方式が追加された際に変化が生じました。
モノクロ・テレビには単一の輝度信号しか必要ありません。そのため、必要な伝送帯域幅も中程度でした。では、カラー放送では帯域幅はどのようになるでしょうか。単純にカラーに対応しようとすると、加法混色の各原色であるRGB(赤、緑、青)に対して1つずつ、計3つのビデオ信号が必要になります。そうすると、必要な帯域幅が3倍になってしまいます。これを回避するためにNTSC、PAL、SECAMといった手法が導入されました。これらは、アナログのエンコーディング方式です。いずれも、元のモノクロ映像のチャンネル帯域幅にカラー映像を収められるようにするために策定されました。その過程で、放送業界は今日のビデオで使用されているすべてのアナログ・ベースバンド・フォーマットを考案しました。一方、グラフィックスのアプリケーションでは帯域幅を制限する必要はありませんでした。そのため、3つの個別のRGBチャンネルがそのまま使われています。
ベースバンドのビデオ信号のフォーマットには、ネイティブ・プライマリ、コンポーネント、コンポジットの3種類があります。これらは、アナログかデジタルか、放送用かグラフィックス用かを問わず、あらゆるビデオの基盤になる階層を形成しています。では、各フォーマットはどのように誕生したのでしょうか。また、それらを処理する際にはどのような種類の問題が、どのような原因で発生するのでしょう。以下では、ビデオのフォーマットに関連する品質の問題についても説明することにします。
放送とグラフィックスには、すぐには気付きにくい違いが存在します。放送用のビデオにはガンマ(γ)と呼ばれる特性が存在します。一方、グラフィックス用のビデオにはそれがありません。また、放送ではインターレース・スキャンを使用しますが、グラフィックスではプログレッシブ・スキャンを使用します。このような違いがあることから、テレビ用のディスプレイとPC用のディスプレイは異なるものとして開発されました。以下では、これらの違いが存在する理由と、ディスプレイを共有する方法について説明します。
放送用/グラフィックス用のアナログ・ビデオ信号の構造
放送用のビデオ信号の構造は、グラフィックス用のビデオ信号の構造よりも複雑です。なぜなら、放送のアプリケーションでは、テレビのトランスミッタの変調に必要なコンポジット信号への変換を行う際、アナログのエンコーディング処理が使われるからです2。この処理では、ネイティブ・フォーマットから始めて、すべてのビデオ・フォーマットが生成されます3。つまり、ネイティブ・プライマリ、コンポーネント、コンポジット・ビデオの3つが生成されるということです。エンコーディングを使用するのは放送用のビデオのみです。現在のPCでは、コンポーネント信号もコンポジット信号も使用しません。
もともと、PCのディスプレイではテレビのフォーマットを使用していました。先述したように、グラフィックスではRGBフォーマットしか使用しません。ただ、解像度を上げるために複数のスキャン・レートに対応する形で進化を遂げていきました。通常、テレビは画面の高さの6倍以上離れた位置から視聴されます。それに対し、PCの画面は、その高さの1~3倍の位置から見ることになります。そのため、グラフィックスでは解像度を上げなければならなかったのです。人間の目で解像できる最小の面積は1秒角です。これに基づいて、グラフィックス用のディプレイでは解像度が大幅に高められました。一方、テレビについては大型ディスプレイが登場するまで特に解像度の向上が求められることはありませんでした。
NTSC4、PAL5、SECAM6は、それぞれ米国、ドイツ、フランスで開発された放送用のビデオ・フォーマットです。いずれのフォーマットでも、カラーのビデオと音声を1つの信号にエンコードします。これらのフォーマットでは、帯域幅が狭くなることとアーチファクトが発生することから、ビデオの品質が低下します。帯域幅が狭くなるということは解像度が低下するということを意味します7。一方、アーチファクトは、エッジ上のクロール、ハンギング、ドットとして現れます。後者は視聴者にとって非常に不快なものですが、前者についてはほとんど視聴者に気づかれることはありません。
放送用のビデオ・フォーマットには、次のような共通の特性があります。
- いずれも、振幅を使用して、信号のルーマ(明るさ)の部分(Y')をR'、G'、B'の加重和としてエンコードする
- いずれも、帯域幅を狭くしたコンポーネント・ビデオ形式を有している
- いずれも、サブキャリアの位相または周波数を使用し、色またはクロマ(鮮やかさ)のエンコードを行う
- いずれも、音声用のサブキャリアを有している
- いずれも、地上波のRF伝送に適したコンポジット・ビデオと呼ばれる単一配線の形式を採用している
ここで図1をご覧ください。各種のビデオ・フォーマットは、このような階層として表すことができます8。
図1. ビデオの階層
ネイティブ・プライマリ
図1の最上層にあるのはR'、G'、B'です。それぞれに付加されているプライム記号(')はガンマ(γ)補正を表しています。これらは、放送用のビデオにおけるネイティブな形式に当たります。その下の階層にはリニアRGBがあります。これはグラフィックスのネイティブな形式であり、プライム記号は付加されていません。一部の技術解説では、同記号が誤って使用されているので注意が必要です。本稿では、図に示したSMPTE(米映画テレビ技術者協会)とITUの規格に従い、γ補正を適用する形式を表すためにプライム記号を使用することにします。
RGBとR'G'B'の信号の帯域幅は等しく、その値はビデオの解像度に応じて決まります9。そして、必要以上の信号処理を行うとビデオ信号の品質が劣化するため、グラフィックスの業界はRGBの使用にこだわっています。人間の視覚またはディスプレイによって解像できないのであれば、視聴者はその劣化に気付かない可能性があります。放送業界は、人間の知覚の特性を利用してテレビ用のコンポジット信号を設計しました。その後、HDTV(High Definition Television:高精細テレビ)、PALplus、MPEGでは、コンポジットとネイティブ・プライマリが採用されることはありませんでした。そして、ビデオの品質を高めるための形式として、コンポーネント・ビデオが使用されることになりました。
コンポーネント・ビデオ
図1では、3層目と4層目がコンポーネント・ビデオに当たります。具体的には、色差(Y'PbPr/Y'UV/Y'IQ)とルーマ‐クロマ(Y'-C)の2つの形式が存在します10。ルミナンスとクロミナンスという用語を使用している技術解説もありますが、それらは色彩科学の分野の用語です。本稿では、ルーマとクロマを使用し、ルーマの項にはプライムを付けてY'と表記します。それにより、ルーマは非線形のビデオ形式であることを示します。
色差の形式は、R'G'B'の線形加算とスケーリングによって生成します。それらは、よく知られた次の各式を満たします。
Y' = (Kr × Er') + (Kg × Eg') + (Kb × Eb')
Pb, U, I = Kcb × (B' - Y')
ルーマの係数(Kr、Kg、Kb)はNTSC、PAL、SECAMで共通ですが、色差の項(Kcr、Kcb)は処理に応じて異なります。上の式は信号のアクティブ・ビデオの部分に適用するものであり、同期信号には適用しないことに注意してください。そのため、この処理の前に信号を分離し、処理を行った後に再び結合させる必要があります。
複数のビデオ信号に関する課題としては、遅延の制御が挙げられます。画像を表示するためには、時間に対してビデオの電圧が適切に並んでいる必要があります。ところが、この条件は2種類の遅延によって妨げられます。1つは、伝送パスの長さに依存するフラットな遅延です。もう1つは、フィルタによって発生し、周波数に対する依存性を示す遅延です。後者の遅延は、R'G'B'とコンポーネント・ビデオで生じます。一方、フラットな遅延は、ビデオの周波数帯で問題になることはほとんどありません。実際、必要に応じ、同軸ケーブルまたは遅延線によって補正することができます。周波数に依存する遅延は、そのようなわけにはいきません。
R'、G'、B'の信号は、すべて同じ帯域幅を使用します。そのため、フラットな遅延が問題になることはほとんどありません。しかし、コンポーネント信号のクロマ部分(Pb、Pr、C)に対しては、占有帯域幅を削減するためにフィルタ処理が適用されます。このフィルタ処理に関連する遅延を補正するためには、ルーマの信号(Y)を同じ量だけ遅らせる必要があります。
クロマのフィルタ処理は、「視覚的にはロスはない」ものだと考えられます。この考え方は、人間の目は色の細部を検知できないという視覚モデルに基づいています。代表的なアナログ・ビデオ・テープのフォーマットであるベータ11は、スケーリングされた色差フォーマットの一例です。一方、S-VHS12はY-C形式の代表的な例です。
図1の7層目にはMPEGが存在します。MPEGは、YCbCrと呼ばれる色差信号のデジタル形式を採用しています。この方式では、CbとCrをYチャンネルの半分のレートでサンプリングすることによって帯域幅を削減します。この手法はITU-R BT.601に基づいており、4:2:2サンプリングと呼ばれています。
Y-Cコンポーネント形式の信号を生成するためには、まず色差成分によってカラー・サブキャリアの位相変調(PM:Phase Modulation)または周波数変調(FM:Frequency Modulation)を実施します。その上で、使用する処理に応じてそれらを加算することで最終的な信号が生成されます。YチャンネルはYPbPrと同じですが、クロマ信号はFMまたはPMのサブキャリアです。クロマ信号では、バンドパス・フィルタによって色の帯域幅が更に削減されます。
この部分は、エンコーディング処理における重要なポイントになります。ここがルーマとクロマの情報が分離される最後の場所だからです。YとCが結合されたら、二度と完全に分離されることはなく、コンポジットの品質劣化の原因となるアーチファクトが発生します。
コンポジット・ビデオ
図1の5層目に存在するのがコンポジット・ビデオ(CVBS:Composite Video Baseband Signal)です。この信号は、ルーマの成分とクロマの成分をモノラル・オーディオと合成することによって生成します。NTSC、PAL、SECAMではこのCVBSを使用します。
CVBSではクロスカラー・アーチファクトが発生します。そのため、図1のチャート上では品質が最低のレベルになります。同アーチファクトは、表示のためにCVBSをR'、G'、B'に分離した後に残るルーマとクロマの断片的な情報です。最近では、放送用のものとして、より大きく高品質なディスプレイが使用されるようになっています。その結果、同アーチファクトがより目立つ状況になりました。現在では、CVBSは旧式のフォーマットとして位置づけられています。コンポーネント・ビデオの単線式デジタル形式に取って代わられ、恐らくは使われなくなっていくでしょう。
NTSCのCVBSには、セットアップと呼ばれる固有の特徴があります。これは、黒のレベルとブランキングのレベルの間の電圧オフセットのことです。このセットアップのおかげで、NTSCでは同期部分からの分離が容易になります。但し、PALやSECAMと比べてダイナミック・レンジ性能が低くなります。
ビデオ・フォーマットは、デジタル技術の文脈では色空間とも呼ばれます。また、エンコーディング/デコーディングの処理は、アナログ処理と区別するために色空間変換と呼ばれています。この点には注意してください。デジタル・ビデオではアナログ・ビデオと同じフォーマットを使用します。エンコーディングの処理によって生成される信号は図2のようになります。この図では、信号の振幅(パーセント単位)も示してあります。表1は代表的なフォーマットの正確な振幅を示したものです。この表は、75Ωの負荷の両端で1VP-PとなるR'G'B'のネイティブ・プライマリをベースとしています。つまり、ディスプレイ、ビデオ・レコーダ、DVDプレーヤといった機器に入出力される信号の値を表しています。
図2. R'G'B'信号からCVBSへのアナログ・エンコーディング
R'G'Bビデオ | |||
NTSC | PAL | ||
セットアップ | 53.6mV | セットアップ | 0mV |
R'G'B' | 714mV(ピーク・ルーマ、100%の白) | R'G'B' | 700mV(ピーク・ルーマ、100%の白) |
同期 | -286mV | 同期 | -300mV |
日本のNTSC | グラフィックスのリニアRGB | ||
セットアップ | 0mV | セットアップ | 0mV |
R'G'B' | 714mV(ピーク・ルーマ、100%の白) | R'G'B' | 700mV(ピーク・ルーマ、100%の白) |
同期 | -286mV | 同期 | -300mV |
色差コンポーネント・ビデオ | |||
NTSCのベータカム | PALのベータカム/EBU N10 | ||
セットアップ | 53.37mV | セットアップ | 0mV |
Y | 714.29mV(ピーク・ルーマ、100%の白) | Y | 700.00mV(ピーク・ルーマ、100%の白) |
Pb/Pr | 700.00mVP-P(75%のカラー・バー)933.34mVP-P(100%のカラー・バー) | Pb/Pr | 525.00mVP-P(75%のカラー・バー)700.00mVP-P(100%のカラー・バー) |
同期 | -286mV | 同期 | -300mV |
日本のNTSCのベータカム | |||
セットアップ | 0mV | ||
Y | 714.30mV(ピーク・ルーマ、100%の白) | ||
Pb/Pr | 756.80mVP-P(75%のカラー・バー)1009.0mVP-P(100%のカラー・バー) | ||
同期 | -286mV | ||
Y-Cコンポーネント・ビデオ | |||
NTSCのSビデオ | PALのSビデオ | ||
セットアップ | 53.57mV | セットアップ | 0mV |
Y | 714.29mV(ピーク・ルーマ、100%の白) | Y | 700.00mV(ピーク・ルーマ、100%の白) |
C | 626.70mVP-P(75%のカラー・バー)835.60mVP-P(100%のカラー・バー) | C | 663.80mVP-P(75%のカラー・バー)885.10mVP-P(100%のカラー・バー) |
同期 | -286.00mV | 同期 | -300.00mV |
コンポジット・ビデオ | |||
NTSC | PAL | ||
セットアップ | 54mV | セットアップ | 0mV |
ビデオ | 714mV(ピーク・ルーマ、100%の白)934.15mV(100%のカラー・バーにおけるピーク・ルーマ) | ビデオ | 700mV(ピーク・ルーマ、100%の白)933.85mV(100%のカラー・バーにおけるピーク・ルーマ) |
同期 | -286mV | 同期 | -300mV |
バースト | 286mVP-P | バースト | 300mVP-P |
NTSC-EIA-J | |||
セットアップ | 0mV | ||
ビデオ | 714.0mV(ピーク・ルーマ、100%の白)908.2mV(100%のカラー・バーにおけるピーク・ルーマ) | ||
同期 | -286.0mV | ||
バースト | 286.0mVP-P |
リニアなビデオ、ガンマ補正されたビデオ
当初、ビデオ信号は真空管センサー(撮像管)を使用したカメラで生成されていました。撮像管のカメラの出力電圧(V)は、入射光(B)に対してリニア(線形)なものではありません。それは指数関数的な関係であり、その関係をガンマ(γ)と呼びます。これらの関係は以下の式で表されます。
B = K × Vγ.
ここで、Bは光束であり、単位はlm/m2です。Kは定数、Vは発生する電圧(単位はV)です。ブラウン管(CRT)も真空管の一種ですが、カメラの撮像管とは逆の非線形性(1/γ)を示します。このことから、光の出力は光の入力に対して線形になります。つまり、ブラウン管の逆ガンマ特性によって、カメラの撮像管のガンマ関数が補正されるということです。但し、電圧は輝度のレベルに比べると非線形です。そのため、2つの画像を重ね合わせると問題が発生します。例えば、タイトルや他のグラフィックを単純に線形加算することはできないということです。ビデオ・ミキサーは輝度が非線形なので、放送の信号に対しては最適な結果をもたらしません。特殊効果を得るための機器は、レイヤ化、合成、タイトル付けなどのために線形の信号を使用します。グラフィックスのビデオは線形なので、それらの信号を混合するのは容易です。線形の信号にはディスプレイにおいてガンマ補正が適用され、ディスプレイでは適切に表示されます。ガンマは有益な副次的効果をもたらします。それは付加ノイズの影響が軽減されるというものです。
ガンマは、NTSCでは2.22、PALとSECAMでは2.8と規定されています。
当初、カメラとブラウン管は厳密な補完関係にあると考えられていました。ただ、実際にはそうではありません。後に、ディスプレイでγを意図的に低めに補正すると、コントラスト比が向上することが判明しました。そのため、Sun MicrosystemsとAppleは、それぞれ1.7と1.45という値でディスプレイを最適化しました。それ以外のメーカーは放送用の値を使用していました。現在、テレビ用のディスプレイやPC用のディスプレイを提供するメーカーは、γをある程度低めに補正することで表示を改善しています。
1つ確かなことがあります。それは、ビデオ信号を必要に応じて適合させるためには、γの追加/除去/変更を可能にしなければならないというものです。一部の技術解説では、線形なRGB信号にγを追加することをγ補正と呼んでいます。ただ、実際にはγを修正するという性質が強いものだと言えるでしょう。
ガンマの修正
γの追加/除去/変更は、アナログ領域でもデジタル領域でも行うことができます。アナログ領域で実施する場合、非線形のアンプ回路を利用します。その回路は、オペアンプ周辺のゲイン抵抗の1つを、実数または非線形のインピーダンスと等価なものに置き換えることで構成します。ただ、その設計は容易だとは言えません。そのようなアナログのγ補正器で高い精度が得られることはほとんどありません。そのため、トリミングによる調整が必要になります。γの修正に伴う副作用は歪みが発生することです。
上記のような理由から、γ補正はデジタル領域で行うべきです。ただ、その処理はアクティブ・ビデオの部分だけに適用します。同期信号には適用しない点に注意してください。デジタル領域の処理では、ソフトウェア上のルックアップ・テーブル(LUT)から得た代替値を使用します。この方法であれば、保存された値と同程度の精度が得られます。また、設計も容易です。デジタルの信号を扱う場合、明らかにこれが望ましい方法です。
いずれの場合も、光束(B)に対する電圧の式が必要になります。放送用のビデオは2種類あります。1つはSDTV(Standard Definition Television:標準解像度テレビ)、もう1つはHDTVで使用されます。
SMPTE170M、ITU-R BT.709に準拠したNTSC/PALでは以下の式が使われます。
E'x = [(1.099×B(0.45)) - 0.099] (0.018 > B > 1.0の場合)
E'x = [4.5×B] (SMPTE240Mに準拠するHDTVにおいて0 > B > 0.018の場合)
E'x = [(1.1115×B(0.45)) - 0.1115] (0.0228 > B > 1.0の場合)
E'x = [4.0×B] (0 > B > 0.0228の場合)
スキャンと同期
ビデオ信号は、アクティブ・ビデオと同期信号の2つの部分から成ります。ここまでの説明では、アクティブ・ビデオだけに注目してきました。ここで言う同期信号の正確な名称は、Image Reconstruction Timing(画像の再構成のタイミング)です。つまり、同期信号は画像を再構成するために使用されます。同期信号の部分は黒のレベルより下にあり、人が目にすることはありません。つまり、アクティブ・ビデオに干渉することはないということです。黒のレベルより下の信号は、「ブランキングされている」と表現されます。黒のレベルとブランキングのレベルは、NTSCのコンポジットを除くすべてのフォーマットで同じです。もともと、黒のレベルまたはブランキングのレベルは0Vでした。アクティブ・ビデオの電圧はそれよりも高く、同期信号の電圧はそれよりも低く設定されていました。その目的は、レベルとタイミングに基づいて両者を簡単に分離できるようにすることです。
アクティブ・ビデオと同期信号(同期期間)を同一面上に広げると、図3に示すようなラスタ(走査線)が得られます。使用されないT2(H)~T3(H)の部分は、もともとは磁気的に走査するブラウン管が、次のラインのために開始点に「フライバック」し、T0(H)~T1(H)の期間に安定化するためのものでした。垂直偏向も同様に動作します。同期期間は、アクティブ・ビデオにおいては「デッド・タイム」です。このことから、ビデオ・フォーマットには2つの解像度が存在することになります。目に見えるアクティブ・ビデオの解像度と、ラスタの総解像度13の2つです。このことは放送にもグラフィックスにも当てはまります。画質は、アクティブ・ビデオの解像度と信号が伝送される帯域幅によって決まります14。
ラスタは、ディスプレイの左上隅から始めて、水平方向と垂直方向の両方に対してスキャンを実施することで生成されます。これらの走査線は、水平同期パルスつまりH-Syncによって同期をとることで、すべてディスプレイの同じ場所から始まります。フレーム同期つまりV-Syncは、スキャンが終了するタイミングと次のスキャンが開始するタイミングを表します。画像がフレーム・レートでサンプリングされ、1/2V-Syncより速い動きがあると、再構成された画像に「エイリアシング」が発生します。
図3. ディスプレイのラスタ。水平/垂直のフライバック時間が存在します。
RS-170では、フレーム・レートが奇数のフィールドと偶数のフィールドに分割されました。この処理はインターレース・スキャンニングと呼ばれ、帯域幅を節約するために用いられます。インターレース・スキャンニングは、表示される画像をより高速にリサンプリングする効果をもたらします。その結果、放送のアプリケーションにおいては、フレーム・レートや帯域幅を高めることなくフリッカ(視覚的なちらつき)を回避することができます。このシーケンスは、カラー・サブキャリアの追加によって変更されました。NTSCでは、カラー・サブキャリアの位相がフィールドごとに反転します。一方、PALでは位相がフィールドごとに90°ずれます。それにより、NTSCとPALのコンポジット信号では、カラー・フィールドのシーケンスがそれぞれ4回、8回発生します。なお、グラフィックスでは帯域幅が拡大しても大きな問題はありません。そのため、プログレッシブ・スキャンニングが使われています。
垂直サンプリングには1つの副作用があります。それは、ビデオの信号をAC結合する場合、フィールド・レート(放送)またはフレーム・レート(グラフィックス)で良好な方形波の応答が得られなければならないというものです。これが実現されない場合、ラスタ全体の明るさに変動が生じます。これについては垂直方向に白と黒に分割した画面パターンによって確認することができます。負荷が75Ωの回路を使用することから、出力をAC結合する際に良好な方形波の応答を維持するためには、非常に値の大きいコンデンサ(330μF以上)が必要になります。
スキャニングの方式とレートは、ビデオの種類によって異なります。そうしたなか、ディスプレイを共有するためにMultiSync®というコンセプトが考案されました。これに対応するディスプレイは、コンポーネントの値を切り替えることで、様々なレートに対応できる偏向システムを備えています。ディスプレイが最高のスキャン・レートで表示を実行できるだけの十分な解像度を備えている限り、この機能は問題なく利用できます。この方法であれば、各種のビデオをネイティブなスキャンニング・フォーマットで表示できます。但し、ディスプレイのサイズを最高の解像度と速度に適合させなければならないので、価格が高くなる可能性があります。
代替策として、一定のレートで画面をスキャンし、入力されたビデオを表示用のレートに変換するという方法が存在します。これはスキャン変換と呼ばれています。この方法を採用すれば、ディスプレイを単一の解像度で動作させることができ、偏向がシンプルになります。なお、スキャン変換は、デュアル・ポートのビデオ用RAMを使用してデジタル領域で行うのが最適です。
各種ビデオ規格と仕様
以下、ビデオ用に策定された各種の規格や関連団体を列挙しておきます。
NTSC(National Television System Committee):米国のSDTV向け規格
PAL(Phase Alternating Line):欧州やその他の地域で利用されているSDTV向けシステム
SECAM(Sequential Couleur avec Memoire):フランスのSDTV向け規格
ATSC(Advanced Television Systems Committee):米国のHDTV向け規格
VESA(Video Electronics Standards Association):グラフィックス向けビデオに関する規格を提案/公開する標準化団体
ITU(International Telecommunications Union):放送用ビデオに関する規格を提案/公開するEU(欧州連合)の標準化団体
SMPTE(Society of Motion Picture and TV Engineers):放送用ビデオに関する規格を提案/公開する米国の標準化団体
JPEG(Joint Photographic Experts Group):静止画のビデオ規格を提案/公開する標準化団体
MPEG(Moving Picture Experts Group):放送用ビデオに関する規格を提案/公開する標準化団体
EIA RS 170/170A:米国のモノクロ・テレビとカラー・テレビで使われていた当初の仕様。SMPTE 170Mに置き換えられた
EIA 770-1:拡張コンポーネント・ビデオを拡張する米国の仕様。PALplus向けのITU-R BT.1197/ETSI 300 294に似ている
EIA-770.2:SDTVのベースバンド・コンポーネント・ビデオに関する米国の仕様
EIA-770.3:HDTVのベースバンド・ビデオに関する米国の仕様
ITU-R BT.470:NTSC、PAL、SECAMを含むSDTVの世界統一仕様
ITU-R BT.601:SDTV/HDTVのビデオにおけるユニバーサル・サンプリングに関する仕様。SMPTE125Mに似ている
ITU-R BT.1197/ETSI 300 294:欧州向けのPALplus(テレビ向けの拡張版)の仕様
SMPTE 125M:ITU-R BT.601に類似
SMPTE 170M:EIA RS 170Aに代わるNTSCのカラー仕様
SMPTE 253M:スタジオで使用されるSDTVのRGBアナログ・ビデオ・インターフェースの仕様
SMPTE 274M:1920 × 1080のHDTV向けのコンポーネント仕様
SMPTE 296M:1280 × 720のRGB/YPbPr向けのベースバンド・ビデオ仕様。PALplusに似ている
グラフィックスの規格 | 水平解像度 | 垂直解像度 | 水平周波数〔kHz〕 | 垂直リフレッシュ・レート〔Hz〕 | 画素/サンプル・レート〔MHz〕 |
VGA | 640 | 480 | 31.5 | 60 | 25.175 |
640 | 480 | 37.7 | 72 | 31.5 | |
640 | 480 | 37.5 | 75 | 31.5 | |
640 | 480 | 43.3 | 85 | 36 | |
SVGA | 800 | 600 | 35.1 | 56 | 36 |
800 | 600 | 37.9 | 60 | 40 | |
800 | 600 | 48.1 | 72 | 50 | |
800 | 600 | 46.9 | 75 | 49.5 | |
800 | 600 | 53.7 | 85 | 56.25 | |
XGA | 1024 | 768 | 48.4 | 60 | 65 |
1024 | 768 | 56.5 | 70 | 75 | |
1024 | 768 | 60 | 75 | 78.75 | |
1024 | 768 | 64 | 80 | 85.5 | |
1024 | 768 | 68.3 | 85 | 94.5 | |
SXGA | 1280 | 1024 | 64 | 60 | 108 |
1280 | 1024 | 80 | 75 | 135 | |
1280 | 1024 | 91.1 | 85 | 157 | |
UXGA | 1600 | 1200 | 75 | 60 | 162 |
1600 | 1200 | 81.3 | 65 | 175.5 | |
1600 | 1200 | 87.5 | 70 | 189 | |
1600 | 1200 | 93.8 | 75 | 202.5 | |
1600 | 1200 | 106.3 | 85 | 229.5 | |
QXGA | 2048 | 1536 | 60 | 260 | |
2048 | 1536 | 75 | 315 |
ビデオ用ICの選択
ここでは、ビデオ・アプリケーション向けにアナログ・デバイセズが提供するドライバ/バッファ/レシーバー製品の詳細を紹介します。表3、表4は、シングルエンド出力/差動出力の最も一般的な製品の動作電圧、大信号帯域幅(LSBW、2VP-P)、スルー・レート、差動ゲイン/位相(DP/DG)についてまとめたものです。
表5に示したのは、ビデオ用ドライバの特別なサブセットである分配アンプの概要です。これらは複数の負荷を駆動するように構成されており、高い絶縁性、選択可能な出力、固定/設定可能なゲインを提供します。この種の製品はプロ用機器でよく使われます。
ビデオ用ドライバにはもう1つのサブセットがあります。それがマルチプレクサ・アンプです(表6)。この種のアンプは、ビデオ信号のルーティングに用いるマルチプレクサとライン・ドライバを組み合わせて実現されています。
表7は、アナログ・ビデオ信号を対象とする再生(再構成)用フィルタについてまとめたものです。これらを採用すると、ビデオの再生アプリケーションにおいて多くのディスクリート部品が不要になります。その結果、基板面積を削減できる可能性が高まります。
品番 | アンプの数 | 動作電圧〔V〕 | -3dB LSBW〔MHz〕 | スルー・レート〔V/マイクロ秒〕 | DP/DG (°/%) | 備考 |
MAX4090 | 1 | +3,+3.3, +5 | 55 | 275 | 0.8/1.0 | SC70、3V、150nAのシャットダウン電流、入力クランプ |
MAX4032 | 1 | +5 | 55 | 275 | 0.6/0.4 | SC70、5V、サグ補正出力 |
MAX4450/MAX4451 | 1/2 | +5, ±5 | 175 | 485 | 0.08/0.02 | SC70/SOT23 |
MAX4350/MAX4351 | 1/2 | ±5 | 175 | 485 | 0.08/0.02 | SC70/SOT23 |
max4380–MAX4384 | 1/2/3/4 | +5, ±5 | 175 | 485 | 0.08/0.02 | SC70/SOT23、ディスエーブル機能 |
MAX4389–MAX4396 | 1/2/3/4 | +5, ±5 | 127 | 200 | 0.015/0.015 | SC70/SOT23、ディスエーブル機能 |
MAX4108 MAX4109 MAX4308 MAX4309 |
1 1 |
+5,+/-5 | 400
225 220 200 |
1200 | 0.004/ 0.008 |
低歪み、安定したゲイン(1、2、5、10)、MAX4108の0.1dB/2VP-Pの帯域幅は100MHz |
MAX4012/MAX4016/MAX4018/MAX4020 | 1/2/3/4 | +3.3, +5, ±5 | 140 | 600 | 0.02/0.02 | ディスエーブル機能 |
MAX4212/MAX4213/MAX4216/MAX4218/MAX4220 | 1/2/3/4 | +3.3, +5, ±5 | 180 | 600 | 0.02/0.02 | ディスエーブル機能 |
MAX4014/MAX4017/MAX4019/MAX4022 | 1/2/3/4 | +3.3, +5, ±5 | 140 | 600 | 0.02/0.04 | ゲインが2のバッファ、ディスエーブル機能 |
MAX4214/MAX4215/MAX4217/MAX4219/MAX4222 | 1/2/3/4 | +3.3, +5, ±5 | 220 | 600 | 0.02/0.04 | ゲインが2のバッファ、ディスエーブル機能 |
MAX477 | 1 | ±5 | 200 | 1100 | 0.01/0.01 | 130MHzで0.1dBのゲイン平坦性 |
品番 | ドライバ/レシーバー | 動作電圧〔V〕 | -3dB LSBW〔MHz〕 | スルー・レート〔V/マイクロ秒〕 | DP/DG〔°/%〕 | 備考 |
MAX435 | ドライバ | ±5 | 275 | 800 | 規定なし | 300μVの入力オフセット電圧 |
MAX4142 | ドライバ | ±5 | 180 | 1400 | 0.01/0.01 | 2V/Vの固定ゲイン |
MAX4147 | ドライバ | ±5 | 250 | 2000 | 0.03/0.008 | 2V/Vの固定ゲイン |
MAX4447/MAX4448/MAX4449 | ドライバ | ±5 | 405 | 6500 | 0.01/0.02 | シングルエンド入力 |
MAX436 | レシーバー | ±5 | 275 | 800 | 規定なし | 300μVの入力オフセット電圧 |
MAX4144/MAX4145/MAX4146 | レシーバー | ±5 | 110 | 1000 | 0.03/0.03 | シャットダウン・モード |
MAX4444/MAX4445 | レシーバー | ±5 | 500 | 5000 | 0.05/0.07 | シャットダウン・モード |
品番 | 出力の数 | 動作電圧〔V〕 | -3dB LSBW〔MHz〕 | スルー・レート〔V/マイクロ秒〕 | DP/DG〔°/%〕 | 備考 |
MAX4135/MAX4136 | 6 | ±5 | 185 | 1000 | 0.1/0.1 | 40MHzで0.1dBのゲイン平坦性 |
MAX4137/MAX4138 | 4 | ±5 | 185 | 1000 | 0.1/0.1 | 40MHzで0.1dBのゲイン平坦性 |
品番 | 入力:出力 | 動作電圧〔V〕 | -3dB LSBW〔MHz〕 | スルー・レート〔V/マイクロ秒〕 | DP/DG〔°/%〕 | 備考 |
MAX4023–MAX4026 | 2:1 | +5, ±5 | 260 | 300 | 0.05/0.012 | 低コスト、固定/設定可能なゲイン |
MAX4028/MAX4029 | 2:1 | +5 | 210 | 300 | 0.4/0.2 | ゲインは2で固定、入力クランプ付き |
MAX4310 | 2:1 | +5, ±5 | 110 | 460 | 0.06/0.08 | 安定したユニティ・ゲイン |
MAX4311 | 4:1 | +5, ±5 | 100 | 430 | 0.06/0.08 | 安定したユニティ・ゲイン |
MAX4312 | 8:1 | +5, ±5 | 80 | 345 | 0.06/0.08 | 安定したユニティ・ゲイン |
MAX4313 | 2:1 | +5, ±5 | 40 | 540 | 0.09/0.03 | ゲインは2で固定 |
MAX4314 | 4:1 | +5, ±5 | 90 | 430 | 0.09/0.03 | ゲインは2で固定 |
MAX4315 | 8:1 | +5, ±5 | 70 | 310 | 0.09/0.03 | ゲインは2で固定 |
品番 | チャンネルの数 | 動作電圧〔V〕 | ゲイン〔dB〕 | 出力ビデオ・バッファ | 高周波ブースト | 備考 |
MAX7450–MAX7452 | 1 | ±3, ±5 | 0, 6 | あり | なし | AGCとバック・ポーチ・クランプを備えるビデオ用コンディショナ |
MAX7449 | 3 | 5 | 6 | あり | なし | 3チャンネルのRGBビデオ用フィルタ |
MAX7448 | 4 | 5 | 6 | あり | あり | CVBS入力を備える4チャンネルのRGBビデオ用フィルタ |
MAX7447 | 4 | 5 | 6 | あり | あり | CVBS入力を備える4チャンネルのSビデオ/CVBSビデオ用フィルタ |
MAX7446 | 4 | 5 | 6 | あり | あり | 4チャンネルのRGB/CVBSビデオ用フィルタ |
MAX7445 | 4 | 5 | 6, 9.5, 12 | あり | あり | ゲインを選択可能な4チャンネルのビデオ用フィルタ |
MAX7443/MAX7444 | 3 | 5 | 6, 9.5, 12 | あり | あり | ゲインを選択可能な3チャンネルのビデオ用フィルタ |
MAX7440–MAX7442 | 6 | 5 | 0 | なし | あり | 高周波ブーストを備える6チャンネルのビデオ用フィルタ |
MAX7438/MAX7439 | 3 | ±5 | 6, 9.5 | あり | あり | 3チャンネル、グランドへのバック・ポーチ・クランプ |
MAX7428/MAX7430/MAX7432 | 1, 2, 3 | 5 | 6 | あり | あり | 1/2/3チャンネルのフィルタ、2:1の入力マルチプレクサ |
品番 | SCARTコネクタ | 動作電圧〔V〕 | -3dB LSBW〔MHz〕 | ゲイン〔dB〕 | DP/DG〔°/%〕 | 備考 |
MAX4399 | 3 | +5, +12 | 27 | ±1, 6 | 0.36/0.13 | デジタル・セットトップ・ボックス用のSCART対応オーディオ/ビデオ・スイッチ |
MAX4397 | 2 | +5, +12 | 6 | ±1, 6 | 0.4/0.2 | デジタル・セットトップ・ボックス用のSCART対応オーディオ/ビデオ・スイッチ |
この記事に関して
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