産業用アプリケーションでは、高精度なデータ・アクイジション(DAQ)システムが広く利用されています。ただ、ひと言でDAQシステムと言っても、求められる性能は様々です。利用分野によっては、消費電力が少なく、極めてノイズ性能が高いものが求められます。その一例が、地震センサーに関連する分野です。同分野のアプリケーションには、地震のデータから多様な分野で活用できる有用な情報を抽出することが求められます1。それらのデータは、構造ヘルス・モニタリング、地球物理学の研究、石油の探査、産業用施設や家屋の安全性の確保などに役立てられます。
DAQ用のシグナル・チェーンに課せられる要件
多くの場合、地震の検知/探査にはジオフォン(受振器)が使用されます。これは、地盤の振動に対応する信号を電気信号に変換する電気機械式のデバイスです。特に、高い精度で振動を測定したい場合に適しています。ジオフォンは、図1に示すように地中にアレイ状に埋設されます。そして、地層面などの不連続面で反射した地震波が戻ってくるまでの時間を計測します。
ジオフォンからの小さな出力信号を捉えるには、感度の高いDAQ用シグナル・チェーンを構築する必要があります。そのシグナル・チェーンは、300Hz~約400Hzという限られた帯域内で平坦な応答を示すローパス特性を備えつつ、トータルのRMSノイズを1.0μVrmsに抑えられるものでなければなりません。また、-120dBのレベルの全高調波歪み(THD)性能を達成する必要があります。加えて、バッテリで駆動できる計測システムを実現できるように、消費電力を30mW程度に抑えなければなりません。
本稿では、以下の要件を満たすシグナル・チェーン向けソリューションを2つ紹介します。
- ゲインを 1、2、4、8、16 に設定できる PGIA(Programmable Gain Instrumentation Amplifier)を備える
- 広帯域に対応するプログラマブルなフィルタを内蔵した A/Dコンバータ(ADC)を備える
- ゲインが 1(-3dB 帯域幅が 300Hz ~約 400 Hz)の場合の入力換算(RTI:Referred to the Input)ノイズが 1.0µVrms
- ゲインが 1 の場合の THD が -120dB
- ゲインが 1 の場合の CMRR が 100dB 以上
- 消費電力(PGIA と ADC の合計)が 33mW
- 自己テスト用のセカンダリ・チャンネルを備える
DAQ用のシグナル・チェーンに適した製品
アナログ・デバイセズは、地震に関連する用途にも利用できる多種多様な製品を提供しています。しかし、上記の要件を満たすために必要なすべての機能と性能を単体で網羅している製品は存在しません。ただ、上記のようなノイズ性能やTHD性能を達成する高精度のADCや、低ノイズ/低消費電力のPGIAを構成するためのアンプ製品であれば提供しています。それらを組み合わせてシグナル・チェーンを構成すれば、上記の目標を達成することができます。
例えば、低ノイズ、低歪み、低消費電力のPGIAは、超低ノイズのオペアンプ「ADA4084-2」やゼロドリフト・アンプ「ADA4522-2」を使うことで構成できます。
また、非常に高精度なADCとしては、分解能が24ビットのシグマ・デルタ(ΣΔ) ADC「AD7768-1」や同32ビットの逐次比較型(SAR) ADC「LTC2500-32」が挙げられます。これらのADCは、通過帯域の応答が平坦なローパス・フィルタ(FIRフィルタ)を内蔵しています。また、各種のDAQアプリケーションに適応するように出力データ・レート(ODR:Output Data Rate)を設定することが可能です。
地震センサー用のソリューション(その1)
まず、ADA4084-2を使って構成したPGIAとAD7768-1を組み合わせたシグナル・チェーンを紹介します。その全体像は図2のようになります。PGIAは、ADA4084-2、アナログ・マルチプレクサ「ADG658」、許容誤差が0.1%の抵抗を組み合わせて構成します。それにより、最大8種の異なるゲインを選択可能な低ノイズ、低THDのPGIAを実現することができます。AD7768-1は、少ない消費電力と-120dBのTHDを特徴とする「AD7768」のシングルチャンネル版です。内蔵するデジタル・フィルタ(FIRフィルタ)は、プログラマブルかつ低リップルでDC~110.8kHzの帯域幅に対応しています。AD7768-1用のリファレンスICとしては「LT6657」を使用します。
AD7768-1のノイズは、1kSPSのODRで動作させた場合、1.76µVrmsに達します(図3)。また、低消費電力モードにおける消費電力は10mWです。1.0µVrmsというノイズの目標値を達成するためには、例えば16kSPSのODR(中間モード)で動作させるという方法が考えられます。図3に示すように、AD7768-1では、変調器を高い周波数で動作させると、消費電力は増えるものの、ノイズ・フロアを低減することができます。図2の回路では、平坦な応答を示すローパス・フィルタのソフトウェア・アルゴリズムをMCU(マイクロコントローラ)に実装する方法をとっています。それにより、高い周波数領域のノイズを除去すると共に、デシメーションを施して最終的なODRを1kSPSまで低下させます。そのようにすることで、最終的なRMSノイズを3.55µVの約1/4の0.9µVまで抑えられます。

MCUのソフトウェア・アルゴリズムによって実現するFIRフィルタは、性能と群遅延のバランスをとるために図4のように実装することができます。
地震センサー用のソリューション(その2)
続いて、2つ目のシグナル・チェーンを紹介します。このソリューションでは、ADA4084-2で構成したPGIAとLTC2500-32を組み合わせます(図5)。LTC2500-32は、低ノイズ、低消費電力、高性能のSAR ADCです。分解能は32ビットで、構成が可能なデジタル・フィルタを内蔵しています。同フィルタを適用することにより、低ノイズ/低INL(積分非直線性)の出力を得ることができます。地震学の研究やエネルギー探査の用途をターゲットとした製品です。
LTC2500-32に対する入力源のインピーダンスが高い場合には、バッファを適用する必要があります。それにより、アクイジション中のセトリング時間を最小限に抑えることができます。また、入力部がスイッチド・キャパシタで構成されるSAR ADCの直線性を最適化することが可能になります。このソリューションでも、最高の性能を得るためにLTC2500-32のアナログ入力部はバッファ・アンプによって駆動します。ノイズとTHDの両方を低く抑えるには、LTC2500-32を駆動するためのPGIAをディスクリート構成で実現する必要があります。次節では、これについて説明します。
PGIAの実装
PGIAが満たす必要のある主な仕様は以下のとおりです。
- 電源電圧は最小 5V
- AD7768-1 の消費電力は 19.7mW なので、33mW という目標を達成するには PGIA の消費電力を 13.3mW 未満に抑えなければならない
- ゲインが 1 の場合のノイズは 0.178µVrms(AD7768-1 は1.78µVrms だが、その 1/10 のレベルに抑える必要がある)
PGIAのトポロジとしては、以下に示す3つが考えられます。
- IC 化された PGIA
- 計装アンプ IC を使用したディスクリート構成の PGIA
- オペアンプを使用したディスクリート構成の PGIA
まずは、IC化されたPGIAについて検討してみましょう。表1に、アナログ・デバイセズが提供するデジタルPGIA(デジタル制御が可能なIC化されたPGIA)の一覧を示しました。自己消費電流IQが最も少ないのは「LTC6915」です。この製品のノイズ密度は50nV/√Hzであり、430Hzの帯域幅に対する積分ノイズは1.03µVrmsとなります。つまり、0.178µVrmsという目標値をはるかに上回っています。このように、IC化されたPGIAは適切な選択肢にはなりません。
続いて、計装アンプICを使用したディスクリート構成のPGIAについて検討します。表2に、アナログ・デバイセズが提供する代表的な計装アンプ製品についてまとめました。例えば、「AD8422」のIQが300µAですが、430Hzの帯域幅に対する積分ノイズは1.645µVrmsとなります。そのため、このトポロジも適切な選択肢にはなりません。

品番 | ゲイン(最小値)〔V/V〕 | ゲイン(最大値)〔V/V〕 | IQ/Amp(最大値)〔mA〕 | VSの範囲(最小値)〔V〕 | VSの範囲(最大値)〔V〕 | 入力電圧ノイズ(代表値)〔nV/√Hz〕 |
LTC6915 | 1 | 4096 | 1.6 | 2.7 | 11 | 50 |
AD8557 | 28 | 1300 | 1.8 | 2.7 | 5.5 | 32 |
AD8556 | 70 | 1280 | 2.7 | 5 | 5.5 | 32 |
AD8250 | 1 | 10 | 4.5 | 10 | 30 | 18 |
AD8251 | 1 | 8 | 4.5 | 10 | 34 | 18 |
品番 | ゲイン(最小値)〔V/V〕 | ゲイン(最大値)〔V/V〕 | IQ/Amp(最大値) | VSの範囲(最小値)〔V〕 | VSの範囲(最大値)〔V〕 | 入力電圧ノイズ(代表値)〔nV/√Hz〕) |
AD8422 | 1 | 1000 | 300µA | 4.6 | 36 | 8 |
LT1168 | 1 | 10,000 | 530µA | 4.6 | 40 | 10 |
AD8220 | 1 | 1000 | 750µA | 4.5 | 36 | 14 |
AD8224 | 1 | 1000 | 800µA | 4.5 | 36 | 14 |
AD8221 | 1 | 1000 | 1mA | 4.6 | 36 | 8 |
品番 | VOS(最大値)〔μV〕 | IBIAS(最大値) | GBP(代表値)〔MHz〕 | 0.1Hz~10HzのVNOISE(代表値)〔nVp-p〕 | VNOISEの密度(代表値)〔nV/√Hz〕 | 電流ノイズ密度(代表値)〔fA/√Hz〕 | IQ/Amp(代表値)〔µA〕 | VSの範囲(最小値)〔V〕 | VSの範囲(最大値)〔V〕 |
ADA4522-2 | 5 | 150pA | 2.7 | 117 | 5.8 | 800 | 830 | 4.5 | 55 |
ADA4084-2 | 100 | 250nA | 15.9 | 100 | 3.9 | 550 | 625 | 3 | 30 |
オペアンプを使用したディスクリート構成のPGIA
上記の内容を踏まえると、オペアンプを使用したディスクリート構成のPGIAを選択するべきだということがわかります。稿末の参考資料に、「プログラマブル・ゲイン機能を備える計装アンプ――用途に適した実装方法を選択する」という記事を挙げました2。この記事では、IC化された様々なPGIAを紹介すると共に、ディスクリート構成でPGIAを構築する際、特定の要件を満たすためのガイドラインを示しています。図7は、ディスクリート構成で設計したPGIAの概念図です。
この例の場合、マルチプレクサとしては「ADG659/ADG658」を使用できます。これらの製品は、容量が小さく5Vの電源電圧に対応します。
オペアンプについては、IQとノイズが重要な仕様になります。前者についてはチャンネルあたり1mA未満、後者については電圧ノイズ密度を6nV/√Hz未満に抑えなければなりません。結論として、高精度のオペアンプであるADA4522-2とADA4084-2が優れた選択肢になります。両製品の主要な性能を表3にまとめました。
このPGIAでは、ゲインを1/4/16/64に設定できるようにします。ゲインの設定には、1.2kΩ/300Ω/75Ω/25Ωの抵抗を使用します。抵抗については、値が大きいほどノイズが大きくなる可能性があります。一方で、抵抗値が小さいほど消費電力が多くなります。他の値のゲインが必要な場合には、精度を確保するために慎重に抵抗値を選択してください。
AD7768-1は差動入力型のADCです。これは、減算器の役割を果たします。同ADCのCMRRは100dB以上であり、システムの要件を満たします。
ノイズのシミュレーション
LTspice®を使用すれば、図7のPGIAのノイズ性能をシミュレーションすることができます。積分ノイズの算出の対象となる帯域幅は430Hzです。表4に、ノイズのシミュレーション結果を示しました。これは、それぞれADA4084、ADA4522を使って構成したPGIAとAD7768-1を組み合わせた場合の結果です。ご覧のとおり、特にゲインが高い場合には、ADA4084をベースとするPGIAを使う方が高いノイズ性能が得られます。
ADA4084ベースのPGIAとAD7768-1 | ADA4522ベースのPGIAとAD7768-1 | |
ゲインが1の場合のRTI積分ノイズ(帯域幅は430Hz)〔µVrms〕 | 1.765 | 1.774 |
ゲインが4の場合のRTI積分ノイズ(帯域幅は430Hz)〔µVrms〕 | 0.744 | 0.767 |
ゲインが16の場合のRTI積分ノイズ(帯域幅は430Hz)〔µVrms〕 | 0.259 | 0.311 |
ゲインが64の場合のRTI積分ノイズ(帯域幅は430Hz)〔µVrms〕 | 0.148 | 0.225 |
LTC2500-32を駆動するためのループ内補償
AD7768-1は、駆動に関する要件を緩和するためにプリチャージ・アンプを内蔵しています。一般に、LTC2500-32などのSAR ADCに対しては、ドライバとして高速アンプを使用することが推奨されます。本稿で例にとっているDAQアプリケーションの場合、帯域幅に関する要件は厳しくありません。ここでは、ADA4084-2をベースとするPGIAにループ内補償回路を付加してLTC2500-32を駆動することにします。図8に示したのが、ループ内補償回路を付加したPGIA(以下、ADA4084-2 PGIA)です。ADA4084-2 PGIAの概要は、以下のようなものになります。
- R22/C14/R30/C5 と R27/C6/R31/C3 は、ループ内補償回路で安定性を高めるための重要な要素です。
- ADG659 において A1/A0 = 00 に設定すると、ゲインは 1になります。その場合、上側のアンプの帰還パスは、アンプの出力 → R22 → R30 → S1A → DA → R6 → アンプの反転入力となります。
- ADG659 において A1/A0 = 11 に設定すると、ゲインは 64になります。その場合、上側のアンプの帰還パスは、アンプの出力 → R22 → R8 → R10 → R12 → S4A → DA → R6 → アンプの反転入力となります。
性能を検証するために、ADA4084-2 PGIAをLTC2500-32の評価用ボードに接続しました。R22/C14/R30/C5とR27/C6/R31/C3の各受動部品については様々な値を試し、各ゲイン(1/4/16/64)におけるTHDとノイズ性能の改善を図りました。最終的な値として、R22とR27は100Ω、C14とC6は1nF、R30とR31は1.2kΩ、C3とC5は0.22μFに決定しました。このPGIAを使用してゲインを1に設定した場合、3dB帯域幅は約16kHzになります。
評価環境の概要
ノイズ、THD、CMRRの各性能をテストするための完全なソリューションとして、ADA4084-2 PGIAとAD7768-1で構成されるボードを用意しました(図9)。このソリューションは、評価用ボード「EVAL-AD7768-1」との互換性を持ちます。そのため、制御用ボードである「SDP-H1」との間で通信を実現できます。このことから、「EVAL-AD7768FMCZ」のGUI(Graphical User Interface)ソフトを使ってデータの収集/解析が行えます。
また、もう1つの完全なソリューションとして、ADA4084-2 PGIAとLTC2500-32で構成されるボードを用意しました。このボードも、SDP-H1と接続可能です。SDP-H1は、「LTC2500-32FMCZ」のGUIソフトによって制御できます。
どちらのボードも、 図8とは異なり、PGIAのゲインを1/2/4/8/16に設定できるようにしています。表5に、これら2種類のボードの評価結果を示しました。また、図10は、ADA4084-2 PGIAとLTC2500-32のソリューション/評価環境を使って取得したFFT結果です。

ADA4084-2とAD7768-1(中間モード、FMODは4MHz、ODRは16kSPS) | ADA4084-2とAD7768-1(中間モード、FMODは 4MHz、ODRは16kSPS、MCUによるフィルタリング/デシメーションを適用してODRを16k/16 = 1kSPSに) | ADA4084-2とLTC2500-32(ADCのMCLKは1MHz) | |
ゲインが1の場合のRTIノイズ〔µVrms〕 | 3.718 | 0.868 | 0.82 |
ゲインが2の場合のRTIノイズ〔µVrms〕 | 1.996 | 0.464 | 0.42 |
ゲインが4の場合のRTIノイズ〔µVrms〕 | 1.217 | 0.286 | 0.3 |
ゲインが8の場合のRTIノイズ〔µVrms〕 | 0.909 | 0.208 | 0.24 |
ゲインが16の場合のRTIノイズ〔µVrms〕 | 0.808 | 0.186 | 0.19 |
ゲインが1の場合のTHD〔dB〕 | −125 | −125 | −122 |
ゲインが2の場合のTHD〔dB〕 | −125 | −125 | −119 |
ゲインが4の場合のTHD〔dB〕 | −124 | −124 | −118 |
ゲインが8の場合のTHD〔dB〕 | −120 | −120 | −117 |
ゲインが16の場合のTHD〔dB〕 | −115 | −115 | −115 |
ゲインが1の場合のCMRR〔dB〕 | 131 | 131 | 114 |
ゲインが4の場合のCMRR〔dB〕 | 117 | 117 | 121 |
ゲインが16の場合のCMRR〔dB〕 | 120 | 120 | 126 |
消費電力(代表値)〔mW〕 | 31.3 | 31.1 | 33.2 |

まとめ
本稿では、低ノイズ、低THD、高精度のアンプを使用してディスクリート構成でPGIAを設計した例を紹介しました。それによって高分解能/高精度のADCを駆動することにより、地震学の研究やエネルギー探査に適した超低ノイズ/低消費電力のDAQソリューションを実現することができます。それらのソリューションは柔軟性が高いので、消費電力に関する要件とノイズ/THD/ODRに関する要件のバランスをとりながらシステムを完成させることが可能です。各製品の組み合わせ方によって、以下に示すような特徴が得られます。
- ノイズ性能が高い LTC2500-32 と ADA4084-2 を組み合わせた場合、MCU によってフィルタ処理を行うことなく、最も高いノイズ性能が得られます。
- ADA4522-2 も ADA4084-2 も、PGIA のゲインが 1 の場合に優れたノイズ性能を示します。ノイズ性能は約 0.8μVrmsです。
- ADA4084-2 は、ゲインが高い場合のノイズ性能に優れています。ADA4084-2 と LTC2500-32 の組み合わせでは、ゲインが 16 の場合のノイズは 0.19µVrms です。ADA4522-2 を使用した場合の 0.25µVrms よりも優れた性能が得られます。
- ADA4084-2、AD7768-1、MCU によるフィルタ処理を組み合わせれば、ADA4084-2 と LTC2500-32 を組み合わせた場合と同等のノイズ性能が得られます。
本稿では、帯域幅が限られているという条件の下で、ノイズと消費電力の両方を抑えられるDAQソリューションを紹介しました。当然のことながら、同じDAQアプリケーションでも求められる性能は個々に異なります。例えば、消費電力を抑えることが必須でない場合には、以下に示す各ニーズに応じ、異なるオペアンプ(表6)を使用してPGIAを構成してもよいでしょう。
- ノイズを最小限に抑えたい:最大限のノイズ性能が求められる場合には、「LT1124」と「LT1128」が候補になります。
- ドリフトを最小限に抑えたい:ゼロドリフト・アンプ「ADA4523」を使えば、ADA4522-2 と LTC2500-32 を組み合わせた場合よりも、優れたノイズ性能が得られます。
- バイアス電流を最小限に抑えたい:センサーの出力抵抗が大きい場合には、「ADA4625-1」をお勧めします。
- 帯域幅を広くしたい:広帯域幅の DAQ アプリケーション向けに、広帯域幅で低ノイズの PGIA を構成したい場合には、「ADA4807」、「LTC6226」、「LTC6228」が選択肢になります。
ノイズや消費電力はあまり重要ではなく、基板面積の抑制や、信号品質の維持が求められるDAQアプリケーションも存在するでしょう。その場合、「ADA4254」、「LTC6373」といったIC化されたPGIAも適切な選択肢になります。ADA4254は、ゼロ・ドリフト、高電圧への対応、1/16~約176のゲイン、高い堅牢性を特徴とします。一方のLTC6373は、25pAの入力バイアス電流、36Vの電源電圧、0.25~約16のゲイン、優れたTHD性能といった特徴を備えています。
品番 | VOS(最大値)〔µV〕 | IBIAS(最大値) | GBP(代表値)〔MHz〕 | 0.1Hz ~10HzのVNOISE(代表値)〔nVp-p〕 | VNOISEの密度(代表値) | 電流ノイズ密度(代表値) | IQ/Amp(代表値) | VSの範囲(最小値)〔V〕 | VSの範囲(最大値)〔V〕 |
ADA4522-2 | 5 | 150pA | 2.7 | 117 | 5.8nV/√Hz | 800fA/√Hz | 830μA | 4.5 | 55 |
ADA4084-2 | 100 | 250nA | 15.9 | 100 | 3.9nV/√Hz | 550fA/√Hz | 625μA | 3 | 30 |
ADA4625-1 | 80 | 75pA | 18 | 150 | 3.3nV/√Hz | 4.5fA/√Hz | 4mA | 5 | 36 |
LT1124 | 70 | 20nA | 12.5 | 70 | 2.7nV/√Hz | 300fA/√Hz | 2.3mA | 8 | 44 |
LT6233 | 500 | 3µA | 60 | 220 | 1.9nV/√Hz | 430fA/√Hz | 1.15mA | 3 | 12.6 |
ADA4084-1 | 100 | 250nA | 15.9 | 100 | 3.9nV/√Hz | 550fA/√Hz | 565µA | 3 | 30 |
ADA4807-1 | 125 | 1.6µA | 200 | 160 | 3.3nV/√Hz | 700fA/√Hz | 1mA | 2.7 | 11 |
ADA4523-1 | 5 | 300pA | 5 | 88 | 4.2nV/√Hz | 1pA/√Hz | 4.5mA | 4.5 | 36 |
LT1128 | 40 | 90nA | 20 | 35 | 850pV/√Hz | 1pA/√Hz | 7.4mA | 8 | 44 |
LTC6228 | 95 | 25µA | 890 | 940 | 880pV/√Hz | 3pA/√Hz | 16mA | 2.8 | 11.75 |
LTC6226 | 95 | 20µA | 420 | 770 | 1nV/√Hz | 2.4pA/√Hz | 5.5mA | 2.8 | 11.75 |
参考資料
1Geophones(ジオフォン)、ScienceDirect
2Jesse Santos、Angelo Nikko Catapang、Erbe D. Reyta「地震センサー・ネットワークの基本を学ぶ」Analog Dialogue、Vol. 53、No. 4、2019年12月
3Kristina Fortunado「プログラマブル・ゲイン機能を備える計装アンプ――用途に適した実装方法を選択する」Analog Dialogue、Vol. 52、No. 4、2018年12月