アプリケーションに最適な温度センサーの選択方法

概要

本稿では、各種のアプリケーションに最適な温度センサーを選択する方法について説明します。まずは様々な種類の温度センサーを取り上げ、それぞれの長所と短所を明らかにします。その上で、最先端の技術を牽引し、より多くの温度センサーを生み出しているリモート/ローカル・センシングの現状について解説を加えます。

はじめに

多くのアプリケーションでは、温度センサーの利用が不可欠です。例えば、民生用の電子機器、環境のモニタリングを行うシステム、産業分野のプロセス・アプリケーションなど、温度センサーは広範な分野で活用されています。高い精度と再現性で温度を測定できることを保証するためには、適切な温度センサーを選択することが極めて重要です。ただ、市場には数えきれないほどの選択肢が存在します。そのため、最適な温度センサーを選択するのが容易ではないケースもあります。そこで本稿では、特定のアプリケーションに最適な温度センサーを選択するための指針を示すことにします。

アプリケーションにおいて注目すべき事柄

温度は非常に広い範囲で変化する可能性があります。そのため、まずは各アプリケーションにおいて対応する必要がある温度範囲を特定することが重要です。それに加えて、精度、消費電力、サイズ、通信プロトコル(SMBus、SPI、I2C、1-Wire® など)、予算など、あらゆる事柄について考慮しなければなりません。そうした要件を明確にすることで、最適なデバイスの選択肢を絞り込むことが可能になります。

温度センサーの種類

技術的な観点から見ると、一般的に利用可能な温度センサーは、以下に示す4種に分類できます。

RTD:RTD(測温抵抗体)は、中程度の温度範囲(-200℃~850℃)において優れた精度と安定性を発揮します。精度が重要である場合には、RTDを選択するとよいでしょう。

熱電対:一般に、広い範囲にわたって温度を測定する必要がある場合には熱電対がよく使用されます。対応可能な温度範囲は-270℃~1800℃程度です。高温における熱電対の測定精度はさほど高くありません。それでも、高い温度に対応する必要がある場合には適切な選択肢になります。

サーミスタ:サーミスタは、費用対効果が大きいデバイスです。そのため、一般的には民生用の電子機器で使用されます。限られた温度範囲(-270℃~1800℃)で比較的良好な精度が得られます。

ダイオード・ベースのセンサー:ダイオード・ベースのセンサーでは、電圧降下の温度特性を利用します。この種のセンサーは、費用対効果が高く、応答速度が速く、上記3種のデバイスよりも小型です。但し、温度の測定範囲が限られます(-55℃~150℃)。

ダイオード・ベースの温度センサーは、マイクロコントローラ、A/Dコンバータ、ASICなどにおいてインターフェースを容易に構築できます。そのため、民生用の電子機器、産業用オートメーション・システム、データ・センター(ストレージ・システム)、自動車など、電子機器を使用する多種多様なアプリケーションで利用されています。

通信方法

温度センサーは、アナログ電圧またはデジタル信号を出力します。最新の温度センサーは、SMBus、SPI(Serial Peripheral Interface)、I2C、1-Wireなどのデジタル通信をサポートします。それらを使用することで、マイクロコントローラなどのデジタル・デバイスと簡単に温度の情報をやり取りできるようになっています。特に、1-Wireのインターフェースを使用すれば、1本のデータ・ラインに複数のセンサーを接続することが可能です。

測定精度

精度の高い温度測定が求められるアプリケーションでは、当然のことながら高精度の温度センサーを使用しなければなりません。現実的には、RTDまたはダイオード・ベースの温度センサーと何らかのキャリブレーション手法を組み合わせて使用することになるでしょう。表1は、アナログ・デバイセズが提供する最新の温度センサーICを精度の観点から分類したものです。それぞれが対応する通信インターフェースとパッケージを示してあります。

表1. アナログ・デバイセズの最新の温度センサーIC
精度
±1°C ±0.5°C ±0.25°C ±0.1°C
    ADT7320 SPI、16ピン、4mm × 4mm LFCSP  
MAX31825 1-Wire、6ボール WLP ADT7410 I2C、8ピン SOIC ADT7420 I2C、16ピン、4mm × 4mm LFCSP  
MAX31875 I2C/SMBus、4ボール WLP DS18B20 1-Wire、TO-92、SOIC、μSOP MAX31888 1-Wire、2mm × 2mm、μDFN LTC2983/LTC2984 マルチセンサー、SPI、LQFP
MAX31827/MAX31828/MAX31829 I2C/SMBus、6ボール WLP MAX31826 1-Wire、2mm × 2mm TDFN MAX31889 I2C、2mm × 2mm、μDFN ADT7422 I2C、16ピン、4mm × 4mm LFCSP

非常に精度の高い温度センサーの例としては「MAX31888」が挙げられます。そのアプリケーション回路例を図1に示しました。MAX31888は、1-Wireに対応する高精度、低消費電力、デジタル出力の温度センサーです。-20℃~105℃において±0.25℃という驚異的な精度を達成しており、非常に正確に温度を監視することができます。測定分解能は16ビット(0.005℃)です。また、温度測定を実施する際の消費電流は68μAに抑えられています。このセンサーは1-Wireに対応しているので、1本のデータ・ライン(およびグラウンド基準)を使うことにより、1-Wireのバス上でマイクロコントローラとの通信を実現できます。加えて、同ICはデータ・ラインから直接電力を取得することが可能なので(寄生電力)、外部電源は不要です。パッケージは6ピンのμDFN、外部電源の電圧範囲は1.7V~3.6V、動作温度範囲は-40℃~125℃です。

709406 fig 01 図1. MAX31888の代表的なアプリケーション回路
図1. MAX31888の代表的なアプリケーション回路

消費電力とサイズ

ウェアラブル・デバイスをはじめとするバッテリ駆動の機器では、消費電力とサイズ(これらは密接に関連)が非常に重要です。したがって、温度センサーについても電源電流が非常に少なく、サイズが非常に小さいものを選択する必要があります。温度センサーなどの消費電力が少なければ、充電に必要な時間を短縮し、バッテリ寿命を延ばすことができます。そのような条件下でも、温度の測定精度を維持できることが重要です。図2に、各温度センサー製品の消費電流と精度の関係を示しました。

709406 fig 02 図2. 温度センサーの消費電流と精度の関係
図2. 温度センサーの消費電流と精度の関係

「MAX31875」は、I2C/SMBusインターフェースを備えたローカル温度センサーです。平均電源電流は10μA未満で、精度は±1℃となっています。図3に、同センサーの代表的なアプリケーション回路例を示しました。MAX31875は、パッケージが超小型で、測定精度が高く、消費電流が非常に少ない製品です。そのため、特にバッテリ駆動の機器やウェアラブル機器などに適しています。I2C/SMBusに対応するシリアル・インターフェースは、標準的なバイト(データ)の書き込み、バイトの読み出し、バイトの送信、バイトの受信のコマンドを受け付けます。それにより、動作に関する設定と温度測定の結果であるデータの読み出しを実施できます。MAX31875のパッケージは4ボールのWLP、動作温度範囲は-50℃~150℃です。

709406 fig 03 図3. MAX31875の代表的なアプリケーション回路
図3. MAX31875の代表的なアプリケーション回路

CPU、FPGA、ASICなどが内蔵するサーマル・ダイオード

CPU、FPGA、ASICといった高性能ICの中には、自身を保護するための手段としてサーマル・ダイオードを集積しているものがあります。サーマル・ダイオードとは、ダイオード接続のバイポーラ・トランジスタのことです。これを利用すれば温度を検出することができます。サーマル・ダイオードはICのダイ上に存在しているので、他の温度検出の手段と比べて精度が格段に高くなります。

アナログ・デバイセズは、それらのサーマル・ダイオードを利用して温度を正確に測定し、得られた結果をデジタル・データとして出力するように特別に設計されたIC製品(以下、ダイオード・センサー)を提供しています。1つのサーマル・ダイオードに対応する1チャンネルの製品だけでなく、4つ、8つのサーマル・ダイオードに対応可能な製品も用意しています。図4に示したように、「MAX6654」、「MAX6655/MAX6656」、「MAX31730」、「MAX31732」、「MAX6581」といった製品があります。

709406 fig 04 図4. マルチチャンネルのリモートー/ロカル温度センサー
図4. マルチチャンネルのリモートー/ロカル温度センサー

リモートのダイオード・センサーは、設計時に適切に注意を払い、内部と外部でフィルタリングを行うことにより、電気的ノイズの多い環境でも広く活用することができます。例えば、ディスプレイ、クロック・ジェネレータ、メモリ・バス、PCI(Peripheral Component Interconnect)バスなどで利用することが可能です。

図5に示したのは、リモート・ダイオード・センサーの使用例です。MAX31732は、図4にも示したようにマルチチャンネルに対応する最新の温度センサー(ダイオード・センサー)です。MAX31732自身の温度に加え、最大4つの外付けサーマル・ダイオードの温度を測定することができます。MAX31732の抵抗補償機能を使えば、プリント回路基板の配線パターンと外付けサーマル・ダイオードの間の値の大きい直列抵抗の影響を補償することが可能です。また、β補償により、βの低い検出用トランジスタに起因する温度の測定誤差を補償できるようになっています。

MAX31732は、アクティブ・ローの2つのアラーム出力(オープン・ドレインのALARM1ピンとALARM2ピン)を備えています。それぞれ、温度の閾値を上回る状態や下回る状態を検出し、過熱/低温の発生を通知します。MAX31732では、不揮発性メモリ(NVM)を利用することにより、電源の投入時に構成用のレジスタをプログラムできるようになっています。その際、ソフトウェア/ファームウェアが介入する必要はありません。2線式のシリアル・インターフェースはSMBusのプロトコル(バイトの書き込み/読み出し/送信/受信)に対応します。それにより、温度のデータを読み出したり温度の閾値を設定したりすることができます。

709406 fig 05 図5. MAX31732の代表的なアプリケーション回路
図5. MAX31732の代表的なアプリケーション回路

まとめ

温度センサーを適切に選択するには、様々な要素について慎重に検討する必要があります。例えば、アプリケーションの要件、必要な精度、周囲の条件、出力インターフェース、消費電力、コストといった要素に注目しなければなりません。これらの要素について理解し、利用可能な選択肢を絞り込んで評価を実施します。そうすれば、特定のアプリケーションのニーズを満たし、精度と信頼性に優れる温度測定を確実に実行できる製品を選択することができます。適切な温度センサーを選択するためには、相応の時間と労力を費やす必要があります。ただ、それによってアプリケーションの性能と効率を高めることが可能になります。結果として、長期的な費用対効果を得ることができます。本稿で紹介したように、シリコン・ベースの温度センサーは著しい進化を遂げています。温度センサーICの設計者は、卓越した精度を達成可能なキャリブレーション/トリミングの手法を実現するために多大な労力を費やしてきました。その結果、極めて高い精度と再現性が実現されたのです。

著者

Mehrdad Peyvan

Mehrdad Peyvanは、アナログ・デバイセズのアプリケーション・マネージャです。現在は、プロダクト・アプリケーション部門(カリフォルニア州サンノゼ)で温度センサーとファン・ドライバを担当。1995年に入社して以来、様々な役職を歴任してきました。電子工学の修士号を取得しています。