概要

設計リソース

設計/統合ファイル

  • Schematic
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  • Assembly Drawing
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評価用ボード

型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。

  • EVAL-ADUC7061MKZ ($33.06) Micro Processor Board
  • EVAL-CN0196-EB1Z ($70.62) H-Bridge Driver Circuit Using Isolated Half-Bridge Drivers
在庫確認と購入

機能と利点

  • High power MOSFETS
  • Galvantic isolation between control and power
  • H-bridge driving circuit

回路機能とその特長

図1の回路はHブリッジと呼ばれるもので、低電圧ロジック信号で制御されるハイ・パワー・スイッチングMOSFETで構成されています。この回路は、ロジック信号とハイ・パワー・ブリッジとの間の便利なインターフェースとして機能します。ブリッジには、Hブリッジのハイサイドとローサイドの両方に低価格のNチャンネル・パワーMOSFETを使用します。また、この回路は、コントロール・サイドとパワー・サイド間のガルバニック絶縁を実現するインターフェースにもなります。この回路は、モータ制御、電力変換(コントロール・インターフェースに組み込まれて)、照明、オーディオ・アンプ、無停電電源装置(UPS)等に使用できます。

最新のマイクロプロセッサやマイクロコンバータは、一般に消費電力が小さく、低電源電圧で動作します。2.5 V CMOSロジック出力のソース/シンク電流はμA~mAの範囲です。ピーク電流4 Aで12 Vを切り替えるHブリッジを駆動する場合は、インターフェースとレベル変換デバイスを適正に選択して使用する必要があります。低ジッタが必要な場合は特にそうです。

ADG787 は、個別に設定できる2個の単極双投(SPDT)スイッチで構成される低電圧CMOSデバイスです。DC電源5 Vで、2 Vの最低電圧が有効な高入力ロジック電圧となります。したがって、ADG787は2.5 Vの制御信号を、ハーフ・ブリッジ・ドライバADuM7234の駆動に必要な5 Vロジック・レベルに適正に変換することができます。

ADuM7234は、アナログ・デバイセズ(ADI)のiCoupler®技術を使って絶縁された独立のハイサイド出力とローサイド出力を提供し、NチャンネルMOSFETのみでHブリッジ回路を構成できるようにします。NチャンネルMOSFETの使用にはいくつか利点があります。まず、NチャンネルMOSFETは一般にPチャンネルMOSFETに比べてオン抵抗が3分の1であり、最大電流は大きくなります。また、切替え速度が速いので、消費電力は小さくなります。さらに、立上り時間と立下がり時間は対称となります。

ADuM7234のピーク駆動電流が4 Aのため、パワーMOSFETのオン/オフの切替えが非常に速く行え、Hブリッジ段での消費電力を最小限に抑えることができます。この回路のHブリッジの最大駆動電流は85 Aとなりますが、これはMOSFETの最大許容電流による制限です。

ADuC7061 はARM7をベースにした低消費電力、高精度のアナログ・マイクロコントローラで、パルス幅変調(PWM)コントローラを内蔵しています。PWMコントローラの出力を設定することにより、適正なレベル変換とコンディショニングを行ったうえでHブリッジを駆動することができます。 

図1. 絶縁型のハーフ・ブリッジ・ドライバADuM7234を使用するHブリッジ (簡略回路図:すべての接続およびデカップリングが図示されているわけではありません)

回路説明

2.5 V PWM制御信号から5 Vへのレベル変換V

EVAL-ADuC7061MKZは2.5 Vロジック・レベルのPWM信号を提供しますが、ADuM7234の最小ハイレベル入力スレッショールドは5 V電源で3.5 Vとなります。これでは適正な処理ができないため、中間レベル変換器としてADG787を使用します。ADG787に入力される最小ハイレベル制御電圧は2 Vであるため、この電圧はADuC7061からの2.5 Vレベルに適合します。ADG787の出力は0 ~5 Vの範囲で切り替わり、3.5 Vのスレッショールドを持つADuM7234の入力を駆動するにはかなり余裕があります。制御PWM信号の極性を簡単に設定できるように、2個のジャンパが用意されています。


Hブリッジについて

図1に示すHブリッジには、4個のスイッチング素子があります(Q1、Q2、Q3、Q4)。スイッチは、左上側(Q1)と右下側(Q4)のペアか左下側(Q3)と右上側(Q2)のペアのいずれかがオンになります。ブリッジの同じ側にある2つのスイッチが同時にオンになることはありません。スイッチは、MOSFETまたはIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)を使って実装し、パルス幅変調(PWM)信号など、コントローラからの信号を使ってスイッチをオン/オフして負荷電圧の極性を変更することができます。

ローサイドMOSFET(Q3、Q4)のソースはグラウンドに接続されるので、そのゲート駆動信号もグラウンドを基準とします。一方、MOSFETペアとしてのハイサイドMOSFET(Q1、Q2)スイッチのソース電圧はオンまたはオフになります。したがって、最適なゲート駆動信号はこのフローティング電圧を基準とし、その電圧に「ブートストラップ」されることになります。

ADuM7234からのゲート駆動信号は、各入力と各出力の間に真の絶縁インターフェースが得られるという利点をもたらします。各出力は入力に対して最大±350 Vで動作することができるため、負電圧までのローサイド・スイッチングをサポートできます。このため、ADuM7234は広範囲の正または負のスイッチング電圧で、さまざまなMOSFET構成のスイッチング特性を確実に制御することができます。テストを安全かつ容易に行うために、この設計の電源には12 V DC電源を選択しました。


ブートストラップ・ゲート駆動回路

ハイサイドとローサイドではゲート・ドライバの電源が異なります。ローサイドのゲート駆動電圧は、グラウンドを基準にしているため、グラウンド基準のDC電源から直接発生します。しかし、ハイサイドはフローティングしているため、ブートストラップ駆動回路が役に立ちます。これは次のように動作します。

ここで、図1に示すHブリッジ回路の左側をご覧ください。ブートストラップ駆動回路は、コンデンサC1、抵抗R1とR3、ダイオードD1で構成されています。パワーオン後、PWMはすぐには入力されず、MOSFETはすべて、全DC電圧がセトリングするまでハイ・インピーダンス状態のままとなります。この間、コンデンサC1はR1、D1、C1、R3経路を介してDC電源で充電されます。充電されたコンデンサC1は、ハイサイド・ゲート駆動用の電圧を供給します。C1の充電の時定数はτ = (R1 + R3) C1です。

PWM信号によってMOSFETがスイッチングすると、ローサイドのスイッチQ3がオンになり、ハイサイドのスイッチQ1がオフになります。ハイサイドのGNDAはグラウンドにプルダウンされ、コンデンサC1が充電されます。Q1がオンになり、Q3がオフになると、GNDAはDC電源電圧にプルアップされます。ダイオードD1は逆バイアスされ、C1電圧によってADuM7234のVDDA電圧が約24 Vとなります。したがって、コンデンサC1はADuM7234のVDDA端子とGNDA端子間で約12 Vの電圧を維持します。このように、ハイサイドMOSFET Q1へのゲート駆動電圧は常にQ1のフローティング・ソース電圧を基準にします。


ハイサイドMOSFETのソース上の電圧スパイク

Q1とQ4がオンになると、負荷電流はQ1から負荷経由でQ4とグラウンドに流れます。Q1とQ4がオフになっても、電流はフリーホイール・ダイオードD6、D7経由で同じ方向に流れ、Q1のソースに負のスパイクを発生させます。その結果、ほかのトポロジーを使用しているゲート・ドライバは損傷を受ける可能性がありますが、負電圧へのローサイド・スイッチングをサポートしているADuM7234にはいっさい影響ありません。


ブートストラップ・コンデンサ(C1、C2)

ブートストラップ・コンデンサは、ローサイド・ドライバがオンになるたびに充電され、ハイサイド・スイッチがオンになったときだけ放電されます。したがって、ブートストラップ・コンデンサの値を選択する際に最初に考慮すべきパラメータは、ハイサイド・スイッチがオンになってコンデンサがゲート・ドライバADuM7234のハイサイド用DC電源として使用されるときの最大許容電圧降下です。ハイサイド・スイッチがオンになると、ADuM7234のDC電源電流は一般に22 mAになります。ここで、ハイサイドのオン時間を10 ms(50 Hz、50%デューティサイクル)と仮定します。許容電圧降下ΔV=1 V、I=22 mA、ΔT=10 msの場合は、式C = I × ΔT/ΔVに基づき、コンデンサは220 μFより大きな値にする必要があります。この設計では、330 μFの値を選択しました。回路がパワーオフになって回路のスイッチング動作時に機能がいっさい提供されなくなると、抵抗R5によりブートストラップ・コンデンサは放電します。


ブートストラップ電流制限抵抗(R1、R2)

直列抵抗R1は、ブートストラップ・コンデンサの充電時に電流制限を行います。R1が大きすぎると、ADuM7234のハイサイド・ドライバ電源からの無信号時DC消費電流によってR1に過大な電圧降下が発生し、ADuM7234は低電圧ロックアウトになります。ADuM7234の最大DC電源電流はIMAX=30 mAです。この電流によるR1での降下電圧がVDROP=1 Vに制限される場合、R1はVDROP/IMAX、すなわち33 Ωより小さい値にする必要があります。したがって、ブートストラップ抵抗には10 Ωの抵抗を選択しました。


ブートストラップ・スタートアップ抵抗(R3、R4)

抵抗R3はブートストラップ回路を起動します。パワーオン直後はDC電圧は確立されず、MOSFETはオフになります。これらの条件下で、C1はR1、R3、D1、VSの経路を介して充電されます。充電電圧は次式で表されます。

CN0196_equation1

ここで vC(t)はコンデンサ電圧、VSは電源電圧、VDはダイオード電圧降下、τは時定数で、τ = (R1 + R3) C1です。回路の値はR1=10 Ω、C1=330 μF、VD=0.5 V、VS=12 Vです。前の式から、R3=470 Ωの場合にコンデンサを最終値の67%まで充電するには1時定数(158 ms)かかります。抵抗値が大きくなるほど、コンデンサの充電時間は増大します。しかし、ハイサイドのMOSFET Q1がオンになると抵抗R1にかかる電圧は12 Vになるので、抵抗値が小さくなりすぎると消費電力が大幅に増大します。R3=470 Ωの場合、12 Vにおける抵抗消費電力は306 mWとなります。


ブートストラップ・コンデンサ(Z1、Z2)の過電圧保護

上述したように、誘導負荷がある場合にハイサイドMOSFETがオフになると、電流はフリーホイール・ダイオードに流れます。インダクタンスと寄生容量との共振により、ブートストラップ・コンデンサへの充電エネルギーはADuM7234の消費エネルギーより大きくなる場合があり、またコンデンサ上の電圧が過電圧状態になる場合があります。13 Vツェナー・ダイオードはコンデンサの電圧をクランプして、過電圧状態を防止します。


ゲート駆動抵抗(R7、R8、R9、R10)

ゲート抵抗(R7、R8、R9、R10)は、必要なスイッチング時間tSWに基づいて選択します。スイッチング時間とは、CgdとCgsを充電してスイッチングMOSFETを必要な電荷量Qgd、Qgsまで充電するのに要する時間を指します。

Power Rail Filtering and Undervoltage Lockout Protection for ADuM7234

図2. ADuM7234の電源レール・フィルタリングと低電圧ロックアウト保護


ゲート駆動電流Igは次式で表すことができます。:

CN0196_equation2

ここで、VDDは電源電圧、RDRVはゲート・ドライバADuM7234の等価抵抗、Vgs(th)はスレッショールド電圧、Rgは外部ゲート駆動抵抗、QgdとQgsは必要なMOSFET電荷、tSWは必要なスイッチング時間です。

ADuM7234ゲート・ドライバの等価抵抗は次式で計算することができます。:

CN0196_equation3

ADuM7234のデータシートに従い、VDDA=15 V、出力短絡回路パルス電流IOA(SC)=4 Aとします。この場合、式3からRDRVは約4 Ωとなります。

FDP5800 MOSFETのデータシートから、Qgd=18 nC、Qgs=23 nC、Vgs(th)=1 Vです。

必要なスイッチング時間tSWが100 nsのとき、式2をRgについて解くと、Rgは約22 Ωとなります。実際の設計では、ある程度余裕を持たせて15 Ω 抵抗を選択しました。


電源レール・フィルタリングと低電圧保護

ピーク負荷電流が大きいため、DCソース電圧(VDD)を適正にフィルタリングして、ADuM7234が低電圧ロックアウトになるのを防ぐと同時に電源が損傷を受けないようにする必要があります。選択したフィルタは、22 μHパワー・インダクタに直列な4個の4700 μF、25 V並列コンデンサで構成されています(図2を参照)。100 kHzでコンデンサの規定の最大RMSリップル電流は3.68 Aです。これらのコンデンサの4個は並列なので、最大許容RMSリップルは14.72 Aです。したがって、IPEAK=2√2 × IRMS=41.63 Aです。フィルタされた+12 Vも、図1に示す回路を駆動します。ADuM7234の低電圧ロックアウトを防ぐには、図2の回路を使って電源電圧が10 V未満のときにADuM7234への入力をディスエーブルにします。回路は、ADuM7234のDISABLEピンにロジック・ハイを印加することでディスエーブルにできます。

オープン・ドレインのアクティブ・ロー出力付きコンパレータADCMP350を使用して、DC電源電圧を監視します。抵抗分圧器(R12、R13)の比は、電源電圧が10.5 Vのときに分圧器出力が0.6 Vとなるよう選択します。これはコンパレータの0.6 Vオンチップ・リファレンスと同じ大きさです。電源電圧が10.5 Vを下回ると、コンパレータの出力はハイになります。ADuM7234の入力側と出力側はガルバニック絶縁されているため、出力側からのDISABLE信号をアイソレータ経由で入力側に転送する必要があります。ADuM3100iCoupler 技術に基づくデジタル・アイソレータです。ADuM3100は、3.3 V動作と5 V動作に対応します。12 Vのフィルタ処理済み電源がADP1720リニア・レギュレータを駆動し、ADuM3100の右側の絶縁側に5 V(+5V_1)を供給します(図2を参照)。


負荷とPWM信号

インダクタを負荷として使用した場合、一定の電圧が印加されるとインダクタを流れる電流は直線的に変化します。電圧Uが12 Vのとき、オン抵抗に起因するMOSFET上の電圧降下を無視すると次式が成り立ちます。:

CN0196_equation4

50 kHz、8%デューティサイクルのPWM信号で4 μH Coilcraft 製パワー・インダクタ(SER2014-402)を負荷とする場合、負荷電流の波形は図3のようになります。インダクタ電流は、電流プローブで測定しています。

12 Vの電源電圧と4 μHインダクタの場合、式4から3 A/μsの傾きが予想されますが、実際の測定値は2.8 A/μsでした。測定値が小さくなったのは、MOSFETの抵抗で電圧が降下したためです。

電流オフの直後には、波形に少量のリンギングが生じます。この現象は、MOSFETおよびフリーホイール・ダイオードの誘導負荷と寄生容量との共振によるものです。

回路内ではインダクタの最大定格電流を超えないことが重要です。そういったことが起きるとインダクタは飽和状態になり、電流が急激に増大して、回路と電源に損傷を与える可能性があります。この回路で負荷として使用されるCoilcraft製のSER2014-402インダクタは、定格飽和電流が25 Aです。

図3. 4 μH負荷でPWMパルスの関数としての負荷電流

回路の評価とテスト

この回路は、デバイスをいくつか追加すれば3相制御アプリケーションに簡単に拡張できます。また、この回路は高い電源電圧を必要とするアプリケーションにも使用できますが、MOSFETとフィルタ・コンデンサの定格を超えないよう注意する必要があります。


必要な装置 

  • PC:USBポート、Windows XP/Windows Vista(32ビット)/Windows 7(32ビット)を搭載
  • EVAL-CN0196-EB1Z回路評価用ボード
  • EVAL-ADuC7061MKZ評価用ボード
  • DC電源またはバッテリ:+12 V、10 A
  • Coilcraft SER2014-402パワー・インダクタなどの負荷
  • 電流プローブ付きのオシロスコープ


測定の準備

CN0196評価用ソフトウエア・ディスクをPCのCDドライブに挿入して、評価用ソフトウェアをロードします。評価ソフトウエア・ディスクのあるドライブを探し、Readmeファイルを開きます。Readmeファイルの指示に従って、評価ソフトウェアをインストールし、使用してください。


セットアップとテスト

EVAL-ADuC7061MKZにファームウェア・コードをダウンロードして、CN-0196評価用ソフトウェアをインストールします。Readmeファイルのジャンパ設定に従って、EVAL-ADuC7061MKZとEVAL-CN0196-EB1Zからの制御信号を接続してください。

図4. テスト・セットアップの機能ブロック図

 

ジャンパLK1を接続し、+12 V電源をCN2に印加し、ソフトウェアを起動して、USBケーブルでPCとEVAL-ADuC7061-MKZボード上のUSBミニコネクタを接続します。インダクタを負荷として使用し、ソフトウェアを実行して、電流プローブでインダクタの電流を測定します。

評価用ソフトウェアを使用して適正なPWM信号を得る方法については、CN0196評価用ソフトウェアのReadmeファイルをご覧ください。