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アプリケーション・ノート使用上の注意
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なお、日本語版のアプリケーションノートは基本的に「Rev.0」(リビジョン0)で作成されています。

AN-874: ADG12XX シリーズ・デバイスの±5 V 電源での動作と性能への影響
はじめに
工業用デザインでは、高速なサンプリング、性能の向上、低消費電力、小型フットプリントをサポートするために、アナログ・スイッチとマルチプレクサが必要とされています。これらの要求を満たすため、広範囲な低容量、低リーク、低チャージ・インジェクションのアナログ・スイッチとマルチプレクサが必要とされています。
アナログ・デバイセズのiCMOS®製造プロセス技術は、高性能スイッチとマルチプレクサの広範囲なソリューションの導入を可能にしました。ADG12xx ファミリーのデバイスは、ハイエンド・データ・アクイジション向けに非常に小型なパッケージで業界最小の容量、チャージ・インジェクション、リークを提供します。これらのデバイスは、±15 V の両電源と+12 V の単電源での動作仕様になっています。
ADG12xx ファミリーのデバイスは、±5 V の電源で動作することもできます。このアプリケーション・ノートでは、ADG12xxの主要仕様を使って、これらのデバイスが低電源電圧で動作する方法を説明します。アプリケーションで使用可能な電源電圧は±5 V のみである場合でも、これらのデバイスが提供する高性能な容量とチャージ・インジェクションを利用できる利点も示します。
ADG12xx デバイスの全リストを表 1 に示します。±15 V/+12 V電源での各デバイスの完全な仕様は、アナログ・デバイセズのデータシートに記載されているので、このアプリケーション・ノートと組み合わせてご覧ください。
Part No. | Function | On Capacitance (pF) |
QINJ (pC) | RON (Ω) | On Leakage (pA) |
Package |
ADG1201 | 1 x SPST | 2.6 | -0.3 | 120 | 20 | 6-Lead SOT-23 |
ADG1202 | 1 x SPST | 2.6 | -0.3 | 120 | 20 | 6-Lead SOT-23 |
ADG1221 | 2 x SPST | 2.6 | -0.3 | 120 | 20 | 10-Lead MSOP |
ADG1222 | 2 x SPST | 2.6 | -0.3 | 120 | 20 | 10-Lead MSOP |
ADG1223 | 2 x SPST | 2.6 | -0.3 | 120 | 20 | 10-Lead MSOP |
ADG1211 | 4 x SPST | 2.6 | -0.3 | 120 | 20 | 16-Lead TSSOP; 16-Lead, 3 mm x 3 mm LFCSP |
ADG1212 | 4 x SPST | 2.6 | -0.3 | 120 | 20 | 16-Lead TSSOP; 16-Lead, 3 mm x 3 mm LFCSP |
ADG1213 | 4 x SPST | 2.6 | -0.3 | 120 | 20 | 16-Lead TSSOP; 16-Lead, 3 mm x 3 mm LFCSP |
ADG1219 | 1 x SPST | 3.5 | -0.3 | 120 | 20 | 8-Lead SOT-23 |
ADG1236 | 2 x SPST | 3.5 | -1 | 120 | 20 | 16-Lead TSSOP; 12-Lead, 3 mm x 3 mm LFCSP |
ADG1233 | 3 x SPST | 3.5 | +0.5 | 120 | 20 | 16-Lead TSSOP; 16-Lead, 4 mm x 4 mm LFCSP |
ADG1234 | 4 x SPST | 3.5 | +0.5 | 120 | 20 | 20-Lead TSSOP; 20-Lead, 4 mm x 4 mm LFCSP |
ADG1204 | 4:1 mux | 5.5 | -0.7 | 120 | 20 | 14-Lead TSSOP; 12-Lead, 3 mm x 3 mm LFCSP |
ADG1208 | 8:1 mux | 6 | +0.4 | 120 | 20 | 16-Lead TSSOP; 16-Lead, SOIC; and 16-Lead, 4 mm x 4 mm LFCSP |
ADG1206 | 16:1 mux | 11 | +0.5 | 120 | 80 | 28-Lead TSSOP; 32-Lead, 5 mm x 5 mm LFCSP |
ADG1209 | Differential 4:1 mux | 3.5 | +0.4 | 120 | 20 | 16-Lead TSSOP; 16-Lead, SOIC; and 16-Lead, 4 mm x 4 mm LFCSP |
ADG1207 | Differential 8:1 mux | 7 | +0.5 | 120 | 80 | 28-Lead TSSOP; 32-Lead, 5 mm x 5 mm LFCSP |
±5 V性能
ADG12xx ファミリーのスイッチとマルチプレクサは、±16.5 Vの最大動作電圧向けにアナログ・デバイセズの33 V のiCMOS製造プロセス技術を採用してデザインされています。このため、性能パラメータはこれらの高電源電圧用に最適化されています。
低電源電圧から影響を受ける、スイッチとマルチプレクサの主要な性能パラメータは、オン抵抗とタイミングです。±5 V での低いオン抵抗が重要な性能条件てある場合には、ADG6xx とADG14xx のアナログ・デバイセズ・ファミリーの使用をご検討ください。このアプリケーション・ノートの以下の部分では、ADG12xx シリーズの±5 V 動作で期待される性能レベルについて説明します。
容量
iCMOS 製造プロセス技術は、単位面積あたりの寄生容量を大幅に削減します。ADG12xx ファミリーのデザインは容量性能を最適化しているため、チップ面積が最小に維持されています。容量はスイッチ面積に大きく依存するため、寄生容量が非常に小さくなっています。デバイスのレイアウトでも寄生容量を小さくする努力が行われています。
容量は、すべてのデザインで考慮される重要なパラメータです。このため、次のパラメータがデータ・シートで規定されています。
CS (Off)
ソースのオフ容量は、スイッチがオフすなわちディスエーブルされているときに、ソース入力とGND との間で測定されます。
CD (Off)
ドレインのオフ容量は、スイッチがオフすなわちディスエーブルされているときに、ドレイン出力とGND との間で測定されます。
CD、CS (On)
スイッチのオン容量は、入力または出力とGND との間で測定されます。オン容量は、オンしているスイッチのソース容量、ドレイン容量、スイッチ容量を表します。
CIN
デジタル入力容量は、デジタル入力とGND との間で測定される容量です。
容量は主に製造プロセスとチップ面積に依存するため、動作電圧は性能レベルに大きな影響を与えません。デバイスを±5 V 電源で動作させた場合も、±15 V での非常に小さい容量が維持されます。 図 1 に、±5 V 電源で動作させたときの16:1 マルチプレクサADG1206 の容量性能を示します。
ドレイン・オン容量とドレイン・オフ容量は、それに接続されるスイッチ・チャンネル数の関数です。したがって、8:1 マルチプレクサのドレイン容量は、一般に16:1 マルチプレクサの1/2です。
AC パラメータ
これらのデバイスは、寄生容量が非常に小さいため、優れた帯域幅、オフ時アイソレーション、クロストーク性能を持っています。容量したがって全周波数でのAC 性能は、低電源電圧の影響を受けません。図 2 ~ 図 4 に、±5 V 電源でのADG1204 デバイスの周波数性能を示します。すべての測定値は、50 Ω、5pF の出力負荷で取得したものです。
オフ時アイソレーション
オフ時アイソレーションは、オフ状態のスイッチを経由して混入する不要な信号を表します。図 2 に、±5 V 電源を使用したときの、1 MHz でのADG1204 のオフ時アイソレーションが−85dB (typ)であることを示します。
クロストーク
クロストークは、寄生容量に起因してあるチャンネルから別のチャンネルへ混入する不要な信号を表します。図 3 に、±5 V 電源を使用したときの、ADG1204 の1 MHz での隣接チャンネル・クロストークが−80 dB (typ)であることを示します。
帯域幅
帯域幅は、出力が−3 dB 減衰する周波数です。 ±5 V 電源使用時のADG1204 の−3 dB ポイントは600 MHz です。挿入損失は、オン抵抗が大きくなるため低電源電圧では悪化します。図 4 に、ADG1204 のスイッチ・オン時の周波数応答を示します。
チャージ・インジェクション
チャージ・インジェクションは、スイッチング時にデジタル入力からアナログ出力へ伝達されるグリッチ・インパルスの大きさを表します。これは、アナログ・スイッチを構成するNMOSとPMOS のトランジスタに付随する浮遊容量により発生します。スイッチ・アプリケーションでは、チャージ・インジェクションによりゲイン誤差とDC オフセット誤差が発生するため、全体のシステム精度に影響を与えます。
ADG12xx デバイスは、iCMOS 製造プロセスによる小さい寄生容量およびNMOS トランジスタとPMOS トランジスタとの優れたマッチングにより、優れたチャージ・インジェクション性能を持っています。 ADG1211、ADG1212、ADG1213、ADG1236、ADG1233、ADG1234、ADG1204 のチャージ・インジェクション性能は、±5 V 電源を使用したフル信号で±1 pC (typ)です。代表的な性能カーブについては、図 5 を参照してください。
マルチプレクサADG1208、ADG1209、ADG1206、ADG1207 で採用したデザイン技術は、全信号範囲でチャージ・インジェクション性能を実質的に平坦にすることができます。これは、マルチプレクサのドレインに補償スイッチを使用することにより実現されています。図 6 に、±5 V 電源でマルチプレクサ(ソース-ドレイン間)として使用したときのADG1208、ADG1209、ADG1206、ADG1207 の性能を示します。チャージ・インジェクションは0.15 pC (typ)であり、入力信号に対して尐し変動します。ディマルチプレクサ(ドレイン-ソース間)のチャージ・インジェクション性能(typ)を、図 5 に示します。このため、これらのマルチプレクサは、小さいチャージ・インジェクションを必要とするアプリケーション(たとえば、サンプル・アンド・ホールド・システム)向けに最適です。
トリガー・レベル
ADG12xx デバイス内蔵の入力バッファの電源はGND とVDDから供給されます。ADG12xx デバイスは、VIH =最小2 V でVIL =最大0.8 Vの3 V ロジック互換入力を持っています。これらのレベルは、データ・シートで±15 V および+12 V として保証されています。両電源動作(図 7 参照)と単電源動作(図 8 参照)で、電源変動によりトリガー・ポイントが少し変動します。
オン抵抗
スイッチのオン抵抗(RON)は、入力と出力との間の抵抗を表します。スイッチを通過する信号は、電圧IR だけ減衰します。ここで、R はRONを、I は電流を、それぞれ表します。
ADG12xx デバイスは低容量性能を持つように最適化されているため、チップ面積は最小になっています。ただし、RON の小さいスイッチをデザインすることは、オン抵抗を小さくするためにチップ面積を大きくすることを意味します。このため、スイッチとマルチプレクサでは、容量性能とオン抵抗性能との間でトレードオフが必要になります。
電源電圧は、スイッチのオン抵抗性能に大きな影響を与えます。スイッチとマルチプレクサで最小のオン抵抗性能を得るためには、最大許容動作電圧で動作させる必要があります。ADG12xxデバイスでは、この値は±16.5 V になります。デバイスを高い電源電圧で動作させると、入力信号の変動に対する入力抵抗の変動も小さくなります。動作電圧のオン抵抗性能に対する依存性を、図 9 に示します。
±5 V 電源使用時のADG12xx のオン抵抗性能を図 10 に示します。このプロットは、5 V 電源でのオン抵抗性能とこれらの電源が10%変化したときの性能を示しています。すべてのADG12xx デバイスのデザインでは、同じ基本スイッチ・セルが使用されているため、これらのオン抵抗プロットはすべての構成に適用できます。
図 9 と図 10 に示すように、スイッチとマルチプレクサのオン抵抗性能は電源と入力信号の関数です。オン抵抗性能は温度により変化します。 ±5 V 電源を使用したときの、温度に対するオン抵抗の変化をADG1211、ADG1212、ADG1213 について図 11 に示します。温度が高くなると、オン抵抗が大きくなることが示されています。
リーク電流
iCMOS 製造プロセス技術およびADG12xx スイッチとマルチプレクサのデザインは、非常に小さいリーク性能を提供します。リークは約20 pA です。
IS (Off)
スイッチ・オフ時のソース・リーク電流。
ID (Off)
スイッチ・オフ時のドレイン・リーク電流。
ID、IS (On)
スイッチ・オン時のチャンネル・リーク電流。
図 12 に、±5 V 電源使用時のADG1206 16:1 マルチプレクサのリーク性能を示します。オン時のリークとドレイン・オフ時のリークは、ドレインに接続されているチャンネル数の関数です。このため、この値はチャンネル数の倍数になります。
タイミング
次のタイミング・パラメータは、最も一般的にスイッチとマルチプレクサのデバイス・データ・シートで規定されています。
tON (EN)
デジタル入力の50%/90%ポイントとスイッチ・オン状態との間の遅延時間。
tOFF (EN)
デジタル入力の50%/90%ポイントとスイッチ・オフ状態との間の遅延時間。
tTRANSITION
あるアドレス状態から別のアドレス状態へ切り替わるときのデジタル入力の50%/90%ポイントとスイッチ・オン状態との間の遅延時間。
TBBM
Break-Before-Make タイミング—あるアドレス状態から別のアドレス状態へ切り替わるときの両スイッチの80%ポイント間で測定したオフ時間。
タイミング性能は温度と電源電圧の関数です。タイミングは、温度が高いほど低速になり、電源電圧が低いほど低速になります。図 13 に、温度と電源電圧に対するタイミング性能をクワッドSPST スイッチADG1211、ADG1212、ADG1213 について示します。±5 V と25℃でのtON時間は225 ns (typ)で、tOFF時間は110ns (typ)です。
結論
ADG12xx ファミリーのデバイスは、ハイエンド・データ・アクイジション向けに非常に小型なパッケージで業界最小の容量、チャージ・インジェクション、リークを提供します。低い電源電圧でも、優れた容量、チャージ・インジェクション、リーク性能が維持されています。±5V 電源でADG12xx デバイスを使用する際の欠点は、オン抵抗とタイミング性能が大幅に小さくなることです。