問題があったときは見当違いなところを虱潰しに探すこと

質問:

アンプの出力にリンギングやオーバーシュートが大量に発生します。データシートのガイドラインには従っていますし、レイアウトに問題はありません。一体何が悪かったのでしょう?

RAQ:  Issue 104

回答:

こういった問題は、私たちを当惑させイライラさせます。エンジニアリングとは科学です。ですから、A とB をしたら、必ずC という結果が出るはずです。しかし、回路の設計にしばらく携わったことのある人なら、エンジニアリングは一種のアートでもあるということがおわかりだと思います。すでに故人ですが、ボブ・ピースというエンジニアが「Troubleshooting Analog Circuits」(アナログ回路のトラブルシューティング)という著書を署名入りで送ってくれたことがあります。署名とともに「発見が可能になるように、すべてのトラブルがミドルサイズでありますように」と書き添えてくれました。以来、私はこの言葉がお気に入りで、本当にトラブルが常に中程度のものあればいいのにと思っています。

この相談を寄せてくれた方は、データシートをお読みになっていました。これは幸先のよい出だしですが、残念ながらデータシートを読まない人が驚くほど多いのです。そこで、問題を掘り下げてみました。最初に調べるのは回路図です。私の元同僚は、これを「目玉の運動」と呼んでいました。まず、ふつう疑わしいと思われる箇所を探しました。アンプのノイズ・ゲイン、バイパス・コンデンサ、負荷、電源電圧など。では、なぜこれらが疑わしいのでしょうか?

ノイズ・ゲインはアンプの安定性を決定します。位相マージンが小さければ、出力がリンギングやオーバーシュートを起こす可能性があります。バイパス・コンデンサはノイズがアンプに入り込まないようにして、電源ピンの直近で電荷を保存します。アンプが大量の電流による強力な電源を必要とする場合は、出力が急速に変化するため、これは特に重要です。出力の遷移中に電源電圧が変化すれば、その変化は確実に出力に現れます。負荷も問題の原因になる可能性があります。負荷の容量やインダクタンスが大きすぎる場合や負荷の抵抗が小さくなりすぎた場合などです。一部のアンプは電源電圧が過大になったり過小になったりすると性能が低下するため、電源電圧がデータシートに記載されている値になっているかチェックする必要があります。

以上がすべて問題ない場合はどうすれば良いでしょう? 私たちはさらにトラブルシューティングを進めました。次はレイアウトを調べます。寄生インダクタンスを伴う長い配線はありませんか? 電源ピンから遠く離れていて、寄生インダクタンスによってタンク回路を形成してしまうようなバイパス・コンデンサはありませんか? グラウンド・プレーンが入力ピンや出力ピンの下に入り込んで、寄生コンデンサを形成し、リンギングやオーバーシュートを発生させていませんか? この場合も、レイアウトには問題がないように見えました。

よろしい。では次は何でしょう? テストの方法はどうでしたか? 入力はクリーンで、適切に終端されていましたか? このエンジニアは入力にわずかなリンギングを認めていますが、大きなものではありませんでした。言うまでもなく、入力が変なものであれば出力も変なものになります。そこで入力のクリーン・アップを試みました。入力は正しく終端されていました。そこで、ジェネレータを取り替えて、もしやここが問題ではないか調べました。新しいジェネレータのほうが少しましでしたが、やはり入力と出力にはリンギングが生じました。…と、ここでひらめきました。私は、信号のチェックにケーブル・プローブやスコープ・プローブを使ったかどうか尋ねました。スコープ・プローブを使ったという答えが返ってきたので、さらにグラウンド・クリップがあるかどうかを尋ねました。クリップはあり、その長さは約3 インチとのことです。私はこれが原因だと推測し、クリップ・リードを取り去り、プローブ・チップを覆っているプラスチック・バレルを外し、スコープ・プローブの金属ライナーを使用して信号近くのグラウンドをピックアップするようにアドバイスしました。これでリンギングは発生しなくなりました。ほらね! それでは、何が原因だったのでしょうか?

グラウンド・クリップには直列インダクタンスがあります。プローブには容量があり、プローブを置いた位置の配線には寄生容量があります。この容量とインダクタンスがタンク回路を形成し、通電時に回路の高速立上がりエッジによって回路が発振して、入力と出力にリンギングとオーバーシュートを引き起こしていたのです。アドバイスをもうひとつ:測定する前に必ずスコープ・プローブを校正しておいてください。これでピーキングも減少できます。これで、一件落着!
トラブルシューティングは問題を見つけ出すための系統的なアプローチですが、これにはアートの側面もあります。 見当違いなところをすべて探していけば、最終的には正しい場所が見つかるものです。

 

著者

John Ardizzoni

John Ardizzoni

John Ardizzoniは、アナログ・デバイセズの高速リニア・グループの上級アプリケーション・エンジニアです。 マサチューセッツ州ノースアンドーバーのメリマック・カレッジでBSEE(電子工学士)を取得し、2002年にアナログ・デバイセズに入社しました。エレクトロニクス業界で30年以上のキャリアがあります。