質問:
データシートはどうやって理解したらいいのでしょうか?

回答:
ちょっと努力が必要ですね。データシートの名目上の目的は、対象となるデバイスの機能と技術特性についてユーザおよびユーザになるかもしれない購買層に最大限の情報を提供することです。しかし実態は、これらの文書を作成する料理人が多すぎて、結果としてまずいスープができあがってしまうという状態です。
データシートの最初の草案を作成するIC設計者は、自分の作品がいかに素晴らしいかを特筆したいと考えています。販売責任者は、その製品が競合製品に比べて優れている点を強調し、欠点があってもごく簡単に触れてすませたいと望みます。テスト・エンジニアは、出荷テストの時間とコストを最小限に抑えたくて、特性表の最大値と最小値を全部削除して代表値(Typ.値)だけにしてしまいたいと考えています。会社の顧問弁護士は、製品のユーザ(あるいは誤使用者)が会社に対し訴訟を起こしそうな根拠を与えてはならないと躍起になっています。広報担当者は、60ページの文書を4ページに縮小したいと思っています。そして、我々アプリケーション・エンジニアは、ソフトウェア・エンジニアでも理解できるくらい簡単かつ明瞭なデータシートを作り、アプリケーションへの問い合わせの電話のベルに起こされずに安らかに午後を過ごしたいと望みます。このようにしてできあがったものは、妥協の産物でしかなく、必ずしもちゃんと役に立つものとはいえません。しかも、データシートはいつも大慌てで作られるため、製品のリリースの準備が整ったところでいつも何らかの間違いが見つかるのです。
エンジニアはどうしたらいいのでしょうか?まず、自分のアプリケーションに一番重要なのはどの仕様かを判断します。それがわからなければ、設計ガイドを参照するか、勇気を奮って誰かわかる人に尋ねます。第2に、さまざまなメーカーの製品についてパラメトリック検索を行い、候補となるデバイスを見つけます。第3に、もう仕方がありません、いまいましいデータシートを読みましょう。(かつて私は8ピン・ミニDIPには何本ピンがあるのかと質問されたことがあります。もちろん、丁重にお答えしましたよ!)
データシートを読むときには、少なくとも次の点に注意してください。
絶対最大定格表での「Vdd≥Vss」、あるいはより良い表現として「|Vss|≤Vdd」。これは、負電源を供給してから正電源を供給するとデバイスが破壊されることがあるということを遠まわしに述べています。
2つのデータシートで同じように見えても実は異なっている仕様。たとえば、小信号帯域幅とフルパワー帯域幅、あるいは1LSB(12ビット)までのセトリング時間と1%までのセトリング時間などです。
仕様の最大値/最小値に対し「代表値」。いったい代表的なアプリケーションに何が必要なのか、誰にわかるのでしょうか?
データシートのさまざまに矛盾する要件を満たすために妥協が多くなるということは、表面的な事実や仕様以上のことをデータシートから読み取ることができるということを意味しています。いつの日か、業界の合意によりデータシートの標準様式が作られるようになればどんなに素晴らしいでしょう。データシートが真実しか述べず、真実以外の何ものもなくなったらどんなにいいでしょう。しかし、私はそれが実現するまで待っていられません。だから、どうか買主の危険負担に気をつけて!