リンゴとオレンジ — 仕様を関連付けるには同じテスト条件が必要

質問:

ADCの入力換算ノイズと S/N比(SNR)にはどのような関係が ありますか?

raq-issue-87

回答:

「切り替わる出力のデータビット」で、アナログ入力が静的な場合でも入力換算ノイズによって高速A/Dコンバータ(ADC)出力が切り替わる理由を説明しました。入力換算ノイズとSNRには関連がありますが、これは同じテスト条件で比較した場合だけです。

ADCのSNRを使用して、次式のように等価のRMS入力ノイズを計算することができます。

 ここで、入力フルスケール範囲(FSR)はLSB単位、SNRはdBFS(フルスケール基準のデシベル値)単位です。たとえば、12ビット、500 MSPSのADC、AD9434のデータシートのグラウンド入力ヒストグラム(Figure 25)によると、入力換算ノイズは1.24 LSB rmsです。仕様の表を見ると、入力周波数が30 MHzから450 MHzでのSNRの代表値は65.9 dBFSから63.5 dBFSまでとさまざまです。さて、計算式にはどの数値を使用すべきでしょうか?SNRはグラウンド入力ヒストグラムの結果と比較する必要があります。現代の単電源ADCの場合、入力はオープンでグラウンド電位に接続しないため、単電源動作のADCの入力はアナログ電源の中央値にシフトします。SNRはDCで測定しないため、最小入力周波数の30 MHzを選択してください。入力ノイズは次式で求めることができます。

おや、1.47  1.24ですね。これはどういうことでしょうか?この食い違いを解消するにはいくつかの点を考慮する必要があります。まず、SNRテストは–1 dBFSレベル、30 MHz入力信号で行われますが、グラウンド入力ヒストグラムのテストでは信号はありません。これで値に差がでるのでしょうか?ADC出力のジッタ誘起ノイズは次式で推定することができます。

ここで、A は入力振幅、f は入力周波数、ta はアパーチャ不確実性(ジッタ)です。したがって、信号のないグラウンド入力ヒストグラムのテストに比べるとジッタによってノイズ性能が低下することは明確に予想できますが、テスト条件はまだまったく同じというわけではありません。もっと差を縮められないでしょうか?Figure 19は入力周波数が140.3 MHzのときのアナログ入力振幅とSNRの関係を示しています。よく見なければわかりませんが、–65 dBFS時にSNRは約67 dBFSで、–1 dBFSの結果よりほぼ1 dBほど良くなっています。このテストはわれわれのSNRテストより高い周波数で行われていますが、周波数を下げればジッタ誘起ノイズは同じようなものになるはずです。このSNRを使って入力ノイズを再計算すると、Noiseinput = 1.29 LSBとなります。この場合、グラウンド入力ヒストグラムの測定入力換算ノイズとの差はわずか0.05 LSBなので、2つの仕様を見事に関連付けることができたといえるでしょう。

入力信号なしでAD9434のFFTを実行する方法もあります。FFTからは、67.5 dBFSのSNRを算出できます。この結果を使って入力換算ノイズを計算すると、1.22 LSBが得られます。これはヒストグラムの結果の0.02 LSB以内の値です。少し調整が必要かもしれませんが、高速ADCの入力換算ノイズとSNRをうまく関連付けることができます。

 

 

著者

David Buchanan

David Buchanan

David Buchananは、1987年にヴァージニア大学でBSEE(電気工学士)を取得しました。 アナログ・デバイセズ、Adaptec、STMicroelectronics社においてマーケティングとアプリケーション・エンジニアリングを担当。 さまざまな高性能アナログ半導体製品を扱いました。現在は、ノースキャロライナ州グリーンズボロにあるアナログ・デバイセズの高速コンバータ製品ラインの上級アプリケーション・エンジニアです。