プログラマブル入力範囲を持つADCで得られる システムのメリット

質問:

調整や設定が可能なプログラマブル・アナログ入力範囲のメリットは何ですか?

RAQ:  Issue 103

回答:

旧式の高速A/Dコンバータ(ADC)の場合は、アナログ入力範囲を変更するために外部リファレンス電圧を調整する必要がありましたが、最新の製品のほとんどは入力範囲の設定や調整ができます。たとえば、1Vp-p~2Vp-pの電圧範囲を100mVステップで設定するには、レジスタに簡単に書き込むだけでプログラミングできます。ほとんどのデバイスでは、最大入力範囲がデフォルトに設定されています。この設定だと、信号とノイズの比であるS/N比(SNR)が最大になります。ノイズは一般にコンバータ自体の熱ノイズが主ですが、これは入力範囲を調整しても変わらないため、入力範囲を最大化するとS/N比も最大になります。

たまにデータシートを調べたエンジニアが、入力範囲を調整したい人がいるのはなぜかと聞いてくることがあります。入力範囲を狭くすることにどんな意味があるかわからないというわけです。これはもっともな質問です。信号範囲を狭くしてもコンバータの他の仕様に対して大きなトレードオフは生じません。オペアンプその他のリニア部品と同様、信号の振幅を小さくすると歪みが改善されると期待されるかもしれません。しかし、ADCの場合は飛躍的な改善はそれほど見られません。コンバータの非直線性が歪みの主な原因となるフルスケール近辺では特にそうです。たとえば、16ビット250MSPS ADCのAD9467は、入力範囲2Vp-pと2.5Vp-pで代表的な性能仕様を提供しています。入力範囲を小さくするとSNRが1.7dBだけ低くなり、一方ナイキスト領域でのSFDR(スプリアスフリー・ダイナミック・レンジ)は1dBまたは2dB増加します。1~2dBの歪みか1.7dBのSNRを取るか、どちらでも同じように思われるかもしれませんが、スプリアスはナイキスト領域に分散した周波数に生じ、SNRが低いとナイキスト領域全体のノイズ・フロアの平均が上がります。ディスクリート周波数で1dBか2dBの改善はほとんどのアプリケーションでそれ程大きな影響はありませんが、対象となる帯域全体で1.7dB劣化すれば大きな問題となります。

では、なんの得もないのに、どうしてSNRを下げるのでしょうか?コンバータは、システム・レベルで見るとパズルの一片にすぎません。システム全体のコスト、性能、消費電力を考慮した場合、信号範囲を狭くするのはADCの上流側で1.7dBゲインを小さくする必要があり、これによっておそらくゲイン帯域幅積の小さい低消費電力オペアンプが使用可能になるからかもしれません。つまり、コンバータのノイズ性能の低減を許容できるのであれば、システムの別の部分でポジティブなトレードオフを見つけることができるでしょう。

 

著者

David Buchanan

David Buchanan

David Buchananは、1987年にヴァージニア大学でBSEE(電気工学士)を取得しました。 アナログ・デバイセズ、Adaptec、STMicroelectronics社においてマーケティングとアプリケーション・エンジニアリングを担当。 さまざまな高性能アナログ半導体製品を扱いました。現在は、ノースキャロライナ州グリーンズボロにあるアナログ・デバイセズの高速コンバータ製品ラインの上級アプリケーション・エンジニアです。