今回はコンバータ・ノイズについて!― 第2部

質問:

A/Dコンバータのノイズに比べて 抵抗ノイズはどうなんですか?

RAQ:  Issue 52

回答:

第1部ではノイズ指数(NF)の問題点を取り上げました。そこでノイズ・スペクトル密度(NSD)に注目したことを思い出してください。以下にその理由を説明します。

A/Dコンバータの全体的なNSD性能は、実際には熱ノイズ、ジッタ、量子化ノイズなど、いくつかのパラメータからなっており、仕様規定された帯域幅(BW)でのS/N比(SNR)です。サンプリングされている信号において、設計者がコンバータの分解可能な最小の要素となる「ステップ」を解明するには、そのコンバータのデータシートに公表されているS/N比の数値が現実的な見通しを得る上での手がかりになります。このステップとは、最下位ビットまたはLSB(Least Signi cant Bit) とも呼ばれます。コンバータの分解能ビット数Nと入力フルスケール値が与えられると、次の式を用いてS/N比とLSBサイズを決定することができます。SNR = 20*log (Vsignal-rms / Vnoise-rms)、LSB = (VrmsFullscale/(2^N)

この式を変形すると、コンバータのノイズを求めることができます(Vnoise-rms = Vsignal-rms*10^-SNR/20)。したがって、代表的な80MSPSの16ビットA/DコンバータでS/N比が80dB、入力フルスケールが2Vppの場合、Vnoise-rms = 70.7uVrms、つまり LSBサイズは10.8uVrmsになります。

では、抵抗ノイズを調べてみましょう。抵抗ノイズはVresn = sqrt(4*k*T*BW*Resistance)と定義されます。したがって、1キロオームの抵抗は1ヘル ツのBWに約4nVのノイズを付加します。ここで、Tはケルビン温度(室温=290K)、BWは帯域幅、kはボルツマン定数(1.38x10E-23ワット/秒/ケルビン)です。コンバータに関しては、抵抗ノイズをあまり心配しなくてよさそうに見えますが、油断は禁物です。

では次に、NFを低下させ、感度を高める方法を考えてみましょう。これには、コンバータのフロントエンド設計にゲインと抵抗を追加します。パッシブ・フロントエンドの場合、入力フルスケールが半分になるとNFは6dBだけ下がります。ただし、これとは相関しない、抵抗ノイズについても考慮しておく必要があります。

シグナル・チェーンのゲインが2であることにより、50オーム抵抗は実効値では4.4uVrmsとなり、反対側にある200オーム終端抵抗によって、ノイズはさらに14.4uVrms上乗せされます。これら2つの無相関ノイズ源の2乗和の平方根(RSS)によって、合計ノイズは20.3uVrmsになります。これは2LSBに相当します。

ここで気をつけなければならないのは、いくらかのゲインが与えられたとしても、抵抗ノイズの観点からはコンバータ・ノイズの方がはるかに大きいことです。しかし、シグナル・チェーンの全体を通してより高い値の抵抗でゲインが設定された場合、ノイズの総和で見るとS/N比はすぐに悪化してしまいます(LSB=1ビット=6dB)。シグナル・チェーンでゲインを用いることには用心してください。あっという間にNFが悪化してしまいます。

 


 

著者

Rob Reeder

Rob Reeder

Rob Reeder は、1998年以降、米国ノースカロライナ州グリーンズボロにあるアナログ・デバイセズの高速コンバータ/RFグループで上級コンバータ・アプリケーション・エンジニアとして働いています。これまでに、さまざまなアプリケーションのためのコンバータ・インターフェイス、コンバータ・テスト、アナログ・シグナル・チェーン・デザインに関する多数の記事を執筆しています。また、航空宇宙および防衛グループのアプリケーション・エンジニアであり、5年間にわたってさまざまなレーダー、EW、および計装アプリケーションに注力していました。これまでには、高速コンバータ製品を9年間担当していました。それ以外にも、アナログ・デバイセズのMultichip Products グループのテスト開発とアナログ設計エンジニアリングも担当していました。そこでは、宇宙、軍事、および高信頼アプリケーションのアナログ信号チェーンモジュールを5年間設計しました。 イリノイ州デカルブの北イリノイ大学で1996年にBSEE(電気工学士)、1998 年にMSEE(電気工学修士)を取得しています。余暇には、音楽のミキシング、美術を楽しむほか、2人の息子とバスケットボールをしたりします。