周波数ミキシング部品を取り巻く状況の変化

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半導体プロセスとRFパッケージングの絶えざる技術革新によって、RF、マイクロ波、ミリ波の設計アプリケーションの設計手法は一変しました。RF設計者は技術上、設計上、これまでになく特化された高度なサポートを求めるようになってきています。設計技術の進化に伴い、RF部品やマイクロ波部品の性質は、近い将来、大きく異なったものになるでしょう。本稿では、種々のミキサーを示し、それらの長所と短所、そして様々な市場で進化しつつあるそれらのアプリケーションについて説明します。また、ミキサーを中心とする様々な周波数ミキシング部品を取り巻く状況の変化と、技術の進歩による多様な市場セグメントのニーズの変化について解説します。

はじめに

RFやマイクロ波の設計において、周波数ミキシングはシグナル・チェーンの中で最も重要な部分の1つです。これまで、多くのアプリケーションがミキサーの性能によって左右されてきました。ミキサーを目的のアプリケーションに使用できるか否かは、そのミキサーの周波数範囲、変換損失、そして直線性で決まりました。また、30GHzを超える周波数の設計は困難で、そのような周波数のデバイスのパッケージングは更に要求の厳しいものでした。このような状況で一般市場の要求に応えるのは、簡素なシングル、ダブル、トリプルのバランスド・ミキサーでした。しかし、多くの企業がより先進的なアプリケーションを開発し、わずかでも性能を改善しようと取り組む状況で、従来型のミキサーではその目的を果たせなくなってきています。今日および将来の市場においては、アプリケーション別に最適化され、性能が最大限に活用され、繰り返し再利用できる共通プラットフォーム・ベースの設計に対応する周波数ミキシング・ソリューションが必要とされます。

今日の設計者は、アプリケーションの種類と最終市場に応じて非常に多くのニーズを抱えています。今日のほとんどの設計者が求めているのは、広帯域の性能、直線性の向上、シグナル・チェーン内の他の部品との高度な集積化、低消費電力などです。しかし、これらの優先順位は、市場セグメントによって全く異なってきます。

種々のミキサーおよび周波数コンバータ

様々な市場でのミキサーや周波数コンバータのアプリケーションを論じる前に、各ミキサーの基本的な特性を理解しておくことが望ましいでしょう。名前のとおり、ミキサーとは2つの入力信号をミックスし、その周波数の和または差を生成するものです。ミキサーが(2つの周波数を合算することで)入力信号よりも高い出力周波数を生成する場合をアップコンバージョンと言います。ミキサーが入力信号よりも低い出力周波数を生成する場合をダウンコンバージョンと言います。

以下のセクションでは、一般に使用されているミキサーについて、その設計の概要と長所・短所を説明します。

シングル、ダブル、トリプル・バランスド・パッシブ・ミキサー

最も一般的なタイプのミキサーは、パッシブ・ミキサーです。このミキサーには、シングルエンド、シングル・バランスド、ダブル・バランスド、トリプル・バランスドなど様々な設計様式があります。最も広く用いられているアーキテクチャは、ダブル・バランスド・ミキサーです。このミキサーは、高性能、簡素な実装とアーキテクチャ、様々な選択が可能な費用対効果の高い設計オプションなどの特長から、幅広く用いられています。

パッシブ・ミキサーは、外付けのDC(直流)電源や特別な設定が不要なため、構成の簡素さで知られています。更に、これらのミキサーは、広帯域、高ダイナミック・レンジ、低ノイズ指数(NF)、ポート間の高絶縁などの特長を備えています。このような設計上の利点と外部直流電源が不要という長所により、ミキサー出力の低NFという恩恵がもたらされています。大まかに言って、パッシブ・ミキサーのNFは変換損失に等しくなります。これらのミキサーは、アクティブ・ミキサーでは実現不能な低NFのシステム条件が課せられたアプリケーションで、良好に機能します。また、これらのミキサーの利点が生かせる他の領域として、高周波設計と広帯域幅設計があります。パッシブ・ミキサーは、RF周波数からミリ波周波数までの広い周波数範囲にわたって高性能を発揮します。ミキサーの他の重要な仕様として、異なるポート間の絶縁があります。この仕様によってアプリケーションに使用できるミキサーの種類が決まってしまうことも多々あります。通常は、トリプル・バランスド・パッシブ・ミキサーが最大の絶縁能力を提供します。しかし、アーキテクチャが複雑で、直線性などの仕様の面で制限があります。ダブル・バランスド・ミキサーは簡素なアーキテクチャでありながら、良好な絶縁能力を備えています。ダブル・バランスド・ミキサーの絶縁性、直線性、ノイズ指数の組み合わせは、ほとんどのアプリケーションに最適なものとなっています。

シグナル・チェーン全体の視点で見ると、直線性(一般にIIP3(3次インターセプト・ポイント)としても測定されます)が、RFおよびマイクロ波設計における最重要仕様の1つです。通常、パッシブ・ミキサーは高い直線性能を有することで知られています。しかし、最適な性能を発揮するには、パッシブ・ミキサーに高いLO入力電力が必要となります。大半のパッシブ・ミキサーにはダイオードまたはFETトランジスタが使用され、約13dBm~20dBmのLO駆動が必要ですが、これは使用事例によっては極めて高い電力となります。高LO駆動条件はパッシブ・ミキサーの大きな短所の1つです。この他、パッシブ・ミキサーに関する短所として、ミキサー出力での変換損失があります。これらのミキサーはゲイン・ブロックのないパッシブ・エレメントであるため、ミキサー出力での信号損失が大きくなる傾向にあります。例えば、ミキサーへの入力電力が0dBmで、ミキサーの変換損失が9dBとすると、ミキサーの出力は−9dBmとなります。総合的に見ると、これらのミキサーは試験・計測や防衛分野に最適です。詳細については後述します。

パッシブ・ミキサーの長所

  • 広帯域幅
  • High dynamic range
  • 低ノイズ指数
  • ポート間の高絶縁
 

図1. I/Qミキサーのブロック図とイメージ除去の周波数領域プロット

I/Qイメージ除去(IRM)ミキサー

I/Qミキサーはパッシブ・ミキサーの一種です。通常のパッシブ・ミキサーと同じ長所を持つのに加え、外部フィルタを設けなくても不要なイメージ信号を除去できるという利点も備えています。これらのミキサーは、ダウンコンバータとして使用する場合はIRM(イメージ除去ミキサー)、アップコンバータとして用いる場合はSSB(単側波帯ミキサー)とも呼ばれます。I/Qミキサーは2つのダブル・バランスド・ミキサーと1つのLO信号で構成され、このLO信号は2つに分離された後、相互に90°位相シフト(0°が一方のミキサー用、90°が他方のミキサー用)されます。この位相シフトによって、ミキサーが(必要な)1つの側波帯信号だけを生成し、不要な信号を除去できるようになります。

図2に示すスペクトル・チャートは、同一チャート上にI/Qミキサー(紫色の線)とダブル・バランスド・ミキサー(青色の線)を示したものです。図からわかるように、I/Qミキサーでは不要な下側波帯が45dB分除去できているのに対し、ダブル・バランスド・ミキサーでは上下両方の側波帯が生成されています。

図2. HMC773Aパッシブ・ミキサーとHMC8191 I/Qミキサーのスペクトル・プロットの比較(IF入力 = 1GHz、LO入力 = 16GHz)

ダブル・バランスド・ミキサーと同様、I/Qミキサーにも高いLO入力電力が必要です。アーキテクチャの観点では、I/Qミキサーには2つのミキサーが使用されているので、その2つのダブル・バランスド・ミキサーに対して約3dB分だけ余分にLO駆動が必要となってしまいます。I/Qミキサーでは、入力で位相と振幅のマッチングのバランスがとれている必要があります。入力信号、ハイブリッド、システム基板、あるいはミキサー自体に、90°からの位相シフトや振幅のアンバランスが少しでもあると、イメージ抑圧レベルに直接影響します。性能を改善するために外部からミキサーを補正することで、これらの誤差の影響は除去できます。

サイドバンド除去比が高いという特性により、I/Qミキサーは、非常に優れたNFと直線性を確保しつつ外部フィルタ処理なしで側波帯を除去する必要のあるアプリケーションで、広く使用されています。マイクロ波のポイントtoポイント・バックホール通信、試験・計測装置、防衛などの最終用途はそうした市場の一般例です。

I/Qミキサーの長所

  • イメージ除去性能が内在
  • 高コストの外部フィルタ処理が不要
  • 優れた振幅と位相のマッチング

アクティブ・ミキサー

もう1つの一般的なミキサーとして、アクティブ・ミキサーがあります。アクティブ・ミキサーは、シングル・バランスド・ミキサーとダブル・バランスド・ミキサー(ギルバート・セルとも呼ばれます)の2つに大別されます。アクティブ・ミキサーには、LOポートとRF出力にゲイン・ブロックが内蔵されているという長所があります。これらのミキサーは、出力信号にある程度の変換ゲインを与えると共に、入力LO電力条件が低いという利点もあります。アクティブ・ミキサーの代表的なLO入力電力は約0dBmで、これはほとんどのパッシブ・ミキサーに比べてはるかに低い値です。

多くの場合、アクティブ・ミキサーにはLO乗算器も内蔵されており、LO周波数を高周波数に乗算することができます。この乗算器があることで、ミキサーを駆動するための高LO周波数が不要という利点が生じます。アクティブ・ミキサーは通常、ポート間の絶縁が優れています。ただし、NFが高く、多くの場合直線性が低いという短所もあります。入力にDC電源が必要であることが、アクティブ・ミキサーのNFと直線性に影響してきます。アクティブ・ミキサーは、低LO駆動と変換ゲインの内蔵が必要とされる通信市場や防衛市場で広く使用されています。試験・計測市場では、アクティブ・ミキサーはほとんどの場合、IFサブセクションの3段目または最終段のミキサーとして、あるいは高集積で費用対効果の高い設計が最高クラスのNFよりも重視される、低価格の計測機器に用いられています。

アクティブ・ミキサーの長所

  • 高集積による小型化
  • 低LO駆動条件
  • LO乗算器内蔵
  • 良好な絶縁性(ただし、直線性とノイズ指数は悪化)

周波数変換内蔵ミキサー

より完成されたシグナル・チェーン・ソリューションが求められるにつれ、普及してきた新しいミキサーのカテゴリが、集積化された周波数コンバータです。このデバイスでは様々な機能ブロックが組み合わされており、この組み合わせによって最終システムの設計を容易にするサブシステムが生成されています。ミキサー、PLL(フェーズ・ロック・ループ)、VCO(電圧制御オシレータ)、乗算器、ゲイン・ブロック、ディテクタなどの様々なブロックが同一パッケージまたはチップに集積化されています。このようなデバイスは、全ての設計ブロックを含む同一のパッケージとして、または1つのダイに複数のダイが組み込まれたSIP(system in package)として構成することが可能です。

複数の部品を1つのチップやパッケージに集積化することで、周波数コンバータは、小型化、部品数の削減、設計アーキテクチャの簡素化、そして最も重要な市場投入時間の短縮といった大きな利点を設計者に提供します。

図3. HMC6147A周波数変換内蔵ミキサーのブロック図

市場別に見たミキサーのアプリケーション

一般に使用されているミキサーの種類とその長所・短所を理解したところで、各市場のアプリケーションについて説明します。

セルラ基地局および中継局市場

セルラ基地局や中継局の市場においては、コストと集積化が最大の牽引力となります。3G、LTE、TDD-LTEネットワークが世界中で急速な成長を遂げると同時に、通信事業者は、異なる周波数チャンネルを使用する複数の地理的市場にまたがって再利用できるRFハードウェア・プラットフォームを開発する必要に迫られています。各地理的市場のニーズは、技術的にも経済的にも様々です。その結果、セルラ基地局向けのミキサーは、複数のセルラ帯域をカバーし、大規模展開を可能にする低価格条件を満たし、開発期間の短縮とコスト削減のための高集積化を実現する必要があります。そのため、これらの市場では、広帯域でアクティブな高集積化ミキサー(周波数コンバータ)が広く使用されています。

Tier 1、Tier 2、セルラ基地局プロバイダが一般に使用している
のは、LOアンプとIFアンプ内蔵およびPLL/VCO内蔵のアナログ・デバイセズのSiGeベースBi CMOSミキサーです。ADRF6655(PLL/VCO内蔵の0.1GHz~2.5GHz広帯域ミキサー)、AD8342(LF~3GHz広帯域アクティブ・ミキサー)、ADL5811(IFアンプおよび広帯域LOアンプ内蔵の0.7GHz~2.8GHzミキサー)が、セルラ基地局とレシーバーの設計に広く用いられています。アクティブ・ミキサーとパッシブ・ミキサーの技術を組み合わせて使用することで、これらのミキサーは複数のRF部品を低コストで統合し、同時に広帯域性能も実現しています。

ポイントtoポイント・マイクロ波バックホール(通信インフラストラクチャ)

インフラの通信機器(有線および無線)メーカーは高集積化を目指していますが、データ・スループットのために最大の変調をサポートできる高い性能に主眼を置いています。増加するデータに対応する必要から、バックホール無線には極めて高い性能条件が課せられています。10~20年前は、多くのOEM(相手先ブランド名製造業者)がバランスド・ミキサーとヘテロダイン・アーキテクチャを採用し、従来型のミキサーで複数のポイントtoポイント無線設計に十分対応できていました。その後、OEMは、性能向上とフィルタ処理回路の削減を図るため、I/Q(またはIRM)ミキサーを使用するようになりました。上述のように、I/Qミキサーはイメージ周波数を除去する機能を本来備えているため、費用のかかるフィルタ処理や不要な側波帯をなくすことができます。アナログ・デバイセズでは、商用マイクロ波周波数帯を全てカバーする広範なI/Oミキサーを取り揃えています。これらのミキサーは、基地局の設計を大幅に簡素化し、著しい性能向上を実現して、高QAMへの対応を可能にします。

しかし今日では、市場投入時間の短縮とポイントtoポイント・バックホール性能の更なる向上がますます求められていることから、OEMは更に高集積のI/Qアップコンバータとダウンコンバータを採用し始めています。アナログ・デバイセズの代表的なアップコンバータ(HMC7911LP5EHMC7912LP5Eなど)では、I/Qミキサー、アクティブ2逓倍器、RF出力部のドライバ・アンプが同じパッケージに集積されています。そのため、複数のマッチング部品を選択してそれぞれの性能を最適化しなくても、設計者は1つのアップコンバータを選択し、シグナル・チェーン全体の性能の最適化に、より多くの時間をかけられるようになっています。

同様に、アナログ・デバイセズのI/Qダウンコンバータ(HMC1113LP5EHMC977LP4EHMC6147ALC5Aなど)では、I/Qミキサー、LNA、アクティブ2逓倍器、LOアンプが同じパッケージに集積されています。帯域を通して40dBcもの高いイメージ除去と2.5dBという低ノイズフロアにより、アナログ・デバイセズのダウンコンバータは、全ての商用マイクロ波バックホール・レシーバーの設計に対し、業界最先端の性能を提供しています。アナログ・デバイセズは、6GHz~42GHzのあらゆる商用マイクロ波帯のアップコンバータおよびダウンコンバータを網羅するポートフォリオを備えた、業界で唯一の企業です。

マイクロ波バックホール無線の性能および集積化の競争は激しさを増しています。数年前、ほとんどのOEMは特定の周波数帯に焦点を絞り、ソリューションをその帯域にのみ適合させていました。現在では、地球規模でのワイヤレスの拡大と新たな周波数帯を利用する需要の高まりに伴って、ほとんどのOEMは、6GHz~42GHz全ての商用マイクロ波無線帯用の無線を開発中です。そのため、基地局の設計がディスクリート部品や一部集積化された部品に頼ることはもはやありません。新規設計には、共通の部品を複数の周波数帯で使用できるようなプラットフォーム手法が必要とされています。

その結果、今日ほとんどのOEMは、1つの共通の周波数ミキシング・プラットフォームで複数の無線帯域をカバーし、最高の性能と規模の経済を得ることを望んでいます。業界をリードするアナログ・デバイセズ製品のADRF6780(6GHz~24GHz I/Q変調器)は、この方向に焦点をあてた1ステップです。OEMは、1つのI/Q変調器またはI/Q復調器を使用して、6GHz~24GHzの間で9通りの無線帯域のマイクロ波バックホール無線を設計できるようになりました。図4に示すように、ADRF6780には、I/Qミキサー、選択可能なLO乗算器、VVA、ログ検出器、SPIプログラマブルのクワッド・スプリット・バッファが同じパッケージに集積されています。このデバイスによって、OEMはこのミキサーを、IFが0.8GHz~3.5GHzの従来のヘテロダイン・アーキテクチャで使用して個別の部品を除去することも、RFからベースバンドバンドまでを部品1つでカバーするダイレクト・コンバージョン(ゼロIFアーキテクチャ)で使用することも可能な、柔軟性を手に入れることができます。LOダブラとバッファを集積することで、高い入力周波数と大きな入力電力が不要となります。更に、このデバイスにはVVAゲイン制御機能があり、必要に応じ一定の出力ゲインを供給することが可能です。このデバイスのゲイン設定、イメージ除去、キャリブレーションなどの機能は全てSPIバスで制御できるため、設計での利用が容易になっています。

図4. 広帯域マイクロ波アップコンバータADRF6780のブロック図

図5に、ADRF6780の補正したサイドバンド除去比を示し、この新世代のデバイスが広帯域の性能を持ちながら最新のRF性能を提供することを強調しています。

図5. ADRF6780のサイドバンド抑圧とキャリア・フィードスルーの除去

この新しいコンバータによって、マイクロ波基地局向けシグナル・チェーン設計に対する設計者のアプローチが変わります。このコンバータを使用することで、RF設計者は、基本的なシステム仕様を実現するためだけに各部品のマッチングをとるという従来のアプローチに比べ、ソフトウェアをアップグレードすることでシグナル・チェーンの性能を最適化することに多くの時間を費やすことができるようになります。

試験・計測装置および防衛

試験・計測(T & M)装置や防衛市場には、常に広帯域性能に対する非常に明確なニーズがあります。これらの市場では、電子戦、レーダー、スペクトラム・アナライザなど、ほとんどのアプリケーションが綿密にカスタマイズされており、信号の完全性と精度が極めて良好でなければなりません。これらのアプリケーションは広範な周波数帯域にわたっており(広帯域条件)、忠実度が非常に低い信号を検出できる能力(低いノイズ指数と高い直線性)が必要です。アナログ・デバイセズのDuncan Bosworthは、2015年6月にレーダー/通信システムの「マルチファンクション対応」はジレンマか、現実か?と題する詳細な記事を執筆し、防衛関係の顧客の持つ広帯域へのニーズについて説明しています。

T&Mおよび防衛関係の企業は、広帯域、設計柔軟性、高性能を必要とするため、個別にカスタマイズと最適化を行って特定の設計目標を達成できるディスクリート・ミキサーを使用することを望む傾向にあります。上述のようにパッシブ・ミキサーは、集積化ミキサーやアクティブ・ミキサーに比べ、直線性とノイズ指数が優れています。ちなみに、パッシブ・ミキサーにおいてすら、広帯域と最適なRF性能(直線性、ノイズ指数、スプリアスなど)とは、コインの表と裏のようなものです。従来、半導体企業はRF性能のために広帯域を犠牲にしたり、あるいはその逆を行ってきました。その結果、防衛やT&Mの設計者は、広い周波数範囲をカバーすることと並行して、狭帯域の部品を使用していました。そのようにして、狭帯域ごとに最高の性能を実現することができたのです。しかし、そのようなソリューションは機能はするものの、設計は複雑さを増し、高コストで維持するのが困難となります。

テクノロジーやプロセスの進化と共に、アナログ・デバイセズなどの企業は設計の簡素化を図ってきました。広帯域ミキサー部品を使用することで、T&Mや防衛関連の設計者は狭帯域部品以上の性能を手に入れながら、同時に1つの部品で複数の周波数帯域をカバーすることができます。2009年以降、アナログ・デバイセズは、シングル、ダブル、トリプルの各バランスド・ミキサー、I/Qミキサー、高IP3ミキサー、サブハーモニック・ミキサーなど、パッシブ広帯域ミキサーにおいて業界で最も幅広いポートフォリオを取り揃えてきました。設計者はもはや広帯域設計のために性能を犠牲にする必要はなくなりました。アナログ・デバイセズの事業開発ディレクタであるChandra Guptaは、最近「Investigate Wideband Frequency Converters」と題する詳細な記事を執筆し、アナログ・デバイセズが広帯域周波数コンバータを使用することで、T&Mおよび防衛向け設計を簡素化している取り組みを説明しています。図6に、広帯域部品(広帯域ミキサーを含む)によって、T&Mおよび防衛向けアプリケーションのシグナル・チェーン全体が簡素化されることを示します。

図6. 広帯域部品により、T&Mおよび防衛アプリケーションにおけるシグナル・チェーン全体が簡素化。

他のほとんどの市場セグメントでは、集積化ミキサーにシフトしてコスト削減と設計の簡素化を図りながらも、HMC773ALC3B(6GHz~26GHzダブル・バランスド・ミキサー)やHMC1048LC3B(2GHz~18GHzダブル・バランスド・ミキサー)などのディスクリートのミキシング部品がT&Mおよび防衛分野で重要な位置を保っています。スペクトラム・アナライザやシグナル・アナライザなどの高精度試験・計測装置アプリケーションや、先進のレーダーや電子戦アプリケーションに対しては、I/Qミキサーが普及し始めています。これらのミキサーでは、外部フィルタ処理を行うことなく、優れたイメージ除去を実現できます。

これまで業界では、I/Qミキサーの大多数が狭帯域幅のものに限定されていました。しかし現在では、アナログ・デバイセズによってRFおよびマイクロ波分野の技術革新が推し進められ、2つの新しい広帯域I/Qミキサー、HMC8191LC4(6GHz~26GHzのI/Qミキサー)とHMC8193LC4(2.5GHz~8.5GHzのI/Qミキサー)に期待をかけられるようになりました。T&Mおよび防衛の分野では、これら2つのミキサーが最大8個の狭帯域I/Qミキサーから置き換わり、なおかつそのアプリケーションの設計目標を同様に実現しています。設計者はもはや広帯域性能のためにそれ以外の性能を犠牲にせずに済みます。

T&Mおよび防衛の市場セグメントでは、まだ数年はディスクリートの周波数ミキシング・ソリューションが使い続けられるでしょう。しかし、より小型で低消費電力のアプリケーションの需要増と共に、高集積・低消費電力のニーズが高まることでしょう。パッシブ・ミキサーは元々、直線性、ノイズ指数、消費電力の点は優れていますが、柔軟な集積化という面では限界がありました。同様に、アクティブ・ミキサーは集積性には優れていますが、消費電力とノイズ指数には課題があります。これらの解決に向けて多くのイノベーションや先進的な開発が進むことが期待されます。将来、どちらにおいても最高性能を発揮し、高い直線性、広帯域性能、低消費電力、小型といった特性を同時に備えた周波数ミキサーが実現する日が訪れることでしょう。それはさほど先のことではありません。

まとめ

マイクロ波業界は技術面で驚くほどの発展を遂げてきました。マイクロ波ミキシング部品に対するニーズは今日かつてないほど多様なものとなり、各市場アプリケーションに固有なものとなっています。これまでのミキサーが提供できたものも、異なる市場セグメントにまたがる新しいアプリケーションでは機能しない場合があるでしょう。OEMは、プラットフォーム志向かつアプリケーション志向を更に強めた方法で設計を検討しています。半導体製造メーカーは、これらの市場セグメントごとに周波数ミキシング・ソリューションを提供できなければなりません。OEMは、アナログ・デバイセズなどの半導体産業のパイオニア企業と密接に連携して、単なる周波数ミキシング部品にとどまらず、周波数ミキシング・ソリューションの開発に着手する必要があります。

仕様 HMC8193 HMC8191  
  Min Typ Max Min Typ Max 単位
RFおよびLO範囲 2.5   8.5 6   26.5 GHz
IF範囲 dc   3.5 dc   5 GHz
変換損失   8 10   9 12 dB
イメージ除去 23 32   20 25   dB
入力IP3 17 21   15 20   dBm
LO/RFアイソレーション 37 45   40  45   dB
LO/IFアイソレーション 30 40   35 40    dB



著者について

Abhishek Kapoor
Abhishek Kapoor は、アナログ・デバイセズのR F / マイクロ波グループ(RFMG)に所属する市場開発マネージャです。広範な市場を対象として戦略を構築することと、新興市場でRFMG がビジネス・チャンスをつかむことが主な業務です。これまでに、RF/半導体の業界を対象としたエンジニアリング、製品管理、営業、マーケティング、ビジネス開発などを担当してきました。2007年にバージニア工科大学で電気工学の学士号、2013年にノースカ...
Assaf Toledano
アナログ・デバイセズのRFMGグループのアプリケーション・エンジニア・マネージャ。2004年にマサチューセッツ大学でBSEEを、2009年にノースイースタン大学でMSEEを取得。2004年にアナログ・デバイセズ入社。テスト・アプリケーション・エンジニアを2年間、高速D/Aコンバータ・グループに異動後はプロダクト・エンジニアを7年間務める。社内外で多くの技術記事を執筆。

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