アプリケーション・ エンジニアに尋ねる―39 ゼロドリフト・オペアンプ

ゼロドリフト・アンプとは?

ゼロドリフト・アンプは、動作中のオフセット電圧を自動的に補正してノイズ密度の分布を再構成します。よく使用されているものとしてオートゼロ・アンプとチョッパの2種類があり、ナノボルト・レベルの低オフセットを実現し、時間と温度に起因するオフセット・ドリフトを非常に低い値に保持します。アンプの低周波1/fノイズもDC誤差とみなし、同様に除去します。温度ドリフトと1/fノイズは、ほかの方法では除去が難しく、システム内でつねに設計者の悩みの種となっているだけに、ゼロドリフト・アンプはさまざまな利点をもたらします。標準的なアンプよりもゼロドリフト・アンプのオープン・ループ・ゲイン、電源電圧変動除去性能、同相ノイズ除去性能は優れています。さらに、全体的な出力誤差は、同じ設定の標準的な高精度アンプより小さくなります。

ゼロドリフト・アンプに適したアプリケーション

ゼロドリフト・アンプは、予想設計寿命が10年以上のシステムや、低周波(<100Hz)かつ低振幅レベルの信号で高いクローズド・ループ・ゲイン(>100)を必要とするシグナル・チェーンで使用します。たとえば、高精度秤量計、医用計測機器、高精度計測機器、赤外線/ブリッジ/サーモパイル・センサーのインターフェースなどがあります。

オートゼロ機能の仕組み

AD8538、AD8638、AD8551、AD8571などのオートゼロ・アンプ・ファミリーは、一般にふたつのクロック位相で入力オフセットを補正します。クロック位相Aでは、図1に示すように、スイッチφAが閉じ、スイッチφBが開きます。ヌル・アンプ(オフセット ゼロ補正のためのアンプ)のオフセット電圧を測定し、コンデンサCM1に記憶します。

Figure 1
図1. オートゼロ・アンプの位相A:ゼロ化位相

クロック位相Bでは、図2に示すように、スイッチφBが閉じ、スイッチφAが開きます。メイン・アンプのオフセット電圧を測定して、コンデンサCM2に記憶するとともに、コンデンサCM1に保存されていた電圧でヌル・アンプのオフセットが補正されます。続いて、入力信号の処理と同時に全体のオフセットがメイン・アンプに加えられます。

Figure 2
図2. オートゼロ・アンプの位相B:オートゼロ位相

サンプル&ホールド機能により、オートゼロ・アンプはサンプリング・システムになるので、エリアシングやフォールドバックの影響を受けやすくなります。低周波数ではノイズがゆっくり変化するため、2つの連続したノイズのサンプルの引き算で正しいキャンセルができます。高周波数ではこの相関関係が弱くなり、引き算の誤差のためにワイドバンド成分がベースバンドに折り返されます。このため、オートゼロ・アンプの帯域内ノイズは、標準的なオペアンプより大きくなります。低周波ノイズを低減するには、サンプリング周波数を増やす必要がありますが、そうすると電荷注入も増えてしまいます。信号パスにはメイン・アンプしかないため、比較的大きなユニティ・ゲイン帯域幅を得ることが可能です。

チョッパの仕組み

図3は、ローカルな自動補正帰還(ACFB)ループを使用するADA4051チョッパ・アンプのブロック図です。メインの信号パスには、入力チョッピング回路CHOP1、トランス・コンダクタンス・アンプGm1、出力チョッピング回路CHOP2、トランス・コンダクタンス・アンプGm2があります。CHOP1とCHOP2は、Gm1からの1/fノイズと初期オフセットをチョッピング周波数により変調します。トランス・コンダクタンス・アンプGm3は、CHOP2の出力の変調されたリップル(AC信号)を検出します。チョッピング回路CHOP3は、このリップルをDCに復調します。3つのチョッピング回路のすべてが40kHzで切り替わります。最後に、トランス・コンダクタンス・アンプGm4が、Gm1の出力のDC成分をゼロ補正します。こうしないと、この成分が出力全体でリップルとして現れることになります。スイッチド・キャパシタ・ノッチ・フィルタ(SCNF)は、出力全体からの必要な入力信号を乱すことなく、オフセットに関連した不要なリップルのみを選択して抑制します。この動作はチョッピング・クロックと同期して行われ、変調成分を完全に除去します。

Figure 3
図3. ADA4051で使用しているチョッピング方式

2つの技術の組み合わせは可能?

それを実現したのがアナログ・デバイセズの新しいアンプ・シリーズです。図4に示すAD8628ゼロドリフト・アンプは、オートゼロ機能とチョッピング機能を用いてチョッピング周波数でのノイズ・エネルギーを低減すると同時に、低周波数でのノイズを非常に低いレベルに維持します。この技術の組み合わせによって、通常のゼロドリフト・アンプでは得られない広い帯域幅が可能になります。

Figure 4
図4. オートゼロ機能とチョッピング機能を組み合わせて広い帯域幅を実現するAD8628

ゼロドリフト・アンプの使用に伴うアプリケーション上の課題は??

ゼロドリフト・アンプは、時間的に不連続なデジタル回路を用いてアナログ・オフセット誤差を動的に補正するコンポジット・アンプです。このようなアンプは、デジタル・スイッチング動作によって生じる電荷注入、クロック・フィードスルー、相互変調歪み、過負荷回復時間(オーバーロード・リカバリー)の増大によって、不適切なアナログ回路の設計により問題を生じることがあります。クローズド・ループ・ゲインやソース抵抗が増加すると、クロック・フィードスルーが増大します。出力にフィルタを追加するか、非反転入力に低い抵抗を使用すれば、このような影響を低減できるでしょう。また、入力周波数がチョッピング周波数に近づくにつれて、ゼロドリフト・アンプの出力リップルが増大します。

内部クロックを上回る周波数で信号はどうなる?

オートゼロ周波数を上回る周波数の信号も、増幅されます。オートゼロ化の対象となるアンプの速度はゲイン帯域幅積に依存しますが、これはヌル・アンプのものではなくメイン・アンプの帯域幅積に依存します。オートゼロ周波数から、スイッチング・アーチファクトがいつ発生するかを知ることができます。

オートゼロとチョッピングの違いは?

オートゼロ化はサンプリングを使用してオフセットを補正しますが、チョッピングは変調と復調を使用します。サンプリングによって高い周波数のノイズがベースバンドに折り返されるため、オートゼロ・アンプでは帯域内ノイズが多くなります。ノイズの抑制に余計に電流を使用するため、一般にデバイスの消費電力は増大します。チョッパの場合はフラットバンド・ノイズに応じた低周波ノイズですが、チョッピング周波数とその高調波において大量のノイズ・エネルギーが生じます。出力フィルタリングが必要になることもあるため、このタイプのアンプは低周波アプリケーションに一番向いています。図5に、オートゼロ方式とチョッピング方式の代表的なノイズ特性を示します。

Figure 5
図5. さまざまなアンプの代表的なノイズの周波数特性

オートゼロ・アンプとチョッパの使い分けは?

低消費電力で低周波数のアプリケーション(<100Hz)にはチョッパを、ワイドバンド・アプリケーションにはオートゼロ・アンプを使用することを推奨します。オートゼロ方式とチョッピング方式を組み合わせたAD8628は、低ノイズ、スイッチング・グリッチなし、広帯域幅が要求されるアプリケーションに最適です。表1には、それぞれの設計のトレードオフの一部を示します。

表 1.

Auto-Zero Chopper Stabilized Chopper Stabilized + Auto-Zero
Very low offset, TCVOS Very low offset, TCVOS Very low offset, TCVOS
Sample-and-hold Modulation/demodulation
Sample-and-hold, modulation/demodulation
Higher low-frequency noise due to aliasing Similar noise to flat band (no aliasing) Combined noise shaped over frequency
Higher power consumption Lower power consumption Higher power consumption
Wide bandwidth Narrow bandwidth Widest bandwidth
Lowest ripple Higher ripple
Lower ripple level than chopping
Little energy at auto-zero frequency
Lots of energy at chopping frequency Little energy at auto-zero frequency

アナログ・デバイセズの好評のゼロドリフト・アンプ製品は?

表2に、アナログ・デバイセズのゼロドリフト・アンプの一部を紹介します。

表 2

製品番号 電源電圧 レールtoレール BW@
最小ACL(MHz)

スルーレート(V/μs) 最大Vos (μV) 代表的TCVOS (μV/°C)
シングル デュアル クワッド 最小 最大 入力 出力
AD8628 AD8629
AD8630
2.7
5.5


2.5
1 5 0.002
AD8538 AD8539

2.7
5.5


0.43
0.4
13 0.03
AD8638 AD8639
  4.5
16


1.35 2.5 9 0.01
AD8551 AD8552
AD8554
2.7
5.5


1.5 0.4
5 0.005
AD8571 AD8572
AD8574
2.7
5.5


1.5
0.4
5 0.005
ADA4051-1 ADA4051-2
  1.8 5.5
•  0.115 0.04 15 0.02

表 2の続き

製品番号 最小CMRR (dB) 最小PSRR (dB) 最小AVOL (dB) ノイズ @ 1 kHz (nV/√Hz) 最大IS/アンプ(mA) 回路原理
シングル デュアル クワッド
AD8628 AD8629
AD8630
120 115
125  22
1.1 AZ, C
AD8538 AD8539

115 105
115
50 0.18 AZ
AD8638 AD8639
  118  127
120
60 1.3 AZ
AD8551 AD8552
AD8554
120 120 125
42 0.975 AZ
AD8571 AD8572
AD8574
120
120
125
51 0.975 AZ
ADA4051-1 ADA4051-2
  105
110
106 95 0.017 C

参考資料

  1. Bridge-Type Sensor Measurements Are Enhanced by Auto- Zeroed Instrumentation Ampliers.(英語)

  2. オートゼロ・アンプの不思議を解き明かす – その1

  3. オートゼロ・アンプの不思議を解き明かす – その2

  4. MT-055 Tutorial, Chopper Stabilized (Auto-Zero) Precision Op Amps. (英語)

著者

Reza Moghimi

Reza Moghimi

Reza Moghimiは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンノゼ事業所)の高精度シグナル・コンディショニング・グループのアプリケーション・エンジニア・マネージャです。 1984年にサンノゼ州立大学でBSEE、1990年にMBAを取得しました。