ブリッジ型センサー・システムの設計の改善、ゲインと出力オフセットをデジタルでプログラム可能な計装用オートゼロ・アンプを活用する

ブリッジ回路は、抵抗をベースとする汎用性の高い回路です。圧力や力などの物理的な変量を測定するセンサーから電気的な出力を得るためのものとして広く活用されています。通常、得られる出力は振幅の小さい信号であるため、測定/制御システムが備えるA/Dコンバータ(ADC)に適したレベルまで増幅する必要があります。本稿では、ブリッジ回路を使用する多くの用途に最適な計装アンプICを紹介します。そのICの特徴は、ドリフトが非常に小さく、多くの便利な機能を備えている点にあります。圧力の測定を例にとり、同ICを利用することによってブリッジ回路をベースとする設計の課題がどのように解決されるのかを明らかにします。

圧力の検出

まずは図1をご覧ください。これは、圧力の測定結果を電気信号として出力する一般的な装置の仕組みを示したものです。振動板、ブルドン管、ベローズ、カプセルなどの機械部品では、圧力が加わることによって歪みが生じることがあります。ストレイン・ゲージを使用すれば、そうした歪みを抵抗値の変化として検出することができます。その値を基にすれば、加わった圧力の値を算出することが可能になります。

 Figure 1
図1. 圧力から電気信号への変換

圧力センサーとして最も広く利用されているものは、ホイートストン・ブリッジによって実現されたストレイン・ゲージです。その構成方法としては図2のようなものが考えられます。これらのうち、図2(D)に示したブリッジ回路は、4つの可変抵抗を使用して構成されています。このような構成を採用することにより、最適な直線性と感度を得ることができます。振動板に圧力が印加されると、ブリッジ回路の2つのゲージ素子(抵抗)には引張力が加わり、残り2つの素子には圧縮力が加わります。その結果として生じる抵抗値の変化が、印加された圧力の大きさを表します。ブリッジ回路は、一定の電圧または電流によって励起され、抵抗値の変化に応じた電気信号を生成します。

この種の圧力センサーの典型的な使い方は次のようなものになります。すなわち、ストレイン・ゲージの素子を金属製の振動板に接着し、フルスケールの抵抗値の変化を検出するというものです。一般に、その変化量はベースとなる抵抗値の0.1%程度になります。一定の電圧または電流をブリッジ回路に印加すると、そのレベルの抵抗値の変化によって、線形性に不平衡が生じます。その大きさを差動電圧(または電流)として測定することで、最終的に圧力の値を得ます。なお、別の圧力センサー技術として、半導体ベースのストレイン・ゲージをシリコンの振動板に接着するというものがあります。多くの場合、この方法を適用することで、ベースとなる抵抗値の約1%に達するはるかに大きな応答を生成することができます。ストレイン・ゲージと様々なブリッジ回路の構成については、アナログ・デバイセズが提供しているシグナル・コンディショニング・マニュアルで詳しく説明しています1。ぜひ、そちらもご覧ください。

必要なシグナル・コンディショニング

一般に、ブリッジ回路によって生成される信号は非常に小さく、ノイズ、オフセット、ゲイン誤差の影響を受けます。そのため、ブリッジ回路の出力については、フィルタによってノイズを除去すると共に、ADCの入力範囲に適合するようにオフセットの調整と増幅を施す必要があります。図3において、シグナル・コンディショニングの部分は、一般的なオペアンプとディスクリート部品を組み合わせることで実現できます。ただ、その代わりに計装アンプを採用すれば、部品のコスト、基板上の実装面積、設計時間を削減することが可能になります。

Figure 2
図2. 4つの抵抗で構成されるブリッジ回路
Figure 3
図3. 圧力の測定に必要な処理

一般的な圧力センサーのアプリケーションにおいて、ブリッジ回路は印加された圧力と励起信号に比例する信号を出力します。具体的には、数十mV、数百mVといった範囲の差動信号が得られます。本稿では、Honeywellが提供している微細構造圧力センサー「26PC01SMT」を例にとることにします。そのフルスケールの圧力スパンは±1.0psiとなります。5Vを印加する場合、圧力がかかっていない状態のヌル・オフセットは±2mVです。また、フルスケールの出力スパンは±14.7mV~±18.7mVの間にあり、コモンモード電圧は2.5Vとなります。コモンモード電圧が高い状態で小さな差動出力信号を正確に取得するには、そのコモンモード電圧を除去することが可能な計装アンプの能力が不可欠です。例えば、12ビットのレベルで読み出し精度を得たい場合には、1LSBは10μV(35mV/4096)未満になります。つまり、コモンモード電圧よりも約101dBも小さい値になります。

ブリッジ回路の補償

通常、圧力センサーのホイートストン・ブリッジでは、オフセット誤差とスパン誤差を排除するマニュアル(手作業)で補償を行うことになります。言い換えれば、圧力の測定装置の製造過程には、オフセット、オフセットの温度ドリフト、スパン、スパンの温度ドリフトをトリミングする処理を含めなければなりません。図4に示したのは、それらの誤差を補償するための抵抗を追加したブリッジ回路です。各誤差を補償するためのトリミングは、時間とコストのかかる作業です。それに対し、本稿で紹介する計装アンプを採用すれば、それに代わる方法を利用できます。それは、D/Aコンバータ(DAC)を使うことにより、計装アンプのリファレンス・ピンにプログラムされたDC電圧を印加するというものです。それにより、オフセットの調整が行えます。なお、オフセットの補償を実施しなければ、ADCのダイナミック・レンジを十分に活かせなくなる可能性があります。

Figure 4
図4. 補償用の抵抗を加えたブリッジ回路

圧力センサーのゲインは一定ではありません。そのため、計装アンプをベースとする多くのシステムでは、ゲインの調整を行う必要があります。従来、その作業は計装アンプに外付けするゲイン設定用の抵抗と直列にトリム・ポテンショメータを追加することによって行っていました。現在では、より広い温度範囲に対応してより高い性能レベルを達成するために、ソフトウェアで制御可能なゲインの補償方法がよく使われています。

計装アンプに起因する誤差

図5は、センサーをシグナル・コンディショニング回路に接続する場合に存在し得る一般的な誤差源を示したものです。この図に示した各種の誤差は、使用する計装アンプに起因して発生します。この回路では、図中の計装アンプのバイアス電流がブリッジ回路の出力抵抗に流れます。抵抗の値またはバイアス電流の値が不平衡である場合にはオフセット誤差が生じます。この誤差は、計装アンプのゲインによって増幅されて出力に現れます。また、オフセット電圧とバイアス電流は温度の関数で表されるので、その点にも注意が必要です。考慮すべき重要な誤差としては、他にも計装アンプのゲインの精度、非直線性、ノイズが挙げられます。つまり、ブリッジ回路を使用する測定アプリケーションには、非常に性能の高い計装アンプが必要だということです。その計装アンプは、入力オフセット電圧、バイアス電流、オフセット電圧の温度係数、バイアス電流の温度係数が小さく抑えられているものでなければなりません2

Figure 5
図5. 計装アンプの誤差源

AD8555による課題の解決

圧力センサーをはじめ、ブリッジ回路を使用する測定システムの設計に最適な計装アンプ製品が存在します。それは、アナログ・デバイセズの「AD8555」です3。この製品は、デジタル方式でプログラムが可能なゼロドリフト・アンプです。その内部回路は、計装アンプとして機能するように図6のように構成されています。図中のA1、A2、A3は、いずれもオートゼロ・アンプです。

Figure 6
図6. AD8555の機能ブロック図

AD8555の差動入力端子VPOS、VNEGは、入力インピーダンスが高く、バイアス電流が少ないという特徴を備えています。そのため、センサーのブリッジ回路に負荷がかかるのを防ぐことができます。また、アンプが生成するDC誤差を連続的に補正するオートゼロ技術により、オフセットとオフセット・ドリフトも最小限に抑えられています。最大入力オフセット電圧は-40°C~125°Cの温度範囲に対して10μV、最大ドリフトはわずか65nV/°Cです。

AD8555のゲインは、70~1280の範囲を対象とし、1未満の単位(分解能は0.4%未満)でプログラムすることができます。その設定は、シングル・ワイヤのシリアル・インターフェースを介して2つの段のゲインを個別に調整することによって行います。ゲインの設定結果は、DigiTrim®のプロセスを適用し、ポリシリコン・ヒューズを溶断することによって固定することが可能です4。1段目のゲインは、P1とP2の両方を調整する7ビットのコードによって、4.00~6.40(128ステップ)の値にトリミングされます。一方、2段目のゲインは、P3とP4の両方を調整する3ビットのコードによって、17.5~200(8ステップ)の値にトリミングされます。DigiTrimを適用して設定を固定するまでは、キャリブレーションによって最適な精度が得られるまで、プログラム、評価、再調整を繰り返すことが可能です。

AD8555では、8ビットの内蔵DACを使ってプログラマブルにオフセットを調整することもできます。この手法は、入力信号のオフセット誤差の補償や、出力信号に対する固定バイアスの追加に利用することが可能です。このバイアスは、例えば単電源の環境でバイポーラの差動信号を扱いたい場合などに使用できます。出力オフセット電圧としては、電源レールの間の電圧(VDD - VSS)を設定可能であり、その分解能は0.39%となっています。その設定には、以下の2つの式を使用します。

Equation 1
Equation 2

ここで、各変数の意味は以下のとおりです。 

Gain:1段目のゲインと2段目のゲインの積

Vdiff:測定の対象となる差動入力電圧

NDAC-code:DACの入力コード(数値)

ゲインと同様に、出力オフセットについてもプログラム、評価、再調整を繰り返すことができます。最終的には、上述したとおり、ヒューズを溶断することによって設定を固定することが可能です。

最近のセンサー用のアンプに対しては、単電源の動作がより強く求められるようになっています。実際、今日のデータ・アクイジション・システムの多くは、単電源、低電圧で動作します。AD8555は、2.7V~5.5Vの単電源で動作します。図6のアンプA4の出力は、各電源レールの7mV内側の範囲でスイングします。

AD8555は障害検出機能も備えています。それらの機能は、オープン、短絡、入力のフローティングに対する保護を提供します。いずれかの状態が検出された場合には、出力電圧が負の電源レール(VSS)にクランプされます。短絡とフローティングの状態も、VCLAMPへの入力によって検出されます。また、コンデンサを外付けするだけでローパス・フィルタを構成できるようになっています。それにより、AD8555の出力周波数範囲をDC~400kHzに制限することが可能です。

シグナル・コンディショニング回路におけるAD8555の役割

システム設計者は、同じ品番の圧力センサーであれば、すべてがほぼ同一の性能を示すことを望みます。しかし、市販のセンサーは、そのような要件を十分な精度で満たすことはできません。個々のセンサーの間で性能の一貫性を得るにはどうすればよいのでしょうか。1つの方法は、製造過程で徹底的なトリミングを行うことです。それらのセンサーの動作が一定の温度範囲内で再現可能なものであれば、プログラマブルなAD8555を使用して補償を行うというのがより良い方法になる可能性があります。

ゼロドリフトの計装アンプとして機能するAD8555は、増幅、ゲインの設定/トリミング、オフセットの設定/トリミング、クランプの処理にかかわる制御をすべてデジタル方式で行うことができます。また、ブリッジ回路を使用するセンサーのオフセット誤差とゲイン誤差を補償すると共に、センサーの誤動作を検出することも可能です。ソフトウェアによる調整が可能なAD8555と比べると、トリム・ポテンショメータを用いた補償は製造環境における手法としては時代遅れだと言えます。AD8555のパッケージは4mm×4mmのLFCSPなので、実装面積を抑えられます。その広い温度範囲と小さなパッケージは、過酷かつ高密度な環境で運用される多くのセンサー・アプリケーションに対してメリットをもたらします。また、AD8555は、非常に大きな容量性負荷を駆動することができます。そのため、信号処理用の回路から離れた場所にあるセンサーの近くに配置することが可能です。プログラミングによる高い柔軟性と優れたDC精度を提供できることから、他のどのソリューションと比べても一線を画す製品となっています。

アプリケーションの例

複数の圧力センサーを使用する場合、それぞれのばらつきが原因で、センサーのフルスケール出力の20%に相当するオフセット電圧が生成されることがあります。また、ゲインの差は、センサーのばらつきによって2倍近くに達する可能性があります。AD8555を使用すれば、オフセットとゲインのばらつきを補償しつつ、ADCが受け取る信号のダイナミック・レンジを最大化することができます。図7に示したのが、そうしたアプリケーション回路の例です。ご覧のように、ブリッジ回路、AD8555、ADCである「AD7476」を使って回路を構成しています。

Figure 7
図7. 圧力を測定するためのアプリケーション回路の例

センサーの特性

26PC01SMTは、表面実装技術を採用した圧力センサーです。ホイートストン・ブリッジをベースとしており、プリント回路基板に取り付けられるようになっています。AD8555と共に使用すれば、小さなフットプリントで、完全にプログラマブルな圧力測定機能とコンディショニング機能を実現できるはずです。26PC01SMTのデータシートに記載されている10V/25°Cにおける仕様に基づくと、5Vの電源を使用する場合の同センサーの特性は、以下の表に示すようになると予想されます。

測定の種類 ゲージ、真空ゲージ、差動
圧力の範囲〔psi〕 ±1.0
入力抵抗の範囲〔kΩ〕 5.5 ~ 11.5
出力抵抗の範囲〔kΩ〕 1.5 ~ 3.0
出力電圧スパン(± 1psi)〔mV〕 ±14.7(最小)、±16.7( 標準)、± 18.7(最大)
温度に対するスパンのシフト〔%〕 ± 1.5(標準)、± 4.5(最大)
ヌル・オフセット〔mV〕 -2 ~ 2
ヌル・シフト(25°C~ 0°C、25°C~ 50°C)〔mV〕 ± 1.0(最大)
直線性誤差〔% of Span〕 ± 0.50(標準)、 ± 1.75(最大)
再現性とヒステリシス誤差〔%〕 0.20(標準)
過圧〔lb/in2 20(最大)

AD8555によって生じる誤差

シグナル・コンディショニング回路からも、オフセットとして現れる誤差が生じます。AD8555が関与する誤差についてまとめると、以下の表のようになります。

パラメータ 誤差
ppm
入力オフセット電圧 (2 μV + 2 mV/150) ×150
458
入力オフセット電流 2500 ohm × 200 pA ×150 15
ゲイン誤差 0.5% 5000
CMRR 100 dB 750
ゲインの非直線性(1) 50 ppm 50
0.1Hz ~ 10Hz の1/f ノイズ(2) 0.7 µV p-p × 150 21
総合未調整誤差 約7 ビット
6294
総合調整後誤差(1 + 2) 約14 ビット
71

条件:Rbridge = 2500Ω、フルスケールは±16.7mV、AV = 150、VOFF = 2.5V、VOUT = 0V~5V

上の表を見れば、支配的な誤差源となるのは、AD8555の入力に現れる静的な誤差であることがわかります。それらの誤差は、センサーのばらつきも含めてトリミングされます。電流ノイズ、ゲインのドリフト、オフセットのドリフトに起因する誤差は最小限に抑えられ、無視できるレベルになります。残る誤差は、ノイズとゲインの非直線性です。これらはトリミングでは除去できません。

ノイズは、センサーからの信号を増幅する精度に影響を及ぼします。そのため、微少な信号を高い分解能で測定するには、ノイズとドリフトの小さいアンプが必要です。AD8555の電圧ノイズ密度フロアは、1kHzにおいて32nV/√Hzです。DC~10Hzのノイズは、ピークtoピークで0.7μVです。

図7の回路において、ブリッジ回路、AD8555、ADCはすべて5Vの電源を使用します。ブリッジ回路のフルスケールの出力スパンは±14.7mV~±18.7mVの間にあり、オフセットは-2mV~2mVになります。ADCのフルスケールの入力範囲は5Vです。これに適合させるには、ゲインを134~170に設定する必要があります。オフセットを2.5Vに設定した場合、-1psi~1psiの圧力の変化に対するアンプの出力範囲は0V~5Vになります。

最初に、ゲインをこのセンサーで求められる最小値である134に設定します。そして、入力が0psiの状態で、アンプの出力が2.5Vになるようにオフセットを調整します。それにより、センサーのヌル・オフセットとアンプの誤差の項が補償されます。続いて、1psiの入力を印加し、アンプの出力電圧が5V - 1LSBになるようにゲインを調整します。出力オフセットはゲインの関数なので、オフセットとゲインの調整は繰り返し行う必要があります。あるいは、出力スパンを測定した後に、必要なゲインを計算してもよいでしょう。オフセットはゲインを設定した後に調整するので、調整は1回で済みます。

まとめ

AD8555は、ゲインと出力オフセットをプログラム可能なゼロドリフトの計装アンプです。この製品には、障害の検出、出力のクランプ、ローパス・フィルタの実装を行えるよう必要な回路が統合されています。それにより、センサーとADCの間のシグナル・コンディショニング回路全体を提供します。つまり、ブリッジ回路をベースとする測定システムの設計を簡素化できるということです。アナログ・デバイセズは、同製品のサンプル、評価用のソフトウェア/ハードウェアを含む評価キットも提供しています。

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参考資料

1Practical Design Techniques for Sensor Signal Conditioning(センサー用シグナル・コンディショニング回路の実用的な設計手法)」より、Walt Kester(編)「Bridge Circuits(ブリッジ回路)」Norwood、MA、Analog Devices、1999年、Section 2

2 Analog Bridge Wizard: A Tool for Design and Product Selection(Analog Bridge Wizard:設計/製品選択ツール)

3 AD8555の製品概要とデータシート

4 ポリシリコン・ヒューズを使用することのメリットの1つは、温度の変化に対して高い信頼性で性能を維持できることです。車載アプリケーションなどでは、このことが重要な要件になります。オフセットとゲインを所望の値に設定できたら、マスタのヒューズを溶断してトリム回路をロックアウトします。それにより、予期せぬ再トリミングが行われることを防止します。

著者

Reza Moghimi

Reza Moghimi

Reza Moghimiは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンノゼ事業所)の高精度シグナル・コンディショニング・グループのアプリケーション・エンジニア・マネージャです。 1984年にサンノゼ州立大学でBSEE、1990年にMBAを取得しました。