現在、多くの業界では、データ集約型のアプリケーションが広く使われるようになっています。その結果、ペイロード・データをより高速かつ効率的にやり取りする方法が強く求められるようになりました。例えば、5Gに対応する通信ネットワークでは、システムのインフラと接続用のコンポーネントにおいて、非常に広い帯域幅が使用されます。また、航空宇宙/防衛の分野では、レーダー・アプリケーションや複雑なデータ解析装置において、より多くの情報をより短時間で処理できるようにすることが求められます。加えて、急速に拡大する帯域幅に対応してテストや解析を実施できるようにするためには、従来よりも高速で高機能な試験装置が必要になります。
このように、データ通信については、常に速度の向上が求められます。そうした状況を受けて、JEDEC(JEDEC Solid State Technology Association)は、JESD204規格の最新版として、JESD204Cを策定しました。JESD204は、データ・コンバータ(A/DコンバータとD/Aコンバータ)とロジック・デバイスの間の高速シリアル・リンクについて定めたものです。2011年にリリースされた同規格のリビジョンB(JESD204B)は、シリアル・リンクのデータ・レートを12.5Gbpsにまで引き上げました。それにより、当時のデータ・コンバータをベースとするアプリケーションの帯域幅の要件を満たすと共に、パワー・サイクル間の確定的遅延(Deterministic Latency)を保証しました。最新のリビジョンであるJESD204Cは、この流れを汲んだものであり、2017年の終盤にリリースされました。マルチギガビットに対応する次世代のデータ処理システムを含めて、データ・コンバータをベースとするアプリケーションで求められる、より高い性能の要件に対応しています。JESD204Cの小委員会は、この新しいリビジョンの策定にあたって、以下のような目標を定めました。
- より広い帯域幅を必要とするアプリケーションをサポートするために、レーンの速度を高める
- ペイロードの供給効率を高める
- リンクの堅牢性を高める
- JESD204Bと比べてより明確な仕様を定めると共に、JESD204Bにあった一部の誤りを修正する。また、JESD204Bとの後方互換性を確保するためのオプションを用意する
JESD204Cの仕様書は、JEDECから入手することができます。
この「JESD204C入門」では、Part 1、Part 2の2回にわたり、同規格について解説します。まず、JESD204Bとの相違点を示すと共に、上記の目標を満たして、よりユーザーフレンドリなインターフェースを実現しつつ、様々な業界で求められる帯域幅を提供するために導入された新機能について説明します。今回のPart 1では、両リビジョンの相違点と新機能について概観します。Part 2では、最も重要な新機能について、より掘り下げて解説する予定です。
JESD204Cでの変更点
JESD204Cの仕様書は、可読性を高めると共に、より明確なものになるよう整理されています。同仕様書は、5つの主要なセクションから成ります。「概要と共通要件(Introduction and Common Requirements)」のセクションには、実装のすべての層に適用される要件が記載されています。物理層、トランスポート層、各データ・リンク層(8b/10b、64b/66b、64b/80b)のセクションには、実装の各層に適用される要件について記述されています。また、規格全体を通して、複数の新しい用語が導入されています。それらのうちのほとんどは、新たな64b/66bと64b/80bのリンク層と、それらのリンク層の新たな同期プロセスに関するものです。トランスポート層は、JESD204Bから変わっていませんが、物理層にはかなりの変更が加えられています。以下では、上記の変更点に加えて、クロックや同期に関する細かい変更点と、新たに追加された前方誤り訂正(FEC:Forward Error Correction)について概観します。
新しい用語
JESD204Cには、複数の新しい用語と構成パラメータが導入されています。それらは、主に64b/66bと64b/80bのリンク層に関連する機能を説明するために用いられます。表1に、最も重要な用語とパラメータの概要をまとめました。各用語については、後ほど詳しく説明します。
用語 | 定義 |
ブロック(Block) | 2ビットの同期ヘッダで始まり、合計66ビットまたは80ビット(BkW)を含む構造 |
ブロック幅 | ブロック内のビット数を表します。 |
コマンド | コマンド・チャンネルに関連します。 |
コマンド・チャンネル(Command Channel) | 同期ヘッダによる追加帯域幅を用いたデータ・ストリーム |
E | 拡張マルチブロック内のマルチブロック数 |
EMB_LOCK | 拡張マルチブロックのアライメントが達成されていることをアサートする状態 |
EoEMB | 拡張マルチブロックの識別子ビットの終端 |
EoMB | マルチブロックの終端シーケンス(00001)。パイロット信号とも呼びます。 |
拡張マルチブロック(Extended Multiblock) | 1つ以上のマルチブロックを含むデータ・セット |
FEC | 前方誤り訂正 |
フィル・ビット(Fill Bit) | 64b/80b符号化モードのブロック・サイズを拡張するために用いられるビット |
LEMC | ローカル拡張マルチブロック・クロック |
マルチブロック(Multiblock) | 32個のブロックを含むデータ・セット |
PCS | 物理符号化副層 |
SH | 同期ヘッダ |
SH_LOCK | 同期ヘッダのアライメントが達成されていることをアサートする状態 |
同期ヘッダ(Sync Header) | すべてのブロックの前に付加することで遷移を保証するための2ビットのデータ |
トランスポート層
JESD204Cのトランスポート層については、JESD204Bから変更は加えられていません。トランスポート層で組み立てられたデータ・フレームは、8オクテットのブロックでリンクを介して送信されます。仕様をより明確なものにするために、このセクションの構成、文章、図には変更が加えられています。
64ビットの符号化方式の性質上、フレームの境界がブロックの境界と一致しないケースがあります(フレームが正確に8オクテットではない場合があります) 。これについての詳細はPart 2で説明します。
データ・リンク層
先述したように、JESD204C規格の主要なセクションのうち2つでは、異なるデータ・リンク層の方式について説明しています。JESD204規格のこれまでのリビジョンでは、8b/10bの符号化方式が採用されていました。その特徴であるSYNC~ピンの使用、K28の特殊文字を使用した同期、レーンのアライメント、誤りの監視などは、後方互換性を得るためのオプションとしてそのまま残されています。しかし、長期的には、ほとんどのアプリケーションにおいて、JESD204Cで追加された新たな64ビットの符号化方式(2つのうちいずれか)が使用されるようになると予想されます。64b/66bは、IEEE 802.3に基づく最も効率的な符号化方式です。符号化と名付けられてはいますが、実際には、(8b/10bのような)符号化は全く行われません。単に、64ビットのペイロード・データにヘッダとして2ビットのデータが追加されるだけです。そのため、スクランブルが必須となります。JESD204Cに対応するレシーバーのCDR(クロック・データ・リカバリ)回路がクロックを確実にリカバリできるように、DCバランスを維持しつつ、十分な遷移密度を確保しなければならないからです。これについては、Part 2で詳しく説明します。また、JESD204Cには64b/80bの符号化方式も追加されています。こちらの方式では、8b/10bと同じクロック比を維持しつつ、FECなどの新機能を使用することが可能です。どちらの64ビット符号化方式も、JESD204Bで用いられている8b/10bの符号化方式とは互換性がありません。
物理層
JESD204Cでは、レーンの速度の上限が32Gbpsに引き上げられました。下限はこれまでのリビジョンと同じく312.5Mbpsのままです。なお、JESD204Bでは、上限は12.5Gbpsでした。厳密に禁止されているわけではありませんが、16Gbpsを超えるレーン速度で8b/10bの符号化方式を使用することは推奨されていません。また、6Gbps以下のレーン速度で64bの2つの符号化方式を使用することも推奨されません。
JESD204Cには、物理インターフェースの特性を定義する2種類のクラスが導入されています。表2に、各クラスのレーン速度を示しました。表3は、クラスCのチャンネル・タイプと、それぞれのエンファシス特性/イコライゼーション特性を示したものです。
データ・インターフェース・クラス | 最小データ・レート〔Gbps〕 | 最大データ・レート〔Gbps〕 |
B-3 | 0.3125 | 3.125 |
B-6 | 0.3125 | 6.375 |
B-12 | 6.375 | 12.5 |
C | 6.375 | 32 |
クラス | 相対的な電力 | トランスミッタのFFE(最小) | レシーバーのCTLE(最小) | レシーバーのDFEタップ数(最小) |
C-S | 低 | 9.5 dB | 6 dB | 0 |
C-M | 中 | 9.5 dB | 9 dB | 3 |
C-R | 高 | 9.5 dB | 12 dB | 14 |
JESD204Cには、JCOM(JESD204 Channel Operating Margin) という概念が導入されています。これは、クラスCの物理層の規格に準拠しているかどうかを確認するために用いられます。動作マージンの計算は、クラスBの物理層の実装に適用されるアイ・マスクを補完する役割を果たします。クラスBの物理層の実装については、JESD204Cと旧リビジョンに記載されています。
クロックと同期
JESD204Cでは、JESD204Bで定義されていたとおりにSYSREFとデバイス・クロックを使用します。但し、64ビットの符号化方式を使用する場合には、LMFCをアライメントする代わりに、SYSREFを使用してローカル拡張マルチブロック・クロック(LEMC)をアライメントし、確定的遅延とマルチチップ間の同期のメカニズムを提供します。
64ビットの符号化方式における同期プロセスは、JESD204Bで使用されているものとは全く異なります。SYNC信号は廃止されており、同期用の初期化とエラーの報告は、アプリケーション層のソフトウェアで処理されます。したがって、コード・グループ同期(CGS)や初期レーン・アライメント・シーケンス(ILAS)は存在しません。JESD204Cでは、同期プロセスについて説明するために、同期ヘッダ(Sync Header)の同期、拡張マルチブロック(Extended Multiblock)の同期、拡張マルチブロックのアライメントという新しい用語が用いられます。これらの各同期フェーズは、32ビットの同期ワードを用いて実現されます。これについては、Part 2で詳しく説明します。
なお、8b/10bの符号化方式を使用できるようにするために、SYNCピンとILASは残されています。
確定的遅延とマルチチップ間の同期
上述したように、確定的遅延とマルチチップ間の同期を達成するためのメカニズムは、JESD204Bのメカニズムとほとんど同じです。64ビットの符号化方式を使用する場合、サブクラス2のオプションは存在しません。サブクラス1の処理のみがサポートされ、SYSREFを用いて、JESD204サブシステムのすべてのデバイスにわたり、LEMCのアライメントが行われます。
FEC
より高いレーン速度でより堅牢なリンクを提供するという目標を達成するために、JESD204Cには、FECのオプションが用意されています。このアルゴリズムは、ファイア符号に基づいており、計測用途に対して特に有効である可能性があります。FECは、64ビットの符号化方式を使用している場合のみ利用可能なオプションの機能です。
ファイア符号は、シングルバーストの誤りを訂正するための巡回符号です。巡回符号の利点は、有限体上でそのコードワードをベクトルではなく多項式で表現できることにあります。ファイア符号では、より高速に復号できるように2つに分割できるシンドロームを使用します。
より詳細な情報
Part 2では、JESD204C規格の主要な要素について、もう少し掘り下げて説明する予定です。具体的には、64b/66bの符号化方式による帯域幅の効率改善と、帯域幅を拡大する32Gbpsの物理層の仕様について解説します。新しい同期プロセスと、リンクの堅牢性を向上させるFECのオプションについても詳しく説明します。
JESD204と、アナログ・デバイセズの製品におけるその実装については、「JESD204とは――データ・コンバータのシリアル・インターフェース標準規格JESD204」のページを参照してください。