家庭用電化製品は、標準的なクロック・バッファリング・アプリケーションに比べると周波数が低く、要求がそれほど厳しくない傾向があるため、通常のクロック・バッファの代わりに安価な高速オペアンプ(~ 100MHz帯域幅)を使用できます。高速アンプは通常のクロック・バッファより安価ですが、広範囲にわたる設計に対処できます。
ADA4850(ADA4850-1/ADA4850-2)、ADA4851(ADA4851-1/ADA4851-2/ADA4851-4)、ADA4853(ADA4853-1/ADA4853-2/ADA4853-3)、およびAD8061単電源オペアンプは、低価格のクロック・バッファのすぐれた選択肢です。これらのアンプは、いずれも低電源電圧、低電源電流、電源条件の厳しいアプリケーション用のパワーダウン・モード、およびレールtoレール出力を特長とするため、広いダイナミック・レンジを可能にします。
通常のクロック・バッファと比較したオペアンプのメリットの一つは柔軟性です。オペアンプを使用すれば、クロック・パルスのバッファリング、増幅、オフセット、反転、加算、減算、フィルタリングが可能です。オペアンプによって、高い入力インピーダンス、低い入力バイアス電流、低い電源電流、独立したパワー・ダウン(複数のアンプをシングル・パッケージに収めた場合)、低い出力インピーダンス、低い伝搬遅延が実現します。
クロック・バッファ・アプリケーションでオペアンプを使用する時、設計者はいくつかの動作制約を認識して遵守する必要があります。例えば、電圧帰還型アンプでは、ゲイン帯域幅積を指定します。アンプ回路のクローズド・ループ・ゲインが増加するにつれて、その帯域幅は減少します。したがって、大きなゲインは小さな帯域幅を意味します。それぞれが低ゲインの複数のアンプをカスケード接続すれば、アンプは高い帯域幅で動作して信号パスの全体的なゲインと帯域幅を確保できます。
ポータブル電子機器には単電源動作が重要です。定義上、単電源オペアンプの入力同相電圧範囲は負側レール(グラウンド)を含みます。通常、グラウンドを200mV下回ることができます。しかしこれは、出力がグラウンドより低くスイングできることを意味するわけではありません。代表的なレールtoレール・アンプの出力段では、共通エミッタ構成を使用します。したがって、出力がレールに最も近づけるのはVce(sat)であり、その範囲は出力負荷に応じて数十ミリボルトから数百ミリボルトです。
幸い、これらのアプリケーションでは、出力はグラウンドまでずっとスイングする必要はないのが普通です。しかし、入力がグラウンドに近づきすぎる(約100 ~ 200mV)と、出力段が飽和して、歪みと長い回復時間をもたらすことがあります。DC結合システムでは、信号のローレベルを200mVより上に保持するか、−200mVの負電源電圧を使用します。いずれの方法でも出力段の飽和を防止できます。
アンプではヘッドルーム(正側レールのどれだけ近くまでスイングできるか)も指定するため、入力同相電圧範囲のハイサイドにも同様に対処するよう注意が必要です。入力電圧が高くなりすぎた場合は、出力段が歪み遮断されます。必要なヘッドルームは、ADA4850 とADA4851 が2.2V、AD8061 が1.8V、ADA4853 はわずか1.2Vです。
図1は、+2のゲインを持つ、単電源非反転オペアンプのクロック・バッファを示します。設定により、AD8061の上限値は約33MHzです。伝搬遅延は2nsで、一部の専用クロック・バッファに匹敵します。
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アプリケーションによってはAC結合を使用できるため、高帯域幅のアンプを使用して周波数性能を拡張できます。これらのアンプを単電源アプリケーションで使用するには、アンプの入出力を電源中央値にバイアスします。
図3は、AD8057高速アンプを使用する回路図を示します。ユニティ・ゲイン構成にてAD8057は、325MHzの帯域幅と1150V/μsのスルーレートとなります。なお、負荷抵抗により入力信号のDC平均と等しい電圧に戻されます。これによって、出力は再びグラウンドを基準とします。この構成の高い方の動作範囲は約100MHzです。
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図2に示すように、設計でクロック・バッファが必要となる時、高速アンプを使用すれば低価格で高い柔軟性を得ることができます。そのため、多くのアプリケーションでは、高速アンプが通常のクロック・バッファに対抗できます。アプリケーションにもよりますが、単電源アンプでも両電源アンプでも使用できます。