質問:
0.1dBでそんなに大きな違いがでるのでしょうか?
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回答:
A/Dコンバータ(ADC)は明らかにミックスド・シグナル・デバイスですが、主にアナログ回路を専門にしてきた技術者は時にしてADCのデジタル特性を忘れてしまうことがあるようです。アンプの場合、信号の振幅がP1dB仕様を楽々と下回っていれば、出力振幅が1dB増大するごとに3次歪みが約2dBほど増大することはわかっています。出力振幅の増大が0.1dBであれば、3次高調波の増加は0.2dBです。これは無視できる値で、測定するのも困難なほどです。
ところが、ADCの伝達関数はアンプの伝達関数とは大きく異なります。不連続なステップが隣接出力のゲインになるからです。ADCのDNL(微分非直線性)仕様は、これらの誤差の大きさを反映しています。不均一なステップを積分すると、伝達関数はかなり歪んだ形になります。ADCのINL(積分非直線性)仕様は、理想的な伝達関数に対する誤差の大きさを反映しており、ADCの歪みを予測するのに役立ちます。しかし、予測可能なアンプ動作とは違い、INLは入力振幅対歪み成分の変化を予測することはできません。入力振幅が1dB変化するだけで、3次高調波は±5dBも変化することがあります。そのとおり、入力レベルの増大によって、高調波歪みは増大したり減少したりするのです。
ADCとアンプのもう一つの重要な違いは、オーバードライブ時の動作です。アンプのゲインは、入力の増大に伴ってきれいに圧縮されていきます。最終的にアンプの出力は最大レベルに到達し、クリップされます。その結果、大きな奇数次の歪み成分が発生します(クリップされた信号は矩形波のような形状をとり始めますが、そのスペクトル成分は奇数次高調波の合計を含みます)。ADCはそのように優雅な動作をすることはなく、入力電圧が入力範囲を越えるといきなり出力がクリップされます。これによって、歪みに大きな変化が生じます。ADCによっては、入力振幅がフルスケールにかなり近い値でも優れた性能を維持するものもありますが、どのADCも入力が飽和すると性能が急激に低下します。ある設計者が、アナログ・デバイセズのVisualAnalog™ソフトウェアでFFTをモニタしているときに、考えられないような大きな歪みの変化が現れて、私に問い合わせてきました。結局、平均振幅をフルスケールよりわずか0.05dBだけ小さい値に設定していたというだけでした。時間の経過とともに入力が変化し、たとえ0.1dBだけの増大でもクリッピングが生じることがあり、それによって奇数次歪みでは40dBの変化が生じたのです。私は、高品質のゲイン制御ループを実装することをお勧めしました。
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