高速コンバータのPCボード設計について その1:電源プレーンとグラウンド・プレーン

質問:

高速コンバータを使用した PCボードのレイアウトにおいて 気をつけるべき点はありますか?

RAQ:  Issue 63

回答:

設計がデータシートの仕様を満たすようにするためには、いくつかのガイドラインを守る必要があります。まず、「アナログ・グラウンド(AGND)とデジタル・グラウンド(DGND)を分離するべきか?」という言い古された問題があります。手短に答えますと、場合によって異なる、ということになります。

もう少し詳しく説明すると、グラウンド・プレーンを分離しない方が一般的だということです。その理 由は、たいていの場合、グラウンド・プレーンを分離することによるメリットよりもデメリットのほ うが大きいからです。グラウンド・プレーンを別々にすると、リターン電流のインダクタンスが増えてしまうのです。V = L(di/dt) という数式を覚えているでしょうか?インダクタンスが増えると、電圧ノイズも増えます。また、コンバータのサンプリング・レートが高くなるとスイッチング電流が増加しますが、それも電圧ノイズが増える原因になります。したがって、アナログ・グラウンドとデジタル・グラウンドを分離しなくてはならない理由がある場合を除き、両グラウンドを接続しておいたほうがよいということになります。

両グラウンドを分離した方がよい場合の例としては、フォームファクターの制約により、レイアウト のパーティショニングがうまくできないような状況が挙げられます。ノイズの多いバス電源やデジタル回路を、過去の設計に合わせるために特定の場所に配置する必要がある場合などがこれにあたります。そういった場合には、グラウンド・プレーンを分離することで、性能の向上が見込めることがあります。しかし、全体の設計が機能するためには、2つのグラウンドを接続するためのブリッジまたは接続点をPCボード上に設ける必要があります。その際、接続点は、分離されたグラウンド・プレーンに均等に設けてください。接続点を一箇所、PCボードに設けることで、性能を損なわずにリターン電流を流せるようになることがよくあります。その際、接続点はコンバータの近く、もしくは直下に設けるのが一般的です。

電源プレーンをある特定の層に割り当てて設計する際、層内の導体をなるべく潤沢に使うようにし、できるだけ他の回路の配線と並置しないようにしてください。というのは、他のトレースやビアを並存させることで、電源プレーンが細かく分断されてしまうおそれがあるからです。その結果、電源プレーンの配置が分散し、最も重要な箇所、すなわちコンバータの電源供給ピンへの配線が窮屈になってしまうことがあります。ビアやトレースの間を縫って迂回した回路では、抵抗が増し、コンバータの電源供給ピンの電圧がわずかに低下してしまう場合があります。

最後に、電源プレーンの配置の仕方も重要です。ノイズの多いデジタル用プレーンをアナログ用プレーンの上に重ねないようにしてください。それぞれ異なる層に配置していても、カップリングしてしまうことがあるからです。可能であれば、各層でそれぞれの回路を分離させ、重ねないようにすることで、システムの性能劣化のリスクを下げることができます。

「その2」では、高速コンバータにおける電源供給とデカップリングについて解説します。







 

著者

Rob Reeder

Rob Reeder

Rob Reeder は、1998年以降、米国ノースカロライナ州グリーンズボロにあるアナログ・デバイセズの高速コンバータ/RFグループで上級コンバータ・アプリケーション・エンジニアとして働いています。これまでに、さまざまなアプリケーションのためのコンバータ・インターフェイス、コンバータ・テスト、アナログ・シグナル・チェーン・デザインに関する多数の記事を執筆しています。また、航空宇宙および防衛グループのアプリケーション・エンジニアであり、5年間にわたってさまざまなレーダー、EW、および計装アプリケーションに注力していました。これまでには、高速コンバータ製品を9年間担当していました。それ以外にも、アナログ・デバイセズのMultichip Products グループのテスト開発とアナログ設計エンジニアリングも担当していました。そこでは、宇宙、軍事、および高信頼アプリケーションのアナログ信号チェーンモジュールを5年間設計しました。 イリノイ州デカルブの北イリノイ大学で1996年にBSEE(電気工学士)、1998 年にMSEE(電気工学修士)を取得しています。余暇には、音楽のミキシング、美術を楽しむほか、2人の息子とバスケットボールをしたりします。