質問:
高速サンプル・レートを備えたコンバータのオーバーレンジ回復は、どうやって確認すればよいのでしょうか。

回答:
アプリケーション・ノートAN-835「高速A/Dコンバータ(ADC)のテストと評価について」によると、オーバーレンジ回復とは、入力信号の過渡が正側のフルスケールを10%上回ったところから負のフルスケールを10%上回るところまで移動した後、または負のフルスケールを10%下回ったところから正のフルスケールを10%下回るところまで移動した後、ADCが定格精度へ戻るのに要する時間を意味します。
初期の頃の高速ADCでは、正側または負側のどちらかを10%オフセットしたフルスケール・パルスでオーバーレンジ回復をテストしていました。ADCがオーバーレンジから回復するのにいくつのサンプル数が必要かを試験します。数ボルトの標準的なADC入力範囲では、回復するのに数回のクロック・サイクルが必要でした。最新世代のGSPS(ギガ・サンプル/秒を備えた)ADCでは、仕様に定める回復時間は1~2クロック・サイクルなので、パルスを生成して回復時間を測定するのはほぼ不可能です。では、どうすれば回復を確認できるのでしょうか?
アナログ・デバイセズの最新の12ビット2.5GSPS ADCを評価するときに、ADCにストレスを与えて回復を確認する興味深い方法を発見しました。図1aにこのコンセプトを示します。ADCは2.5GSPSのフルレートでサンプリングを行っています。アナログ入力は5.000526210GHzで、コンバータの入力範囲によってクリッピングされます。コンバータのデジタル出力の結果は、526.210kHzの第5ナイキスト領域からのエイリアス周波数で表されます。図1bは、エイリアス信号が範囲内に戻るときのサンプルを拡大したものです。この図には実際のアナログ入力も重ねて示し、最後にクリッピングしたサンプルから範囲内に戻る最初のサンプルに至るまでの間に、アナログ入力が正側の範囲外から負側の範囲外にスイングして、やっと正側の範囲内に戻る様子がわかります。ここで、ADCに内在する熱ノイズに注目する必要があります。コンバータのノイズによって範囲外の信号が数コードで範囲内に戻ることがあるのです。これは私たちが実験室で確認した通りです。ストレスが多い条件下では、このようなADCのオーバーレンジ回復が十分あり得ると思います。
図1. ADCのオーバーレンジ回復