高速アンプを使用した低価格ビデオ多重化

ここ数年、1個のディスプレイ装置に接続するビデオ・ソースの数が着実に増加しており、大部分のビデオ・システムにおいてビデオ信号の切換えが必要になっています。典型的な家庭用娯楽システムの場合、ケーブル/衛星TV放送用のセットトップ・ボックス(STB)またはデジタル・ビデオ・レコーダ(DVR)、VCR、DVDプレーヤ、ビデオ・ゲーム・コンソール、そしてパソコンのすべてが1個のディスプレイ装置を使用します。複数のビデオ・ソースを切り換えて1個のディスプレイに表示する機能は自動車でも使われています。この場合のビデオ・ソースには、車載用娯楽システム(VES)、リアビュー・カメラ、DVDプレーヤ、ナビゲーション・システム、補助ビデオ入力などがあります。

従来のCMOSマルチプレクサやスイッチには、ビデオ周波数の面でいくつか問題点があり、オン抵抗によって歪みが生じ、差動ゲイン/位相性能を劣化させ、終端抵抗とあいまって入力ビデオ信号を減衰させ、輝度に影響を与えます。システム設計者は、この問題を解決するために外部バッファを追加してゲインの増大やドライブ能力の強化を図ることになります。

ビデオ多重化は、ディスエーブル・モード付きの高速ビデオ・アンプによって簡素化できます。アンプをディスエーブルにすると、出力段が高インピーダンス状態になります。これは消費電力を大幅に低減できるパワーダウン・モードと異なり、出力段の状態は固定されません。

高速ビデオ・アンプは必要な特性をすべて備えており、この機能には最適です。高い入力インピーダンスは伝送ラインの特性インピーダンスに影響しないため、遠端での終端が可能となります。本来ビデオ・アンプであるため、差動ゲイン/位相、スルーレート、帯域幅、0.1dB平坦性などの優れたビデオ仕様を備えています。

マルチプレクサ構成では、ディスエーブルにされた複数のチャンネルが1本のアクティブ・チャンネルに対する高インピーダンス負荷になります。ゲイン設定と帰還抵抗でアクティブ・アンプに負荷がかかりますが、その負荷抵抗値は150Ωのビデオ負荷に比べ大きいため、その影響は無視できる程度です。このような重要な特性を持つ高速ビデオ・アンプとしては、AD8013、AD8029、AD8063などがあります。表1は、代表的な多重可能ビデオ・アンプの一覧です。

3:1ビデオ・マルチプレクサ

ADA4853-3は独立したディスエーブル・コントロールを備えているため、低価格の3:1バッファ付き出力ビデオ・マルチプレクサに最適です。その出力インピーダンスは10MHzで2kΩを上回るため、アンプ出力を接続することで優れたスイッチング動作特性と高い絶縁特性を備えた3:1マルチプレクサを実現できます。図1の回路は、5V単電源で動作し、14MHzの帯域幅(0.1dB)、+2のゲイン、58dBのオフチャンネル絶縁(@10MHz)を実現します。10μsのチャンネル間スイッチング時間はCVBSアナログ・ビデオ・アプリケーションに対応しています。

Figure 1
図1. 3:1ビデオ・マルチプレクサ

高性能2:1ビデオ・マルチプレクサ

図2は、高性能2:1マルチプレクサです。出力アンプのゲインを二倍に設定すれば、2個の入力アンプをユニティ・ゲイン・フォロワに構成できます。両段をシャットダウンできるため、このマルチプレクサは優れた入出力オフ絶縁を実現します(図3を参照)。この構成でのスイッチング時間は45μsです。

Figure 2
図2. 2:1ビデオ・マルチプレクサ
Figure 3
図3. ADA4853-3を使用した2:1マルチプレクサのオフ絶縁

SAG補正機能を持つ2:1ビデオ・マルチプレクサ

信号振幅ゲイン(SAG)補正機能を使って、出力カップリング・コンデンサとバック遠端で終端されたケーブルの150Ωビデオ負荷で構成されるハイパス・フィルタに低域補償を行います。従来のACカップリングは、高価で大型のカップリング・コンデンサを使用するため、コストがかさみ、貴重な基板面積が無駄に使われてしまいます。SAG補正を活用すれば、大きなACカップリング・コンデンサ1個の代わりに低価格の2つの小さなコンデンサを使用することができます。図4は、SAG補正機能を備えた高性能2:1マルチプレクサを示しています。補償ネットワークにはC1、C2、R11、R12が含まれています。フィールド傾斜は、定輝度信号を加えたときにACカップリング・コンデンサに発生する電圧ドループ(傾斜)を表しています。このドループは、75Ωの負荷抵抗によって生じるわずかな放電電流に起因します。図中のコンデンサ値は、220μFのACカップリング・コンデンサの等価フィールド傾斜を実現するように最適化されています。代表的な220μFのタンタルACカップリング・コンデンサの占有面積は28mm2、大量購入時の単価は0.50ドルです。SAG補正に使用される代表的な47μFと22μFのコンデンサの占有面積はそれぞれ約0.72mm2と0.4mm2で、大量購入時の単価はわずか0.10ドルです。

Figure 4
図4. SAG補正機能を備えた2:1マルチプレクサ
Figure 5
図5. SAG補正機能を備えた2:1マルチプレクサの周波数応答

結論

個別のディスエーブル・ピンを持つ高速ビデオ・アンプは、コンポジット/高分解能ビデオ用のシンプルな低価格ビデオ・マルチプレクサ/スイッチに最適です。これらはCMOSスイッチに代わる理想的なデバイスであり、ビデオ・マルチプレクサより高い費用効果があります。システムにビデオ・スイッチング機能が必要な場合は、高速ビデオ・アンプをぜひ検討してみてください。

表1. 多重化可能な高速アンプ
製品番号
アンプ数
-3dB帯域幅
(MHz)
0.1 dB平坦性
(MHz)
スルーレート
(V/μs)
出力インピーダンス
(Ω)
パッケージ
AD8021
Single
490 13 110 2K @ 10MHz
SOIC, MSOP
AD8027
Single
190 12 100 5K @ 10MHz
SOIC, SOT 23
AD8029
Single 120 6 55 2K @ 10MHz
SOT 23, SOIC
AD8063
Single
320 30 650 3.2K @ 10MHz
SOT 23
AD8099
Single
440 33 715 1.5K @ 10MHz
SOIC, LFCSP
ADA4853-1
Single
100 22 120 40K @ 10MHz
SC70
ADA4899-1
Single
535 25 185 1.7K @ 10MHz
SOIC, LFCSP
ADA4853-2
Dual 100 22 120 40K @ 10MHz
LFCSP
AD813
Triple 50 20 100 1.5K @ 10MHz
SOIC
AD8003
Triple 1050 83 2860 1K @ 10MHz
LFCSP
AD8013
Triple 125 50 400 2K @ 10MHz
SOIC
AD8023
Triple 125 7 1200 0.6K @ 10MHz
SOIC, SC70
ADA4853-3
Triple 100 22 120 2K @ 10MHz
LFCSP,TS

著者

Don Nisbett

Don Nisbett

Don Nisbettは、高速シグナル・コンディショニング・グループのマーケティング・エンジニアです。現在の職位に就く以前は、製品エンジニアリング、アプリケーション・エンジニアリングをそれぞれ担当しました。ウースター・ポリテクニック・インスティテュートで電気工学の理学士号を取得。同校を卒業後、2002年からアナログ・デバイセズに勤務しています。