iCouplerベースの絶縁通信ソリューションで、太陽光発電/蓄電に不可欠な監視機能を実現

現在、多くの国/地域では、新たな政策や規制の相乗効果によって再生可能エネルギーの活用が進んでいます。中でも、太陽光発電(PV: Photovoltaics)は大きな成長が見込まれている分野です。太陽光発電用のインバータの電力密度が向上していること、また、蓄電におけるバランス調整が求められることから、太陽光発電システムでは、あらゆる要素をきめ細かく監視する必要があります。また、太陽光発電のアプリケーションで使われる通信技術としては、本質的にノイズに対して高い耐性を備えることから、多くの場合、RS-485が選択されます。その種の太陽光発電システムで活用をお勧めしたいのが、iCoupler®技術によって絶縁を実現する RS-485対応トランシーバーです。これを利用すれば、太陽光発電システムのネットワーク通信インターフェースに、安全性と信頼性が高く、EMC(電磁両立性)性能に優れたソリューションを適用することができます。

RS-485には様々な用途があります。中でも、発電システム、電力点追従装置、エネルギーの貯蔵(バッテリへの蓄電)状態の遠隔監視は主要な用途だと言えます。

太陽光発電のアプリケーションには、通信機能が不可欠です。システムにおける発電、消費、蓄電の状態をユーザーに通知しなければならないからです。太陽光発電のアプリケーションでは、電気料金の管理、電力の自家消費、最大需要電力の低減、バックアップ電源など、1つのシステムに様々な機能が実装される可能性があります。特に米国でよく使われるのがバックアップ電源の機能です。テキサス州やフロリダ州では、ハリケーンによる大規模な災害に見舞われることがあるからです。

表 1. 家庭で蓄電を行う目的
家庭で蓄電を行う目的 定義
時間帯別の電気料金の管理 時間帯によって異なる電気料金が課される場合に、電力需要がピークの時間帯に購入する電力量を最小限に抑えます。電気料金を抑えることを目的とします。
電力の自家消費 ビハインド・ザ・メーターの太陽光発電システムにより、外部からの電力の購入量を最小限に抑えます。電気料金が高い地域における太陽光発電システムの経済的な効果が最大限に高まります。
最大需要電力の低減 電力会社が最大需要電力を基に料金を計算する場合、顧客は実際の消費量に見合わないレベルで課金されてしまう可能性があります。蓄電を行うことにより、そのようなコストを削減することができます。
バックアップ電源 送電網の停止時や夜に電力を使用できるように、予め蓄電装置に充電しておくというものです。バックアップを主目的とするケースが比較的多いと言えます。ピーク時の電気料金が安い地域や、固定価格買取制度で定められている買取価格が低い場合に適用されます。

図1は、太陽光発電による発電量、蓄電量、家庭内での消費量を示したものです。標準的な1日の間に、それぞれがどのように変化するのかを把握することができます。この図には、太陽光発電システムに電気料金の管理機能が組み込まれる最大の理由が現れています。太陽光パネルに日光が当たらず、電気料金が最も低い夜間には、送電網からの電力を購入して消費します。朝日が昇り、太陽光パネルに日光が当たるようになると、太陽光発電が始まります。生成された電力は、即座に家庭で消費されるか、自家消費の概念に即して蓄電装置への充電に使用されます。固定価格買取制度で定められている電力会社の買取価格が安い場合には、このようにして送電網から供給される電力の消費量を減らし、太陽光発電の電力をなるべく使用するようにします。そうすれば、電気料金を抑えることができます。

図1. 太陽光発電による発電量、蓄電量、家庭内消費量 。標準的な1日の間にそれぞれが変化する様子を示しています。
図1. 太陽光発電による発電量、蓄電量、家庭内消費量 。標準的な1日の間にそれぞれが変化する様子を示しています。

RS-485は、データの更新情報をPCの画面に表示するために用いられます。同規格を使用して、現在の電力量、最大電力点追従装置の消費電流、バッテリの充電状態、CO2の削減量などのデータが表示されます(図2)。

図 2 . 太陽光発電システムの監視画面に表示されるデータの例
図 2 . 太陽光発電システムの監視画面に表示されるデータの例

図3に示したのは、太陽光発電システムの構成例です。各入力に対応するDCストリング、DC/AC変換、充電/ 蓄電、バッテリ管理、通信の各ブロックで構成されています。アナログ・デバイセズは、太陽光を利用した発電/蓄電アプリケーション向けに、電源、通信、制御インターフェースを備える完全なシグナル・チェーンのソリューションを提供しています。iCouplerをベースとする絶縁型のゲート・ドライバ「ADuM4135」、「ADuM4223」、「ADuM3223」、iCoupler をベースとする絶縁型の通信ポート(トランシーバー)「ADM2795E」、「ADM2867E」、「ADM3054」、ミックスド・シグナル・プロセッサ「ADSP-CM40x」などを提供しています。

図 3. ストレージを備える太陽光発電システムのブロック図
図3 . ストレージを備える太陽光発電システムのブロック図

iCoupler をベースとする RS-485 対応トランシーバーがもたらすメリット

iCouplerは、太陽光発電システムのネットワーク通信インターフェースに、安全性と信頼性が高く、EMC性能に優れる絶縁ソリューションを適用可能にする技術です。

太陽光発電システムのネットワークにおいて、RS-485やCAN(Controller Area Network)に対応する通信インターフェースには、電気的にノイズの多い環境に敷設された長いケーブルが使用されることがほとんどです。RS-485は差動型のデータ伝送規格であり、基本的に高いノイズ耐性を備えています。iCouplerによる絶縁を適用することにより、ノイズ耐性を更に高めることができます。

  • iCouplerファミリーのデジタル絶縁製品は、UL、CSA、 VDE、TÜV、CQC、ATEX、IECExといった様々な規制機関からの認証を受けています。規制機関によるテストの結果、電気的な面で過酷な環境で生じ得る電圧トランジェントやサージの下でも、太陽光発電システムの安全性が確保されると認定されているということです。
  • 太陽光発電システムの通信インターフェースにおけるデータ・レートは、一般に500kbps未満であり、さほど高くありません。そのため、RS-485による通信の動作範囲に対して理想的です。イーサネットなどは、10Mbps、100Mbps、1Gbpsといった固定のデータ・レートで動作します。これでは、アプリケーションの要件に対して明らかにオーバースペックになってしまいます。
  • iCouplerを利用すれば、優れたEMC性能が得られることは実証されています。そのため、現場での故障を抑制することができます。EMC性能の高さは、インターフェース回路の設計時間やテスト時間の短縮につながります。結果として、太陽光発電システムを市場に投入するまでの時間を短縮することが可能になります。

ドロップイン式のiCouplerソリューション、既存の太陽光発電システムに適用可能

既存の太陽光発電用インバータにおいて、通信ポートに、iCouplerによる高い絶縁性を持たせるにはどうすればよいでしょうか。そのようなケースでは、iCouplerを適用したRS-485対応リピータが強力なドロップイン・ソリューションとなります。信号/電源を絶縁するコンパクトなRS-485対応リピータは、直射日光の当たる過酷な環境において、EMCに影響を及ぼす電気的ノイズに対して信頼性の高い絶縁保護性能を発揮します。

 図4 . i Couplerにより信号/電源を絶縁するRS-485対応リピータ
図4 . i Couplerにより信号/電源を絶縁するRS-485対応リピータ

iCoupler ベースのRS-485 対応リピータは、2 個のRS-485対応トランシーバーと2個の高速コンパレータ「ADCMP600」を使用して構成します。ADM2867Eは、信号/ 電源を絶縁するデータ用トランシーバーです。±15kVに対応可能なESD保護機能を備えた製品であり、マルチポイントの伝送線上の高速通信に適しています。絶縁型のDC/DC電源を内蔵しているので、外付けのDC/DC絶縁ブロックは必要ありません。RS-485対応リピータには、RS-485に対応するバスにおける通信方向の制御に不可欠なフロー制御機能が必要です。この例では、ADCMP600を使用することにより、ADM2867Eのロジック・ピン上で高速なフロー制御と方向制御を実現します。その結果、通信システムの信頼性を高めることができます。詳細な設計ガイドラインについては、AN-1458( 自動方向制御機能付き絶縁型RS-485リピータ)を参照してください。

iCouplerで信号を絶縁するRS-485対応製品、優れたEMC性能を発揮

一般に、EMC性能に優れる通信インターフェースを設計するには、設計とテストを繰り返す必要があります。顧客から提示される要件に加え、システム・レベルのEMC規格も満たすように回路を設計しなければなりません。産業用オートメーションを対象としたIEC 61131-2など、システム・レベルのIEC規格では、ESD、EFT(Electrical Fast Transient) 、サージに対する各保護レベルの他、放射、伝導、磁気干渉に対する耐性について規定しています。

iCouplerによって信号を絶縁するRS-485対応製品は、そうした規格の認定レベルを上回るEMC保護性能を提供します。そのため、厳しい規制目標を満たすように設計しなければならない製品でも、より早く市場に投入することができます。

特に、RS-485対応トランシーバーであるADM2795Eは、優れた絶縁性能とEMC保護性能を兼ね備えています。そのため、太陽光発電システムのプリント回路基板において、通信ポートのインターフェースの実装面積を大幅に削減することができます。

ADM2795Eは、信号の絶縁性能として5kV rmsに対応します。RS-485に対応するバスのピンに、±42V(AC/DC)のピーク・バス過電圧障害保護機能を適用することができます。iCouplerを利用した3チャンネルのアイソレータ、RS-485対応トランシーバー、IEC EMC規格に対応するトランジェント保護機能が1つのパッケージに統合されています。

ADM2795Eに適用されているiCoupler 技術は、VDE0884-10、UL 1577、CSAの各規格に適合します。また、CQCの規格についても申請中です。

  • 動作電圧: 849VPEAK(600V rms)の強化絶縁に対応。VDE 0884-10の認証を取得済みです。
  • 耐電圧: 5000V rmsに対応。UL 1577の認証を取得済みです。

ADM2795E は、システム・レベルの複数の EMC テストによって堅牢性の高さが確認されています。その結果については、EMC に関するコンプライアンス・テスト施設によって認定されています(ご要望に応じて認定書を提示することが可能です)。

  • IEC 61000-4-5(サージ)
  • IEC 61000-4-4(EFT)
  • IEC 61000-4-2(ESD)
  • IEC 61000-4-6(RF伝導耐性)
  • IEC 61000-4-3(RF放射耐性)
  • IEC 61000-4-8(磁気耐性)
図5. i Couplerをベースとする絶縁型 RS-485対応トランシーバー。AとBのバス・ピンは、IEC 61000-4-5に適合するサージ耐性を備えています。
図5. i Couplerをベースとする絶縁型 RS-485対応トランシーバー。AとBのバス・ピンは、IEC 61000-4-5に適合するサージ耐性を備えています。

まとめ

アナログ・デバイセズは、太陽光を利用する発電/蓄電アプリケーション向けに完全なシグナル・チェーンを提供しています。通信機能や制御インターフェースは、iCoupler をベースとする絶縁型ゲート・ドライバ( ADuM4135、ADuM4223、ADuM3223など) 、iCouplerをベースとする絶縁型トランシーバー(ADM2795E、ADM2867Eなど)、ミックスド・シグナル・プロセッサ(ADSP-CM419) によって構成されます。iCoupler製品を利用すれば、太陽光発電システムのネットワーク通信インターフェース向けに、安全性と信頼性が高く、EMC性能に優れるソリューションを構築することができます。

アナログ・デバイセズのインターフェース製品や絶縁製品のポートフォリオには、RS-485に対応するインターフェースの絶縁向けに複数の選択肢が用意されています。ADM2795Eは、システム・レベルのEMCに対応する完全なソリューションです。IEC61000で規定されているサージ、EFT、ESDの各保護レベルを満たしています。加えて、太陽光発電システムが運用される過酷な環境で生じる放射、伝導、磁気干渉に対しても高い耐性を発揮します。ADM2795Eは、厳しい規格を満たすように設計しなければならない製品の早期市場投入を可能にします。

ADM2867Eなど、信号と電源を絶縁するRS-485対応トランシーバーは、市場に提供されている中では、現時点で最も集積度の高いソリューションです。ADM2867Eを使用してRS-485対応リピータを設計することにより、既に設計が完了済みのシステムに、iCouplerによる堅牢な絶縁性能を追加することができます。

著者

Richard Anslow

Richard Anslow

Richard Anslowは、アナログ・デバイセズのシニア・マネージャです。産業用オートメーション・ビジネス・ユニットでソフトウェア・システム設計エンジニアリングの分野を担当。専門は状態基準保全、モータ制御、産業用通信を対象とする設計技術です。アイルランドのリムリック大学で工学分野の学士号と修士号を取得。パデュー大学でAIと機械学習を対象とした大学院の課程も修了しています。

Martin Murnane

Martin Murnane

Martin Murnane は、アナログ・デバイセズで産業分野や計測分野向けの太陽光発電システムを担当する技術者です。エネルギーや太陽光発電のアプリケーションが専門です。アナログ・デバイセズに入社する前は、エネルギー・リサイクル・システム向けのパワー・エレクトロニクスの開発(Schaffner Systems)、Windows ベースのアプリケーション・ソフトウェア/データベースの開発(Dell Computers)、ストレイン・ゲージ技術を使用した HW/FW 製品の開発(BMS)などの業務に従事していました。リムリック大学で電子工学の学士号と経営管理学修士号を取得しています。