ドライバとMOSFETをモノリシックに統合するDrMOS技術、電源設計に多大な効果をもたらす

概要

DrMOSは、ドライバとMOSFETを1つに統合したデバイスです。本稿では、その種の製品が電圧レギュレータ・モジュール(VRM:Voltage Regulator Module)のアプリケーションにもたらすメリットについて解説します。モノリシック型のDrMOSを使用すれば、電源システムの電力密度、効率、熱性能を大幅に向上させることができます。このことは、最終アプリケーションの性能を全般的に高めることにつながります。

はじめに

技術の進化に伴い、マイクロプロセッサではマルチコアのアーキテクチャが採用されるようになりました。その結果、より高密度でより高速な製品が実現されるようになりました。その一方で、そうしたマイクロプロセッサで消費される電力量は劇的に増加しました。そのような多くの電力の供給を担うのが電圧レギュレータ・モジュール(VRM:Voltage Regulator Module)です。

電圧レギュレータ・モジュールの分野では、2つの主要なパラメータに注目することで開発が推進されています。1つは、電圧レギュレータの電力密度(単位体積あたりの供給電力)です。限られた空間/体積によって、電力に関するシステムの厳しい要件を満たすためには、電力密度を大きく高める必要があります。もう1つの重要なパラメータは、電力変換の効率です。マイクロプロセッサでは、電力損失を抑えることによって発熱の問題が生じないようにすることが求められます。

技術的な課題は絶えず高度化しており、電源に関連する業界は、その結果としてもたらされる要件を満たすための方法を追求し続けています。そのようにして考えだされたソリューションの1つが、DrMOSです。DrMOSは、電圧レギュレータの主要な構成要素である高度なパワーMOSFETと、それに対応するドライバを統合したものです。それらを1個のダイに集積するだけでなく、高度なパッケージング技術を適用することによって、コンパクトで高効率な電力変換を可能にします。DrMOSを採用したパワー段では、高速かつ最適化された電力変換が実現されます。

DrMOSで構成したパワー段は、スマート・パワー段として知られています。それらに対する需要が着実に高まる一方で、電力生成向けのスイッチング技術は進化を続けてきました。そうした状況を受け、アナログ・デバイセズはDrMOSをベースとするスマート・パワー・モジュールを独自に開発しました。その結果、「LTC705xシリーズ」というDrMOS製品を提供するに至りました。これらの製品には、特許を取得済みのSilent Switcher® 2アーキテクチャが適用されています。また、ブートストラップ回路も内蔵しています。それらにより、DrMOSモジュールの非常に高速なスイッチングを可能にしつつ、電力損失とスイッチング・ノードにおける電圧のオーバーシュートを抑えて高い性能を実現することに成功しました。また、過熱保護(OTP)、入力過電圧保護(VIN OVP)、低電圧ロックアウト(UVLO)保護など、安全性を確保するための機能も搭載しています。

SilentMOSに対応するスマート・パワー段

LTC7051」は、LTC705xシリーズの製品の1つです。このモノリシック型のスマート・パワー・モジュールは、140Aの出力電流に対応可能です。基本構成として、高速なドライバと高い性能指数(FOM:Figure of Merit)を備える2つのパワーMOSFETが統合されています。それだけでなく、包括的な監視回路/保護回路も内蔵しており、電気的にも熱的にも最適化された1つのパッケージに収容されています。このスマート・パワー段は、適切なPWM(Pulse Width Modulation)コントローラ(DC/DCコントローラ)と組み合わせて使用します

そうすれば、業界で最も高い効率、最も高いノイズ性能、最も高い密度での電力変換を実現できます。そのような組み合わせによって、効率と過渡応答に関する最新の手法が適用された大電流対応の電圧レギュレータ・モジュールが構成されるということです。図1に、LTC7051を使用して構成した標準的なアプリケーション回路図を示しました。この回路では、LTC7051と降圧型のDC/DCコントローラ「LTC3861」を組み合わせています。LTC3861は高精度の電流分担機能を備えており、マルチフェーズのデュアル出力を提供します。これらのICは、降圧コンバータを構成する主要なスイッチング回路として機能します。

図1. デュアルフェーズのPOL(Point of Load)コンバータ
図1. デュアルフェーズのPOL(Point of Load)コンバータ

DrMOSの評価用ハードウェア

筆者らは、LTC7051の主な特徴を実証することを目的とし、LTC7051と競合他社の製品の性能を比較するための評価用ボードを開発しました。このデモ用のプラットフォームを使用すれば、DrMOSデバイスであるLTC7051と競合製品を公平かつ正確に比較することができます。比較の対象とするのは、効率、電力損失、テレメトリの精度、熱性能、電気的性能などの重要なパラメータです。このような比較を実施する目的は、結果の正当性に関するすべての疑念を取り払うことにあります。つまり、メーカーに関係なく、最高水準のDrMOSの性能を明らかにすることを目的として、このようなプラットフォームを用意しました。

このプラットフォーム(評価用ボード)では、以下のような特徴を備えるハードウェアを使用しています。

  • DC/DC コントローラは、広範な入出力電圧とスイッチング周波数に対応して動作します。具体的な製品としては、電圧モードで動作する降圧型の DC/DC コントローラ「LTC7883」を使用しました(図 2)。この製品には PolyPhase® という電流分担技術が適用されており、クワッド出力に対応します。
  • パワー段については、LTC7051 と競合製品のどちらにも同一の設計を適用しました。
  • パワー・システム・マネージメント環境としてはLTpowerPlay® を採用しました。LTC7883 が提供するシステム性能の値を包括的なテレメトリ機能によって取得できます。
  • LTC7051 と競合製品の両方の規定動作温度範囲に対応しており、広範な周囲温度に耐えられます。
  • 設計した評価用ボードでは、熱の値を簡単にキャプチャして測定できるようになっています。
図2. 評価用ボードのブロック図
図2. 評価用ボードのブロック図

この評価用ボードの外観を図3に示しました。このボードは、上記の主要な特徴を実現できるように慎重に設計されています。各電源レールに対して対称的かつ体系的にコンポーネントを配置し、各DrMOSデバイスに関連するプリント回路基板のサイズ/面積が同一になるようにしています。それにより、電源レールの間に相違が生じないようにしています。レイアウトの配線とレイヤの積層についても、対称性が得られるように配慮しました。

図3. 評価用ボードの外観。左は上面、右は背面です。プリント基板の寸法は203mm×152mm×1.67mm、銅箔の厚さは2オンスとしました。
図3. 評価用ボードの外観。左は上面、右は背面です。プリント基板の寸法は203mm×152mm×1.67mm、銅箔の厚さは2オンスとしました。

評価手法とソフトウェア

偏りのないデータと結果を得るためには、評価用ボードと同様に評価用の環境と手法も重要です。そこで、図4に示すGUI(Graphical User Interface)を備えた評価用ソフトウェアも開発しました。その目的は、よりユーザ・フレンドリーな形でテストとデータ収集を行えるようにすることです。このソフトウェアを使用すれば、入出力のパラメータを指定するだけで自動的にテストが実行されます。具体的には、DC電源、電子負荷、多重化されたデータ・アクイジション・システム(DAQ)など、対応するテスト/測定用の装置がソフトウェアによって自動的に制御されます。その結果として、ボード上で温度、電流、電圧の測定が実行され、得られた値がGUI上にプロットされます。ボード上のデバイスからの重要なテレメトリ・データは、ソフトウェアによりPMBus/I2Cを介して収集されます。それらすべての情報は、システムの効率と電力損失を比較する上で重要な役割を果たします。

図4. 評価用ソフトウェアの画面。構成と熱解析用のタブが表示されています。
図4. 評価用ソフトウェアの画面。構成と熱解析用のタブが表示されています。

テストの条件と測定結果

上述した評価用ボードを使用したテストは、以下の条件で実施しました。

  • 入力電圧:12V
  • 出力電圧:1V
  • 出力負荷:0A ~ 60A
  • スイッチング周波数:500kHz、1MHz

ここからは、テストの結果として、定常状態の性能の測定値、機能的な性能を表す波形、温度の測定値、出力ノイズの測定値を順に示していきます。

効率と電力損失

図5に、効率と電力損失の測定結果を示しました。ご覧のように、500kHzのスイッチング周波数において、LTC7051の効率は競合製品をやや上回っている(0.70%高い)ことがわかります。周波数を500kHzから1MHzに変更した場合も、LTC7051は競合製品を上回る(0.95%高い)効率を示します。

図5. 効率と電力損失。スイッチング周波数がそれぞれ500kHzと1MHzの場合の結果です。出力電圧は1V、負荷電流は0A~60Aです。
図5. 効率と電力損失。スイッチング周波数がそれぞれ500kHzと1MHzの場合の結果です。出力電圧は1V、負荷電流は0A~60Aです。

効率

続いて、効率について詳しく見てみます。注目すべき点は、負荷電流(出力電流)とスイッチング周波数が高い場合には、LTC7051が競合製品よりも高い効率を示していることです。これは、特許取得済みの技術であるSilent Switcherによって得られるメリットです。トータルの電力損失は、スイッチング・エッジのレートの高速化とデッドタイムの短縮によって低減されています。それにより、全体的な効率に深刻な影響を及ぼすことなく、より小さなソリューション・サイズで、より高いスイッチング周波数を選択することが可能になっています。トータルの電力損失を抑えられれば、より低い温度での動作が得られ、より多くの電流を出力ができます。つまり、電力密度が大幅に高まります。

熱性能

LTC7051は効率が高く、電力損失が少ないということは、熱性能も優れているということを意味します。図6に示すように、LTC7051は競合製品と比べて動作時の温度が低く抑えられています。両者の間には、約3°C~10°Cの差があることがわかります。LTC7051の方が熱性能が優れている理由としては、適切に設計された熱強化型のパッケージを採用していることが挙げられます。

図6. 熱性能。スイッチング周波数がそれぞれ500kHzと1MHzの場合の結果です。出力電圧は1V、負荷電流は0A~60Aです。
図6. 熱性能。スイッチング周波数がそれぞれ500kHzと1MHzの場合の結果です。出力電圧は1V、負荷電流は0A~60Aです。

周囲温度を25°Cから80°Cに上げた場合にも、やはりLTC7051の温度は競合製品と比べて低くなります。両者の温度差は約15°Cに広がりました。

スイッチング・ノードの状態

続いて図7をご覧ください。これを見ると、LTC7051のドレイン‐ソース間電圧VDSのピーク値は、競合他社の製品と比較して低いことがわかります。また、負荷電流を60Aに増やした場合、競合製品のVDSは発振期間が長くなると共に、高いピーク値を示しています。一方、LTC7051ではスパイクが小さく、発振が抑えられています。このような結果が得られるのは、LTC705xシリーズがSilent Switcher 2 のアーキテクチャとブートストラップ・コンデンサを採用しているからです。それらの効果によって、スイッチング・ノードのオーバーシュートが小さく抑えられます。結果として、EMI(電磁干渉)と放射性/伝導性ノイズが減少します。また、スイッチング・ノードが過電圧のストレスにさらされにくくなるため、信頼性が高まります。

図7. スイッチング(SW)ノードにおける電圧波形。出力電圧は1V、負荷電流はそれぞれ0Aと60Aです。
図7. スイッチング(SW)ノードにおける電圧波形。出力電圧は1V、負荷電流はそれぞれ0Aと60Aです。

出力リップル性能

図8は、両デバイスの出力電圧リップルを示したものです。LTC7051のノイズは、競合製品と比較して小さく抑えられていることがわかります。その理由は、VDSのスパイクが小さく、スイッチング・ノードの発振が最小限に抑えられているからです。この効果もSilent Switcher技術によってもたらされます。スイッチング・ノードのスパイクが生成されなければ、出力に伝導ノイズは現れません。

図8. 出力リップルの波形。出力電力は1V、負荷電流はそれぞれ0Aと60Aです。
図8. 出力リップルの波形。出力電力は1V、負荷電流はそれぞれ0Aと60Aです。

更に、図9をご覧ください。これはLTC7051と競合製品において、出力ノイズがスペクトル上でどのように拡散しているのかを示したものです。ご覧のように、LTC7051は競合製品と比べて高い性能を発揮しています。スイッチング周波数において生成されるノイズは、競合製品と比べて低く抑えられています。ノイズの大きさには、約1mV rmsの差が生じています。

図9. 出力ノイズ・スペクトルの比較。出力電圧は1V、負荷電流は60A、スイッチング周波数は1MHzです。
図9. 出力ノイズ・スペクトルの比較。出力電圧は1V、負荷電流は60A、スイッチング周波数は1MHzです。

まとめ

筆者らは、DrMOSであるLTC7051と競合製品の公平な比較を行うために評価用のプラットフォームを開発しました。LTC7051は、熱強化型の単一パッケージにMOSFETとドライバを集積したダイを収容した製品です。また、同製品はSilentMOSのアーキテクチャとブートストラップ・コンデンサを採用しています。そのため、特に高いスイッチング周波数で動作する場合に、格段に優れた電力変換効率と熱性能を示します。また、スイッチング・ノードに現れ、出力にも伝搬するリンギングとスパイクのエネルギーが低く抑えられます。実際のアプリケーションでは、出力負荷に対して高い精度が求められることがあります。その一部は、公称のDC値として設定されるでしょう。しかし、スイッチング方式のDC/DCコンバータでは、大きなスパイク・エネルギーとリップルが出力にも現れます。それらに起因するノイズは、許容可能なノイズ量の大部分を占めます。例えば、消費電力の多いデータ・センターにLTC7051を採用すれば、かなりのエネルギーとコストを削減することができます。また、フィルタの設計とコンポーネントの配置を適切に行いつつ、熱管理の必要性を低減し、EMIを大幅に削減できるという追加のメリットが得られます。EMIについては、最終的にはほぼ影響がない状態を実現することも可能でしょう。消費電力が多いシステム向けに電圧レギュレータ・モジュールを適切に設計し、アプリケーションのニーズに応えるためには、LTC7051のようなDrMOSデバイスが必須だと言えます。

著者

Christian Cruz

Christian Cruz

Christian Cruzは、アナログ・デバイセズ(フィリピン)のプロダクト・アプリケーション・スタッフ・エンジニアです。2020年に入社しました。現在は、コンスーマ/クラウド・ベース・インフラストラクチャ事業部門やシステム通信アプリケーション向けのパワー・マネージメント・ソリューションを担当。14年間にわたり、パワー・マネージメント・ソリューションの開発、AC/DC電力変換、DC/DC電力変換などを含むパワー・エレクトロニクスの設計や電源制御用ファームウェアの設計に携わってきました。ザ・イースト大学(フィリピン マニラ)で電子工学の学士号を取得しています。

Joseph Viernes

Joseph Viernes

Joseph Rommel Viernes は、アナログ・デバイセズ(フィリピン)のパワー・アプリケーション・スタッフ・エンジニアです。2018年に入社しました。Emerson Network Power、Phihong Technology、Power Integrationsなどでの経験を含め、17年以上にわたって電源の設計業務に従事。産業分野や通信分野で使われるパワー・システム・アプリケーションに強い関心を持っています。フィリピン マニラのデ・ラ・サール大学で電子工学の学士号を取得しています。

Kareem Atout

Kareem Atout

Kareem Atout は、アナログ・デバイセズのシニア・システム・エンジニアです。デジタル/アナログ両分野の設計に精通する技術者として通信インフラを担当しています。子供の頃から、電子機器をいじったり、ステレオを自作したりするなど、次はいつ停電を起こすかと常に両親をヒヤヒヤさせていました。電子工学の分野のクリエイティブな発見を愛する気持ちは、25年間にわたる電気技術者としての素晴らしいキャリアにつながっています。これからも、その陽気かつ専門家的な気質と優れた設計を有線の通信システムやパワー・システムに適用することで、技術の障壁を打ち破り半導体業界に活力をもたらし続けたいと考えています。

Gary Sapia

Gary Sapia

Gary Sapiaは、アナログ・デバイセズのシステム・アプリケーション・ディレクタです。28年以上にわたり、通信の市場やGPSの市場に向けた電力変換ソリューション、高周波ソリューションなど、アナログ・システムの設計/開発に携わってきました。以前は、Linear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)で18年間にわたりフィールド・アプリケーション・エンジニアとして業務に従事。Cisco Systemsをはじめとするベイ・エリアの大手ネットワーク企業を担当していました。テキサスA&M大学でパワー・エレクトロニクスとRFシステム設計に関する先端技術コースを履修。工学学士号を取得しました。

Marvin Neil Cabueñas

Marvin Neil Cabueñas

Marvin Neil Solis Cabueñasは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・システム設計エンジニアです。パワー事業部門で様々なプロジェクトを担当。組み込みシステムのプログラミング、デジタル信号処理、シミュレーション用のモデリングなど、様々な分野における10年以上の経験を有しています。2021年に入社する前は、Azeus Systems Philippinesにシステム・エンジニアとして勤務。2014~2017年にはTechnistock, Philippinesでネットワーク・エンジニア、2017~2020年にはNokia Technology Center Philippinesで研究開発エンジニアとして業務に携わっていました。フィリピン マニラのデ・ラ・サール大学で電子工学の学士号を取得。現在は、フィリピン大学で電気工学の修士号の取得を目指しています。