車載用の双方向DC/DCコントローラ、12V/12Vのデュアルバッテリによる冗長構成に対応

背景

自動運転車という革命的な製品の実用化に向けて、これまでにないレベルのスピードで技術開発が進められています。自動車メーカーは、現在注目を集めているベンチャー企業だけでなく、GoogleやUber Technologiesといった大手技術企業とも提携するようになりました。それにより、一般道や高速道路に変化をもたらすと共に、将来のスマート・シティの枠組みの構成要素である次世代の自動運転車を迅速に開発しようとしているのです。そのための手段として、マシン・ラーニング(機械学習)やIoT(Internet of Things)、クラウド・コンピューティングといった最先端の技術も活用しようとしています。

より重要なのは、UberやLyftらが既に提供している民間の相乗りサービスと自動運転車により、産業界の再構築が進むと予想されることです。そうした動きに関連する一部の企業が集結し、インテリジェントで無人の自動車が重要な輸送手段になる新たな世界が創造されようとしています。

最終的に、すべての自動運転車は、センサー、カメラ、レーダー、高性能のGPS、Lidar(Light Detection and Ranging)、人工知能(AI)、マシン・ラーニングなどを組み合わせて、あるレベルの自律性を備えることになります。そうした組み合わせにおいては、セキュアで拡張性のあるIoT、データ管理、クラウド・ソリューションとのコネクティビティも重要な要素になります。それらの技術は、センサーからのデータの収集/管理/解析に向けて、回復力があり性能の高い基盤を提供することになるからです。

コネクテッド・カーが増加すれば、環境面から安全性まで、広い範囲にわたって社会的な好影響が及びます。また、ガソリン車の台数が減少すれば、温室効果ガスの排出量が削減されます。つまり、エネルギー消費量の削減と大気の質的改善につながります。

エンドポイントのテレメトリ、スマートなソフトウェア、クラウド・コンピューティングは、自動運転車やスマート・ロードウェイ・システムを実現するための重要な手段です。自動運転車に搭載されたカメラやセンサーは、膨大な量のデータを収集します。それらのデータは、自動車が目的地に向かう際、自動車が正しい車線を走行するよう維持しつつ、安全に走行するためにリアルタイムで処理されなければなりません。

コネクティビティとクラウド・ベースのネットワーキングも、自動運転車とスマート・ロードウェイ・システムの組み合わせにおいて、重要な要素となります。自動運転車には、マシン間の通信をサポートするシステムが実装されるようになります。それにより、天候の変化や迂回路の存在、道路上の障害物といった状況の変化を把握して調整するために、道路上の他の自動車から情報を得て学習することができます。自動運転車が迅速かつ自動的に、変化するシナリオに適応できるようにするためには、高度なアルゴリズムとディープ・ラーニング・システムが必要になります。

クラウド・コンピューティングのインフラやインテリジェントなデータ管理の拡張性といった特定の要素の他に、電源などのミッション・クリティカルなシステムの冗長化も求められています。アナログ・デバイセズの昇降圧コントローラIC「LTC3871」は、48Vのリチウムイオン電池と12Vの鉛蓄電池のように、電圧定格が異なる2つのバッテリを対象として動作します。この製品に限らず、冗長構成のバッテリに対応するソリューションは、少し前から提供されていました。しかし、そうした既存のソリューションのほとんどは、12Vと12V、24Vと24V、48Vと48Vといった、同じバッテリ電圧の冗長化には対応していませんでした。

12Vのデュアルバッテリの間に配置できる双方向の昇降圧DC/DCコンバータに対しては、明らかなニーズがあります。1つのDC/DCコントローラICにより、一方のバッテリを充電したり、両方のバッテリが同じ負荷に対して電流を供給できるようにしたりするということです。また、一方のバッテリが故障した場合には、故障を検出すると共に、もう一方のバッテリから切り離す必要があります。それにより、もう一方のバッテリが途絶えることなく、負荷に電力を供給し続けられるようにするのです。アナログ・デバイセズは、双方向のDC/DCコントローラIC「LT8708」を最近リリースしました。同ICによって、電圧が等しい2つのバッテリを制御することにより、上記の重要な機能を実現することができます。

単一の双方向ICソリューション

LT8708は、98%の効率を達成する双方向の昇降圧スイッチング・コントローラICです。電圧が等しい2つのバッテリを対象として動作することが可能なので、自動運転車におけるバッテリの冗長化に最適です。出力電圧より高い、低い、または等しい入力電圧で動作するため、電気自動車やハイブリッド車でよく見られる12Vと12V、24Vと24V、48Vと48Vといったデュアルバッテリに対応できます。LT8708を使用すれば、2つのバッテリのうち1つが故障した場合でも、システムがシャットダウンすることを防ぐことができます。また、48Vと12V、48Vと24Vといった組み合わせのデュアルバッテリ・システムで使用することも可能です。

LT8708は1つのインダクタを使用し、2.8V~80Vの入力電圧を基に1.3V~80Vの出力電圧を生成します。外付け部品の選択と出力の位相の数に応じて、最大数kWの電力を供給することが可能です。順方向と逆方向の両方で出力電圧VOUTと入力電圧VIN、あるいは出力電流IOUTと入力電流IINのレギュレーションを必要とするバッテリ/キャパシタ用のバックアップ・システムに適用すれば、双方向の電力変換を簡素化することができます。6つの独立したレギュレーション形式に対応しているため、多様なアプリケーションで使用できます。

LT8708と並列に「LT8708-1」を接続することにより、出力電力と位相の数を追加することができます。LT8708-1は、常にマスタであるLT8708のスレーブとして動作します。その際には、位相の異なるクロックで動作させることが可能です。また、マスタと同じ量の電力を供給する能力を備えています。1つのマスタに対して最大12のスレーブを接続可能であり、システムの電力/電流の供給能力はスレーブの数に比例して増加します。

順方向と逆方向の電流は、コンバータの入力側と出力側で監視/制限することができます。4種の電流制限(順方向の入力、逆方向の入力、順方向の出力、逆方向の出力)は、いずれも4つの抵抗を使って個別に設定可能です。方向の制御に使用するDIRピンと組み合わせることで、VINからVOUT、またはVOUTからVINの方向で電力を処理するように構成することができます。そのため、車載システムや、太陽光発電システム、通信システム、バッテリ駆動のシステムに非常に適しています。

LT8708のパッケージは、5mm×8mmの40ピンQFNです。3種の温度グレード品が提供されており、拡張/産業用グレード品の動作温度範囲は-40°C~125°C、高温対応の車載グレード品の動作温度範囲は- 40°C~150°Cです。図1にLT8708のアプリケーション回路例を簡略化して示しました。

図1 . 12V のデュアルバッテリに対応する双方向アプリケーションの回路例。LT8708によって簡素化が図れています。
図1 . 12V のデュアルバッテリに対応する双方向アプリケーションの回路例。LT8708によって簡素化が図れています。

完全なソリューション

図2にLT8708を使用したソリューション全体のブロック図を示しました。車載アプリケーションにおいてデュアルバッテリによる冗長化を実現するために必要な製品をすべて示しています。LT8708を2個のLT8708-1と共に動作させることで、いずれの方向にも最大60Aを供給できる3相のソリューションを構成しています。大電力を要するアプリケーション向けには、LT8708-1を追加することで、最大12相の出力を実現できます。「AD8417」は、双方向に対応する電流検出アンプです。同ICにより、バッテリに流出/流入する電流を検出します。それらの電流があらかじめ設定しておいた値を超えると、ハイサイドのNMOS用スタティック・スイッチ・ドライバ「LTC7001」が、バックtoバック接続したMOSFETをオフに制御し、回路から一方のバッテリを切り離します。.

図2 . デュアルバッテリ向けの完全なソリューション。冗長構成が実現されています。
図2 . デュアルバッテリ向けの完全なソリューション。冗長構成が実現されています。

LTC6810-2」は、リチウムイオン・バッテリの監視/制御を担います。このICは、バッテリ・セルの電圧を1.8mV未満の測定誤差で正確に測定します。複数のLTC6810-2をホスト・プロセッサと並列に接続すれば、冗長構成における複数のバッテリ電圧を監視することが可能になります。同ICは、高速でRFの影響を受けない長距離通信用にisoSPIを採用しています。また、双方向の動作にも対応しています。加えて、各セルに対し、PWM( パルス幅変調)のデューティ・サイクルを制御するパッシブ・バランス機能や、冗長化したセルの電圧を測定する機能も備えています。

制御の概要

LT8708は、入力電圧より高い、低い、または等しい出力電圧を供給します。また、入力と出力の両方について、双方向の電流の監視機能とレギュレーション機能を備えています。アナログ・デバイセズ独自の制御アーキテクチャでは、昇圧、降圧、または昇降圧の動作領域において、インダクタを流れる電流を検出するための抵抗を使用します。インダクタを流れる電流は、6つの内部エラー・アンプEA1~EA6の出力を結合した結果としてVCピンに現れる電圧で制御します。表1に示すように、各エラー・アンプは、各電圧/電流を制限するかレギュレーションするために使用できます。

表1.エラー・アンプ(EA1~EA6)
アンプ名 ピン名 定義
EA1 IMON_INN 負のIIN
EA2 IMON_ON 負のIOUT
EA3 FBIN VIN の電圧
EA4 FBOUT VOUTの電圧
EA5 IMON_INP 正のIIN
EA6 IMON_OP 正のIOUT

通常、VCピンの電圧は、最小~ 最大の範囲が約1.2Vです。VCの電圧が最大になるのは、インダクタに正の最大電流を流すべきときです。その結果、LT8708は、VINからVOUTに向けて最大の電力が供給されるよう動作します。VCの電圧が最小になるのは、インダクタに負の最大電流を流すべきときです。その結果、LT8708は、VOUTからVINに向けて最大の電力が供給されるように動作します。

VOUTのレギュレーション動作としては、次のような例が挙げられます。まず、FBOUTピンがVOUTの電圧を帰還信号として受け取ります。その帰還電圧と内部のリファレンス電圧を、EA4によって比較します。VOUTが低いとVCの電圧が上昇するので、更に多くの電流がVOUTに流れます。逆に、VOUTが高いとVCの電圧が低下するため、VOUTに流れる電流は減少します。あるいはVOUTから電流(電力)が流れ出ることもあります。

先述したように、LT8708は、入力と出力の両方で双方向の電流レギュレーション機能を提供します。VOUTの電流は、順方向と逆方向(それぞれEA6とEA2)でレギュレーションまたは制限することができます。VINの電流も、順方向と逆方向(それぞれEA5とEA1)でレギュレーションまたは制限することが可能です。

一般的なアプリケーションでは、VOUTはEA4を使ってレギュレーションされます。他のエラー・アンプは入力または出力の過電流や、入力の低電圧状態を監視します。バッテリのバックアップ・システムのようなアプリケーションでは、VOUTに接続されたバッテリが、定電流(EA6)によって最大電圧(EA4)まで充電されることがあります。また、VINのレギュレーションや最大電流を制限するために、別のエラー・アンプを使って電力を逆に供給することも可能です。この機能についての詳細は、LT8708のデータシートをご覧ください。

まとめ

LT8708は、同じ電圧のデュアルバッテリに対応する車載DC/DCコンバータ・システムに、新たなレベルの性能、制御性、簡素化をもたらします。冗長化を実現するために2つの電力源の間でエネルギー変換を行うために使ったり、ミッション・クリティカルなアプリケーションでバックアップ電源用に使用したりすることもできます。いずれの用途でも、LT8708を同じ電圧の2つのバッテリ/スーパーキャパシタによって動作させることができます。このような機能により、車載エレクトロニクスの進化に向けて新たな道が開かれます。車載システムを担当する技術者は、より安全でより効率的な自動車の実現に向けて注力することが可能になります。

著者

Bruce Haug

Bruce Haug

Bruce Haugは、1980年にサンノゼ州立大学で電気工学の学士号を取得しました。2006年4月に、製品マーケティング・エンジニアとしてLinear Technology(現アナログ・デバイセズ)に入社しました。Cherokee International、Digital Power、Ford Aerospaceなどでの勤務経験があります。私生活では、スポーツに熱心に取り組んでいます。