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閉じるスマートホスピタル技術によるICUの改善、患者と医療従事者に安全性/快適性をもたらす
ICU(集中治療室)に運ばれる患者は、最も重篤な状態に陥っています。つまり、救命治療の適用が必須の状態にあるということです。したがって、ICUでミスが発生すると、人命に関わる深刻な結果を招く可能性があります。そのような大きな代償が伴うのにもかかわらず、ICUでミスが発生するケースは少なくありません。その背景には、手作業をベースとするワークフロー、人員の不足、医療従事者に課せられる過大な仕事量などがあります。このように、現在のICUは大きな課題を抱えています。その状況に変革をもたらすのがスマートホスピタル技術です。同技術を活用すれば、回避が可能なミスを減らし、患者に対するケアを改善することが可能になります。
アナログ・デバイセズは、ICUで使われる最先端のスマートホスピタル技術の実現に貢献しています。デジタル技術を活用すれば、効率の向上とミスの削減を図れることは間違いありません。患者に良好な転帰がもたらされる可能性が高まることも、既に明らかになっています。単にスケジュールを最適化してワークフローを改善するといった形でも、患者に対する直接的なケアを自動化するといった形でも、デジタル技術はICUに革新をもたらします。
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「半導体業界全体にとって、ヘルスケアの分野は様々な意味で機会を活かせていない領域だと言えます。診断を進め、解釈し、結論を出すまでのプロセスに、デジタル化を更に行き渡らせなければなりません。ヘルスケア分野はまさに爆発的な成長が見込まれる時期を迎えているのです。」ヴィンス・ロシュ
アナログ・デバイセズ 最高経営責任者(CEO)
ICUにおけるミスの蔓延
患者の転帰には、一見小さなミスが原因で大きな悪影響が及ぶことがあります。そうしたミスの例としては、誤診、治療/処置の手順の見落とし、投薬の過誤、適切なタイミングでの治療の開始/中止の失敗、単純な連絡ミスなどが挙げられます1。ある研究結果1から、「所得の多い国であっても、患者の10人に1人は治療中に悪影響を受けている」ことがわかっています。その研究では、「病院の支出のうち15%は、治療中のミスや入院中に患者が新たな感染症に罹患したことに起因して生じている」ことも判明しています1。
スマートホスピタル技術を活用すれば、勤勉な医師や看護師がそのようなミスをより容易に回避できるようになります。作業を完全に、または部分的にデジタル化することができれば、看護師が患者を直接ケアするための時間を増やす機会が生まれます。
ICUにおけるミスの根源
医療では、単に症状を管理するだけでなく、病気の根本原因を治療しなくてはなりません。ICUにおけるミスを解決する場合にも同じことが言えます。ミスの“治療法”を導き出すためには、まずICUでのミスはどのような場合にどのような原因で発生するのかを理解しなければなりません。そうすれば、ミスを低減/撲滅するためにデジタル・トランスフォーメーションの活用を図る際、最大の効果を得ることができるでしょう。
時代遅れのワークフロー
多くの病院では、未だに手作業をベースとするプロセスを採用しています。言うまでもなく、手作業はミスの原因になったり、効率に悪影響を及ぼしたりする可能性があります。医療従事者は、次のシフト担当者に対する引き継ぎ書類を用意するためだけに、勤務時間の最後の1~2時間を費やすこともあるといいます3。電子健康記録(EHR:Electronic Health Records)などの技術を導入している施設でも、相互運用性の問題に直面しているケースがよくあります。
人員の配置に関する課題
膨大な量の仕事、技能不足の広がり、頻繁に起きる業務の中断などが原因で、医療環境はミスの温床になってしまう可能性があります。実際、看護師の場合、1時間に10回も業務が中断されることがあるといいます。患者がテレビのリモコンを手渡してくれることを望むなど、医療とは無関係なナース・コールが頻発するからです3。多くの医療従事者は極度の疲労に悩まされています。ICU担当の看護師の約1/3が入職後3年以内に辞職しているのも当然のことと言えます3。世界保健機関(WHO:World Health Organization)は、「医療従事者の人手不足は2030年までに世界で1000万人の規模に達する」と予測しています4。
治療の複雑さの増大
ICUで治療を受けている患者の中には、多臓器不全を含む複雑な病気や怪我から回復中の人がいるはずです。慢性疾患などの合併症が起きている患者もいれば、単に身体の老化によって重篤な状態に陥っている患者も含まれているかもしれません。そうした患者の状態は、様々なデータを取得することで把握します。平均的な患者であっても、取得されるデータはかつてないほど爆発的に増加しているのが現状です5。スマートホスピタル技術を活用すれば、医療従事者は患者のデータを収集/管理/分析し、適切なタイミングで適切な人と共有できるようになります。
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ICUを変革するスマートホスピタル技術
医療従事者の介入を必要としない患者への直接的なケアを自動化できるとしたら、どのような変化が生まれるでしょう。例えば、収集したばかりのデータに基づいて薬が投与されたり、薬の種類や量が自動的に変更されたりするということです。スマートホスピタル技術であれば、そのような状況を実現できます。実際、適応型の人工呼吸を自動化するといったことが可能になっています。これは、既に具現化されたクローズド・ループ療法の1つです6。
重要なのは、高度なセンシングとインテリジェントなエッジの活用を進め、医療向けの技術を進化させることです。それにより、より正確な診断を支援することが可能になります。その結果、一刻一秒を争うことの多い環境において、意思決定をより迅速かつスマートに行えるようになります。以下、そうした変革を可能にするスマートホスピタル技術の例を紹介します。
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高度なセンシング
高度なセンシングを活用すれば、患者の状態に関する総合的な知見をリアルタイムに取得することができます。それにより、重要な変化を早期に把握するのが容易になります。また、非侵襲的なモニタリングに基づいて患者の不快感を軽減することも可能です。高度なセンシングの活用例としては、光学式/非接触型/パッチ・ベースのVSM(Vital Sign Monitoring)機能が挙げられます。また、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ベースの超小型モーション・センサーによって可動性や睡眠に関する知見を得るシステムも提供されています。更には、皮膚の状態を電子的に評価するツールを活用することで、ICUでよく起きる褥瘡を発見する手法なども実現されています7。
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AI
AIは、高度なバイオセンシング機能と、それらが生成するデータを注意深く見守るパートナーとして働きます。そのようなシステムを構築することにより、継続的にデータを解析して早期に問題を把握する能力を強化することができます。AIは、特にパターン認識の機能において強みを発揮します。そのため、スマートな臨床的判断や診断に大いに役立ちます。それだけでなく、新たに発生した公衆衛生上の問題について、その動向に関する警告を発するための強力なツールともなります。
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高精度のモーション・システム
高精度のモーション・システムを活用すれば、直接的なケアのプロセスを自動化/最適化する機会が得られます。繰り返し作業を自動化すれば、医療従事者は患者に対して質の高いケアを提供することに集中できるようになります。
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コネクテッド・プラットフォーム/エコシステムのソリューション
この種のソリューションを利用すれば、バイタル・サインのデータを異なるデバイスの間や異なる場所の間でセキュアかつリアルタイムに送信できるようになります。そうすれば、医療従事者が必要とする情報を提供し、適切なタイミングで適切な治療が行われる可能性が高まります。最適な治療を提供するためには、施設全体、理想的には医療従事者のネットワーク全体で統合の度合いと相互運用性を最大限に高めるべきです。
ICUのデジタル化 - ケアに従事する方に力を、患者に安全性と快適さを
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ICUで行われるケアのデジタル化を図れば、医療はより適切かつ効率的なものになります。患者が明らかな兆候を示す前に、医師が病状の悪化に対応することができれば、患者にとっての安全性と快適さが高まります。そのような予測型の医療を実現することで、コストをより低く抑えつつ、患者に悪影響が及ばない形で慢性疾患の管理などを行えるようになります。最新の技術を活用することにより、医師と患者が接する時間を最大限に増やしたり、ミスを最小限に抑えたりすることが可能になります。言い換えれば、患者の良好な転帰を支援できるということです。
アナログ・デバイセズは、スマートホスピタル技術を通じて医師や看護師を支援する役割を果たせることを誇りに思っています。当社は、お客様との共創の下で、VSM機能、バイオセンサー、AIを利用した診断機能、非侵襲的な光学的手法、スマートな病院用ベッドなどに用いられる革新的なヘルスケア技術を開発しています。それによりICUの変革が後押しされ、よりスマートで、より質が高く、効率的なヘルスケアの未来がもたらされるはずです。
参考資料
1 「Transforming acute care through digitization(デジタル化による救急医療の変革)」Philips、2019年
2 Kristin E. Schwabほか「Rapid Mortality Review in the Intensive Care Unit: An In-Person, Multidisciplinary Improvement Initiative(ICUで起きた急死に関するレビュー - その改善に向けた対面かつ分野横断的な取り組み)」アメリカ国立医学図書館(NLM:United States National Library of Medicine)、2021年
3 「Honeywell’s Robert Robinson on healthcare digitalisation(HoneywellのRobert Robinson氏が語る医療のデジタル化)」Healthcare Digital Magazine、2023年
4 「Health workforce(医療従事者)」世界保健機関(WHO:World Health Organization)、2023年10月にアクセス
5 「Health Data Volumes Skyrocket, Legacy Data Archives On the Rise(医療に関するデータの量が激増、レガシーなデータのアーカイブが増える)」Harmony Healthcare IT
6 「The dawn of physiological closed-loop ventilation - a review.(生理学的なクローズド・ループの人工呼吸の幕開け - レビュー)」BMC、2020年3月29日
7 「Effectiveness of interventions to prevent pressure injury in adults admitted to intensive care settings: A systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials(集中治療環境に入院している成人の褥瘡には予防介入が有効 - 無作為化比較試験の系統的なレビューとメタ分析)」アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)、2021年
8 「The elephant in the room: cybersecurity in healthcare(部屋の中の象 - ヘルスケア分野のサイバーセキュリティ)」アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)、2023年
9 「Critical Success Factors and Traceability Technologies for Establishing a Safe Pharmaceutical Supply Chain(医薬品の安全なサプライ・チェーンを確立するための重要な要因とトレーサビリティ技術)」アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)、2021年