高精度のテスト/計測システムに最適なバイポーラ電源ソリューション

2019年07月01日
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高精度のテスト/計測システムを実現するには、分解能の高いデータ・コンバータ(A/Dコンバータ、D/Aコンバータ)を含むシグナル・チェーンの性能を十分に引き出せるようにしなければなりません。そのためには、スイッチングに伴うリップルや放射性ノイズを抑えた電源ソリューションが必要になります。また、そうしたテスト/計測アプリケーションでは、バイポーラ型や絶縁型のシステム電源が求められるケースがあります。その場合、基板の面積、リップル、EMI(電磁干渉)、効率といった面で、様々な課題に直面することになります。データ・アクイジション・システムやデジタル・マルチメータには、分解能が高いA/Dコンバータ(ADC)を含むシグナル・チェーンが必要になります。それらのコンポーネントが、スイッチング電源からのスプリアスやリップルに妨げられることなく性能を発揮できるようにしなければなりません。そのためには、ノイズの少ない電源が必要です。一方、ソース・メジャー・ユニット(SMU)やDCソース/電源では、分解能が高いD/Aコンバータ(DAC)を含むシグナル・チェーンを使用します。この部分についても、スプリアスや出力リップルを最小化しなければならないという、似たような要件があります。並列テストが普及するに従い、高精度なテスト/計測装置においては、チャンネル数が増加する傾向が見られるようになりました。電気的な絶縁が必要なアプリケーションでそうしたマルチチャンネルの装置を使用する場合、各チャンネルどうしを絶縁しなければなりません。その場合には、各チャンネルに対して個別に電力を供給する必要があります。このような状況にあることから、性能を維持しつつ、より小さいプリント回路基板に実装可能な電源ソリューションが求められるようになりました。ただ、そのようなアプリケーションにおいて、実際に低ノイズの電源ソリューションを実装しようとすると、LDO(低ドロップアウト)レギュレータやフィルタ回路が過剰なまでに使用されるようになります。その結果、プリント回路基板の面積が想定よりも大きくなり、電力効率も低下してしまうことがあります。

例えば、スイッチング電源の出力リップルが1MHzにおいて5mVであるとします。その場合、ADCとそのADCへの給電に使用するLDOレギュレータとのトータルの電源電圧変動除去比(PSRR)は、60dB以上でなければなりません。そうすれば、ADCの出力に影響を及ぼすリップルを5μV以下に抑えられます。これは、分解能が18ビットのADCにおける1LSB未満の値に相当します。

アナログ・デバイセズは、放射性ノイズやリップルを低減しつつ高い効率を達成するμModule®ファミリのデバイスやコンポーネントを提供しています。例えば、Silent Switcher®(サイレント・スイッチャ)技術を適用したスイッチング・レギュレータやPSRRの高いLDOレギュレータなどの製品です。これらの製品を高いレベルで統合した電源ソリューションを利用すれば、上述した課題を容易に解決することができます。

SMUや電源といった高精度のテスト/計測装置には、多象限での動作が求められます。そうした装置を、正負両方の信号を印加する測定に使用したいからです。つまり、1つの正の入力電圧を基に、ノイズを抑えて高い効率を維持しながら、正負両方の電源電圧を生成できるバイポーラ電源システムが求められるということです。図1に示したのが、1つの正の入力電圧からバイポーラ電源を生成するための回路例です。これらの回路では、まずスイッチング・レギュレータによって、それぞれ±15V、±5Vの出力電圧を生成します。続いて、それらの出力電圧を、正負電圧に対応するLDOレギュレータで受け取ります。それにより、リップルを除去/低減しつつ、5V、3.3V、1.8Vといった出力電圧を得ます。これらの出力電圧を、シグナル・コンディショニング回路やADC/DACの電源レールとして使用するのです。

図1. 電源リップルを抑えた非絶縁型バイポーラ電源システム(±15Vと±5V)向けの電源ソリューション

図1. 電源リップルを抑えた非絶縁型バイポーラ電源システム(±15Vと±5V)向けの電源ソリューション

図1の電源ソリューションは、「LTpowerCAD®」を使用して設計しました。LTpowerCADは、電源の設計に必要なあらゆる機能を備えたソフトウェア・ツールです。これを使用することにより、複数の電源ICを組み合わせた電源回路の設計作業を大幅に簡素化することができます。

LTM8049」または「ADP5070/ADP5071」は、1つの正の電圧を入力として受け取り、昇圧機能によって正の電源電圧を生成します。また、それを反転した負の電源電圧も生成できます。LTM8049は、この動作のために必要な部品点数を大幅に削減可能なμModule製品です。入力と出力にコンデンサを追加するだけで使用できるので、部品の選定やスイッチング・レギュレータの基板レイアウトといった設計上の負荷を軽減することが可能です。しかも、最小限の実装面積と部品点数でバイポーラ電源を構成できるのです。負荷電流はさほど必要なく(約100mA未満)、高い効率が求められる場合には、ADP5070/ADP5071の方が適しています。LTM8049と比較すると、ADP5070では、インダクタやダイオードなど、より多くの外付け部品が必要になります。その一方で、電源ソリューションのカスタマイズ性が高まるというメリットが得られます。ADP5070とLTM8049は、いずれもSYNCピンを備えています。それらを使用することにより、スイッチング周波数とADCのクロックの同期をとることができます。その結果、ADCにとって重要なタイミングで内蔵FETがスイッチングしないよう制御することが可能になります。ADP5070/ADP5071は、負荷電流が数百mAの場合の効率が高いので、高精度の装置に適用する電源ICとして理想的です。

LT3032」は、単体で正負の出力電圧に対応可能なLDOレギュレータです。低ノイズで動作電圧範囲が広いことを特徴とします。一方、「LT3023」は1つのパッケージに、正の電圧、広い動作電圧範囲に対応するLDOレギュレータを2個統合した製品です。どちらのLDOレギュレータも、スイッチング・レギュレータの出力から十分にリップルを除去しつつ、最小限のヘッドルーム(約0.5V)で動作して最大限の効率が得られるように設計されています。また、どちらのLDOレギュレータも小さなLFCSPに収められており、実装面積と部品点数を削減できます。MHzのレベルのリップルを更に抑えるために、より高いPSRRを備えるLDOレギュレータが必要な場合には、「LT3094」、「LT3045」などの製品を検討するとよいでしょう。LDO段でどれだけのPSRRが必要になるかは、電源レールから給電されるコンポーネント(ADC、DAC、アンプなど)のPSRRに依存します。一般的には、PSRRが高いLDOレギュレータほど自己消費電流が多く、効率は低くなります。

アナログ・デバイセズは、ADP5070を使用して上記のソリューションを実装した2つのリファレンス・デザイン「CN-0345」と「CN-0385」を提供しています。これらは、分解能がそれぞれ18ビット、20ビットの「AD4003」、「AD4020」といった高精度のADCを使用するマルチチャンネル/高精度のデータ・アクイジション・システムの実装例です。CN-0345では、図1のLDOレギュレータの代わりにLCタンク回路を使用することでADP5070のリップルを除去します。一方のCN-0385では、ADP5070の後段にそれぞれ正と負の電圧に対応するLDOレギュレータ「ADP7118」と「ADP7182」を配置することでリップルを除去します。分解能が20ビットの「AD5791」のような高精度/バイポーラのDACの電源としてADP5070を使用する例については、こちらの評価用ボードのユーザ・ガイドを参照してください。

これらの例は、データ・アクイジションや高精度の電源/ソースなどのアプリケーションにおいて、ADP5070のようなスイッチング・レギュレータを使用してバイポーラ電源を構成し、各コンポーネントの高い性能を引き出すことができるということを実証しています。

絶縁型のバイポーラ電源

安全上の理由から、高精度なテスト/計測装置に絶縁を適用しなければならないケースがあります。その場合、絶縁バリアをまたいで十分な電力効率を達成するという課題が生じます。マルチチャンネルの絶縁型装置においてチャンネル間の絶縁を行うためには、チャンネルごとに電源ソリューションを用意しなければなりません。したがって、高い効率で電力を供給できるコンパクトな電源ソリューションが必要になります。図2に、絶縁電源に対応するバイポーラ電源のソリューションを示しました。

図2. 電源リップルを抑えた絶縁型バイポーラ電源システム向けの電源ソリューション

図2. 電源リップルを抑えた絶縁型バイポーラ電源システム向けの電源ソリューション

ADuM3470」または「LTM8067」を使えば、絶縁バリアをまたいで、5Vの電圧、最大約400mAの電流を高い効率で出力することができます。LTM8067は、トランスなどの部品を統合したμModule製品です。実装面積と部品点数を最小限に抑えつつ、絶縁電源ソリューションの設計とレイアウトの簡素化に貢献します。絶縁性能は最高2kVrmsです。出力リップルを更に抑えたい場合には、「LTM8068」を使用するとよいでしょう。同製品では、出力電流が最大300mAに抑えられます。しかし、出力用LDOレギュレータを備えているため、出力リップルを30mVrmsから20μVrmsまで低減できます。

ADuM3470の製品ファミリは、外付けのトランスを使用して絶縁電源を実現します。また、データの転送やADC/DACの制御に使用するデジタル絶縁チャンネルも備えています。構成方法によっては、図1の電源ソリューションと同等の絶縁電源出力が得られます。図2のように構成すれば、1つの正の電圧を基に、±15Vの電源レールを絶縁側に生成することができます。あるいは、スイッチング・レギュレータ段を追加することなく、ADuM3470によってバイポーラ電源を直接生成することも可能です。これは、効率の低下と引き換えに実装面積を縮小したい場合に適したソリューションになります。ADuM3470は、2.5kVrmsの絶縁性能を備えています。別の製品ファミリである「ADuM4470」を使用すれば、5kVrmsという更に高いレベルの絶縁が可能です。

先ほど紹介したCN-0385は、ADuM3470を使用して図2のソリューションを実装した例でもあります。ADP5070を絶縁側に使用することにより、5.5Vの絶縁電圧から±16Vのバイポーラ電源レールを生成します。このリファレンス・デザインでは、ADuM3470が備えるデジタル絶縁チャンネルが利用されています。ADuM3470を使用した類似のリファレンス・デザインとして、「CN-0393」が挙げられます。こちらは、ADCをベースとするμModule製品「ADAQ7980」、「ADAQ7988」を使って構成したバンク絶縁型のデータ・アクイジション・システムの実装例です。このリファレンス・デザインでは、ADuM3470と共に外付けトランスとショットキー・ダイオードをベースとする全波整流器を使用して、レギュレータ段を追加することなく±16.5Vを直接生成します。この方法であれば、効率の低下と引き換えに実装面積を抑えたソリューションを実現できます。類似のリファレンス・デザインとしては、シグマ・デルタ(ΣΔ)型のADC「AD7176」をベースとする4チャンネルのデータ・アクイジション・システムの実装例である「CN-0292」が挙げられます。もう1つ、同じ絶縁電源ソリューションを適用した16ビットのバイポーラDACシステムの実装例である「CN-0233」も提供しています。

これらの例は、絶縁型のデータ・アクイジション・システムや絶縁型の電源システムにおいて、実装面積を抑え、高い効率を実現しつつ、高い精度を達成できることを示しています。

低ノイズ、高効率な降圧を実現するSilent Switcher

図1の例では、LDOレギュレータを使用して15Vから5V/3.3Vへの降圧を行っています。これは、低い電源電圧を高い効率で生成するための最適な方法だとは言えません。Silent Switcherを適用したμModuleレギュレータ「LTM8074」を使用して、より効率の高い降圧を実現するソリューションを図3に示しました。

図3. EMIを抑えつつ低い電源電圧を得るための降圧ソリューション

図3. EMIを抑えつつ低い電源電圧を得るための降圧ソリューション

LTM8074は、4mm×4mmの小型BGAパッケージを採用した降圧レギュレータです。放射性ノイズを低く抑えつつ、最大1.2Aの電流を出力できます。Silent Switcher技術を適用しているので、スイッチングに伴う電流によって生成される浮遊磁界を打ち消す効果が得られます。そのため、伝導性ノイズと放射性ノイズが低く抑えられます。放射性ノイズが非常に小さく、効率が高いので、ノイズに敏感な高精度のシグナル・チェーンへの給電に適しています。給電の対象となるコンポーネント(ADC、DAC、アンプなど)のPSRRによっては、電源リップルを除去するためのLDOレギュレータを追加することなく、LTM8074から直接給電できるケースもあります。出力電流は最大1.2Aに達するので、必要に応じてFPGAなどのデジタル・ハードウェアへの給電にも使用できます。LTM8074は集積度が高く小型であることから、実装スペースに制約のあるアプリケーションに最適です。また、スイッチング・レギュレータの設計作業とレイアウト作業の簡素化/加速にも貢献します。

基板面積は多少大きくなってもかまわないので、カスタマイズ性を高めたいというケースもあるでしょう。その場合は、Silent Switcherを適用した「LT8609S」などの製品を使用してディスクリート構成で実装する方法も有効です。この製品は、スイッチング周波数におけるリップルのエネルギーを広い周波数帯域に拡散させるスペクトラム拡散モードに対応しています。それにより、電源に起因して高精度のシステムに現れるスプリアスの振幅を抑えられます。

Silent SwitcherとμModuleの高い統合レベルを組み合わせることにより、分解能の高いコンポーネントの性能を損なうことなく、マルチチャンネルのSMUをはじめとする高精度のアプリケーションで求められる実装密度の要件を満たすことが可能になります。

まとめ

高精度のテスト/計測装置に適用可能なバイポーラ電源システムを構築するには、システムの性能、実装面積、電力効率の間で適切にバランスをとる必要があります。本稿では、そうした課題に対応するために、システム設計者が適切にトレードオフを実施できるよう支援する製品/ソリューションを紹介しました。

著者について

Alan Walsh
Alan Walshは、アナログ・デバイセズのシステム・アプリケーション・エンジニアです。1999年に入社し、マサチューセッツ州ウィルミントンの高精度計装グループに在籍しています。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン校を卒業し、電子工学の工学士号を取得しました。

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