目的
この実習の目的は、インピーダンス・マッチングのためのトランス結合アンプ動作をよく理解することです。
背景
昇降圧トランスの基本的な定義は、「ある電圧のACを、そのオリジナル電圧より高い(昇圧)あるいは低い(降圧)別の電圧に変換するデバイス」です。トランスは回路をグラウンドから絶縁するために使用することもでき、その場合は絶縁トランスと呼ばれます。しかし重要なのは、以下で解説する方法でトランスを使用することによって、回路のインピーダンス・マッチングを行い、最大限の電力伝送を実現できるということです。
ここでは図1に示す回路を考えます。この回路はトランス結合されたクラスAのパワー・アンプです。これは通常のアンプ回路に似ていますが、コレクタ負荷でトランスに接続されています。
図1. トランス結合されたクラスAのパワー・アンプ
このセットアップでは、R1とR2が分圧器のバイアスを行い、バイアスを安定させるためにエミッタ抵抗R3を利用します。エミッタ・バイパス・キャパシタC2は、エミッタ回路内の負帰還を防ぐために使われています。
パワー・アンプから負荷に伝送される電力は、アンプの出力インピーダンスと負荷インピーダンスRL(R4)が等しい場合に最大になります。これは最大電力伝送定理によります。アンプから出力デバイスへ最大限の電力を伝送するには、アンプの出力インピーダンスと出力デバイスのインピーダンスのマッチングを行う必要があります。これには、適切な巻線比の降圧トランスを使用します。
したがって、トランスの入力抵抗と出力抵抗の比率はトランス巻線比の2乗に正比例します:
これから、反射インピーダンスを求める式が得られます。
ここで、
➤ nは降圧トランスの1次巻線と2次巻線の比
➤ RLPは1次側の反射インピーダンス
クラスAパワー・アンプの効率はほぼ30%ですが、これは、トランス結合されたクラスAパワー・アンプを使用することによって50%まで改善されます。効率の向上はこの構成の利点の1つですが、トランス結合クラスAパワー・アンプにはその他にも次のような利点があります。
➤ ベース抵抗またはコレクタ抵抗による信号電力の損失がない
➤ 非常に優れたインピーダンス・マッチングを実現できる
➤ ゲインが高い
➤ DC絶縁が可能
図2. トランス結合されたクラスAのパワー・アンプ
しかしこの構成も完璧なものではなく、以下のような欠点があります。
➤ 低周波数信号のゲインが比較的小さい
➤ トランスによってハム・ノイズが生じる
➤ トランスはサイズが大きくコストも高い
➤ 周波数応答が良くない
準備するもの
➤ ソルダーレス・ブレッドボードとジャンパ線キット
➤ NPNトランジスタ(2N3904) × 1
➤ 10kΩ抵抗 × 1
➤ 20kΩ抵抗 × 1
➤ 100Ω抵抗 × 1
➤ 10μFキャパシタ × 1
➤ 1μFキャパシタ × 1
➤ 6巻線トランスHPH1-0190L/1400L × 1
ハードウェア構成
図2を参考にして図1に示す回路を作成します。ADALM2000の+5Vと–5Vで供給される電源を使用してください。
手順
0Vのオフセットで500mV 100Hzのサイン波を生成するように、シグナル・ジェネレータのチャンネル1を設定します。オシロスコープで両方のチャンネルをモニタします。その結果は図3のようなものになるはずです。
図3. トランス結合クラスAパワー・アンプの入力電圧と出力電圧の関係
問題
1. 以上の実習では巻線比1:1のトランスを使用しましたが、ここでトランスの巻線比を2:1に変更するとどうなるでしょうか。
答えはStudentZoneブログで確認できます。