ADALM2000による実習:同調アンプ段の動作—パート2

目的

この実習の目的は、「ADALM2000による実習:同調アンプ段の動作」で開始した同調アンプ段の学習を続けることです。

背景

前の実習で学んだように、2次LCタンク回路は、一般にアンプ段の同調素子として使われます。図1に示すような単純な並列LCタンクは、抵抗負荷を駆動する電流と引き換えに電圧ゲインを生成することができます。エミッタ・フォロアなどのバッファ・アンプは、負荷の駆動に必要な電流(または電力)ゲインを提供します。

図1. 並列共振LCタンク回路

図1. 並列共振LCタンク回路

共振周波数の計算には2つ目のカップリング・コンデンサC2を含める必要があります。図1に示す回路の共振周波数は式1で得られます。

数式 1

実習前のシミュレーション

図1に示すような同調エミッタ・フォロア・アンプのシミュレーション回路図を作成します。エミッタ抵抗RLの値は、NPNトランジスタQ1に流れる電流が約5mAとなるように計算してください。回路に使用する電源は±5V(合計10V)とします。ヒント:Q1のベース位置におけるDC電圧は、L1を通ってグラウンドへと続くDCパスによって設定されます。C1とC2の値は、L1を100μHに設定したときの共振周波数が350kHzに近い値となるように計算します。一般にC1とC2は等しい値を取ります。入力の小信号AC掃引を行って、出力に現れる振幅と位相をプロットします。これらの結果は、実際の回路で収集した測定値と比較して実習レポートに含めるために保存します。

準備するもの

  • ADALM2000アクティブ・ラーニング・モジュール
  • ソルダーレス・ブレッドボードとジャンパ線キット
  • NPNトランジスタ2N3904(1個)
  • インダクタ:100μH(1個)、その他様々な値のインダクタ
  • コンデンサ:1.0nF(2個「、102」とマークされているもの)
  • 抵抗:1kΩ(2個)
  • 抵抗:2.2kΩ(1個)
  • その他必要な抵抗とコンデンサ

説明

ソルダーレス・ブレッドボードを使って図2に示す回路を作成します。L1には100μHのインダクタ、C1とC2には1nFのコンデンサを使用してください。この同調アンプのピーク・ゲインは共振周波数で非常に大きくなる可能性があります。AWG1の出力信号は、抵抗分圧器RSとR1を使ってわずかに減衰させる必要があります。

図2. エミッタ・フォロア同調アンプ

図2. エミッタ・フォロア同調アンプ

青色のボックスは、ADALM2000モジュールのAWG、オシロスコープ・チャンネル、および電源の接続位置を示しています。電源を入れる前に必ず配線をダブル・チェックしてください。.

ハードウェアの設定

+5Vと–5Vの電源をオン/オフするには、電源制御ウィンドウを開きます。Scopyのメイン・ウィンドウからネットワーク・アナライザ機能(ソフトウェア計測器)を起動してください。掃引の開始周波数は10kHz、終了周波数は10MHzに設定します。振幅は200mV、オフセットは0Vに設定してください。ボーデ線図は、振幅上限値を40dB、下限値を–40dBに設定します。位相の上限値は180º、下限値は–180ºとします。オシロスコープはチャンネル1を基準として使用し、ステップ数は500に設定してください。

図3. エミッタ・フォロア同調アンプのブレッドボード回路

図3. エミッタ・フォロア同調アンプのブレッドボード回路

手順

電源をオンにして周波数掃引を1回実行します。周波数を横軸とする振幅と位相のグラフは、シミュレーション結果に近い形になるはずです。350kHz付近でアンプのゲインが最大になることが確認できたら、周波数の掃引範囲を狭めて開始周波数を100kHz、終了周波数を1MHzにすることができます。

図4. エミッタ・フォロア同調アンプのプロット

図4. エミッタ・フォロア同調アンプのプロット

直交出力の同調アンプ

もう1つの従来型エミッタ・フォロア段を非同調並列パスとして追加すると、共振周波数で位相がちょうど90º異なる2出力のアンプが得られます。共振タンクL1、C1と並列に抵抗を追加することによって、共振時のゲインを1(0dB)に抑えることができます。つまり、入力からQ1のエミッタへのゲインが、従来型エミッタ・フォロア段Q2の非同調ゲイン(ユニティ・ゲイン)と同じになります。

追加で準備するもの

  • NPNトランジスタ2N3904(1個)
  • 抵抗:470Ω(2個)
  • 抵抗:1kΩ(1個)

説明

ソルダーレス・ブレッドボードの回路に変更を加えて、図5に示すように2つ目のエミッタ・フォロア段Q2を追加します。回路に変更を加える前に、必ず電源をオフにしてAWGを停止してください。

図5.直交出力のアンプ

図5.直交出力のアンプ

ゲインを1にするために必要なR1の正確な値は、図に示した470Ωとは異なることがあります。様々な値を使って試すことで、Q2のエミッタにおける振幅に合った適切なゲインが得られるようにしてください。

青色のボックスは、ADALM2000モジュールのAWG、オシロスコープ・チャンネル、および電源の接続位置を示しています。電源を入れる前に必ず配線をダブル・チェックしてください。

ハードウェア構成

図6に示すブレッドボード回路を作成します。

図6. 直交出力を備えたアンプのブレッドボード回路

図6. 直交出力を備えたアンプのブレッドボード回路

手順

抵抗R1を追加してゲインを下げたので、ネットワーク・アナライザのAWG振幅は2Vに設定します。電源をオンにして周波数掃引を1回実行します。周波数を横軸とする振幅と位相のグラフは、シミュレーション結果に非常に近い形になるはずです。

図7. 直交出力アンプのプロット

図7. 直交出力アンプのプロット

オシロスコープとファンクション・ジェネレータ・ソフトウェアの測定機能(時間領域)を使い、振幅を2VにしてAWG周波数を共振周波数に設定します。2つの出力の相対的な振幅と位相を観測します。

問題

エミッタ・フォロア同調アンプ回路のアプリケーションと、直交出力回路を備えたアンプのアプリケーションの名前をいくつか挙げてください。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。