質問:
今日のオペアンプのバイアス電流は非常に小さくなっていますが、 気にする必要はありますか?

回答:
アイルランドのリメリック(アナログ・デバイセズの製造施設がある都市)の日曜日のミサでのこと、神父様はずいぶん静かな話しぶりで、ほとんどマイクにささやくように「主は皆さんとともに」と言いました。拡声装置からは何も聞こえず、神父様の言葉を聞くことができたのは最前列にいた人達だけでした。マイクを手に取った神父様は「このマイクはどこかおかしいな」とつぶやきました。その途端、その言葉はしっかり増幅されて教会全体に響きわたり、会衆一同が「また司祭様も(また司祭とともに)!」と応えました。私はかろうじて笑いをこらえ、後で問題を解決しましょう、と申し出ました。
それは、SSM2019プリアンプに対し差動出力を行う可動コイル・マイクでした。マイクには何の問題もなくアンプ入力へ信号を送っていましたが、ケーブル遮蔽からメタル・マイク本体への接続が切れていました。グラウンド部が正常でないとブーンという連続音が(ごくまれに)聞こえることがありますが、それでアンプが使えなくなるのはなぜでしょうか?
プリアンプの回路を調べてみると、原因がわかりました。マイクのセンタータップがマイクのケースに接地されていましたが、これが2つのSSM2019入力のバイアス電流を拾っていました。オープン・サーキットのグラウンドではバイアス電流の流れるところがなく、アンプが動作しなくなったのです。ところが、神父様がマイクに触ると、神父様の体がグラウンドへの電流パスとなって、少し雑音はあったもののちゃんと動作したのです。
増幅デバイスはすべて(バイポーラ・トランジスタ、JFET、MOSFET、真空管も)、入力にバイアス電流と呼ばれるDC電流があります。一部のJFETやMOSFETではわずか20fA(2E-14アンペア、すなわち8マイクロ秒当たり約1個の電子)ですが、オペアンプや計装アンプの入力では数pA~μAのレベルのバイアス電流が発生します。バイアス電流の対策をしていない回路設計は正常に機能しなかったり、まったく動作しないこともあります。ただし、バイアス電流はごくわずかであるため、思いがけないリーク・パス(たとえば神父様の体)のおかげできちんと設計されていない回路でもなんとか動作してしまうことがあります。(それでも正しい動作にはならないでしょう。)優れたアナログ設計は、バイアス電流の影響を偶然や幸運にゆだねずに、許容範囲に抑えて性能と機能が左右されないようにします。
私は切れた接続を修復しただけでなく、アンプ入力に2つの等しい接地抵抗を追加しました。このようにすれば、いつかまたマイクのグラウンドに障害が発生しても、ノイズが発生するだけで神父様の言葉が聞こえなくなることはないでしょう。