質問:
状態基準保全(CBM:Conditional Based Maintenance)システムで使用するMEMS(Micro Electro Mechanical System)加速度センサーについて検討しています。重要であるのにもかかわらず、見落とされがちなパラメータはありますか?

回答:
MEMS加速度センサーを選択する際に軽視されがちな重要なパラメータとしては、gレンジ、帯域幅、センサーの共振周波数が挙げられます。これらのパラメータの値がシステムの仕様に対して不適切であった場合、センサーによる測定結果に望ましくない影響が及ぶ可能性があります。
はじめに
CBMは、機械システムの中で問題のある個所を早い段階で検出し、システムの予期せぬ停止を防いだり、コストのかさむ事象の発生を回避したりするために導入されます。この用途には、MEMS加速度センサーが不可欠です。CBMシステムで使用するセンサーを選択する際には、慎重に検討しなければならない重要なパラメータが数多く存在します。しかしながら、いくつかのパラメータについては十分な検討が行われないケースが少なくありません。本稿では、MEMS加速度センサーを選択する際に注意を払うべきいくつかの重要なパラメータについて説明します。
CBMの概要
CBMとは、センサーを使用して機械システムを監視し、いずれ表面化するおそれのある潜在的な欠陥や障害を検知するプロセスのことです。実際、多くの機械システムには、ボール・ベアリング、ギア、ポンプを監視するための機能が導入されています。最適な監視を実現するためには、様々な種類のセンサーが使用されることになります。そのようにすることで、あらゆる異常を早期に検出することができます。言い換えれば、起こり得る障害や機能の停止を回避するために事前に防止策を講じることが可能になります。CBMシステムを活用すれば、予知保全(Predictive Maintenance)を実現することができます。予知保全では、様々な種類のセンサーを使用し、各種コンポーネントにおいて故障の予兆になり得る測定値を収集します。それらのデータに基づいて、システムの故障を予測します。高い精度の予測を実現できれば、システムのダウンタイムを短縮し、稼働率を高めることができます。CBMには、加速度センサー、温度センサー、磁気センサー、MEMSベースのマイクなど、様々な種類の高度なセンサーが利用されます。それらのうち、本稿ではMEMS加速度センサーに注目することにします。
MeMs加速度センサーの概要
MEMS加速度センサーは、機械的な振動を検出し、それに対応する電圧またはデジタル値を出力します。同センサーは、シリコン製の可動部と固定部から成ります。図1(a)に示すように、両者はコンデンサを形成します。機械的な動きが加わると、可動部が固定部の方向に移動します。この構造は、数学的には重りとばねから成るシステムとして表すことができます。そして、力の測定値を利用することにより加速度の値を算出します。図1(b)に示したのは、アナログ出力のMEMS加速度センサーです。このタイプの製品は、得られた加速度の値を電圧値として出力します。一方、図1(c)に示したのはデジタル出力のMEMS加速度センサーです。このタイプの製品は、内蔵するA/Dコンバータ(ADC)によって電圧値をデジタル値に変換した上で出力します。アナログ・デバイセズは、様々な種類のMEMS加速度センサーを提供しています。例えば、ノイズ・フロアが低い製品や、帯域幅が広い製品、複数の軸に対応する製品などです。
重要なパラメータ
ここでは、CBMシステムで使用するMEMS加速度センサーを選択する際に重視すべき3つのパラメータについて説明します。
gレンジ
MEMS加速度センサーを選択する際には、そのgレンジが、システム内で生じ得る全範囲の加速度に対応できるかどうかを検討します。センサーのgレンジが狭すぎると、信号のクリッピングが生じる可能性があります。それにより信号が非対称になり、測定結果にオフセットが生じて不正確な値の加速度が検出されるおそれがあります。なお、センサーによって1gと認識される重力加速度の存在を見落とさないようにしてください。
帯域幅
MEMS加速度センサーを使用する場合、システムで生じた振動の周波数が問題になります。つまり、加速度センサーの帯域幅も注目すべきパラメータとなります。CBMのアプリケーションでは、ボール・ベアリングやポンプなどに関連する欠陥を早期に検出することが重要です。通常、欠陥の最初の兆候は高い周波数に現れます。加速度センサーの帯域幅が狭すぎると、そうした欠陥を検出することができません。アプリケーションでは、加速度が周波数の2乗に比例することに注目します。例えば、変位が250nm、周波数が1kHzである場合の実際の加速度が1gであったとします。その場合、同じ変位が10kHzで生じると、実際の加速度はその100倍の100gになります。つまり、システム内の欠陥を早期に検出するためには、十分に広い帯域幅と適切なgレンジを備えるセンサーを選択しなければならないということです。アナログ・デバイセズは、非常に重要性の高いアプリケーションを対象として、最大24kHzの帯域幅と500gのgレンジを備えるMEMS加速度センサーを提供しています。
センサーの共振周波数
帯域幅について検討する際には、もう1つ注目すべきパラメータがあります。それは、各センサーに固有の共振周波数です。その共振周波数で生じた加速度は、センサーで増幅されます。最悪の場合、信号が大きく歪み、誤った測定結果が生成されます。この問題は、システムの機械的な減衰/フィルタリングによって緩和することができます。なお、故障や正常な動作からの逸脱を早期に検出するためには、MEMS加速度センサーのノイズ・フロアが低いことも重要です。性能の高いMEMS加速度センサーの場合、ノイズ・フロアは100μg/√Hz未満に抑えられています。
MEMS加速度センサーの仕様については、「加速度センサーの仕様 用語の定義」をご覧ください。
まとめ
現在、MEMS加速度センサーは、圧電センサーに代わる適切な選択肢となっています。製品によっては、最高24kHzという広い帯域幅と低いノイズ・フロアを兼ね備えています。そうした製品は、欠陥の発現の予測や検出に非常に適しています。高性能のセンサーを採用したCBMシステムを導入すれば、機械システムの故障率を下げるだけでなく、それに関連するコストを削減することも可能になります。アナログ・デバイセズは、「ADXL100x」や「ADXL356/ADXL357」など、CBMのアプリケーションを対象とした様々な種類のセンサーを提供しています。それらの詳細については、MEMS加速度センサーのページをご覧ください。
参考資料
Richard Anslow、Dara O'Sullivan「風力タービンの状態監視に最適な振動センサーを選択する」Analog Dialogue、Vol. 54、No. 3、2020年9月
Chris Murphy「状態基準保全システムには、なぜMEMS加速度センサーが最適なのか?」Analog Devices、2021年2月
Pete Sopcik、Dara O'Sullivan「状態基準保全向けソリューションの性能は、振動センサーで決まる」Analog Dialogue、Vol. 53、No. 6、2019年6月