アプリケーションに適した RFアンプを選択する方法

質問:

各種のアンプ製品にはどのような違いがあるのですか?適切に選択を行うにはどうすればよいのでしょう?

RAQ Issue: 195

回答:

ゲイン、ノイズ、帯域幅、効率などの様々な特性について検討し、アプリケーションに適したアンプを選択します。

本稿では、システム設計によく使われるものとしてRFアンプを取り上げます。ゲイン、ノイズ、帯域幅、効率といった様々な機能的特性は、各種のアプリケーションで使用するアンプの選択に大きな影響を与えます。

RFアンプには、様々な種類、形態のものがあります。それぞれに異なるアプリケーションを想定して設計されているからです。非常に多様な設計が存在するため、ひと言でRFアンプといってもその実体を把握することはできません。言い換えれば、個々のアプリケーションに適したデバイスを選択するのは容易な作業ではないということです。例えば、ほぼすべてのRFアンプについては主要な特性としてゲインが挙げられます。しかし、ゲインは適切な選択を行うために検討しなければならない唯一のパラメータではありません。また、最も重要なパラメータでもありません。

ゲインは、そのRFアンプによって信号をどれだけ増幅できるのかを表す指標です。ゲインの値としては、入力に対する出力の比をdB単位で表したものが使用されます。通常、ゲインはアンプの線形モード(linear mode)に対して規定されます。ここで言う線形モードとは、入力電力の変化に対して出力電力が線形に変化する領域のことです(図1)。入力信号の電力レベルを高めていくと、RFアンプは非線形モード(nonlinear mode)に遷移します。その結果、スプリアスに当たる周波数成分が生成されるようになります。そうした周波数成分には、高調波や相互変調成分(図2のH2、H3、IMD2、IMD3)が含まれます。これらの望ましくない周波数成分は、RFアンプの出力において相互変調歪み(IMD:Intermodulation Distortion)として観測されます。RFアンプでは、深刻な歪みを引き起こすことなく異なる入力電力レベルに対応する能力も指標として使われます。この指標を直線性性能と呼びます。図1に示したように、直線性性能は、以下のような複数の異なるパラメータによって表されます。

  • 出力の 1dB 圧縮ポイント(OP1dB):システムのゲインが1dB 低下する出力電力レベル。
  • 飽和出力電力(PSAT):入力電力が変化しても出力電力レベルが変化しなくなる電力レベル。
  • 2 次インターセプト・ポイント(IP2)と 3 次インターセプト・ポイント(IP3):スプリアス成分の電力が、基本波成分と同じレベルに達する仮想的な点(スプリアス成分のグラフの延長線と基本波成分のグラフの延長線の交点)。そのときの入力信号の電力レベルを IIP2、IIP3、出力信号の電力レベルを OIP2、OIP3 と呼びます。
図1. RFアンプの出力電力の特性。非線形性を表すパラメータについて説明しています。
図1. RFアンプの出力電力の特性。非線形性を表すパラメータについて説明しています。
図2. 高調波と相互変調歪み
図2. 高調波と相互変調歪み

先述したように、ゲインはRFアンプの主機能を表す性能の1つです。ただ、実際には、RFアンプを選択する上では直線性などの特性が重要な意味を持ちます。RFアンプを選択する際には、設計上の異なるパラメータの間で必ずトレードオフが発生します。以下では、それぞれの特徴を基にしたRFアンプの分類を示します。この分類が、対象とする用途に適したものを選択する上での1つの指針になるはずです。

低ノイズ・アンプ

低ノイズ・アンプ(LNA:Low Noise Amplifier)は、レシーバー・アプリケーションでよく使われます。その用途は、アンテナに接続されたシグナル・チェーンのフロント・エンドにおいて微小な信号を増幅することです。この種のRFアンプでは、信号に加わるノイズが最小限に抑えられます。言い換えれば、この目的を果たすように設計が最適化されているということです。シグナル・チェーンのフロント部においては、ノイズの最小化が特に重要です。この部分の性能が、システム全体のノイズ指数に最も大きな影響を与えるからです。

低位相ノイズ・アンプ

低位相ノイズ・アンプでは、付加される位相ノイズが最小限に抑えられます。そのため、高い信号品質が求められるRFシグナル・チェーンにとって理想的な選択肢となります。位相ノイズは、搬送波に対する近接ノイズです。時間領域の信号において位相が小さく変動するのでジッタとして表面化します。したがって、低位相ノイズ・アンプは、高速クロック回路やLO(局部発振)回路において高性能のPLLシンセサイザと組み合わせて使用する場合に最適です。

パワー・アンプ

パワー・アンプ(PA:Power Amplifier)は、電力の処理性能が最適化された製品です。高い電力レベルを出力するように設計されるトランスミッタ・システムなどのアプリケーションでよく使われます。一般にPAは、OP1dBやPSATが高いことを特徴とします。また、効率にも優れるので、低い放熱性を維持することができます。

直線性の高いアンプ

直線性の高いアンプは、IP3性能に優れ、広範な入力電力に対してスプリアスが最小限に抑えられるように設計されています。複雑な変調信号を使用する通信アプリケーションに一般的に採用されています。そうしたアプリケーションでは、低いビット・エラー・レート(BER:Bit Error Rate)を維持しなければなりません。そのためには、信号の歪みが最小限で高いクレスト・ファクタに対応できるRFアンプが必要になります。

可変ゲイン・アンプ

可変ゲイン・アンプ(VGA:Variable Gain Amplifier)は、ゲインを柔軟に調整して信号のレベルの変化に対応しなければならないアプリケーションで使用されます。デジタル制御方式のVGAでは、ステップ単位でゲインを変更することができます。一方、アナログ制御方式のVGAでは、ゲインを連続的に変化させられます。VGAは、自動ゲイン制御(AGC:Automatic Gain Control)を実現するためによく使用されます。また、温度の変化や他の部品の特性の変化に伴うゲイン・ドリフトの補償にも使われます。

広帯域アンプ

広帯域アンプは、最大で数オクターブに及ぶ広い周波数範囲にわたって適度なゲインを提供するように設計されています。広帯域に対応する多様なアプリケーションに対してメリットをもたらします。一般に、効率とノイズ性能はあまり高くありませんが、ゲイン帯域幅積(GB積)が大きいことを特徴とします。

ゲイン・ブロック

ゲイン・ブロックも広い意味でRFアンプに分類されます。実際、様々なRFアプリケーションで使用されています。様々な周波数、帯域幅、ゲイン、出力電力レベルに対応可能な製品が提供されています。一般に、それらのアンプでは平坦なゲイン応答が得られます。また、リターン損失も少なく抑えられます。通常、その設計にはマッチング回路とバイアス回路が含まれており、必要な外付け部品は最小限にとどまります。そのため、簡単にシグナル・チェーンに組み込むことができます。

まとめ

本稿では、各種RFアンプの特徴について説明しました。併せて、それらが使われるアプリケーションの例を紹介しました。RFアンプとしては、数多くのユース・ケースに向けた多彩な製品が提供されており、それらすべてを紹介することはできません。RFアンプは、異なるアセンブリ技術やプロセス技術をベースとして設計されます。その用途は、通信システムや産業用システム、テスト装置、測定器、航空宇宙システムなど多岐にわたります。各用途に向けて、様々な機能を搭載し、特定の動作モードをサポートし、最適化された性能を提供できる様々な製品が開発されています。

著者

Anton Patyuchenko

Anton Patyuchenko

Anton Patyuchenkoは、アナログ・デバイセズでフィールド・アプリケーション部門を担当するテクニカル・リーダーです。2015年に入社しました。RF分野で15年以上の経験を持つスペシャリストとして、同分野に関連する業務に注力しています。2007年にミュンヘン工科大学でマイクロ波工学の理学修士号を取得。卒業後は、ドイツ宇宙航空センター(DLR)のマイクロ波/レーダー研究所で研究職に就いていました。