FET入力のオペアンプの電流ノイズ

質問:

オペアンプ回路を設計したところ、高い周波数領域でノイズが大きくなってしまうという問題が発生しました。何が原因なのでしょうか?

RAQ Issue: 174

回答:

オペアンプの種類によっては、周波数が高くなるに連れ、電流ノイズが大きくなります。ICや電子回路の設計技術者にはよく知られている現象ですが、これに関する情報は必ずしも十分に広まってはいません。また、メーカーからの情報が不十分なケースもあります。そのため、この現象は多くの技術者にとって理解しにくいものとなっています。

アナログ・デバイセズを含む多くの半導体メーカーは、オペアンプ製品のデータシートに、電流ノイズ(入力電流ノイズ)に関する記載を設けています。ただ、通常は周波数が1kHzの場合の値のみが規定されています。また、そのような仕様を定めた根拠については、必ずしも明示されていません。多くの場合、測定値に基づいているのか、理論値に基づいているのかも不明です。一方で、以下に示す式を提示することにより、その仕様を定めた方法を明示しているメーカーも存在します。

数式 1

この式は、ショット・ノイズを表すものとして知られています。アナログ・デバイセズの場合、これまで、ほとんどの電流ノイズの数値をこの方法に基づいて提示してきました。では、この式による計算値は、どのようなオペアンプにおいても1kHzまでの範囲で有効なのでしょうか。

ここ数年の間に、オペアンプの入力電流ノイズは周波数に対してどのような挙動を示すのかということに関心が集まるようになってきました。一部のメーカーや一部のお客様は、FET入力のオペアンプ(以下、FET入力アンプ)では、電流ノイズはバイポーラ入力のオペアンプと同様の周波数特性を示すと考えています。例えば、図1に示すような形のノイズ性能を想定しているということです。この図には、1/fノイズ(フリッカ・ノイズ)の成分と、広帯域にわたって平坦な特性を示すノイズ成分の影響が表れています。しかし、FET入力アンプには、このような特性は当てはまりません。そのノイズは、図2に示すような周波数特性を示します。このことは、必ずしも周知の事実だとは言えません。また、多くのシミュレーション・モデルにおいて、この特性は無視されています。

図1. バイポーラ入力のオペアンプ(AD8099)の電流ノイズ
図1. バイポーラ入力のオペアンプ(AD8099)の電流ノイズ
図2. FET入力アンプ(AD8065)の電流ノイズ
図2. FET入力アンプ(AD8065)の電流ノイズ

測定環境が重要

電流ノイズの特性について説明する前に、測定環境について確認しておきましょう。電流ノイズの測定環境としては、異なる複数種の製品の測定を繰り返すことができるように、再現性と信頼性の高いものを確立するべきです。

ここでは、シングルアンプの評価用ボード「DC417B」を使用することにします(図3)。被測定デバイス(DUT)用の電源としては、ノイズとドリフトの小さいものを用意しなければなりません。この場合、スイッチング電源よりもリニア電源の方が適しています。スイッチング・ノイズなどによる電源の変動が測定に影響を及ぼさないようにするためです。リニア電源からのリップルは、電源電圧変動除去比(PSRR)が極めて高く、ノイズが極めて小さいリニア・レギュレータ「LT3045」と「LT3094」を使うことで更に低減できます。正の電圧を生成するLT3045と負の電圧を生成するLT3094を採用すれば、1本の抵抗を使うことで-15V~15Vの任意の出力電圧を設定することが可能です。これらのレギュレータは、微小ノイズの測定に使用するベンチ・トップ用の電源に最適です。

図3. 測定環境
図3. 測定環境

図中の「HVC1206Z1008KET」(Ohmite Manufacturing製)は、10GΩの表面実装抵抗です。これは、DUTの非反転入力で電流ノイズを電圧ノイズに変換するために使用しています。FET入力アンプの場合、バイアス電流は約1pA程度です。これは、次式が正しければ、0.57fA/√Hzの電流ノイズに相当します。

数式 2

10GΩのソース・インピーダンスは、次式で決まる熱ノイズを発生します。

数式 3

この式から、測定した電流ノイズのノイズ・フロアは次式のように求められます。

数式 4

この成分を測定後のデータから除去することにより、オペアンプの電流ノイズを算出することができます。ただ、抵抗の電流ノイズがDUTの電流ノイズよりも支配的である場合、正確な測定は不可能だということになります。そのため、抵抗値としては少なくとも10GΩが必要です。100MΩのソース・インピーダンスで生じる熱ノイズは約1.28μV/√Hz(= 12.8fA/√Hz)です。これではDUTのノイズと区別することはできません。相関関係にないノイズは、2乗和平方根(RSS:Root Sum Squared)で加算されます。図4と表1は、2つの数値の比率に対するRSSの影響を表しています。n:nの場合には約41%、n:n/2では約12%、n:n/3では約5.5%、n:n/5では約2%が加算されます。十分に平均化を実施できれば、約10%(0.57fA/√Hzと1.28fA/√Hz RSS)という値が得られることを期待できます。

図4. 2つの値の比率に対するRSSの影響
図4. 2つの値の比率に対するRSSの影響
表1. 2つの値の比率に対するRSSの影響
値1 値2 RSSによる計算値 増加分の%表現
n n 1.414 n 41.42 % 
n n/2 1.118 n  11.80%  
n n/3  1.054 n  5.41% 
n n/4  1.031 n  3.08% 
n n/5  1.020 n  2.00% 
n n/6  1.014 n  1.38% 
n n/7  1.010 n 1.02% 
n n/8 1.008 n   0.78% 
n n/9  1.006 n  0.62% 
n n/10  1.005 n  0.50% 

なぜ、こんな結果に?

図5に示したのは、図3の環 境を使 用してFET入 力アンプ「AD8065」の電圧ノイズ密度を測定した結果です。同ICの帯域幅は145MHzで、コモンモードの入力インピーダンスは2.1pFです。10GΩの抵抗の熱ノイズは、入力容量と基板/ソケットの浮遊容量によって電圧ノイズがロール・オフするまでは12.8μV/√Hzとなります。理想的には、この熱ノイズは-20dB/decのロール・オフ特性を維持するはずです。しかし、図5の曲線は、100Hz付近で形状が変化し始め、約100kHzで平坦になっています。いったい何が起きているのでしょうか。直感的には、-20dB/decのロール・オフを抑えて平坦化するには、20dB/decの傾きを与えるしかありません。その原因となっているのが電流ノイズです。この電流ノイズは20dB/decの傾きで、周波数が高くなるに連れて増加するということです。

図5. 出力換算電圧ノイズ密度
図5. 出力換算電圧ノイズ密度

出力電圧ノイズの測定には、ダイナミック・シグナル・アナライザ「SR785」(Stanford Research Systems製)またはFFT計測器を使用するとよいでしょう。ノイズ・フロアが7nV/√Hz未満のものを選択するようにしてください。DUTにおいて出力電圧ノイズがロール・オフするポイントが20nV/√Hz~30nV/√Hzに近い場合、アナライザのノイズ・フロアによってノイズが増加しないことが望ましいからです。3倍の比率があれば、測定値が約5.5%増加するだけで済みます(図4)。ノイズが存在する領域で5%の誤差であれば許容できます。

「逆算」がカギに

上述した方法により1回測定を行うことで、電流ノイズをプロットするために必要な2つの主要なパラメータの値を取得することができました。1つは、ロール・オフの逆算に必要なトータルの入力容量です。つまり、浮遊容量と入力容量の合計値を取得することができました。浮遊容量が存在する状態でも、情報は得られます。入力容量は、10GΩの抵抗よりも支配的な要因です。電流ノイズは、これらトータルのインピーダンスによって電圧ノイズに変換されます。したがって、トータルの入力容量の値を把握することは重要です。もう1つの重要なパラメータは、電流ノイズが支配的になり始める周波数ポイントです。つまり、どこで-20dB/decの傾きから外れ始めるのかということを把握できました。

図5のデータを例にとって考えてみましょう。-3dBのロール・オフが生じているポイントは2.1Hzでした。これは次式で与えられる入力容量に対応します。

数式 5

データシートによると、コモンモードの入力容量は約2.1pFです。したがって、約5.5pFの浮遊容量が存在することになります。差動モードの入力容量は、負帰還によってブートストラップされます。そのため、低い周波数領域では、あまり影響は出ません。図6に示したのは、入力容量が7.6pFである場合のトータルのインピーダンスです。

図6. 10GΩの抵抗と7.6pFの入力容量で構成される並列回路のトータルのインピーダンス
図6. 10GΩの抵抗と7.6pFの入力容量で構成される並列回路のトータルのインピーダンス

ここで、AD8065の出力換算電圧ノイズ(図5)を、各周波数におけるインピーダンス(図6)で割ります。それにより、AD8065と10GΩの抵抗のノイズをRSS方式で加算した等価電流ノイズが得られます(図7)。

図7. AD8065と10GΩの抵抗による入力換算ノイズ
図7. AD8065と10GΩの抵抗による入力換算ノイズ

10GΩの抵抗による電流ノイズを排除すると、AD8065の入力換算ノイズは図8のようになります。10Hz未満の領域では、1.28fA/√Hz(RSSスケールで10%)のノイズの中から0.5fA/√Hz~0.6fA/√Hzのノイズを取り出すための平均化は、100回しか行えませんでした。そのため、ノイズの特性評価結果としては不明瞭なものになっています。15mHz~1.56Hzの間には、4mHzの帯域幅で400本の線が存在しています。問題になるのは平均化にかかる時間です。というのも、1回の平均化には256秒を要します。256秒の平均化を100回行うと、2万5600秒(7時間以上)かかることになります。では、なぜそれほどの時間をかけて、15mHzまでの測定を行う必要があるのでしょうか。10pFの入力容量と10GΩの抵抗は、カットオフ周波数が1.6Hzのローパス・フィルタを構成します。低ノイズのオペアンプの中には、入力容量が最大20pFにも達するものがあります。その場合、-3dBの減衰周波数は0.8Hzになります。-3dBのポイントを正確に把握するためには、1桁下の0.08Hz(80mHz)までの特性を確認する必要があります。

10Hz未満の不明瞭な領域の値を目分量で測ると、次式による0.6fA/√Hzという値が妥当であることがわかります。

数式 6

つまり、上式は、電流ノイズに対して必ずしも不適切なものだとは言えません。電流ノイズ密度の値は、DCの入力バイアス電流によって得られたものであり、1次近似によれば、上式は低い周波数領域における電流ノイズの挙動を表していると言えます。しかし、高い周波数領域における電流ノイズは、この式には従いません。  

図8. AD8605の入力換算電流ノイズ
図8. AD8605の入力換算電流ノイズ

より高い周波数では、抵抗の電流ノイズよりもDUTの電流ノイズの方が極めて支配的になります。そのため、抵抗のノイズは無視できます。図9に、様々なFET入力アンプの入力換算電流ノイズを示しました。これは、図3の環境を使用し、10GΩの抵抗によるノイズが存在する条件で測定を実施した結果です。100kHzにおける100fA/√Hzという値は、ほとんどの高精度アンプで予想できる代表的な性能だと考えてよいでしょう。

図9. アナログ・デバイセズの各種オペアンプ製品の入力換算ノイズ
図9. アナログ・デバイセズの各種オペアンプ製品の入力換算ノイズ

ただ、次のような例外も存在します。「LTC6268」や「LTC6269」の電流ノイズは、100kHzにおいてわずか5.6fA/√Hzです。これらの製品は、広帯域、低入力容量、fAレベルのバイアス電流が求められる高速なトランスインピーダンス・アンプ(TIA)の用途に最適です。

図10. LTC6268の入力換算ノイズ
図10. LTC6268の入力換算ノイズ

FET入力アンプの電流ノイズ源は他には存在しないのか?

ソース・インピーダンスが大きいアプリケーションでは、入力電流ノイズの主原因は4つ存在します。ここまでで、それらのうち2つについて説明したことになります。図11は、簡素化したTIAアンプを主なノイズ源と共に示したものです。なお、オペアンプのノイズ源については、MT-050(チュートリアル)が参考になります。

図11. 簡素化したTIAアンプと主なノイズ源
図11. 簡素化したTIAアンプと主なノイズ源

FET入力アンプの電流ノイズ(in_dut

電流ノイズの周波数特性は、オペアンプの入力段の回路構成によって決まります。一般に、FET入力アンプでは、低い周波数においてノイズは平坦な特性を示し、周波数が高くなるに連れて増加します(図8)。より高い周波数では、最終的にアンプのゲインがなくなるため、ノイズは-20dB/decでロール・オフします。

抵抗の電流ノイズ(in_R

抵抗の電流ノイズは、次式に示すように、抵抗の熱電圧ノイズen_Rを抵抗のインピーダンスRで割ることで求められます。その値は、1MΩの抵抗の場合で約128fA/√Hzとなります。1GΩの抵抗では1.28fA/√Hzとなります。

数式 7

抵抗の熱電圧ノイズは、容量に印加されて-20dB/decでロール・オフするまでは、理想的には周波数全体にわたって平坦な特性を示します。前掲の図5は、10mHz~1Hzにおけるこの挙動を表しています。

センサーからの電流ノイズ(in_source

フォトダイオードをはじめとするセンサーは、電流ノイズの原因になります。したがって、アプリケーションにおいては、それを受け入れなければなりません。これについては、どのような周波数特性にもなり得ます。例えば、フォトダイオードは、次式に示すようなノイズを発生します。

数式 8

上式のように、光電流IPと暗電流IDによるショット・ノイズIsnと、シャント抵抗によるジョンソン・ノイズIjnが生じます1

アンプの電圧ノイズによる電流ノイズ

アンプの電圧ノイズによる電流ノイズには、enCという名前が付けられています。これについては、稿末に参考資料として示したHorowitz氏とHill氏による共著2で非常にうまく説明されています。抵抗の電圧ノイズが抵抗によって電流ノイズに変換されるのと同様に、オペアンプの電圧ノイズen_dutは、次式に示すトータルの入力容量によって電流ノイズに変換されます。

数式 9

上式に示すように、トータルの入力容量は、センサーの容量、基板の浮遊容量、アンプの入力容量などから成ります。

1次近似を使えば、次の式が得られます。

数式 10

この式からは3つのことがわかります。1つは、周波数が高くなるに連れ、電流ノイズが大きくなるということです。ただ、周波数に応じて大きくなる電流ノイズ成分はもう1つあります。上式からわかる2つ目の事実は、オペアンプの入力電圧ノイズが大きくなるほど、電流ノイズも大きくなるということです。残る1つの事実は、トータルの入力容量が大きくなるほど、電流ノイズも大きくなるということです。何らかのアプリケーションにおいて、オペアンプの電圧ノイズとトータルの入力容量の両方について考慮する必要がある場合、enCを性能指標とすればよいでしょう。

TIAのアプリケーションにおいて、電流ノイズの周波数特性は、DUTの電流ノイズを無視すると図12のようになります。平坦な部分は、主に次式で与えられる抵抗ノイズによって決まります。

数式 11

容量による電流ノイズは次式で決まり、20dB/decの傾きで増加します。

数式 12

これら2つの式から、クロスーオーバー・ポイントは、次式のように計算できます。

数式 13
図12. enCノイズの周波数特性
図12. enCノイズの周波数特性

Cinに応じ、enCノイズはDUTの電流ノイズより大きくなることもあれば、小さくなることもあります。TIAのアプリケーションのように反転構成を使用する場合には、Cdmはブートストラップされることはなく、次式が成り立ちます。

数式 14

例えば、100kHzにおいて、Ccmが2.1pF、Cdmが3.5pF、enが8nV/√Hzの「LTC6244」の場合、enCの電流ノイズは次式で求められます。

数式15

これは、DUTの80fA/√Hzという電流ノイズよりもはるかに小さな値です。

しかし、フォトダイオードを接続した場合には、CsourceかCpdを式に付加して電流ノイズを計算することになります。Cpdとして16pFを追加すると、DUTの電流ノイズと等しくなります。低速、大面積のフォトダイオードの場合、容量値は100pF~1nFのオーダーになる可能性があります。高速、小面積のフォトダイオードの場合には、容量値は1pF~10pFに収まる可能性があります。

まとめ

CMOS入力のオペアンプやJFET入力のオペアンプでは、周波数の高い領域において電流ノイズが増加するという現象が発生します。これは、ICの設計技術者や熟練の回路設計者にはよく知られている事実です。しかし、この分野に関する情報はあまり流通していません。また、メーカーからの情報も必ずしも十分ではありません。そのため、多くの技術者はこの事実を把握していませんでした。本稿では、より高い周波数領域におけるオペアンプの電流ノイズの挙動を明らかにしました。また、電流ノイズを高い再現性で測定するための方法を示しました。

更なる情報

最高の性能を発揮する回路を実現するためにオペアンプを選択する作業は、容易ではありません。多くの場合、アプリケーションに応じてノイズ、帯域幅、ゲイン、精度の間でトレードオフが生じることになるからです。オペアンプ製品のデータシートや、参考資料1~7を見ると、そうしたトレードオフについて詳しく解説されています。ぜひ、参考にしてください。

参考資料

1Photodiode Characteristics and Applications(フォトダイオードの特性、アプリケーション)」OSI Optoelectronics、2007年8月

2 Paul Horowitz、Winfield Hill「The Art of Electronics,3rd edition(エレクトロニクス技術 第3版)」CambridgeUniversity Press、2015年4月

3 データシート ADA4530-1、Analog Devices、2019年11月

4 回路ノート CN-0407、Analog Devices、2019年2月

5ADA4530-1R-EBZユ ー ザ・ ガ イ ド UG-865」AnalogDevices、2015年10月

6MT-050: Op Amp Total Output Noise Calculations for Second-Order System(2次系に向けたオペアンプの合計出力ノイズの計算)」Analog Devices、2009年2月

7 Low Level Measurements Handbook: Precision DC Current, Voltage, and Resistance Measurements(微小レベルの計測用ハンドブック:DC電流、電圧、抵抗の高精度な測定)」Tektronix, Inc.、2016年2月

Glen Brisebois「Signal Conditioning for High Impedance Sensors(高インピーダンスのセンサーのシグナル・コンディショニング)」Analog Devices

Glen Brisebois「Transimpedance Amplifier Noise Considerations(トランスインピーダンス・アンプのノイズに関する考察)」Analog Devices

謝辞

本稿の執筆に協力してくれたGlen Brisebois、Aaron Schultz、情報を提供してくれたHenry Surtihadi、Scott Hunt、Barry Harvey、Harry Holt、Philip Karantzalis、Jordyn Ansariに感謝します。

付録

FET入力アンプに10GΩの抵抗を付加するといった高インピーダンスの環境で、ノイズを正確に測定するのは、容易なことではありません。そもそも、微小な電圧/電流を測定するのは難易度の高い作業であり、測定環境についても、微妙な条件について配慮する必要があります。

標準的なシングルアンプの場合、V+(3番ピン)とV-(4番ピン)が隣り合わせというピン配置になっています。所定の位置にガード・リングが存在しない場合には、基板レイアウトが非常に重要な意味を持ちます。当初、本稿の執筆に向けて使用した測定環境では、電源を投入すると、出力に大きなDCシフトが発生していました。10GΩの表面実装抵抗(図13のR10)は、当初はV-と平行にハンダ付けしていました。そのハンダ・ペーストが原因で、測定に多大な影響を及ぼす大きなリークが発生していたのです。そこで、この抵抗の実装場所を別の位置(R8)に移動することにしました。その結果、リークは発生しなくなりました。「ADA4530-1」は、85°Cにおける入力バイアス電流が20fAの電位計向けオペアンプです。この製品のデータシートには、ハンダ・ペーストの選択、汚染、湿度の影響に関する注意事項や、高インピーダンスの測定に関する詳細な説明が記されています。このデータシートや、UG-865(ユーザ・ガイド)、CN-0407(回路ノート)は非常に参考になります。

図13. 測定環境の外観
図13. 測定環境の外観

インピーダンスが高く防音性を持たないデバイスは、摩擦帯電効果、圧電効果、マイクロフォニック効果の影響を受けやすい傾向にあります。筆者はある日、誤って測定環境に鍵を落とし、可聴周波数(特に1kHz以上)でノイズが急増する様子を目にしました。本稿では、10GΩの抵抗を付加したFET入力アンプを対象として高インピーダンスの条件下で測定を行ったわけですが、測定環境がこれほど音に敏感だとは思ってもみませんでした。試しに口笛を吹いてみると、1kHz~2kHzの領域にスパイクが生じます。かなりの回数の平均化を行った場合でも、口笛をピッと吹くと、SR785のCRT画面にノイズのスパイクが現れます。圧電効果や摩擦帯電効果に対しては、CN-0407で触れられているハーメチック・シール仕様のガラス抵抗がより適しています。

確認のため、ラップトップ・マイクを使って実験室の環境音を測定しました。「MATLAB®」を使って測定結果のデータを処理したところ、測定したノイズと環境音の測定値の間に相関があることがわかりました。図14に示すように、768Hzをはじめとするいくつかの周波数において、顕著なスパイクが存在していることが判明したのです。その原因は、実験台から数m離れたところに設置されている大きなエアコン・ダクトでした。また、ラップトップ自体のノイズを拾っていないことを確認するために、音響的に最も静かな場所である電話ブースでデータを取得してみました。その結果、768Hzのスパイクは生じていないことが確認できました。他の周波数のスパイクも1/100以下に抑えられています(図15)。

図14. 実験室の音響ノイズ
図14. 実験室の音響ノイズ
図15. 電話ブースの音響ノイズ
図15. 電話ブースの音響ノイズ
図16. 音響を遮蔽していない場合の出力換算電圧ノイズ密度
図16. 音響を遮蔽していない場合の出力換算電圧ノイズ密度
図17. 音響を遮蔽した場合の出力換算電圧ノイズ密度
図17. 音響を遮蔽した場合の出力換算電圧ノイズ密度

筆者は、可聴ノイズを減衰させるために、Temptronic製のボックスを使用することにしました。このボックスは、熱的な絶縁を実現するために、大きな空気の流れを遮断します。これを使って測定する際、音響に関して配慮すべきことは、マイクロフォニック効果が生じないようにすることだけです。図16、図17を見れば、このボックスの効果を確認できるはずです。

計測器に固有の問題

FET入力アンプの入力バイアス電流は、pAのオーダーに抑えられています。それでも、10GΩの抵抗に10pAの電流が流れると、アンプの出力には約100mVのオフセットが生じます。SR785はACカップリング機能を備えているので、そのオフセットを除去しつつ、-50dB Vピーク(3.2mVピーク)という最適なレンジで出力ノイズを測定するのに適しています。しかし、ACカップリングの機能を使用すると、対象となる周波数が1Hz程度に制限されます。そうすると、特性が平坦になる部分の12.8μV/√Hzという値を特定し、-3dB減衰するポイントを読み取るのが難しくなります。つまり、測定にはDCカップリングの機能を使用する必要があります。しかし、それでは計測器が最高の感度を発揮するレンジを使用することができません。そこで、270μFの電解コンデンサを2個直列接続し(合成容量の値は135μF)、それと1MΩの抵抗を組み合わせることで、カットオフ周波数が1mHzのパッシブ・フィルタを作製しました。そして、それをDUTとSR785の間に挿入しました。ただ、使用したコンデンサのリード線が長いことから、大きなループが形成されます。その結果、SR785のCRT画面から発生する20kHzのノイズとその高調波による磁界を拾いやすくなります。この問題は、パッシブ・フィルタの箱を回転させて角度を調整する方法で解決しました。このような調整が有効な理由は、磁界が3次元で発生するからです。図18の右下をご覧ください。斜めに配置した青い箱によって問題を解決したということです。

図18. パッシブ・フィルタの箱。磁界の影響を受けにくくするために回転させています。
図18. パッシブ・フィルタの箱。磁界の影響を受けにくくするために回転させています。

著者

Kaung Win

Kaung Win

Kaung Winは、アナログ・デバイセズのリニア製品/ソリューション・グループに所属するアプリケーション・エンジニアです。2013年に製品評価エンジニアとして入社し、2019年から現在の業務に従事しています。ウースター工科大学で電気工学とコンピュータ工学の学士号を、サンタクララ大学で電気工学の修士号を取得しています。専門は、アンプを使用するシグナル・チェーン向けのソリューションです。