回路のシンボル(回路図記号)は、設計を行う際に役立つものでしょうか。それとも思考の妨げになり得るものなのでしょうか。
言うまでもなく、回路図において各種コンポーネントのシンボルは重要な役割を果たします。但し、1つのシンボルが複数の意味を持つケースがあるので注意が必要です。そのことが原因で何らかの問題が生じることも少なくありません。例えば、アナログ回路において、オペアンプ、コンパレータ、計装アンプはいずれも同じ三角形のシンボルで表されます。
ここで図1をご覧ください。3つの三角形のうち、オペアンプを表しているのはどれでしょう。どれがコンパレータで、どれが計装アンプなのでしょうか。その答えは、「いずれのシンボルも、オペアンプ、コンパレータ、計装アンプを表している可能性がある」というものになります。
では、3種のコンポーネントにはどのような違いがあるのでしょうか。また、なぜそうした違いに気を配る必要があるのでしょうか。
例えば、オペアンプをコンパレータとして使用するのは不可能なことではありません。しかし、その方法によって最適なシステム性能を達成するのは難しいでしょう。実際、3種のコンポーネントそれぞれの違いと注意すべき事柄について把握しておくのは重要なことです。そうすれば、起こりうる問題を回避して完成度の高い設計を行うことが可能になります。言うまでもなく、設計においては常に最適なコンポーネントを選択することが重要です。
表1に、3種のコンポーネントの特徴についてまとめました。確かに、いくつかの特性において大きな違いがあるようです。では、その違いによって、回路やシステムにはどのような影響が及ぶのでしょうか。
オペアンプ | コンパレータ | 計装アンプ | |
帰還 | 負 | なし/正 | 内部 |
オープンループ・ゲイン | 5000~1000万 | 3000~5万 | 200~1万で固定 |
クローズドループ・ゲイン | 通常1万未満 | — | 200~1万で固定 |
入力部への容量の付加 | 不可 | 可 | 良 |
出力 | アナログ/リニア | デジタル | アナログ/リニア |
重要な仕様 | VOS, GBW/PM | 伝搬遅延 | CMRR |
プログラミング | 抵抗またはコンデンサ | なし | 抵抗、SPI、ジャンパ |
以下では、起こりうる問題について見ていくことにします。
帰還
オペアンプについて、学校では、2つの入力の間には電位差はない(ゼロ)ことを前提として動作を検討するよう教えられます。しかし、実際にはそのようなことはあり得ません。オペアンプは大きなゲインを備えています。オープンループ・ゲインが100万である場合、入力に5µVを印加すると5Vの出力が得られることになります。オペアンプを使用して実用的な回路を構成するには、帰還をかける必要があります。出力が高くなりすぎそうな場合には、制御信号を入力に帰還し、元の刺激を打ち消すということです。そのための代表的な手法が負帰還です。帰還をかけずにコンパレータとして使用すると、出力は一方の電源のレベルまたはもう一方の電源(正の電源とグラウンド、または正の電源と負の電源)のレベルに振り切れることになります。正帰還をかけると、この動作が一層促進されます。つまり、通常のオペアンプ回路には負帰還が必要になるということです。なお、オペアンプ製品の中には、帰還をかけずにコンパレータとして使用すると、電源電流がデータシートに記載されている最大値の5~10倍に達するものがあります1。
一方で、コンパレータには正帰還が必須だと言えます。例として、コンパレータの一方の入力がもう一方の入力レベルをゆっくりと超えるケースを考えます。その場合、帰還をかけていなければ、出力がゆっくりと変化し始めることになります。また、システム内にグラウンド・バウンスなどのノイズが存在すると、出力が反転することになるでしょう。制御系のシステムなどにおいて、これは決して望ましいことではありません。その後、出力が元に戻り始め、チャタリングと呼ばれる振動のような挙動を示すこともあります(MT-0832の図6を参照)。このような問題を解決するために、ヒステリシスと呼ばれる正帰還が利用されています。そのメリットについては、稿末に示した参考文献3をご覧ください。
計装アンプは帰還回路をもともと内蔵しています。したがって、帰還回路を追加するとゲインが不正確になるだけです。図2に、オペアンプを使用して計装アンプを構成する標準的な方法を示しました。
ここで、計装アンプを通常のオペアンプと同じように使用することができるか否かを考えてみます。計装アンプを構成する各オペアンプには帰還回路が付加されています。図3に示したブロック線図を基に、標準的な負帰還について考察してみましょう。この図において、計装アンプはGとして示しています。必要なゲインが10であるとすると、帰還係数は0.1になります。次に、計装アンプの固定のゲインを100に設定します。ここで、以下に示す式(1)を使用します。すると、実際のクローズドループ・ゲインは9.09になります。つまり、ほぼ10%の誤差が生じるということです。したがって、計装アンプに帰還用の回路を付加し、オペアンプとして使おうとすることには意味がありません。
先述したように、オペアンプ、コンパレータ、計装アンプは、回路図においていずれも同じ三角形のシンボルで表されます。しかし、これら3種のコンポーネントには大きな違いがあります。オペアンプに本質的に必要なのは負帰還です。一方、コンパレータは本質的に正帰還を必要とします。計装アンプについては帰還回路を追加する必要は全くありません。
オープンループ・ゲインとクローズドループ・ゲイン
式(1)を見ると、オペアンプではオープンループ・ゲインAVOLが大きいほどクローズドループ・ゲインの精度が高くなることがわかります。ほとんどのオペアンプ製品は、オープンループ・ゲインが10万~1000万のレベルにあります(旧式の高速オペアンプの中には3000程度のものもあります)。繰り返しになりますが、オープンループ・ゲインが大きいほど、クローズドループ・ゲインの誤差は小さくなります。
では、コンパレータに必要なゲインはどのくらいなのでしょうか。例として、出力のロジック振幅が3Vで、1mVの閾値が必要なケースを考えます。その場合に必要な最小ゲインは3000です。ゲインが高ければ不確実性を小さく抑えることができます。しかし、ゲインが高すぎると、数µVのノイズによってコンパレータがトリガされてしまう状態になります。
計装アンプについて、オープンループ・ゲインが議論されることはほとんどありません。これについては、ここまでの説明によってご理解いただけるでしょう。
入力部に付加するコンデンサ
回路の帯域幅を制限するためにコンデンサを追加するというのは珍しいことではありません。例えば、図4の回路ではR1とC1によってローパス・フィルタが形成されています。しかし、実際にはこの回路は期待どおりには機能しません。発振を起こす可能性があるからです。この種の反転増幅回路の場合、帰還係数はR2/R1で決まります。ただ、図4のような回路を構成すると、帰還係数はR2/(R1 + Xc)となります。高い周波数領域では帰還係数が大きくなり、ノイズ・ゲインが+20dB/decで上昇します。一方、オペアンプのオープンループ・ゲインは-20dB/decで下降します。その結果、これら2つのゲインは40dBにおいて交差します。制御システムの理論によれば、その回路は必ず発振します。帯域幅を制限するための正しい方法は、R2の両端にコンデンサを接続することです。
通常、コンパレータには負帰還回路は存在しません。そのため、コンパレータについては、抵抗とコンデンサで構成した単純なローパス・フィルタを入力部に追加するだけで帯域制限がうまく働きます。なお、図5において、RHYSとしては、R7よりもはるかに値が大きいものを使用します。これら2つの抵抗により、出力振幅を分割して少量の正帰還(ヒステリシス)をかけています。「LTC6752」や「ADCMP391」といったコンパレータは、ヒステリシス機能を内蔵しています。そのため、R7とRHYSに相当する抵抗を追加する必要はありません。
計装アンプでは、図6に示すC4のように、2つの入力の間にコンデンサを追加します。これによって十分な効果が得られます。アナログ・デバイセズの「計装アンプの設計ガイド」4を見ると、第5章の図に非常に役立つことが書かれています。例えば、計装アンプを実装するプリント回路基板には、2個の抵抗と3個のコンデンサを追加できるようにパターンとパッドを適切に配置しておきます。そうすると、抵抗とコンデンサが存在しない状態から、両者の値を順次変化させてシステムの性能を測定することができます。これら5個の部品の値を調整することで、コモンモード・ロールオフとノーマルモード・ロールオフを独立に設定することが可能になります。詳細については設計ガイドをご覧ください。
出力
オペアンプや計装アンプの出力は、一方の電源に近い電圧からもう一方の電源に近い電圧の間の値をとります。出力段がコモン・エミッタ構成であるかコモン・ソース構成であるかに応じ、出力はどちらかの電源から25mV~200mVの範囲内に達する可能性があります。出力がこのレベルまで対応できる場合、その製品はレールtoレール出力の製品だと見なすことができます。多くのオペアンプ製品は、15Vと-15Vといった正負の電源を使用します。ただ、デジタル回路との接続を考えた場合、このような仕様は都合が良いものではありません。この問題を解消するために、クランプ・ダイオードを出力に配置するという方法がとられることがあります。それにより、デジタル回路の入力部が損傷しないようにするということです。しかし、これは決して適切な方法ではありません。オペアンプの電流が激増し、故障に至る可能性があるからです。オペアンプをデジタル回路に接続するために、もっと複雑な方法が使われることもあります。しかし、実際にはそのような方法をとる必要はありません。コンパレータを使えばよいのです。
通常、コンパレータの出力は、CMOSのトーテムポール出力、NPNのオープンコレクタ出力、NMOSのオープンドレイン出力のうちいずれかです。オープンコレクタ出力/オープンドレイン出力にはプルアップ抵抗が必要になります。そのため、立上がり時間と立下がり時間は等しくなりません。しかし、コンパレータを5Vの電圧で動作させ、それとは異なる電圧(3.3Vなど)で動作するロジック回路に接続するといったことが行えます。これは長所になり得ます。
重要な仕様
オペアンプでは、クローズドループにおける誤差を小さく抑えるために、ゲイン帯域幅積(GB積)が信号の最高周波数よりも十分に高くなければなりません。式(1)を見ると、信号の最高周波数の10~100倍に相当するGB積を確保しなければならないことがわかります。式(1)から、A VOLは周波数の関数であり、クローズドループの精度に影響を及ぼします。また、位相余裕も重要な要素です。位相余裕は、容量性の負荷によって変動します。したがって、データシート(スペック表)にはテストの条件が明記されている必要があります。また、DC精度の低下を防ぐためには、オフセット電圧を小さく抑えなければなりません。オフセット電圧は、トリミングされたバイポーラのオペアンプで25µV~100µV、FET入力のオペアンプで200µV~500µVといったレベルです。また、オートゼロ/チョッパ/ゼロドリフトのオペアンプでは、オフセット電圧は全温度範囲にわたって最大20µV未満に抑えられます。「OP27」、「AD8610」、「ADA4522」など、標準的なオペアンプ製品のデータシートを確認してみてください。
コンパレータでは、伝搬遅延が重要な仕様になります。オーバードライブすると速度が低下するオペアンプとは異なり、コンパレータではオーバードライブによって速度が増します。製品によって異なりますが、データシートには、伝搬遅延として5mVといった小さいオーバードライブ量の場合の値が記載され、50mVあるいは100mVといった大きなオーバードライブ量の場合の遅延は別の項目として記載されていることがあります。
計装アンプで最も重要な特性は、同相ノイズ除去比(CMRR:Common Mode Rejection Ratio)です。計装アンプは、大きなコモンモード電圧に重畳している非常に小さな信号を差動で抽出するために使用されるからです。他の多くの特性と同様に、CMRRの値は周波数に依存して変化します。データシートには、DCにおける値や非常に低い周波数における値が記載されているケースがありますが、通常は周波数に対する値を示したグラフが掲載されています。図7に示したのは、モータ駆動のアプリケーションで計装アンプを使用する例です。このように、Hブリッジによって電流を検出する場合、CMRRの周波数特性は重要な意味を持ちます。
この種のアプリケーションは、計装アンプにとっておそらく最も条件が厳しいものであるはずです。コモンモード電圧が一方の電源の近くからもう一方の電源の近くまで変化し、電流が急速に反転するからです。このようなアプリケーションでは、計装アンプのGB積とスルー・レートが重要になります。
プログラミングの方法
計装アンプ製品の中には、SPI(Serial Peripheral Interface)ポートやレジスタを利用したソフトウェア・ベースのプログラミング機能を備えているものがあります。ただ、ここで言うプログラミングとは、そうしたコードを記述することを意味しているのではありません。そうではなく、システムの要件を満たすように部品を選択して回路を構成することを意味します。
オペアンプでは、負帰還を実現するために外付け部品を使用します。負帰還は抵抗だけでも実現できますが、通常、抵抗と並列にコンデンサを接続して帯域幅を制限します。そうすると、全帯域にわたってノイズが積分されるので、帯域の一部しか使用しない場合でもS/N比が向上します。なお、コンデンサだけを使用して積分器や微分器を実現することも可能です。
先述したように、通常、コンパレータはわずかな正帰還をかけて使用します。それにより、入力に応じて出力が確実に変化するようにします。MT-083には、これに関する計算方法と図が掲載されています。コンパレータ製品の中には、ヒステリシス機能を内蔵しているものがあります。通常、そうした製品においても、必要に応じてヒステリシスの量を増やすことが可能です。ヒステリシスの量を少し変化させるために抵抗を追加できるよう、専用のピンを備えている製品も存在します。
先述したように、オペアンプをコンパレータとして使用することは可能ですが、多くの場合、理想的な結果は得られません。そのような使い方をする場合には、いくつかの事柄について考慮する必要があります。現実の稼働環境では、優れたアナログ技術者でなければ問題に対処することはできないでしょう。MT-083には、考慮すべきいくつかの事柄についての記載があります。また、この使い方のメリット/デメリットについて述べた多くの記事が執筆されています。敢えて危ない橋を渡ろうとする場合には、ぜひ稿末の参考資料を参照してください。
ほとんどの場合、コンパレータのプログラムには抵抗が使用されます。値の大きい抵抗を追加することで、わずかな正帰還をかけることが可能です。また、コンデンサを使用してACの帰還をかけることにより、DCのヒステリシスが加わるのを避けることもできます。先ほど触れたとおり、ヒステリシス機能を備えるコンパレータ製品についても、わずかな正帰還をかけることによってヒステリシス量を増やすことが可能です。
もう1つの注意点
繰り返しになりますが、オペアンプをコンパレータとして使用する場合には注意が必要です。ほとんどのコンパレータでは、全入力範囲の80%以上が入力コモンモード範囲に相当します。一方、ノイズが小さいことを特徴とするバイポーラのオペアンプは、多くの場合、2つの入力の間に逆並列ダイオードを備えています。また、そうしたオペアンプの中には、2つの入力の間に1個または2個のダイオードが直列に存在しているものがあります。その目的は、ツェナー降伏を起こしたエミッタ‐ベース間の接合から入力段を切り離すことです。このツェナー降伏は、ノイズ性能が経時劣化を起こす原因となります。
例として、3.3V系のシステムにおいて、パワーグッドを表すインジケータ用に3Vの閾値レベルを備えたコンパレータを使用したいケースを考えます。そのコンパレータ機能を実現するために、5V系のオペアンプを使用したと仮定しましょう。その場合、一方の入力が3Vでもう一方の入力が0Vという状態になったときに問題が発生します。上記のダイオードにより、オペアンプの入力部が許容可能な最大差動電圧が制限されるからです。
まとめ
オペアンプには、DC精度、AC精度、入力オフセット電圧、GB積、電源電圧といった性能指標が存在します。多くのアプリケーションでは、いずれかの性能を重視してオペアンプ製品を選択することになるでしょう。2020年の時点では、700種以上のオペアンプ製品が選択肢として存在します。一方、コンパレータにおいて重要なパラメータは、通常は伝搬遅延と電源電圧です。オペアンプと比べれば選択は若干容易ですが、それでも122種もの製品が存在します。計装アンプを選択する際には、周波数の関数としてのCMRRが重要な指標になります。もちろん重要なのはそれだけではなく、DC付近での性能やオフセット電圧、ゲイン精度にも注意を払わなければなりません。計装アンプはやや特殊な製品なので、選択肢は限られています。その数は“わずか”63種にすぎません。
製品を適切に選択することにより、何年間にもわたってトラブルに見舞われることのない設計を実現することが可能になります。
参考資料
1 Harry Holt「The Maximum Supply Current that Wasn’t(それは電源電流の最大値ではなかった)」Analog Devices、2011年11月
2 MT-083 Tutorial、「Comparators(コンパレータ)」Analog Devices、2009年
3 Reza Moghimi「Curing Comparator Instability with Hysteresis.(コンパレータの安定性を実現するヒステリシス)」 Analog Dialogue、Vol. 34、No. 7、2000年11月
4 「計装アンプの設計ガイド 第3版」Analog Devices、2006年