G=½の差動出力ディファレンス・アンプ・システム

小さなジオメトリ・プロセスに基づいて設計された高性能A/Dコンバータ(ADC)は、一般に1.8~5Vの単電源または±5Vの両電源で動作します 。±10V以上の実際の信号を処理する場合は、ADCの前にアンプを配置することがよくあります。このアンプで信号を減衰し、ADC入力の飽和や過電圧によるダメージを防ぐことができます。このアンプは一般にシングルエンド出力を出力しますが、ダイナミック・レンジの増大、同相ノイズ除去比の改善、ノイズ感度の低減など、差動入力ADCの利点をフル活用するには差動出力のほうが有効です。図1は、ゲインが½の差動出力アンプ・システムを示します。

Figure 1
図1. G=½の差動出力ディファレンス・アンプの機能ブロック図

差動アンプA1は½のゲインとなるよう構成されています。このアンプの出力はアンプA2の非反転入力とアンプA3の反転入力に入力されます。アンプA2とA3も½のゲインで動作します。位相が180°ずれたこれらの出力は、差動信号を形成します。差動出力電圧 VOUT A2 – VOUT A3 は、したがって、VIN/4 – (–VIN/4) と表され、差動出力電圧VIN /2となります。

VOFFSET 端子を用いて出力をオフセットし、ADCのダイナミック・レンジを増大させることもできます。VOFFSETから 出力までの差動ゲインは-1です。オフセットの調整が不要な場合は、このノードをグラウンドに接続してください。

VCM 端子で、差動出力の同相電圧を設定します。回路の出力同相電圧を電源中央値に設定できるので、この端子は特に単電源ADCを駆動するときに役に立ちます。VCMから出力までのゲインは1です。同相電圧のシフトが不要な場合は、このノードをグラウンドに接続してください。

図2は回路の性能を示します。入力は25kHz、20Vp-pのサイン波です。プロットのチャンネル1は非反転出力、チャンネル2(チャンネル1のプロットと 重なって表示)は反転出力、チャンネル3は入力信号です。Mと表示されている演算チャンネル(Math Channel)は、反転、非反転の出力間の差です。各出力は入力信号の¼となっていて、2つの出力は互いを基準に反転され、その差の振幅は入力信号の½となります。

Figure 2
図2. 入力信号とその½ 振幅の差動出力

図3は回路の周波数応答とゲインの関係を示しており、帯域幅1MHz、ピーキング1dB未満で、ゲインは安定しています。

Figure 3
図3. 差動出力ディファレンス・アンプの周波数応答

図4では、大きな矩形波入力に対する回路の応答に顕著なオーバーシュートはなく、短時間でセトリングしていることを示しています。各アンプは 信号の半分の振幅しか伝送しないので、差動出力は各出力の2倍の速さでスルーします。

Figure 4
図4. 差動出力ディファレンス・アンプの大信号性能

デュアル・ディファレンス・アンプのAD8279 はナローボディの14ピン SOICパッケージを採用し、AD8278 は8ピンMSOPパッケージを採用しています。高精度レーザートリム抵抗はアンプと同じチップに集積されるので、抵抗のオフセット、ゲイン誤差、同相電圧誤差、それに温度の変化に伴うドリフトが最小限に抑えられ、高精度システムに有効に機能します。AD8278(200μA)とAD8279(1アンプ当たり200μA)は、低消費電力でありながら、システムの帯域幅は1MHz、スルーレートは2.4V/μsです。AD8278/AD8279は、単電源の2.5Vから両電源の±18Vまで、非常に広い電源範囲で動作できます。入力は電源レールを更に越えてスイングできるので、大きな同相電圧/ノイズが存在する中で大信号(±20V以上)を測定することが可能です。そのため、これは高性能の低電圧ADCにとって理想的なフロントエンドとなります。

著者

Moshe-Gerstenhaber

Moshe Gerstenhaber

Moshe Gerstenhaberは、アナログ・デバイセズのディビジョン・フェローです。1978年の入社以来、長年にわたり製造、製品エンジニアリング、製品設計などの部門でさまざまな上級職として活躍してきました。現在は、集積アンプ製品グループの設計マネージャです。アンプ設計、特に計装アンプや差動アンプなどの超高精度特殊アンプ分野でこれまで多大な貢献があります。

Michael O'Sullivan

Michael O'Sullivan

Michael O’Sullivanは、2004年からアナログ・デバイセズに勤務しています。現在は、集積アンプ製品グループの製品&テスト・エンジニアリング・マネージャであり、製品の特性評価、計装アンプや差動アンプなどの超高精度特殊アンプのリリースをサポートしています。入社以前も、半導体分野の製品エンジニアとして14年以上の実績がありました。