DC電力の計測アプリケーション

なぜ、DC電力の計測が重要なのか?

現在、各国政府はCO2の排出量を削減するために、複雑で長期的な課題に対処するための行動計画を策定しようとしています。CO2の排出は、気候の壊滅的な変動を引き起こす原因になることが証明されています。そのため、効率の高いエネルギー変換技術を新たに生み出すこと、またバッテリ・ケミストリを改善することが強く求められています。

エネルギー源には、再生可能なものとそうではないものがあります。世界では両方のエネルギー源が使用されており、2020年には約18兆kWhの電力が消費されました。しかも、電力の需要は更に増え続けています。実際、これまでに生成されたエネルギーのうち半分以上は過去15年の間に消費されました。

電力網は常に拡張されており、発電装置も増え続けています。そして、より効率が高く、環境に優しい電力の必要性がかつてないほどに高まっています。初期の送電事業者は、使いやすさを優先して交流(AC)電力を供給していました。ただ、多くの分野では、直流(DC)電力の供給を受ける方が飛躍的に効率を高めることができます。

最近では、GaNやSiCといったワイド・バンドギャップ半導体を使用する高効率で経済的な電力変換技術が使われるようになりました。それに牽引されて、多くのアプリケーションに対してはAC電力ではなくDC電力が供給されるようになり、それによるメリットが享受されるようになりました。その結果、電力の課金に関連してDC電力を高い精度で計測できるようにすることがより重要になりました。本稿では、様々な分野においてDC電力の計測がもたらすビジネス・チャンスについて説明します。具体的な用途の例としては、電気自動車(EV)用の充電ステーション、再生可能エネルギーによる発電、サーバ・ファーム、マイクログリッド、ピアtoピアのエネルギー共有などを取り上げます。その上で、DC電力量計の設計について提案を行います。

DC電力量計の用途

まずは、DC電力量計が必要になるいくつかの用途について説明します。

EV用のDC充電ステーション

プラグイン方式のEVは、2018年現在、70%のCAGR(年平均成長率)で普及しています1。2017年から2024年までのCAGRは25%に達する見込みです2。それを受けて、充電ステーションの市場は、2018年から2023年までに41.8%のCAGRで拡大すると見られています3。自家用車に起因するCO2排出量の削減を加速するためには、自動車の市場においてEVがいちばんの購入候補になるようにする必要があります。

バッテリの容量を拡大し、寿命を延ばすことに対しては多大な努力が払われています。しかし、航続距離や充電時間について気を配ることなく、より長い距離を走行できるようにするためには、満たすべき1つの条件があります。それは、充電用のネットワークを普及させることです。エネルギー事業者や民間企業の多くは、最大150kWの高速チャージャを採用しています。また、充電パイル1本あたり最大500kWの電力に対応できる超高速チャージャにも強い関心が集まっています。MWレベルのピーク電力で充電を実施できる超高速充電ステーションが設置されるようになれば、消費される電力にはプレミア料金が適用されることになるでしょう。そうすると、EVの充電については巨大な市場が形成されることになります。また、その市場では、電力の使用量を正確に計測し、適切に課金が行われるようにしなければなりません。

現在、標準的なEVチャージャでは、AC側で電力量を計測しています。そのため、計測結果にはAC/DC変換の際に生じる電力損失が反映されないという欠点があります。つまり、顧客に対して適切な金額が請求されていない状態になります。2019年以降、EU(欧州連合)では新たな規制により、エネルギー事業者に対してはEVに真に供給された電力のみを対象として請求を実施することが義務づけられています。つまり、電力変換や配電を行う際に生じる損失についてはエネルギー事業者が負担しなければならないということです。

最先端のSiCを採用したEV用のコンバータでは、97%を超える効率を達成することができます。車両のバッテリに直接接続し、電力をDCで供給する高速/超高速チャージャでは、DC電力量の計測を行い、正確に課金できるようにしなければならないことは明らかです。このように、EVの充電については、事業者側においてDC電力量計に対する関心が高まっています。民間のステーションや住宅で行われるピアtoピアの充電についても、DC電力量を正確に計測し、適切に課金できるようにすることがより強く求められるようになる可能性もあります(図1)。

図1. 将来のEV用充電ステーション。各所にDC電力量計が必要になります。
図1. 将来のEV用充電ステーション。各所にDC電力量計が必要になります。
図2. サステナブルなマイクログリッドのインフラ。DC電力量計が使われます。
図2. サステナブルなマイクログリッドのインフラ。DC電力量計が使われます。

DCによる配電――マイクログリッド

マイクログリッドとは、簡単に言えば商用電力系統の小型版のことです(図2)。具体的な例は、病院や軍事基地などで見られます。また、再生可能エネルギーを利用する発電所、燃料発電機、蓄電システムが協調動作する信頼性の高い電力供給システムの一部としても使われています。当然のことながら、マイクログリッドには、安全で、信頼性が高く、高い効率が得られることが求められます。

マイクログリッドが使われているビルなども存在します。再生可能エネルギーを使用する発電機が普及すれば、電力を自給自足でまかなうビルも実現可能です。太陽光パネルや小規模の風力タービンを屋上に配備し、独立した形でできるだけ多くの発電を行いつつ、グリッドによってバックアップされているという形態が想定できます。

ビルの電力負荷のうち、50%はDC電力で動作しています。各デバイスではACからDCへの変換を行わなければならず、その過程で最大20%もの電力が失われています。現状のAC配電については、最大28%もの節電の余地があると見込まれています4

建物に対してDC給電を行う場合、AC電力を一括してDC電力に変換する方法が考えられます。そして、得られた電力を、LED照明やコンピュータなど、DC電力を必要とする機器に直接供給します。それによって、消費電力を削減することができます。

DC電力を供給するマイクログリッドについては、規格の策定が進んでいます。このことからも、その種のマイクログリッドに対して急速に関心が高まっていることがわかります。

代表的な規格としては、現在承認待ちの状態にあるIEC 62053-41が挙げられます。この規格では、住居用のDCシステムに対する要件と公称レベルが定められています。また、DC電力の計測に使われる、AC電力量計と同等の密閉型メータについても定義されています。

DC電力を供給するマイクログリッドの市場は、2017年の時点で約70億米ドル(約7450億円)の規模と評価されています5。DC配電に関する最新動向を確認すれば、更なる成長が見込めることがわかります。

データ・センターに対するDC配電

データ・センターでは、電力が非常に大きなコスト要因になります。そのため、データ・センターの事業者は施設の電力効率を改善するために、様々な技術やソリューションを積極的に検討しています。

データ・センターの事業者は、DC配電には大きなメリットがあると考えています。ACとDCの間の変換回数を最小限に減らすことができると共に、再生可能エネルギーとの統合がより簡単で効率的になるからです(図3、図4)。変換回数を減らすことによる効果は、以下のように見積もられています。

  • 5% ~ 25% の電力削減。伝送/変換における効率の向上、発熱量の減少を見込むことができます。
  • 信頼性と可用性が 2 倍に
  • 床面積を 33% 削減
図3. データ・センター用のDC電源。従来のAC配電と比べて、必要なコンポーネント数と損失を削減できます。
図3. データ・センター用のDC電源。従来のAC配電と比べて、必要なコンポーネント数と損失を削減できます。 
図4. DC配電型のデータ・センターにおける再生可能エネルギー源の統合
図4. DC配電型のデータ・センターにおける再生可能エネルギー源の統合

配電バスの電圧は最大約380VDCに達します。事業者の多くは、コロケーションのサーバを利用する顧客に対し、電力の使用量に応じて課金する方法への移行を進めています。つまり、計測をベースとする課金方法の採用が進んでいるということです。結果として、正確なDC電力量計に対する関心が高まっています。

コロケーションのサーバを利用する顧客に対する課金方法としては、以下に示す2つが最も一般的です。

  • ホイップあたりの課金(コンセントごとの定額料金)
  • 消費電力量に対する課金(従量制コンセントを使用。1kWhごとに課金する)

現在は、電力効率の向上に向けて、従量制の課金方法が普及しつつあります。料金の算出方法は、以下のような式で表すことができます。

[経常費用] = [スペースの料金] + ([IT機器の検針値]× PUE)

上式の構成要素の意味は以下のとおりです。

  • スペースの料金:固定の料金。セキュリティに関するコストや建物の全運用コストも考慮した値になります。
  • IT 機器の検針値:IT 機器が消費した電力量(kWh)にエネルギー・コストをかけた値です。
  • PUE:電力使用効率(Power Usage Effectiveness)。冷却方法なども含め、IT インフラにおける効率を表す値になります。

最新の標準的なラックでは、最大40kWのDC電力を消費します。課金用のDC電力量計では、最大100Aの電流を監視する必要があります。

高精度のDC電力量計を実現する上での課題

1900年代の初頭、AC電力量計は完全に電気機械式で実現されていました。その仕組みは次のようなものでした。まず、電圧コイルと電流コイルを組み合わせて使用し、回転するアルミ円板に渦電流を誘起します。その結果として、円板にはトルクが生じます。そのトルクは、電圧コイルと電流コイルによって発生した磁束の積に比例しています。ここで、円板に制動磁石を追加すると、回転速度は負荷が消費する有効電力に正比例します。一定期間における回転数をカウントすることにより、消費電力を計測できるという仕組みです。

言うまでもなく、最新のAC電力量計は、はるかに複雑で正確なものになりました。改ざんの兆候を検知する機能なども実装されています。最先端のスマート・メータは、現場に配備されてから24時間/365日休みなく高い精度で監視を行います。このようなスマート・メータ向けに、アナログ・デバイセズはmSure®技術を適用した電力量計用IC「ADE9153B」を提供しています。電力量計には、従来のもの、最新のもの、AC用、DC用といった種類があります。いずれにせよ、電力量計はkWhあたりのパルス定数と%で表されるクラス精度によって分類することができます。kWhあたりのパルス数というのは、電力の更新レートのことです。つまり、分解能を表します。一方、クラス精度とは電力の最大測定誤差のことです。

旧式の機械式のものと似ていますが、電力量計では、パルスをカウントすることによって所定の時間間隔内の電力が算出されます。パルスの周波数が高いほど瞬時電力が大きく、パルスの周波数が低いほど瞬時電力が小さいということになります。

DC電力量計のアーキテクチャ

図5に、DC電力量計の基本的なアーキテクチャを示しました。負荷が消費する電力(P = V×I)を計測するためには、少なくとも、1つの電流センサーと1つの電圧センサーが必要です。ロー・サイドがアース電位である場合、通常、電力量計に流れる電流はハイ・サイドで測定します。その理由は、リーク電流が測定されないリスクを最小限に抑えたいからです。ただ、アーキテクチャによっては、必要に応じてロー・サイドまたは両サイドで電流を測定することも可能です。負荷の両側で電流を測定して比較する方式は、多くの場合、障害や改ざんを検出する機能も備えた電力量計を実現するために使用されます。但し、両サイドで電流を測定する場合、導体にかかる高い電圧に対処するために少なくとも1つの電流センサーを絶縁する必要があります。

電圧の測定

通常、電圧は抵抗分圧器を使用して測定します。計測用のA/Dコンバータ(ADC)の入力電圧範囲に適合するように、抵抗ラダーを使って測定の対象となる電圧を低下させるということです。

入力信号の振幅が大きければ、標準的なコンポーネントを使用して簡単かつ正確に電圧を測定することができます。但し、全温度範囲にわたって必要な精度を得るには、選択したコンポーネントの温度係数と電圧係数に注意する必要があります。

先述したように、EV用の充電ステーションなどでは、車両に伝送された電力だけに対して課金するためにDC電力量計が必要になります。その要件を満たすためには、DC電力量計に複数の電圧チャンネルを設けなければならないかもしれません。それにより、車両の差込口で電圧を検出できるようになるでしょう。4線式の計測方法を採用したDC電力量計を使うことで、充電パイルとケーブルにおける抵抗性の全損失を電力料金から確実に差し引くことが可能になります。

図5. DC電力量計のアーキテクチャ
図5. DC電力量計のアーキテクチャ

DC電力量計における電流の測定

電流は、直接的な接続を行うことでも、間接的な接続を行うことでも測定できます。間接的な接続を行う方法では、電荷(キャリア)の流れによって発生する磁界を検出することで電流を測定します。以下では、DC電流の測定に使用される最も一般的なセンサーについて説明します。

シャント抵抗

直接的な接続を行う方法では、値が既知のシャント抵抗を流れる電流を検出します。これは、AC/DC電流の測定方法として十分な実績を積み重ねてきた手法です。シャント抵抗の両端の電圧降下は、オームの法則(V = R×I)に従い、電流値に正比例します。この電圧降下を増幅してデジタル化することで、回路に流れる電流を正確に把握することができます。

シャント抵抗を使う方法は、mAからkAのレベルの電流を測定するための安価かつ正確で強力な手段です。また、理論的には帯域幅に関する制限はありません。しかし、この方法にはいくつかの欠点があります。

まず、抵抗に電流が流れると、電流の2乗に比例してジュール熱が発生します。この損失によって効率が低下します。それだけでなく、自己発熱によってシャント抵抗の値が変化し、測定精度が低下してしまいます。自己発熱の影響を抑えるためには、値の小さい抵抗を使用します。しかし、そうすると、抵抗両端の電圧も低くなります。その結果、電圧の値がシステムのDCオフセットと同程度になってしまうこともあります。そのような状態では、ダイナミック・レンジの下側で計測を行うことになり、必要な精度が得られなくなる可能性があります。DCオフセットと温度ドリフトが非常に小さい最先端のアナログ・フロント・エンドを使用すれば、シャント抵抗の値が小さい場合の問題を克服することができます。しかし、オペアンプのゲイン帯域幅積は一定なので、ゲインを高めた場合、利用可能な帯域幅が抑えられてしまいます。

通常、値の小さいシャント抵抗の材料としては、マンガン‐銅やニッケル‐クロムといった特殊な金属合金が使われます。各金属の逆向きの温度ドリフトが打ち消し合うことで、トータルのドリフトは数十ppm/°Cのオーダーに抑えられます。

直接的な接続を行うDC測定には、もう1つの誤差要因があります。それは、熱起電力(EMF:Thermal Electromotive Force)という現象です。これは、ゼーベック効果としても知られています。ゼーベック効果とは、接合している2つ以上の異種導電体/半導体に温度差が生じることで、両者の間に電位差が発生するというものです。温度の測定に使用される熱電対では、ゼーベック効果が基本原理として利用されています。

4線式の接続による電流測定では、シャント抵抗(合金素子)の中央部でジュール熱が発生します。これが、プリント回路基板(または別の媒体)に接続されている銅製の検出ワイヤに伝搬し、温度差が生じてしまう可能性があります(図6)。

電流検出用の回路では、様々な材料が対称的な分布を形成します。そのため、正と負の検出ワイヤの接合部における電圧はほぼ相殺されます。但し、負の検出ワイヤがより大きな銅の塊(グラウンド・プレーン)に接続されているといった場合、熱容量の違いによって温度分布が不均一になります。その結果、EMFの効果によって測定誤差が発生することがあります。したがって、シャント抵抗の接続と発生する熱の分布については、十分に注意を払う必要があります。

したがって、シャント抵抗の接続と発生する熱の分布については、十分に注意を払う必要があります。

図6. 温度勾配の影響。シャント抵抗にEMFが生じ、測定誤差が発生します。
図6. 温度勾配の影響。シャント抵抗にEMFが生じ、測定誤差が発生します。

磁界の検出による間接的な電流測定

続いて、間接的な接続によって電流を測定する方法について説明します。この方法では、磁界の検出を利用します。

オープンループ方式の電流センサー

オープンループ方式の電流センサーは、透磁率の高いリング状の磁気コアに電流検出用のワイヤを通す形で構成されます(図7)。これによって、測定の対象となる導体の周囲の磁力線が、磁気コアの断面内に挿入されたホール・センサーに集中します。同センサーの出力はそのままでは使いにくいので、プリコンディショニングを施します。一般的なインターフェースとしては、0V~5V、4mA~20mA、デジタル・インターフェースが使用されます。オープンループ方式の電流センサーを使えば、コストを比較的低く抑えつつ、絶縁と広い電流範囲に対応することができます。但し、絶対精度が1%未満の範囲内に収まることはほとんどありません。

クローズドループ方式の電流センサー

クローズドループ方式の電流センサーは、透磁性のコアに2次巻線を複数回巻き、それを電流アンプで駆動する形で構成します。すると、負帰還がかかり、全磁束がゼロになる状態を実現することができます。その際の補償電流を測定することにより、直線性を改善すると共に、コアのヒステリシスを排除することが可能になります。その結果、オープンループ方式の電流センサーと比べて、全体的に優れた温度ドリフトと精度を実現することができます。標準的な誤差は0.5%までの範囲に抑えられます。但し、補償用の回路を追加することからコストが上昇します。また、帯域幅が制限されることもあります。

フラックスゲート

フラックスゲートというのは、意図的に飽和させたコアの磁束の変化を監視することによって電流を計測するオープンループ/クローズドループの複雑なシステムのことです。この種のシステムでは、透磁率の高い強磁性体のコアにコイルを巻き、対称的な方形波の電圧によって2次コイルを駆動します。それにより、コアを意図的に飽和させます。コイルのインダクタンスは、コアが正または負の飽和に近づくたびに減衰するので、電流の変化率が増加します。外部から磁界が更に印加されない限り、コイルの電流波形は対称のままです。逆に、外部からの磁界が更に印加されると波形が非対称になります。この非対称な波形の大きさを測定することにより、外部からの磁界の強度を推定することができます。その結果から、磁界を発生させた電流の値を推定するという仕組みです。この方式は、温度に対する安定性に優れており、精度も0.1%以下に抑えられます。但し、センサーを構成する電子回路が複雑になるので、他の絶縁ソリューションと比べて価格が10倍に達することもあります。

図7. オープンループ方式の電流センサー。磁束用のコンセントレータと磁気センサー(ホール・センサー)を組み合わせた電流トランスデューサとして機能します。
図7. オープンループ方式の電流センサー。磁束用のコンセントレータと磁気センサー(ホール・センサー)を組み合わせた電流トランスデューサとして機能します。
図8. クローズドループ方式の電流センサー
図8. クローズドループ方式の電流センサー

DC電力量計に対する要件、標準化

AC電力量計の標準化に関する既存のエコシステムのことを考えれば、DC電力量計に関する標準化は比較的容易であるように思えるかもしれません。しかし、業界内では様々なアプリケーションの要件について利害関係者が現在も議論を続けています。DC電力量計の規格については、調整のための時間が必要になっているということです。

IEC(国際電気標準会議)は、クラス精度が0.5%、1%で有効電力を対象とするDC電力量計に対する要件を定めるためにIEC 62053-41の策定に取り組んでいます。

この規格では、公称電圧と公称電流の範囲を提案し、DC電力量計の電圧/電流チャンネルにおける最大消費電力の限界値を定めています。また、AC電力量計に対する要件と同様に、無負荷の状態における電流の閾値と併せて、ダイナミック・レンジ全体にわたり具体的な精度を定義しています。

同規格のドラフトでは、システムの帯域幅に関する要件は明示されていません。ただ、高速な負荷変動に関するテストを実施することが求められています。それにより、システムの最小帯域幅に関する要件が暗黙のうちに定義されていることになります。

EV用の充電アプリケーションで使われるDC電力量計は、ドイツの規格であるVDE-AR-E 2418または古い鉄道用の規格であるEN 50463-2に準拠している可能性があります。EN 50463-2では、トランスデューサごとに精度が規定されています。また、総電力誤差は、次式のように、電圧、電流、計算誤差の2乗和平方根で算出すると定義されています。

数式 1

表1. EN 50463-2で規定された最大電流誤差
電流範囲 クラス0.2R クラス0.5R クラス1R
INの1%~5% 1% 2.5% 5%
INの5%~10% 0.4% 1% 1.5%
INの10%~120% 0.2% 0.5% 1%
表2. EN 50463-2で規定された最大電圧誤差
電圧範囲 クラス0.2R クラス0.5R クラス1R
VNの66%未満 0.4% 1% 2%
VNの66%~130% 0.2% 0.5% 1%

概念実証用のDC電力量計、IEC 62053-41に準拠

アナログ・デバイセズは、高精度のセンシング技術で業界を牽引しています。電流/電圧を高い精度で計測する用途に向けて、厳しい規格や要件を満たすシグナル・チェーン製品群を提供しています。以下、それらの製品を使って構成したDC電力量計を紹介します。その回路は、DC電力量計の概念実証を目的として構成したものです。現在策定中の特定用途向け規格であるIEC 62053-41に準拠しています。

表3に示したのは、概念実証に向けて策定したDC電力量計の仕様です。マイクログリッドやデータ・センターにおける課金の用途を想定して各値を設定しました。

表3. DC電力量計(概念実証用)の仕様
定格
公称値 ダイナミック・レンジ 最大測定範囲
電圧
±400 VDC 100:1 ±600 V
電流
±80 A 100:1 ±240 A
精度
INOMの1%~5% 1%
INOMの5%~120% 0.5%
温度
-25°C~55°C
-40°C~70°C(保存温度)
電力量計の定数
1000 imp/kWh
電圧/電流の帯域幅
2.5 kHz

コストを抑えつつ、高い精度で電流検出を行うには、値と起電力が小さいシャント抵抗を使用するとよいでしょう。起電力の値としては1µVEMF/°C未満が目安になります。自己発熱の影響を低減し、規格で求められる上限値未満に電力を抑えるためには、シャント抵抗の値を小さく抑えることが基本になります。

市販の75µΩのシャント抵抗を使用すれば、消費電力を0.5W未満に抑えることができます。

図9. DC電力量計のアーキテクチャ
図9. DC電力量計のアーキテクチャ

但し、公称値が80Aである場合、1%の電流によって75µΩの抵抗に生じる電圧はわずか60µVです。したがって、シグナル・チェーンはオフセット・ドリフト性能が1µVを下回るように構成する必要があります。

図9に示したのが、DC電力量計の概念実証を目的として構成した回路です。

図中の「ADA4528」は、最大オフセット電圧が2.5μV、最大オフセット電圧のドリフトが0.015μV/°Cのオペアンプです。この製品は、ドリフトを極めて小さく抑えつつ、シャント抵抗に生じる小さな電圧を100V/Vで増幅したいといった場合に適しています。入力換算のオフセット・ドリフトはわずか5nV/°Cです。そのため、分解能が24ビットで同時サンプリングに対応する8チャンネルのADC「AD7779」に直接接続することができます。

また、同ADCの別のチャンネルには、分圧比が1000:1の抵抗分圧器を接続しています。このような構成により、大きなDC電圧を正確に測定することが可能です。

図9の回路では、マイクロコントローラを使用しています。これにより、サンプリングが行われるたびに割り込みをかけるというシンプルな計測機能を実装することができます。その場合、各ADCにおいてサンプリングが実施される際に実行される割り込みルーチンは、以下のようなものになります。

  • サンプリングした電圧値と電流値を読み込む
  • 瞬時電力(P = I × V)を計算する
  • アキュムレータによって瞬時電力を積算する
  • アキュムレータによる積算結果が、電力パルスの生成に使用する閾値を超えているかどうかを確認し、アキュムレータのレジスタをクリアする

また、マイクロコントローラを使えば、計測機能に加えて、RS-485による通信機能、液晶ディスプレイ、プッシュ・ボタンといったシステム・レベルのインターフェースを構築することも可能になります(図10)。

図10. DC電力量計の外観
図10. DC電力量計の外観

参考資料

1 Tom Turrentine、Scott Hardman、Dahlia Garas「Steering the Electric Vehicle Transition to Sustainability(持続可能な電気自動車への移行)」National Center for Sustainable Transportation、UC Davis、2018年7月

2 「Global Electric Vehicle Market Report by Type (Battery Electric Vehicle, Hybrid Electric Vehicle, and Plug-In Hybrid Electric Vehicles), by Vehicle Type (Two Wheeler, Passenger Car, and Commercial Vehicles), and by Regions -- Industry Trends, Size, Share, Growth, Estimation, and Forecast, 2017-2024(電気自動車の世界市場レポート:タイプ別(バッテリ電気自動車、ハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車)、車両タイプ別(2輪車、乗用車、商用車)、地域別 -- 業界の動向、サイズ、シェア、成長性、推定、予測、2017年~2024年)」、Value Market Research

3 Electric Vehicle Charging Stations Market by Charging Station (AC Charging Station, DC Charging Station), Installation Type (Residential, Commercial), and Region (North America, Europe, Asia Pacific, and Row) -- Global Forecast to 2023(電気自動車向け充電ステーションの市場:充電ステーション別(AC充電ステーション、DC充電ステーション)、設置タイプ別(住宅用、商用)、地域別(北米、欧州、アジア太平洋、その他)-- 2023年までのグローバル市場予測)」、Research and Markets、2018年4月

4 Venkata Anand Prabhala、Bhanu Prashant Baddipadiga、Poria Fajri、Mehdi Ferdowsi「An Overview of Direct Current Distribution System Architectures and Benefits(直流配電システムのアーキテクチャとメリット)」、MDPI、2018年9月

5 「Global Microgrid Market by Type (AC Microgrid, DC Microgrid, Hybrid), Connectivity (Grid Connected, Remote/Island), Offering (Hardware, Services, Software), Power Source (Natural Gas, Solar, Fuel Cells, Combined Heat and Power, Diesel, and Others), Application (Healthcare, Industrial, Military, Electric Utility, and Educational Institutions), Region (North America, Europe, Asia Pacific, South America, and Middle East and Africa), Global Industry Analysis, Market Size, Share, Growth, Trends, and Forecast, 2018-2025(マイクログリッドの世界市場:タイプ別(ACマイクログリッド、DCマイクログリッド、ハイブリッド)、接続性別(グリッド接続、遠隔地/島嶼)、提供物(ハードウェア、サービス、ソフトウェア)、発電方法別(天然ガス、太陽光、燃料電池、熱電併給、ディーゼル、その他)、アプリケーション別(ヘルスケア、産業用、防衛用、電気事業、教育機関)、地域別(北米、欧州、アジア太平洋、南米、中東/アフリカ)、グローバルな産業分析、市場規模、シェア、成長性、動向、予測、2018年~2025年)」、 Researchstore.biz

著者

Luca Martini

Luca Martini

Luca Martiniは、アナログ・デバイセズのシステム・エンジニアです。2016年に入社しました。エネルギー/産業システム・グループ(英国エジンバラ)に所属しています。修士号の取得に向けた活動の一環として、フラウンホーファ集積回路研究所(ドイツ ニュルンベルグ)で7ヵ月間過ごし、圧電素子を使用したエネルギー・ハーベスタの特性評価に用いる高精度のリアルタイム制御システムの開発に従事。2006年から2016年までは、バイオメディカル・セクターにおいてシステム/ハードウェアの開発を担当しました。2016年に、イタリアのボローニャ大学でエネルギー分野を対象として電子工学/通信工学の修士号を取得しています。