多様なアナログ回路の実現に役立つ電流源の活用テクニック

アナログ回路の授業では、カレント・ミラーやハウランド電流源などの回路について学ぶはずです。しかしながら、多くの技術者は高精度のアナログ回路の出力を定義する場合、電圧の観点からしか考察しない傾向があります。これは非常に残念なことです。電流出力を選択することによってメリットが得られるケースも決して少なくないからです。具体例としては、ノイズの多い環境で0-20mA/4-20mAの電流ループ信号方式を使う場合や、電位差の大きいアナログ信号を光/磁気絶縁技術を使用しないでレベル・シフトする場合などが挙げられます。本稿では、そうしたいくつかの手法の概要を説明したうえで、多くの便利な回路を紹介します。

安定した電流出力を得るのはさほど難しいことではありません。最も簡単な方法はカレント・ミラーを使用することです。ここで言うカレント・ミラーとは、製造プロセス、形状、温度などの条件がすべて同じになるように、単一のチップ上に作られた2個のトランジスタを図1のように接続した回路のことです。2個のトランジスタT1、T2のベース‐エミッタ間電圧は等しいので、T2のコレクタに流れる出力電流はT1のコレクタに流れる入力電流と等しくなります。

Figure 1
図1. 基本的なカレント・ミラー

ここでは、T1とT2は同一の形状/性能で温度も等しく、電流利得が非常に大きいのでベース電流は無視できると仮定しています。また、コレクタ電圧によってコレクタ電流が変動する原因となるアーリー電圧も無視しています。

カレント・ミラーは、npn型、pnp型のうちどちらのトランジスタでも構成できます。図2(a)に示すように、n個のトランジスタを並列に接続してT2を構成すれば、出力電流は入力電流のn倍になります。また図2(b)に示すように、T1をm個のトランジスタ、T2をn個のトランジスタで構成すると、出力電流は入力電流のn/m倍になります。

Figure 2
図2. (a)は多段型のカレント・ミラー、(b)は非整数比のカレント・ミラー。(a)では、(b)と同様に3個のトランジスタのコレクタをつなぐことで、3×IINの出力電流を得ることができます

アーリー電圧の影響が重要な意味を持つケースがあります。それを最小限に抑えるためには、やや複雑な構成にはなりますが、ウィルソン・カレント・ミラーを使用するとよいでしょう。図3に、それぞれ3個、4個のトランジスタで構成されるウィルソン・カレント・ミラーを示しました。4個のトランジスタで構成したほうが精度が高く、ダイナミック・レンジも広くなります。

Figure 3
図3. ウィルソン・カレント・ミラーの構成例。T4はオプションだが、精度とダイナミック・レンジは向上する

図4のように回路を構成すれば、トランスコンダクタンス・アンプ(電圧入力を電流出力に変換するアンプ)を実現することができます。使用するのは、単一電源のオペアンプ、BJTまたはFET(ベース電流による誤差が生じないので、通常はMOSFETが最適)、トランスコンダクタンスを決める高精度の抵抗です。

Figure 4
図4. トランスコンダクタンス・アンプの構成例。入力電圧VINを出力電流IOUTに変換する

この回路は簡素かつ安価に構成できます。MOSFETのゲート電圧により、R1の上端の電圧V1が入力電圧VINと等しくなるように、MOSFETとR1を流れる電流が制御されます。

モノリシック型のICの場合、簡素なトランジスタを使ってカレント・ミラーを構成することができます。それに対し、ディスクリート部品でカレント・ミラーを構成する場合には、特性が同一のトランジスタを入手するために高いコストをかける必要があります(製造が困難というよりも、需要が限られているため)。そのため、図5に示すように、オペアンプを使ってカレント・ミラーを構成するほうがコストを抑えられます。このカレント・ミラーは、トランスコンダクタンス・アンプの回路に1個の抵抗を加えるだけで実現できます。

Figure 5
図5.オペアンプを使用して構成したカレント・ミラー

カレント・ミラーの入力インピーダンスは比較的高く、非線形であるケースもあります。そのため、高インピーダンスの電流源(定電流源)から電流を供給することが出来ます。また、入力電流が低インピーダンスで引き込まれる場合には、オペアンプが必要になります。図6に、入力が低インピーダンス(ZIN)のカレント・ミラーを2種類示しました。

Figure 6
図6. 2種類の低ZINカレント・ミラー。(a)は反転型で(b)は非反転型

基本的なカレント・ミラーや電流源では、入力電流と出力電流の向きが同じです。通常、出力側トランジスタのエミッタ/ソースは直接または電流検出抵抗を介して接地されます。そして、出力電流はコレクタ/ドレインから負荷に向かって流れます。負荷のもう一方の端子はDC電源に接続されます。負荷の一方の端子をグラウンドに接続しなければならない場合などには、そのような回路を常に使えるわけではありません。その場合も、図7に示すように、エミッタ/ソースがDC電源側になるように構成すれば問題はありません。

Figure 7
図7.接地された負荷向けのカレント・ミラー

グラウンドを基準にして電流または電圧を入力する場合、レベル・シフトを利用する必要があります。そのためのものとしてはさまざまな回路が考えられますが、多くの場合、図8に示す構成を使用できます。この簡素な構成では、グラウンド側の電流源を使用してDC電源側のカレント・ミラーを駆動し、そのカレント・ミラーが負荷を駆動します。カレント・ミラーがゲインを持つ場合、入力電流は負荷電流ほど大きくする必要はありません。

Figure 8
図8. カレント・ミラーにおけるレベル・シフト

ここまでに紹介した回路は電流が1方向に流れるユニポーラ型のものでしたが、バイポーラ(両方向)型の電流回路も実現できます。最も簡単でよく知られているのは、図9に示すハウランド電流ポンプです。ただし、この回路には多くの問題があります。例えば、高い出力インピーダンスを得るためには、非常に高い精度で抵抗の値を整合させなければなりません。また、この回路では入力源のインピーダンスが抵抗R1に加わります。そのため、抵抗値の誤差を最小化するためにインピーダンスを非常に小さく抑えなければなりません。さらに、電源電圧は最大出力電圧よりかなり高くする必要があり、オペアンプのCMRRもある程度高くなければなりません。

Figure 9
図9. バイポーラ型の電流出力に対応するハウランド電流ポンプ

最近では、高性能の計装アンプであっても、それほど高価ではありません。そのため、図10に示すように、1個のオペアンプと1個の計装アンプ、1個の電流検出抵抗を使用して比較的容易にバイポーラ型の電流源を構成することができます。この回路は、抵抗ネットワーク(計装アンプに集積されたものを除く)が不要なので、ハウランド電流ポンプよりも簡素です。また、電圧の振幅は各電源で約500mV以内に抑えられます。

Figure 10
図10. バイポーラ型の電流源回路

ここまでは、高精度の電流出力を備えるアンプ回路について説明してきました。もちろん、それらの回路は固定入力に対応する正確な電流源として使用できますが、ここではもっと容易に構成できる2端子電流源を紹介します。「ADR291」は消費電流の少ない電圧リファレンスです。スタンバイ電流は約10μA、温度係数の代表値は20nA/℃です。図11に示すように負荷抵抗を加えた場合、3V~15Vの電源電圧範囲において、リファレンス電流は(2.5/R+0.01)mAとなります。ここでRは負荷抵抗(単位はkΩ)です。

Figure 11
図11. 2端子電流源

精度は大きな問題ではなく、単にユニポーラ型の電流源が得られればよいというケースもあるでしょう。その場合、デプレッション型のJFETと抵抗だけで電流源を構成することができます。図12に示す回路は、温度に対して安定性はなく、抵抗Rに対する電流値についてもデバイスによってかなりばらつきます。しかし、簡易かつ安価に電流源を実現できます。

Figure 12
図12. JFETで構成した電流源

最近の話ですが、筆者は数個のLED用電源を必要としていました。仲間の技術者は、筆者がLEDの調光に必要な可変電流源の設計に苦労するだろうと考えていました。それに対し、筆者は、ノート型パソコン用の電源アダプタ(フリー・マーケットで数ペニーで購入したAC/DC電源)を改造することで対応しました。図13に示したのが、LEDに安定した電流を供給できるように改造した回路です。これにより、固定の電圧を基にして値の小さい電流が得られるようになりました。

Figure 13
図13. 電流制限が可能な出力が得られるように構成したスイッチング電源。ノート型パソコン用のAC/DC電源を改造して実現した

この回路では、電流を可変にするために、AC/DC電源またはローカルにあるリファレンス電圧をポテンショメータP1、P2に印加します。OPA2とMOSFETにより、わずかな電流を抵抗R1に流して電圧を降下させます。負荷電流は電流検出抵抗RSENSEに流れます。負荷電流が増加して電流検出抵抗の電圧降下がR1による電圧降下を上回ると、OPA1の出力が上昇してAC/DC電源の電圧が制御されます。出力電圧を制限することにより、出力電流が制限値を超えないようになります。

本稿では、基本的な電流源のアイデアを紹介しました。それらは、詳細なアプリケーション・ノートではありません。熱を制限(または消費)したり、アンプの安定性を確実にしたり、絶対最大定格を超えないようしたり、実用上の性能の限界を算出したりするためには、さらに詳細な設計を行う必要がある回路も含まれています。そうした回路の詳細な設計については、専門書やアナログ・デバイセズのウェブサイト、ウィキペディアなどを参照してください。

参考資料

アプリケーション・ノート AN-1208 「Programmable Bidirectional Current Source Using the AD5292 Digital Potentiometer and the ADA4091-4 Op Amp(デジタル・ポテンショメータ「AD5292」とオペアンプ「ADA4091-4」で構成した双方向プログラマブル電流源)」、Analog Devices, Inc.、2013年

回路ノート CN-0099 「High-Precision, Low-Cost Current Sources Using the AD8276 Difference Amplifier and the AD8603 Op Amp(差動アンプ「AD8276」とオペアンプ「AD8603」で構成した高精度/低価格の電流源)」

回路ノート CN-0151 「Versatile High-Precision Programmable Current Sources Using DACs, Op Amps, and MOSFET Transistors(D/Aコンバータ、オペアンプ、MOSFETで構成した高精度の汎用プログラマブル電流源)

アプリケーション・ノート AN-968 「Current Sources: Options and Circuits(電流源:オプションと回路)」、Murnane, Martin、Analog Devices, Inc.、2008年

著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。