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閉じる食品加工用のAIロボティクス・ソリューションを開発したロビット社、製造時間の短縮と廃棄物の削減に貢献
労働力不足は世界的な問題です。また、日本ほどその深刻さを増している国は少ないかもしれません。少子高齢化が進む日本では、2040年までに労働力人口が12%も減少すると予想されていますi。食品業界もまた例外ではありません。実際、食品の製造からレストランでの提供までにわたるサプライ・チェーン全体が、大きな負担を感じている状態にあります。人員確保の問題は拡大する一方であり、有効な解決策を見いだすことが急務になっています。その解決策の1つとして注目されているのが、インテリジェントなロボットによって製造の自動化を図るというものです。従来、作業員が行っていた繰り返し作業や危険な作業をロボットに肩代わりしてもらい、より有意義な領域やよりリスクの小さい領域に人間の力を集中することが可能になります。
アナログ・デバイセズは、日本の製造革新企業ロビットのAIを活用した世界初の食品加工用ロボット「CUTR」の開発をサポートしました。ADI Trinamic™技術によって高精度のモーション制御を実現し、食品加工(食材のカット)という挑戦的な分野のニーズに対応しています。食品メーカーやレストランは、CUTRという革新的な製品を導入することにより、労働力や廃棄物に関連するコストを削減しつつ、生産性と品質を高めることが可能になります。
ロビットの概要
事業内容
ロビットは、2014年に設立された日本の製造革新企業。ハードウェアとソフトウェアを融合することで、より高い価値を生み出すことを目指している。AIとロボットを活用することにより、より自動化された効率的な未来を実現するというビジョンを掲げている。
目標
食品加工の分野では、農産物を適切な大きさにカットしたり、食べられない部分を除去したりといった単純な繰り返し作業が必要になる。その作業を自動化することにより、最大限の効率を得ると共に、廃棄物の量を最小限に抑える。
課題
自動化用のソリューションは、不定形の農産物を傷つけることなく処理できるものでなければならない。また、農産物の鮮度を保つために低温の環境で動作可能なシステムを実現する必要がある。更に、熟練した作業員に匹敵、または勝るスピードと精度を達成しなければならない。
ソリューション
ロビット独自の画像処理アルゴリズム、カメラを備えるカット用のロボット、ADI Trinamicのモーション制御技術を組み合わせてCUTRを構築する。それにより、必要とされる滑らかで正確な動きを実現する。
食品加工の自動化に欠けていた要素

ロビットのCUTRは、食べられない部分を取り除いた上で、残りの部分を適切な分量にカットして整える機能を提供します。しかも、きのこやレタスといった不定形かつ傷つきやすい農産物を取り扱えます。CUTRは、ADI Trinamicのモーション制御技術を活用することで、最大限の精度を達成し、加工に伴って廃棄される食品の量を最小限に抑えます。
食品の製造/加工の分野では、これまでも産業用ロボットが活用されてきました。具体的には、食材の計量、混合、調理の自動化などが実現されています。例えば、サンドイッチの製造やフライヤの操作なども産業用ロボットによって自動的に行われるようになっています。これまでは、主に食材の投入、加工、運搬に関連する作業が自動化の対象となっていました。
しかし、それでは自動化が部分的に実現されているにすぎないということになります。なぜなら、多くの場合、まず人手によって準備の作業を行わなければならないからです。ロボットが作業を実行する前に材料をカットしたり、刻んだりといった加工処理を実施する必要があります。これらは基本的に繰り返しの作業かつ、食品業界において特に危険な作業の1つだと言えます。更には、農産物を最も新鮮な状態に保つことができるため、低温の環境で行うのが最適な作業でもあります。しかし、人間が低温の環境で長時間にわたって快適に作業を行うのは不可能です。労働力の不足を補うためにロボットを活用するという観点からは、農産物のカットこそが自動化を図るべき作業だと言えるでしょう。
CUTRが実現するインテリジェント・エッジ
CUTRは、AIを利用して柔軟性の高い意思決定を行います。それにより、CUTRに複雑なカット作業を任せることが可能になります。ここでは、CUTRにより、高級舞茸のカット作業の自動化に成功したという事例を紹介しますiii。舞茸は、不定形である上に衝撃に弱いことで知られる食材です。実際、計量してカットするのが非常に難しいものだと言えます。経験の浅い作業員と熟練した作業員がこの種のきのこをカットした場合、効率の面で明らかな差が生じます。
CUTRであれば、重量と構造に応じて舞茸をスライスすることができます。また、様々な部分の味も考慮してスライスすることが可能です。そのため、個々のパッケージにバランス良く様々な部分を含められます。結果として、見た目も美しく購買者にとって魅力のあるパッケージを提供できるようになります。この事例は、パッケージングのアプリケーションでもCUTRを活用できることを示しています。それだけでなく、CUTRは、不定形で傷つきやすい物体を正確に操作しなければならない様々な用途にも適していることがわかります。
最先端のモーション制御:高精度のADI Trinamic技術によって実現した、AIを活用した食品加工用ロボット。詳しくはこちらをご覧ください。
CUTRの能力、それを支える要素
ロビットは、食品などの検査を自動化するソリューション「TESRAY」を開発した実績を有しています。TESRAYは、AI向けに最適化されたハードウェアと同社独自の技術を組み合わせることで実現されました。ここで言う同社独自の技術とは、AIをベースとする画像処理のアルゴリズムのことです。これらの要素を融合することにより、大量な食材の検査と選別を、高速かつ高い精度で自動的に行うことを可能にしました。
しかし、CUTRではそれ以上のことを実現しなければなりませんでした。舞茸の例で触れたとおり、熟練した作業員と同等以上のレベルで農産物をカットできるようにするためには、優れたインテリジェンス/柔軟性/精度を備えるロボットが必要です。不定形の物体を傷つけることなく取り扱わなければならず、1つのサイズですべてに対応できるわけではない環境では、個々のばらつきについて考慮しなければなりません。また、必要なすべての処理を最高の精度で実行し、食品廃棄物とそれに伴うコストを最小限に抑える必要もありました。
CUTRを実現するためには、以下に挙げる3つが重要な要素となりました。

インテリジェンス
CUTRで使用するAI用のアルゴリズムは、イメージング・モジュールからの入力データを基に、カットする部分のサイズ、形状、角度を推定します。例えば、レタスの外観を分析することにより、内部の芯の位置と姿勢を推定するといった具合です。その分析結果に基づき、CUTRによって食材をどのように把持し、カットすればよいのかが決定されます。

柔軟性
CUTRの性能の高さは、葉物野菜やきのこを対象とした事例で実証されています。ただ、CUTRはトマトをはじめとする他の食材も扱えます。重量やその他の変数に応じてカット方法を調整したり、食べられない部分の除去率を変更したり、除去の前後の工程(把持、ハンドリング、廃棄物の処理など)についての設定を行ったりすることが可能だからです。また、CUTRを採用することにより、人間とロボットが混在する食品の加工/調整環境において、スペースを節約したり、相互運用性を確保したりすることが可能になることも期待できます。
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精度
CUTRを使用すれば、作業員と同等以上の精度でレタスの芯を取り除くことができます。iiiその高い精度はセンサーを使用することなく維持されています。食品加工の現場はセンサーが汚れやすい環境だと言えます。そのため、センサーを使用しなくてもよいということは重要な意味を持ちます。CUTRは、ADI Trinamicのもう1つの技術であるStallGuard™を活用しています。この技術は、滑らかで正確なモーション制御を実現するためのアルゴリズムを提供します。CUTRは、同技術を活用することで、センサーを使用することなく理想的なカットを実現します。
ADI Trinamicがもたらす高い精度が「完璧」を生み出す
StallGuardを利用すれば、センサーを使用することなく負荷の測定データを取得することができます。それらのデータは、原点復帰、セルフキャリブレーション、距離の測定、継続的なシステム監視などの用途に有用です。正確なリファレンスが必要なケースにおいて、センサーを使用しない負荷検出はコストと複雑さを軽減することに役立ちます。また、StallGuardでは感度の調整が行えます。そのため、多様なアプリケーション(あるいは多様な野菜)に対応するための汎用性が得られます。
ロビットは、ADI Trinamicを採用したことで、CUTRにおける把持用のアーキテクチャをエア・コンプレッサからステッパ・モータに変更することができました。この変更により、CUTRは高温、低温といった過酷な温度環境での動作にも対応可能になりました。周囲温度に関わらず、トルクと速度を妥協することなく制御できるようになったのです。
また、StallGuardを採用したことにより、CUTRの設計では12個のセンサーと40本以上のケーブルを減らすことができました。それにより、SWaP(サイズ、重量、電力)を大きく削減できたのに加え、特に回転運動において、ロボット・アームをより自由に動かせるようになりました。その結果、ソフトウェアのプログラミングが不要になり、複雑さも軽減されました。
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「当社は、AI用のハードウェアとソフトウェアといった最先端の技術を融合することにより、自動化技術を一歩先のレベルに進化させたいと考えています。これからもアナログ・デバイセズと共に、日本の、そして世界中のロボットをアップデートしていきます。」
新井 雅海氏
ロビット 最高経営責任者兼最高技術責任者
ロビットとアナログ・デバイセズの連携がもたらす製造の進化
ロビットは、単純な繰り返し作業に必要な労力と資源を節約することで、人々はより複雑で、クリエイティブで、それぞれにとってやりがいのある仕事を追求できるようになると考えています。このコンセプトをまさに具現化したものがCUTRです。アナログ・デバイセズのADI Trinamicは実績のあるモーション・ソリューションです。これを活用することにより、ロビットはAIを活用した世界初の食品加工用ロボットであるCUTRを開発することができました。CUTRによって自動化を図れば、繰り返し作業の負荷を分担したり、予想される人手不足の問題を軽減したりすることが可能になるはずです。
ロビットは、時代と共に「ものづくりを進化させる」というビジョンを掲げています。このビジョンには、将来予想される課題に備えるだけではなく、世界が待ち望む明日を積極的に築くという意味が込められています。自動化に利用するインテリジェンスを進化させ、より高い精度を実現できるようにすれば、廃棄物の量の削減、効率の向上、人手不足の問題の軽減を図れるようになります。つまり、変化するグローバル社会に対し、意義のあるメリットをもたらすことが可能になります。
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参考資料
i 「Future Prediction 2040 A society with limited labor supply is coming(未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる)」Recruit Works Institute、2023年
ii 「Robots are not limited to transporting food/FOOMA JAPAN 2022(ロボは食品の運搬にとどまらず/FOOMA JAPAN 2022)」Robot Digest、2022年
iii 「Yukiguni Maitake, a comprehensive premium mushroom manufacturer, successfully developed automation technology for the Maitake cutting process and agreed to develop a next-generation packaging line(「プレミアムきのこ総合メーカー」の雪国まいたけ社におけるまいたけカット工程の自動化技術の開発に成功し、次世代型パッケージングライン開発に合意)」PR Times Japan、2021年