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閉じるデジタル・ファクトリーの効率改善に向けて、供給すべき燃料は「データ」(サステナビリティ・シリーズ 第5回)
このシリーズでは、革新的なプラットフォームとソフトウェア・ソリューションを利用することで、クリーンテクノロジーの実現が可能になるということを明らかにします。また、エネルギーとサステナビリティの未来について他者と対話するのを促すことも目的の1つです。本稿はシリーズ第5回目の記事です。シリーズ第4回目の記事「分散型エネルギー・グリッドへの移行に必要なのは『管理』、『変換』、『貯蔵』」はこちらからご覧ください。
現在、産業用の施設や工場の管理者は正念場を迎えています。エネルギーの消費量が増え続けているなか、技術的な要件の厳しい施設において、エネルギーの効率に関する野心的な目標を達成するにはどうすればよいのでしょうか。工場の管理者がこの課題を解決できるかどうかは、次の問題に対する答えを見つけられるか否かにかかっています。その問題とは、エネルギー効率の向上、温室効果ガスの排出量の削減、競争力の強化を同時に実現するには、どのような投資が必要なのかというものです。
上記の問題に対する答えを導き出すためには、実現すべき状態を想定する必要があります。すなわち、工場の製造フロアから得られる新たなデータや知見を活用し、運用に関する理解を深めて、製造に関する最適化をリアルタイムに行えるようにすることが目標になります。
パリ協定では、温室効果ガスの排出量をどれだけ削減するのかという目標が掲げられています。(工場を含む)全体的なエネルギー効率は、パリ協定に沿って2040年までに求められる温室効果ガスの排出削減のうち40%以上に寄与する可能性があります2。その一方で、2050年までにネット・ゼロ(温室効果ガスの排出量を実質的にゼロに抑える)を達成するためには、工場の暖房、冷房、給電に使われるエネルギー装置が、今日よりも多くのエネルギーを供給できるようにしなければなりません3。したがって、既存の製造フローの中のどこでエネルギーが無駄にされているのかを把握すると共に、生産性を向上できる可能性がどこにあるのかを特定する必要があります。
しかしながら、リアルタイム測定の欠如が既存の工場の改善を妨げています。効率改善の機会を厳密に特定するには、アセット(設備)レベルの情報と製造フローに関する情報を明確にしなければなりません。
幸いなことに、上述したような課題は迅速に対処されつつあります。工場に接続性(コネクティビティ)が設けられ、デジタル化された結果、アセットレベルでリアルタイムのデータを取得できるようになったからです。工場においては、そのパフォーマンスに関する可視性を高めることが重要です。そのことは、ボトルネックの解消、アセットの寿命延長、原材料の使用量の削減につながります。また、エネルギーの消費量を削減しつつ、アセットの稼働率を高めることにも役立ちます。
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「データはデジタル・ファクトリーの“燃料”です。現在の工場は、演算能力の向上、帯域幅の広い最新の接続性、柔軟性に支えられています。それらを活用し、演算用のホストから制御機能を切り離すことで、ソフトウェア定義型のオートメーションへの移行が進められています。それにより、適応性と工場の運用効率が高まります。結果として、生産能力を高めつつ、所定の生産レベルに対するエネルギーの使用量の最適化を図ることが可能になります。」Aurelien Le Sant氏
Schneider Electric、CTO兼産業用オートメーション向けイノベーション&テクノロジー担当 シニア・バイス・プレジデント
コネクテッド・デジタル・ファクトリーとは?
デジタル・ファクトリーの拠り所となるものはデータです。また、デジタル・ファクトリーの主要な構成要素としては、製造フロアの接続性、先進的なオートメーション、センシングの3つが挙げられます。データとセンサーから得られる知見を活用することにより、情報に基づく意思決定を行えるようになります。それにより、運用効率を改善するためのオートメーション機器とロボティクスを配備することが可能になります。その結果として、運用を最適化し、エネルギーの消費量と無駄の削減に役立つ活用可能な知見が得られます。
接続、制御、解釈の3つの力がエネルギー効率の向上を促す
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接続:ハイブリッド型のファクトリー・ネットワーク
製造企業がエネルギーの消費量を削減するという目標に向けて力を発揮できるようにするにはどうすればよいのでしょうか。そのためには、製造フロア全体からデータを取得してそれらの分析を行えるようにしなければなりません。これを実現するには、接続性を強化する必要があります。最も重要なのは、得られたデータを転送/分析し、既存の情報ストリームと融合できるようにすることです。これは、デジタル化に向けた最初の要素だと言うことができます。つまり、リアルタイム/非リアルタイムの接続性を追加して、運用に関する知見にアクセスできるようにすることが肝要です。
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残念ながら、旧来のフィールドバス技術は、帯域幅、タイム・センシティビティ、ワイヤレス・デバイスのサポートを妨げる要因になっています。必要なのは、デバイスへのシームレスな接続とIP(Internet Protocol)アドレスの直接指定が可能な統一されたファクトリー・ネットワークへのアップグレードです。それにより、ほぼリアルタイムの通信、独立したノードの構成、運用に関する知見のスケーラブルな共有が可能になります。製造企業に対しては、セキュリティの強化、配備の容易化といった改良が施された有線/無線の接続を提供する必要があります。工場の機器から生成される大量なデータを活用し、生産性とエネルギー効率を高められるようにするためには、工場にそのような接続性を用意しなければなりません。
制御:柔軟性の高い自動制御機構の構築
製造業界では、パフォーマンスの安定性、出力の一貫性、可用性/アップタイムの維持が望まれています。その一方で、柔軟性に対する要求も高まっています。アップグレードされたネットワークは、リアルタイムのデータ分析、柔軟性の高い製造、先進的なオートメーションの実現に貢献します。それだけでなく、顧客の需要や仕様に応じて製造の現場を迅速に適応させることにも役立ちます。つまり、パーソナライズされた製品やより小さなバッチ・サイズの製品を効率的に生産できるようにすることにつながります。
また、構成が可能で柔軟性と精度に優れる制御システムも重要です。そのようなシステムを導入すれば、最小限のダウンタイムで製造フローを変更できます。このことは、工場におけるエネルギー消費量の最適化につながります。高い精度で設備を制御できれば、運用の改善、製造能力の増大、エネルギー消費量の削減、無駄の最小化を図れる可能性が高まります。
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PLC(Programmable Logic Controller)は、現代の工場における中央制御システムだと言えます。そのI/Oカードは、モータ、リミット・スイッチ、ポンプ、レベル・メータといったあらゆるものを制御する役割を果たします。これについては、ソフトウェア・ベースのコンフィギュラビリティをもたらすユニバーサルなI/Oソリューションが新たに求められます。そのようなソリューションがあれば、工場のセットアップを簡単に変更するための柔軟性が得られるようになり、適応性を高めて、コミッショニングと再構成をより迅速に行うことが可能になります。
アジャイルな製造を実現するためには、素早く反応する制御システムと、作業員の位置にリアルタイムに適応する先進的なロボティック・システムが必要です。例えば、革新的なビジョン・センシング技術と洗練されたアルゴリズムを搭載するモバイル・ロボットを導入したとします。その場合、作業員との間で効率的な連携を実現しつつ、ロボットの連続的な稼働を保証することができます。それにより、人間にとってのより安全な作業空間を確保しつつ、運用効率を高めることが可能になります。
更に、産業用モータに可変速ドライブを組み合わせれば、トルク、速度、位置を正確に制御できるようになります。これについては、本シリーズの第3回の記事をご覧ください。
解釈:センシングの結果を基に新たな知見を得る
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デジタル・ファクトリーのポテンシャルを引き出すためには何が必要なのでしょうか。それに向けて重要な役割を果たすのは、ネットワークのエッジです。特に高度な機能を備えるエッジ・デバイスが重要になります(アナログ・デバイセズはこれをインテリジェント・エッジと呼んでいます)。アセットから新たなデータを生成するためには、インテリジェント・エッジが必要になります。既存のアセットに高度なセンサーを配備すれば、保守のスケジュールやワークフローのためのルーティングなどに役立つ貴重な情報を取得できます。よりスマートで、小型で、洗練されたセンサーは、産業用オートメーションに革新をもたらします。そうしたセンサーを活用すれば、製品の欠陥やアセットの状態の劣化といった潜在的な問題をリアルタイムに特定することが可能になります。
より高度なインテリジェント・エッジを採用すれば、センサーの機能をより的確に補完することができます。その結果、高いエネルギー効率を得るための局所的な意思決定をより迅速に行えるようになります。言い換えれば、新たなレベルの運用効率を実現できるということです。センサー・フュージョンと、インテリジェント・エッジに実装されるAIのアルゴリズムは、正常な状態からの逸脱を的確に検出することに貢献します。それらを活用することで、パフォーマンスの監視と最適化に向けた機能を更に強化することができます。
ライトハウス・ファクトリー:デジタル・トランスフォーメーションに対する期待に応える
グローバル・ライトハウス・ネットワーク(GLN:Global Lighthouse Network)は、世界経済フォーラムがMcKinsey & Companyと共同で運営するイニシアチブです。GLNに参加する主要な製造企業は、オペレーショナル・エクセレンスとよりサステナブルなプラクティスの両方を達成するために、デジタル化とインダストリ4.0に対応する技術を自社の工場に導入すべく尽力しています。従業員のスキルの向上、戦略の先鋭化、スケーラブルな実行を重視する姿勢を組み合わせることにより、GLN全体として目覚ましい成果を上げています。では、GLNに参加している企業の工場ではどのようなことが起きているのでしょうか。いくつかの事例を以下に示します。
- 工場のスループットを3倍に高めつつ、リソースの使用量を1/3以上削減
- 品質を高めつつ、10%以上効率を改善。同時に、温室効果ガスの排出量を1/2に削減
- コストを20%以上、温室効果ガスの排出量を1/4以上削減しつつ、品質を300%向上
- 材料に関する損失を75%以上削減しつつ、顧客満足度と従業員のエンゲージメントを向上5
デジタル・ファクトリーを成功に導くのはエコシステム
接続、制御、解釈の3つの力を駆使したデジタル化によって、現在稼働中の数十万もの工場を最適化できる可能性があります。製造企業がエネルギー効率目標の達成と生産性の向上を目指す中で、デジタル化は変革をもたらす要素となるでしょう。
結局のところ、コネクテッドなデジタル・ファクトリーの成功は、製造企業がエコシステムのプレーヤーとの間に強固な関係を結べるか否かにかかっています。つまり、インテリジェント・エッジから信頼性の高いデータを確実に生成するための先進的な技術を提供してくれるプレーヤーと関係を築く必要があるということです。そのようなコラボレーションの結果が、エネルギーの消費と無駄を削減しつつ、ダウンタイムを低減して生産性を高められるような工場環境の実現につながる可能性があります。
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参考資料
1 「Industrial Sector Energy Consumption(産業分野におけるエネルギーの消費量)」EIA(Energy Information Administration:米エネルギー省エネルギー情報局)
2 「Market Report Series: Energy Efficiency 2018(市場レポート・シリーズ:エネルギー効率 2018年)」IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)
3 「Net Zero by 2050 Hinges on a Global Push to Increase Energy Efficiency(2050年までにネット・ゼロを達成するには、世界規模のエネルギー効率の改善が必要)」IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)
4 「Senseye Predictive Maintenance: The True Cost of Downtime 2022(「Senseye Predictive Maintenance」 - ダウンタイムの真のコスト)」Siemens
5 「The Scaling Imperative for Industry 4.0(インダストリ4.0に不可欠なスケーリング)」McKinsey & Company