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Three people looking at a holographic image of a variable speed drive motor
Three people looking at a holographic image of a variable speed drive motor

   

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Maurice O'Brien
Maurice O'Brien,

産業用オートメーション担当戦略マーケティング・マネージャ

著者について
Maurice O'Brien
Maurice O’Brienは、アナログ・デバイセズの工業自動化の戦略マーケティング担当役員で、工業自動化に重点を置いたシステム・レベルのソリューション提供の責任者です。この職務に就く前に、当社の工業用イーサネット部門に3年間従事し、パワー・マネージメントのアプリケーションとマーケティングの職務を15年間務めていました。リメリック大学(アイルランド)で電子工学の学士号を取得しています。
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産業分野のCO2排出量を左右するのは「モータの効率」(サステナビリティ・シリーズ 第3回)

このシリーズでは、革新的なプラットフォームとソフトウェア・ソリューションを利用することで、クリーンテクノロジーの実現が可能になるということを明らかにします。また、エネルギーとサステナビリティの未来について他者と対話するのを促すことも目的の1つです。本稿はシリーズ第3回目の記事です。シリーズ第2回目の記事「未来は『電動化』にあり」はこちらからご覧ください。

周知のとおり、気候の変動は極めて深刻な問題です。克服すべき課題の多さに圧倒されるほどだと言えるでしょう。サステナビリティ(持続可能性)に対する意識が高い人であれば、カーボン・フットプリント(CO2の排出量)を削減するために個人のレベルで可能な限りのことを行っているでしょう。例えば、移動が必要な場合には公共交通機関を利用するようにしたり、自動車を購入する際には電気自動車(EV)を選択したりするなど、様々な形で省エネに取り組んでいるはずです。しかしながら、実際にCO2を最も多く排出しているのは産業分野です。例えば、米国では、温室効果ガスの総排出量のうち23%は産業分野で排出されていると推定されています1。ただ、産業分野はCO2の主要な排出源に大きな規模で取り組むまたとない機会をもたらします。また、そのための対策の導入を後押しする要因も少なくありません。例えば、コストを削減したり、より厳しい規制に対応したり、電力網のレジリエンスを高めたりすることは、どの企業にとっても重要なことだからです。では、このような観点から最も注目すべき重要な要素とは何でしょうか。その答えは電動モータです。モータは、ポンプ、ファン、圧縮空気システム、資材の搬送、加工システムなど、様々な設備を稼働させるために使用されます。それらのモータによって消費される電力の量は、産業分野における消費電力の総量の約70%を占めると推定されています2。従って、モータの動作効率を格段に高めることが可能な技術を採用すれば、CO2の排出量を大幅に削減できることになります。つまり、モータは特に大きな機会をもたらすものだとも言えるのです。大規模な企業がエネルギー効率の向上につながる改善に積極的に取り組めば、絶大な効果が得られることは間違いありません。

23%
2021年に米国で排出された温室効果ガスのうち産業分野で排出されたものが占める割合1

グローバルな課題、グローバルな目標

CO2の排出量の削減は、世界レベルで取り組まなければならない重要な課題です。パリ協定では、CO2の排出量を2018年の水準から約70%削減し、2050年までの気温の上昇を1.5°C以下に抑えることが目標として定められています2

この目標を達成するには、化石燃料から別のものに投資先を移行しなければなりません。移行先としては、エネルギー効率を高めるための技術や、再生可能エネルギーを利用可能にする技術、あるいは原子力発電などが考えられます。二酸化炭素の回収/有効利用/貯留(CCUS:Carbon Capture, Utilization, and Storage)など、CO2の排出量の削減に貢献できるものが新たな投資先の候補になるでしょう。この話題について語る際には、再生可能エネルギーに注目が集まりがちです。しかし、アナログ・デバイセズは、エネルギー効率の向上によって得られる効果の方がより大きな効果が得られると見込んでいます。つまり、発電方法ではなく、電力を消費する側の効率を高めることにより、電力網に対する需要を抑えるという考え方です。そうすれば、多くの企業は、事業におけるレジリエンスの向上とコストの削減を果たしつつ、CO2の排出量を抑えられるはずです。

公表政策シナリオと持続可能な開発シナリオによるCO2排出量の削減効果2

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上に示したグラフは、「World Energy Outlook 2019」(世界のエネルギーに関する展望 2019年版)から引用したものです2。この図が表しているのは、CO2の排出量を10Gt(ギガトン)未満まで削減することによって1.5°C以下という目標を達成するための大まかな道筋です。このグラフには、2つの主要なシナリオによってCO2の削減量がどのようになるのかが示されています。2つのシナリオというのは、公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario)と持続可能な開発シナリオ(Sustainable Development Scenario)のことです。公表政策シナリオは、既に公表されている具体的な政策イニシアティブだけが行われた場合に想定される結果です。一方の持続可能な開発シナリオは、世界の気候、エネルギーへのアクセス、大気質に関する目標の達成を可能にする道筋を示すものであり、パリ協定に完全に準拠しています。また、同シナリオでは、増加する世界の人口を前提とし、信頼性を確保しつつ手ごろな料金でエネルギーをあまねく供給することを非常に重んじています。このグラフを見ると、2つのシナリオの間には大きなギャップが存在することがわかります。そして、パリ協定の目標達成に最も大きく貢献するのは、エネルギー効率の向上です。ご覧のように、公表政策シナリオと持続可能な開発シナリオのギャップを解消する上で、全削減効果の37%を占めることがわかります2

 

モータの効率が高いほどCO2の排出量は低下

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モータ・ドライブの導入数を増やし、エネルギー効率を改善する

上述したとおり、CO2の排出量を削減するためには、エネルギー効率の向上が鍵になります。従って、企業や技術者は、効率の向上に向けて改善の対象とすべき物を迅速に特定しなければなりません。結論から言えば、産業分野で使用される電動モータこそが、最初にターゲットとすべき物です。

最も基本的で最も低効率のモーション・ソリューションでは、グリッド接続/AC電源で動作する3相モータを使用します。それをベースとし、スイッチギアによるオン/オフ制御や保護回路を実現します。この種の基本的なモーション・ソリューションは、負荷がどのように変動したとしても、それとは関係なく比較的固定の速度で動作します。それに対し、可変速ドライブ(VSD:Variable Speed Drive)技術を採用すれば、モータの出力をより適切に負荷の要件に適合させることが可能になります。繰り返しになりますが、世界では、より高いエネルギー効率を達成し、CO2の排出量を削減することが求められています。そうしたなか、より効率の高いモータ/ドライブを導入すると共にデジタル化を推進すれば、莫大な機会が得られます。

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米国では、全モータの約6台のうち1台にVSD技術が適用されていると推定されています5このことから、市場における機会の大まかな規模を把握することができます。すなわち、グリッドに接続されており、インバータ/VSDを適用することによって効率が向上し、エネルギー消費量の削減につながるモータが、市場にどれだけ存在するのかが推測できるということです。


整流器、DCバス、3相インバータ段などの技術を追加で適用すれば、アプリケーションや負荷に対して最適な速度でモータを動作させることができます。それにより、エネルギーの消費量を大きく削減することが可能になります。アプリケーションやモータの種類にも依りますが、インバータ/VSDを既存のモータに追加すれば、消費電力を25%~60%削減できるとされています67。特に、より高い性能が求められるモーション制御アプリケーションに対しては、VSDを適用するとよいでしょう。それにより、トルク、速度、位置を正確に制御することができます。IEC(International Electrotechnical Commission)は、より効率の高いモータ駆動システムの導入を促進するために、エネルギー効率の高い電動モータに関する規格を定めています。例えば、電動モータの試験に関する規格としてはIEC 60034-2-1が策定されました。また、モータの効率について4つのクラス(IE1~IE4)を定義したIEC 60034-30-1という規格も策定されています。これらの規格により、各メーカーが提供するモータの効率のレベルを比較することが容易になりました。加えて、これらの規格は、各国が最低エネルギー効率基準(MEPS:Minimum Energy Performance Standard)に対する効率のレベルを規定するための基準にもなっています。各規制当局は、エネルギーの消費量とCO2の排出量を削減するための選択肢を吟味しています。そうしたなか、アナログ・デバイセズは上記の規格を高く評価しています。なぜなら、これらを活用することにより、効率を向上するためのモータ技術に対する継続的な投資が促進されると考えているからです。

半導体技術は、エネルギー効率を最大限に高められる最先端のドライブを実現する上での鍵になります。ABBは産業用ロボットなどの製品で知られる企業です。同社やアナログ・デバイセズのような先進企業は、モーション・アプリケーション向けに投資を行っています。その目的は、エネルギー効率を高められる技術、ソリューション、製品を実現することです。モータの設計が進化を遂げただけでは、最適なエネルギー効率を保証することはできないと予想されています。そこで、ABBのようなリーダー企業は、制御用のアルゴリズム、最適なスイッチング周波数、デジタル・モデリングといった多角的な視点を持って、先進的なモータ・ドライブの開発に取り組んでいます。パワートレインの最適な動作と制御を実現するためには、モータ駆動システムの設計やモデリング、ディメンショニングなどの工程を経る必要があります。そのようなライフサイクルを完結させるまでには多種多様な技術が不可欠です。また、よりサステナブルな未来の製造現場を実現するには、エネルギー効率の高いモータ駆動システムが必須です。その実現には、デジタル化とAIが寄与することになるでしょう。

「ABBは、他のグローバルな技術企業と共に、ESG(Environmental, Social and Governance)に関する野心的な目標を達成するための手段を模索しています。また、サプライヤ各社は、その目標の達成に向けた技術の提供に全力を注いでいます。サプライヤは、エネルギー効率の高いモータ・ドライブの導入をこの取り組みの基盤として位置づけています。その実現の鍵を握るのは、高精度の測定技術と制御技術です。」

Matti Kauhanen

Vice President, Technology Manager | ABB

デジタル・トランスフォーメーションによって製造効率を高める

よりエネルギー効率の高いモータの動作は、モータそのものを改善することでしか得られないわけではありません。VSDでは、電圧、電流、位置、温度、電力、エネルギー消費量のデータを、振動やその他のプロセス変数を監視する外付けセンサーで取得したデータと組み合わせて使用します。新たな技術が適用されたモーション・アプリケーションは、IT/OT(情報技術/運用技術)を融合するためのイーサネット・ベースのネットワークによって互いに接続されます。それにより、モーションに関するデータやインサイトを、クラウド・ベースのデータ・ストレージまたはオンプレミスのストレージに伝送します。従来と比べれば、モーションに関するデータとインサイトにアクセスするのは容易になっています。それらに関する分析を、性能の高いクラウド・コンピューティングとAIによって行い、製造フローを最適化することで、製造に伴うエネルギーの消費量やCO2の排出量を削減することができます。モーションに関するインサイトにアクセスできれば様々なメリットを享受できます。例えば、装置の寿命の延伸、製造品質の向上、予期せぬダウンタイムと廃棄材料の削減、製造工場の安全性の向上を図ることができます。

もう1つの重要な機能は、定格に近すぎる出力や定格を少し上回る出力で動作しているモータを検出することです。そうした動作も、消費電力の増加と、寿命に関連する潜在的な問題につながります。数百台から数千台ものモータが設置された大規模な製造施設において、消費電力とCO2の排出量を削減するための機会を特定するには、デジタル・トランスフォーメーションの戦略が特に重要になります。

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先進的なモータ駆動システムには様々な機能が盛り込まれています。例えば、モーションのデータとインサイトをインテリジェントなエッジで生成するための高度なセンシング機能、信号処理機能、エッジで稼働するAI、接続用のソリューションなどです。これらによって得られた新たなインサイトは、製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)に伝送されます。それらのインサイトを基にすることで、MESは、低い効率で動作していることから、十分に活用されていないのに多くの電力を消費しているモータを検出することができます。

世界経済フォーラムのグローバル・ライトハウス・ネットワーク

技術が製造に与える影響を示すものとして、世界経済フォーラムのShaping the Future of Advanced Manufacturing and Value Chains(先進的な製造業とバリューチェーンの未来を形作る)プラットフォームは、製造業界で最先端の位置にいる企業を「ライトハウス(Lighthouse)」として認定するグローバル・ライトハウス・ネットワーク(Global Lighthouse Network)を構築しました。このネットワークでは、デジタル・トランスフォーメーションの戦略によって、産業分野におけるエネルギー消費量の削減とよりサステナブルな運用の導入が加速された実例が紹介されています8

ネット・ゼロの達成に向けたエコシステムのソリューション

現在は、世界中が「ネット・ゼロ」を目標に掲げている状況にあります。ネット・ゼロというのは、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロに抑えようというものです。ネット・ゼロを達成するまでの道のりは非常に複雑です。ただ、それに向けた取り組みは、産業分野の製造企業に対して新たな機会をもたらします。製品の製造に関連して排出されるCO2を削減するためには、新たな技術を導入する必要があるからです。産業分野の活動が活発になっていることに伴い、モータに対する需要は2040年までに倍増すると見込まれています9。そのため、効率の高い新たなモータ駆動システムによるCO2の排出量の削減効果と機会の規模は、大幅に増大すると考えられます。よりエネルギー効率の高いモータ技術を大規模に導入するには、様々な経験やつながりが重要になります。そのため、エコシステム内の企業とどのように連携するかがメーカーにとっての鍵になります。この課題は、非常に広い範囲にまたがるものです。その解決には、産業、技術、政府といった異なる領域において、適切なパートナーを得る必要があります。そのことが、世界あるいは産業分野が掲げるエネルギー効率の目標を達成する上で極めて重要な意味を持ちます。

2 engineers having a conversation in a factory surrounded by pumps
参考資料

1 「Sources of Greenhouse Gas Emissions(温室効果ガスの排出源)」EPA 
2 「World Energy Outlook 2019(世界のエネルギーに関する展望 2019年版)」International Energy Agency、2019年
3 「Electricity Market Report 2023(電力市場に関するレポート2023年版)」International Energy Agency、2023年2月 
4 「Industrial Energy Report(産業分野のエネルギーに関するレポート)」International Energy Agency
5 「U.S. Industrial and Commercial Motor System Market Assessment Report, Volume 1(米国の産業用/民生用モータ・システムの市場に関する評価レポート 第1版)」Lawrence Berkeley National Laboratory、2021年1月 
6 「Achieving the Paris Agreement: The Vital Role of High-Efficiency Motors and Drives in Reducing Energy Consumption(パリ協定の達成:エネルギー消費量の削減に向けた高効率のモータ/ドライブの重要な役割)」ABB、2021年 
7 R. Saidur、S. Mekhilef、M. B. Ali, A. Safari、H. A. Mohammed「Applications of Variable Speed Drive (VSD) in Electrical Motors Energy Savings(電動モータのエネルギー削減に貢献する可変速ドライブの活用)」Renewable and Sustainable Energy Reviews、2012年1月 
8 「Global Lighthouse Network: Shaping the Next Chapter of the Fourth Industrial Revolution(グローバル・ライトハウス・ネットワーク:第4次産業革命の次章を築く)」World Economic Forum、2023年1月 
9 「World Energy Outlook 2017(世界のエネルギーに関する展望 2017年版)」International Energy Agency、2017年 

Forward-Looking Statements

This article contains forward-looking statements that are subject to the safe harbors created under the Securities Act of 1933, as amended, and the Securities Exchange Act of 1934, as amended. All statements other than statements of historical fact are statements that could be deemed forward-looking statements.  Read more >>