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閉じるエネルギー、クリーンテクノロジー、サステナビリティの未来(サステナビリティ・シリーズ 第1回)
多くの科学者や気候学者は、20年以上にわたり、地球温暖化の影響について警告してきました。特に重要なのは、温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出量との関係です。私たちは、ようやく何らかの行動をとることが必要だと気づきました。国際社会として、気候変動の影響と根本的な原因に対処するにはどうすればよいのかということに目を向けるようになったのです。では、サステナビリティの確保に向けた課題を解決するためには何が必要なのでしょうか。その1つが半導体技術であることは間違いないでしょう。現在、半導体は多くの機器の頭脳として活用されています。そうした機器の例としては、電気自動車(EV)やスマートフォン、ロボットといった最先端のものが挙げられます。サステナビリティの確保に向け、目的に応じて実現されたイノベーションや、適応性を備えたインテリジェントなエッジ・デバイスにおいても、半導体が重要な役割を果たすことは間違いありません。
本稿では、革新的なプラットフォームとソフトウェア・ソリューションを利用することで、クリーンテクノロジーの実現が可能になることを明らかにします。また、エネルギーとサステナビリティの未来について他者と対話するのを促すことも目的の1つです。
より深刻さが増す、気温上昇の危機
産業革命の時代が訪れて以来、蒸気機関や内燃機関、電気モータといった技術が次々と発明されました。それに伴い、世界は手ごろなコストで活用できる集中型のエネルギー生産に依存するようになりました。エネルギーの可用性は、社会と経済の成長を支え続けています。直近の2世紀を振り返ると、エネルギーは炭化水素を主成分とする資源の燃焼を基盤として供給されてきたことがわかります。それにより、経済の面で飛躍的な成長がもたらされたことは間違いありません。しかし、それには非常に大きな代償が伴いました。1820年以降、GHGの排出量は686倍に増加しました1。また、地球の平均気温は約1.1°C上昇しています2。その結果、生態的/経済的/社会的な面で深刻な問題が生じました。例えば、2015年~2019年には危機的な気候が原因で1億6600万人が食糧支援を必要としていました3。また、災害に関連する経済的な損失は2000年~2019年に3兆米ドル(約406兆円)に達しています4。それ以外にも広範な分野に影響が及んでいます。
現在の傾向が続いたまま、期待される世界経済の成長を維持するためにはどのくらいのエネルギーが必要になるのでしょうか。その量は、2050年には現在のエネルギー消費量の2倍に達します。仮に、エネルギー源ならびにエネルギー効率に関する全般的な戦略を変えることなくGHGを排出し続けたとします。その場合、地球の気温は2050年に(産業革命の前と比べて)1.9°C~2.9°C上昇すると予想されています。専門家によれば、その結果として世界人口の33%は移住すると言います5。また、世界のGDPは11%~18%減少すると見られています6。更に、気候に関連して発生する災害によって、年間で最大23兆米ドル(約3110兆円)の損失が発生する可能性があります7。
電動化とエネルギー効率
世界では、貧困などの差し迫った問題を解決すべく様々な取り組みが行われています。電気や栄養のある食料など、人が生きる上で不可欠なサービスを世界中の人々に供給するためには、エネルギーの生産が不可欠です。その一方で、気候変動による最悪の事態を回避するために、世界ではネット・ゼロ(GHGの排出量を実質的にゼロに抑える)という目標が掲げられています。具体的には、2050年までにネット・ゼロを達成し、気温の上昇を1.5°Cまでに抑えなければなりません。この目標を達成するためには、エネルギーの生産量を増やしつつ、脱炭素化を迅速に実現する必要があります。
いま行動を起こし、
GHGの排出量を81%削減しなければならない
エネルギーの生産量を増やしつつ、脱炭素化を迅速に実現するためには、化石燃料から再生可能エネルギーへの置き換えを強く推し進める必要があります。具体的には、現在から2050年までの間に再生可能エネルギーの需要を9倍に成長させなければなりません。同時に、世界レベルでエネルギー効率を劇的に改善する必要もあります。具体的には、現在から2050年までの間にエネルギー効率を2倍に高めなければなりません8。
アナログ・デバイセズでオートモーティブ&エネルギー/通信/航空宇宙グループを担当するシニア・バイス・プレジデント、Greg Hendersonは次のように述べています。
「再生可能エネルギーを利用する形で最終アプリケーション(end application)の電動化を実現すれば、GHGを生成する技術を排除することができます。これは、クリーン・エネルギーへの移行を推し進めれば、前例のない機会が生まれるということを意味します。例えば、EVへの移行によって内燃機関を利用する自動車は段階的に廃止される見込みです。より多くの機器を電気で動作するように設計すれば、発電/配電/蓄電にかかわるより大きなエコシステムが形成されることになるでしょう。いま世界では、柔軟性、回復力、効率、安全性に優れたエネルギー・システムが求められています」。
一方、アナログ・デバイセズでインダストリアル/マルチマーケット事業部門を担当するシニア・バイス・プレジデント、Martin Cotterは次のように述べています。
「再生可能エネルギーを利用できるようにするためには、供給網を再設計する必要があります。それだけでなく、あらゆるアプリケーションにおいて、エネルギー効率を改善するための取り組みを行わなければなりません。GHGの総排出量という観点から見ると、世界のエネルギーの約50%は産業分野で消費されています9。これについては、デジタル・コネクテッド・ファクトリ技術を導入することにより、ブラウンフィールドの工場におけるオペレーションの制御を改善することができます。それにより、生産性を高め、バリュー・チェーン全体にメリットを提供し、差別化を実現することが可能になります。サステナビリティの確保を目標とした投資と収益性の向上は、互いに相反するものではありません。産業の効率化に向けた投資は、エネルギー消費量の削減だけでなく、競争力の向上にもつながる可能性があります。世界では、これからも工場の新設と改修が行われていくでしょう。それにあたっては、適応型のデジタル・コネクテッド・ファクトリ技術を導入すべきです。つまり、エネルギーの消費量を抑え、GHGの排出量を削減可能な設計を行わなければなりません」。
電動化と効率向上の実現
低排出アセットに対する支出の大幅な増加が見込まれている8
McKinsey & Companyは「現在から2035年までの間に、低排出アセット(GHGの排出量が少ない設備資産)への移行を推進することを目的とし、物理的なアセットに対する年間支出が4兆5000億米ドル(約609兆円)増加する。また、この期間の累積支出は78兆4000億米ドル(約1京609兆円)に達する」との予測を示しています8。アナログ・デバイセズが対象とする世界中の最終市場では、産業分野における効率の改善やビルの改修に対する投資が行われています。それ以外にも、EV市場の拡大やそのためのインフラの整備、グリーン発電、電力網の刷新といった動きが続くと当社は考えています。様々な長期的トレンドの相乗効果により、そうした支出の規模は拡大すると確信しています。長期的トレンドの例としては、規制の強化、官民による献身的な取り組みの高まり、民間投資の増加、カーボン市場の成熟、太陽光発電パネルなどの最終アプリケーションの総所有コストの低下などが挙げられます。
低排出アセットの大規模な導入、それがもたらす大きな効果
低排出アセットに対する支出の予測は考察の機会をもたらします。つまり、「より環境に優しいソリューションが完全に認められて大規模に展開された場合、どれだけの効果が得られるのだろうか」と考えるきっかけが得られるということです。現時点で、世界のGHGの排出量は年間510億t(51Gt)に達します。それをネット・ゼロまで減らすためには、複数のソリューションが必要です。
アナログ・デバイセズのフェローで技術担当バイス・プレジデントを務めるTony Montalvoは「より環境に優しいエンド・アプリケーションが完全に認められて大規模に展開されたとします。その場合に、当社が提供するソリューションによってどの程度の脱炭素化が可能になるかを把握したいと考えました。その結果、CHGの排出量を約1/2に削減できるという見積もりが得られました。更に、当社の技術が重要なイネーブラとなる最終アプリケーションに着目し、より広範にわたる当社のソリューションによって得られる効果についても合わせて見積もりたいと考えました」と述べています。その結果、以下のような分析結果が得られました。
GHGの排除、排出量削減の機会
アナログ・デバイセズは、GHGの排出量の削減に役立つ様々な技術を提供しています。そうした技術によって環境に優しい最終アプリケーションを実現し、それが完全に認められて大規模に展開された場合、GHGの排出量の約1/2が削減される可能性があります10。その削減効果には、GHGを一切生成しないアプリケーションも貢献することになります。
アナログ・デバイセズが行った分析からは、最終ソリューションには2つの主要なカテゴリが存在することがわかります。1つは、GHGを生成しないソリューションです。それらは、GHGを生成する従来の技術を置き換えるものになります。もう1つは、既存の技術をベースとしつつ、そのエネルギー効率を高めるソリューションです。前者の例としては、EV、エネルギー・トランジション、再生可能エネルギーを利用した電解槽などが挙げられます。後者のソリューションが対象とするものとしては、産業用モータ、5G対応のワイヤレス通信、コネクテッド対応のHVAC(暖房、換気、空調)システムなどがあります。
アナログ・デバイセズが提供する多くの技術は最終製品ではありません。しかし、それらの技術は最終アプリケーションの実現に不可欠なものです。例えば、EVはリチウム・イオン・バッテリを使用して実現されます。そして、EVではバッテリの各セルの状態を常に監視する必要があります。それにより、バッテリ・パック内のセルのバランスを維持したり、バッテリの過充電/過放電を防いだりしなければなりません。そのために不可欠なものがバッテリ・マネージメント技術です。そして、この技術の市場を牽引しているのがアナログ・デバイセズです。当社は、内燃機関を使用する従来の自動車からEVへの完全な移行が実現される世界を思い描いています。それに向けて、バッテリ・マネージメントに使われるハードウェアとアルゴリズムを常に進化させています。それにより、バッテリのケミストリや効率の改善、コストの削減、ドライブトレインの信頼性の向上を果たすことが可能になります。EVへ移行を実現するには、他の分野の技術も進化させる必要があります。それらと同様に、バッテリ・マネージメント技術も重要な役割を担うということです。
アナログ・デバイセズが提供する別のソリューションも、GHGの排出量の削減に寄与します。その例としては、当社の高精度制御技術を活用した可変周波数ドライブが挙げられます。この種のドライブは、負荷や速度が変化するモータ・システムと組み合わせて使用されます。アナログ・デバイセズの技術を採用することにより、制御の対象となる負荷に応じてモータの速度やトルクを精密に調整することが可能になります。そして、対象とするタスクにモータの能力を適応させられることから、エネルギーの消費量の削減効果が得られます。世界中のモータにこのドライブが採用されれば、GHGの排出量を10%削減できる可能性があります。
アナログ・デバイセズの技術を利用することで環境に優しい最終アプリケーション(EVや可変周波数ドライブなど)を実現し、それが完全に認められて大規模に展開されたとします。そうすれば、社会全体のGHGの排出量は約26Gt削減される可能性があります10。アナログ・デバイセズは、様々な最終市場において、他社とは一線を画す主導的な地位を確立しています。そのことを活かし、多くの業界で脱炭素化に貢献したいと考えています。当社の熱意は、上記の見通しに支えられているのです。
今後、本稿の続編にあたる記事を公開する予定です。その記事では、GHGの排除や排出量の削減に向けたアナログ・デバイセズの能力について、更に詳しく説明します。
行動すべき時は「いま」

北極圏の夏における海氷と太陽光の吸収率の様子。2000年~2014年に生じた変化を示しています。青色の部分は海氷が減少した領域、赤色の部分は太陽光の吸収率が増加した領域を表しています。
気候変動が現実のものであることを示す証拠は至るところに存在します。例えば、北極圏の海氷は10年ごとにほぼ13%ずつ融解しています11。また、海中の酸素含有量の減少は熱帯のサンゴ礁に影響を及ぼしています12。世界中で大気中の二酸化炭素の濃度は上昇し、生物の多様性に減少傾向が生じています13。2050年までにGHGの排出量を大幅に削減するためには、適切な技術、インフラ、献身的な取り組みが必要です。言い換えれば、まだ開拓されていない大きな可能性が存在します。今後の数年間は、新たに開発されたソリューションの大規模な展開と画期的なイノベーションの開発に対して投資するための重要な期間になります。アナログ・デバイセズは、お客様と手を携えて、GHGの排出量を大幅に削減できるようにすることを強く願っています。
本稿の続編では、ネット・ゼロに向けた当社とお客様の連携について説明する予定です。そちらにもご期待ください。そして、ぜひ当社との連携についてご検討ください。
アナログ・デバイセズは、これまでに様々な技術革新を実現してきました。豊富な専門知識と中核となる能力に基づき、お客様と手を携えて、お客様ないしは世界が抱える最も難易度の高い課題を解決可能な包括的なソリューションを開発してきたのです。これまでと同様に、当社は今後も画期的な進歩の促進剤としての役割を果たしていくつもりです。そして、当社のコンピテンシを活用し、ネット・ゼロへの移行に必要なソリューションをお客様と共に構築したいと考えています。いまこそが、その取り組みに注力すべき時です。
参考資料
1Hannah Ritchie、Max Roser、Pablo Rosado(2020年)「CO2 and Greenhouse Gas Emissions(CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量)」
2 NASA Earth Observatory「World of Change: Global Temperatures(変貌する世界 -- 地球の気温)」
3 Patrick Galey、Marlowe Hood、Kelly MacNamara(2021年)「UN draft climate report: Impacts on people(国連の気候報告書草案 -- 人類への影響)」
4 Gabriel Gordon-Harper(2020年)「UNDRR Report Calls for Improved Governance to Address ‘Systemic Risk’(「システミック・リスク」に対処するためにはガバナンスの改善が必要、UNDRRが報告)」
5 Harry Gray Calvo、Gayle Markovitz(2022年)「Global Public Braces for 'Severe' Effects of Climate Change by 2032, New Survey Finds(2032年には世界中の人々が気候変動の深刻な影響を意識、新たな調査結果により判明)」
6 Swiss Re(2021年)「World economy set to lose up to 18% GDP from climate change if no action taken, reveals Swiss Re Institute's stress-test analysis(対策を講じなければ気候変動によって世界のGDPは最大18%低下、Swiss Re Instituteのストレス・テストの分析によって明らかに)」
7 Tom Kompas、Van Ha Pham、Tuong Nhu Che(2018年)「The Effects of Climate Change on GDP by Country and the Global Economic Gains From Complying With the Paris Climate Accord(気候変動が各国のGDPに及ぼす影響、パリ協定への準拠がもたらす世界経済への効果)」
8 「The economic transformation: What would we change in the net-zero transition(経済改革:ネット・ゼロへの移行で何が変わるのか)」(McKinsey & Company、2022年1月24日)の数値に基づくアナログ・デバイセズの分析結果
9 Paul Waide、Conrad U. Brunner「Energy-Efficiency Policy Opportunities for Electric Motor-Driven Systems(電気モータ駆動システムのエネルギー効率に関する政策の機会)」 International Energy Agency、2011年
10 サステナブルな最終アプリケーションが完全に認められて大規模に展開されたと仮定した場合のアナログ・デバイセズによる計算/分析結果。但し、最終製品のライフ・サイクル全体を考慮するための追加の調査が必要。51Gtの引用元は「How to Avoid a Climate Disaster(地球の未来のため僕が決断したこと、著:Bill Gates)」。)
11 World Wildlife Fund「Six ways loss of Arctic ice impacts everyone(北極圏の氷の融解が人々にもたらす6つの影響)」
12 「Ocean Deoxygenation: A Driver Of Coral Reef Demise(海洋の貧酸素化 -- サンゴ礁が絶滅を早める要因)」Reefcause Conservation、2021年9月25日
13 「Biodiversity - our strongest natural defense against climate change(生物の多様性 -- 気候変動に対する私たちの最も強力かつ自然な防御策)」United Nations、2022年