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サスティナブルな未来を支える電気自動車用のバッテリ技術


電気自動車(EV)に搭載されるバッテリについては、継続的に技術開発と改良が行われています。それによってもたらされる自動車の未来は、容易に想像できるのではないでしょうか。いずれ、自家用車からSUV、トラックまで、あらゆる自動車がバッテリで駆動されるようになるでしょう。それによりCO2の排出量は大きく削減されるはずです。しかし、それは変化の始まりにすぎません。EVでの使用を終えたバッテリを再利用することができれば、更に深遠な方法で世界を変えることができるはずです。世界には、低コストで再生可能エネルギーを利用できるようになるか否かが医療、教育、経済の発展の鍵を握っている地域が存在します。EV用のバッテリを再利用できるようになれば、そうした地域に小規模かつオフグリッドの電力供給手段を大量に配備できるようになるかもしれません。

そうした未来に向けた土台は既に築かれつつあります。しかし、バッテリ・メーカーの前には、依然として大きな課題が立ちはだかっています。内燃エンジン車に対抗できる価格でEVを提供できるようにするためには、バッテリのコストを可能な限り低減する必要があります。また、EVでの使用を終えたバッテリを他の用途で活用できるようにするためには、再利用やリサイクルを念頭に置いてバッテリを設計/製造しなければなりません。

では、バッテリによってもたらされる理想的な未来を実現するには、どのようなことが必要なのでしょうか。そのためには、そうした取り組みに対して消費者、政治家、電力会社からの賛意を得なければなりません。加えて、適切な提携を結び、適切な投資を行う必要があります。

改革を導く

環境に優しいという側面から、EVには特に大きな期待が寄せられています。現在では、より多くの企業がサステナビリティ(持続可能性)を優先事項として掲げています。また、環境を重視する姿勢が売上高の増加につながる可能性があるという調査結果も発表されています。EVの市場も例外ではありません。EVの世界販売台数は、2017年に100万台を突破しました。続く2018年には、65%増の210万台という数を達成しました。ただ、2019年には世界全体の自動車の販売台数が減少したことを受けて、伸び率は9%、販売台数は230万台にとどまりました。それでも、EVに対する需要は2030年までに10倍に増加すると予想されています。ほぼすべての国/地域では、EVを購入する場合、何らかの補助が得られるようになっています。また、主要な自動車メーカーはいずれも車両の電動化を着実に進めています。世界中がリスクを顧みることなく電動化を推進しているのです。

しかし、EVの業界は依然として価格の問題を抱えています。EV用のバッテリについては、2030年までにコストが低下することが期待されています。それでもなお、EVの店頭表示価格の1/3以上を占めるバッテリのコストは、内燃エンジン車に匹敵する価格を達成するための主な障害の1つです。

この問題に対する潜在的な解決策の1つが、非常に精度が高く優れた安全性を実現できるバッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム(BMS:Battery Management Systems)を採用することです。BMSは、自動車メーカーと部品メーカーが、現在の高価なバッテリと将来のより手頃な価格のバッテリの間のギャップを埋められるよう支援する役割を果たします。

アナログ・デバイセズのオートモーティブ担当バイス・プレジデント兼ゼネラル・マネージャを務めるPatrick Morganは、「消費者の観点から見ると、複数の大きな問題が存在するはずです」と指摘します。その上で「バッテリの容量を大きくすれば、航続距離は長くなります。問題はコストと重量も増加することです。当社は、非常に高い効率と精度を実現するBMS向けのICを提供しています。それにより、任意のバッテリ・パックから最大限のエネルギーを得られるようになり、コストと重量の問題が解決されます」と述べています。

トラックなどの業界では、電動化に向けて多額の投資が行われつつあります。そうした分野で重視されるのは効率です。McKinsey & Companyは「バッテリに対する需要が満たされるのならば、中型トラックのうち最大で20%が2030年までに電動化される可能性がある」との調査結果を発表しています。また、カリフォルニア大学バークレー校で運輸サステナビリティ研究センターの共同所長を務めるSusan Shaheen氏は、「EVでは、充電に伴ってダウンタイムが発生します。これは業績に悪影響を及ぼす可能性があります。内燃エンジン車と比べて、収益を生み出せない状態に置かれる時間が長くなるからです」と述べています。

Bar graph depicting electric car stocks in the millions of US dollars from 2010 to 2019
EV(自家用車)の世界保有台数は引き続き増加しており、2019年には、2018年から40%増の720万台に達しました。2010年の保有台数はわずか1万7000台だったので、長期的かつ急速に成長していることがわかります。
出典:Global electric car stock(EVの世界保有台数), 2010-2019
Patrick Morgan
「アナログ・デバイセズのソリューションは、自動車の耐用期間を通して世界最高レベルの精度を確保し、与えられたバッテリ・パックから最も多くの利用可能エネルギーを電気自動車が取り出すことを可能にしています。」

Patrick Morgan

自動車の電動化およびサステナブル・エネルギー担当コーポレート・バイス・プレジデント | アナログ・デバイセズ

効率を決めるフォーメーションの工程

EV用のバッテリ技術や、バッテリの製造/管理に関する最新のイノベーションにより、商用車/自家用車を巡る状況は一変する可能性があります。バッテリの製造においては、フォーメーションとテストから成る最終工程が非常に重要になります。それにより、最終的な効率が決まるからです。フォーメーションを実施することにより、バッテリのライフサイクル全体を通して最大限の容量と信頼性が得られるようにセルが製造されていることが保証されます。バッテリ・メーカーや計測器メーカーにとって、EVの製造規模を拡大しつつ製造効率を高めることが、EVの市場で商機をつかむための鍵になります。

Morganは「当社は、フォーメーション時から使用時まで、バッテリのライフサイクルのすべての段階に関わる製品を販売しています。フォーメーションを実施する際には、セルを活性化させる高精度の装置が当社の製品によって制御されます。バッテリ・セルが生み出されるこの段階は、その耐用期間を左右する重要な工程です」と述べています。

バッテリがより適切に動作する状況を作る

代表的なエネルギー・ストレージである燃料タンクは、その全体が単一の物体として製造されます。それとは異なり、EV用のバッテリ・パックは、互いに連携する数百~数千のバッテリ・セルで構成されます。バッテリの容量は、極端な温度や電磁ノイズにさらされる過酷な環境下においても、車両の耐用期間を通して最大限に維持されなければなりません。そのためには、バッテリ・パックに電力が流入/流出するなか、非常に高い精度で厳密に個々のセルを管理する必要があります。加えて、安全性を確保するためには、世界中のあらゆる安全規格に最初から準拠できるように電子デバイスを慎重に設計しなければなりません。単にASIL-Dの要件を満たせばよいというものではなく、バッテリ向けの革新的な機能アーキテクチャを開発することが求められます。

そこで、アナログ・デバイセズはEVで使用するリチウム・イオン・バッテリ向けのBMS製品を開発しました。それらの製品は、各セルの電圧を絶えず測定することにより、最大限の安全性を保証しつつ、バッテリの性能を高めて航続距離の延伸を実現します。充電状態(SOC:State of Charge)を非常に正確に測定できるので、自動車メーカーや部品メーカーは安全性を確保しながら出力を最大限に高めることができます。「当社の製品は、車両の耐用期間を通して世界最高レベルの精度が得られることを保証します。高速かつ安全にバッテリをフルに充放電することで、EVの航続距離を最大限まで延伸することが可能になります」とMorganは述べています。

より良いバッテリ

EVをより広く普及させるためには、バッテリの性能を高め、航続距離を伸ばすことが不可欠です。自動車メーカーや部品メーカーはその目標に向けて尽力してきました。その取り組みは、よりスマートで高精度なBMSによって支えられています。

EV用のバッテリによる航続距離の延伸航続距離

Blue bar graph using batteries for the bars depicting mileage increase in ev batteries from 2011 to 2019
BMSによる性能の最大化が引き続き進められれば、EV用のバッテリは、EVの航続距離の延伸や自動運転車におけるセンサーの拡充を、より適切にサポートできるレベルに達すると考えられます。

システムの複雑さの緩和

アナログ・デバイセズは、有線のBMSで使用される既存のコンポーネントをベースとしてワイヤレスBMS(WBMS)を開発しました。これは業界に極めて大きな変化をもたらしています。WBMSを採用すれば、セルの相互接続に使用するワイヤ・ハーネスが不要になります。そのため、設計/開発にかかるコストを削減できます。それだけでなく、ワイヤ・ハーネスに伴う機械的な課題や複雑さも排除されます。加えて、バッテリ・パックの設計においてモジュール性とスケーラビリティを高められ、異なる車種で設計を再利用することが可能になります。WBMSでは、各バッテリ・モジュールをワイヤレスで接続します。それにより、セルのフォーメーションの時点から、保管やアセンブリを経て車両内での使用が終わるまで、データの収集/保存を実行することができます。そのため、バッテリの劣化状態(SOH:State of Health)を算出し、バッテリ・パックを後どれだけ使用できるのか確認することが可能になります。このことは、バッテリに関するコストの削減につながります。また、EVでの使用を終えたバッテリは、より効率的に再利用することができます(バッテリのセカンド・ライフ)。そうすれば、メーカーや車両の所有者はコスト面でのメリットを享受することができます。加えて、環境に対する影響を緩和することが可能になります。

変革のための手段――バッテリのセカンド・ライフ

内燃エンジンを使わないEVが広く普及するということは、環境にも大きな変化が現れるということを意味します。アナログ・デバイセズは2019年にある調査を行いました。その結果、当社のBMS技術を採用した車両において、バッテリの性能を非常に高い精度で測定し、その結果を活用することで、CO2の排出量を年に約7500万t削減できることがわかりました。これは、8000万エーカー(約32万3749km2)の成熟森による効果に相当する量です。

EV用のバッテリ技術がもたらすメリットはそれだけにとどまりません。バッテリのセカンド・ライフにも大きく貢献します。使用期間を通して適切に管理されたバッテリ・セルであれば、劣化によってEVでは使用できなくなった後も十分に活用できます。例えば、EV用のバッテリを分解し、蓄電装置で再利用するといった具合です。これは、オフグリッドでの電力供給が求められる地域における主要なアプローチになる可能性があります。現状、(世界人口の13%に相当する)9億4000万人は電力を利用できず、(同40%に相当する)30億人はクリーンな調理用の燃料を使用できる状況にありません。そうした事実を踏まえると、小規模なオフグリッド電源というソリューションがいかに強く求められているのか想像できるのではないでしょうか。1

そうした地域において、手頃なコストで電力を利用できるようになれば、人々の生活が一変する可能性があります。安全性に欠ける調理用の燃料を使わずに済めば、屋内の空気の質が改善され、より健康的に暮らせるようになるでしょう。また、いつでも電気を使用できるようになれば、子供たちは日が落ちた後でも勉強することが可能です。加えて、きれいな水を供給したり、廃水を処理したりするための装置を利用できるようになるはずです。更に、インターネットを介したデジタル通信も利用できるようになるでしょう。セカンド・ライフとしてバッテリがこのように活用されるようになれば、従来は不可能だと考えられていたレベルの経済的な発展が促進されるかもしれないのです。

Gina Aquilano
「ワイヤレス・バッテリ管理では、セルのフォーメーションの時点から、保管やアセンブリを経て車両内での使用が終わるまで、データを収集/保存できます。このデータを用いれば、バッテリ・モジュールの残存値を設定できるため、エネルギー貯蔵など他のアプリケーションでのセカンドライフ(再利用)が可能になります。」

Gina Aquilano

オートモーティブ・グループ 技術ディレクタ | アナログ・デバイセズ

自動車メーカーにとって、アナログ・デバイセズのBMSによって得られる精度は非常に重要な意味を持ちます。また、バッテリのセカンド・ライフを活かしたい蓄電システムのメーカーなども、アナログ・デバイセズのWBMSによって多大なメリットを享受することになります。BMSの技術は自動車メーカーを支援するだけでなく、バッテリのリサイクルに新たに関わる業界やビジネス・モデルの構築に役立つ可能性があります。「いま私たちが目にしていることは、WBMSがもたらす効果の一部にすぎません。WBMSが自動車のサプライ・チェーンにもたらす真のメリットは、今後明らかになっていくでしょう」とMorganは語ります。

ADI wireless battery management systems solution diagram

従来のエンジンで培った知識が礎に

アナログ・デバイセズが、自動車の市場に向けて電力などを高い精度で計測可能なソリューションを初めて提供したのは20年も前のことです。従来の内燃エンジン車を対象とし、数十年にわたって必要とされる機能を提供してきました。その際の経験が、EV用のバッテリ技術を開発する上で非常に役立っています。当社の社長兼CEO(最高経営責任者)を務めるVincent Rocheは、そのことを十分に認識しています。「当社は、より高度な数学的知見をICソリューションに組み込んでいます。その結果、当社のBMSは年に数桁のレベルに達する革新的な変化をもたらしています。当社は、現実世界の事象を把握するための技術開発を今後も継続していきます」とRocheは述べています。


References

1Source: Website: H. Ritchie、M. Roser「Access to Energy(エネルギーへのアクセス)」ourworldindata.org、アクセス日:07/03/2020