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閉じる電力貯蔵システムの市場を牽引するNuvation Energyのバッテリ管理ソリューション
送電/配電を担うエネルギー・グリッドは、新たな形態へと移行しつつあります。再生可能エネルギーを活用可能な分散型のエネルギー・グリッドが求められるようになっているからです。その移行に不可欠なものが電力貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)です。一般に、再生可能エネルギーの供給源は断続的な性質を持ちます。それに伴う課題に対処するためには、ESSが必須となります。また、電気自動車(EV)の普及に伴い、エネルギー需要はますます増大すると見込まれています。それに対応する上でも、ESSが重要な役割を果たします。
ESSは、余剰の電気エネルギーをバッテリに貯蔵するために使用されます。需要がピークに達した際には、ESSに貯蔵されたエネルギーを放出することで対応を図ります。それにより、エネルギーの需給バランスが最適化され、グリッドを安定させることが可能になります。そのためには、バッテリから制御システム、接続用のインフラまでにわたって高い効率を確保できるようにしなければなりません。これを実現するには、ESSに、安全で信頼性が高く拡張性に優れるバッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム(BMS:Battery Management System)を組み込む必要があります。それだけでなく、ESSの機能の拡充、信頼性の高い運用、予防安全に向けた対策の強化、総所有コスト(TCO)の削減を実現するために、様々なイノベーションを創出しなければなりません。
Nuvation Energy(以下、Nuvation)は、定置型ESSの市場を牽引する企業です。同社は、様々な化学組成のバッテリに対応するBMSによって上記の課題の解決を図っています。そのBMSは構成が可能(コンフィギュラブル)であり、高い柔軟性をもたらします。その効果により、このBMSを組み込んだESSの所有者は、使用済みのEV用バッテリを含めて、様々な種類のバッテリを調達/活用することができます。Nuvationは、ESSの分野で次なるイノベーションの創出を目指していました。そのためには信頼できるパートナーが必要だと考えました。そのパートナーとして選ばれたのがアナログ・デバイセズです。アナログ・デバイセズは、この分野に関する深い専門知識を有しています。また、様々な領域を網羅するフィールド・サポートを提供しています。更に、高精度のBMS(セル・モニタ)を開発する業界のリーダーとして認知されています。Nuvationは、直面している技術的な課題を解決し、市場のニーズに応え、製品の市場投入を加速するためには、アナログ・デバイセズと協業するのが最適だと考えたのです。
本事例の概要
顧客企業の概要
Nuvationは、10年以上にわたり、ESSの市場に向けて構成可能な製品とエンジニアリング・サービスを提供している。同社のバッテリ/エネルギー管理用のシステムは、送配電網、EV用充電ステーション、太陽光エネルギー向けの貯蔵システム、バッテリ・パックの再利用など、全世界の様々な分野で活用されている。
技術
連続方式のセル・バランシング機能を実現するための独自アルゴリズムを採用したバッテリ/エネルギー管理用のソリューションを提供している。それらのソリューションには、高精度のセル・モニタ「LTC6811」をベースとする高電圧/低電圧対応のBMSモジュールなどが含まれている。
課題
ESSの使用可能な容量を最大化すると共に、様々なバッテリの化学組成に対応できるBMSを提供する。また、ESSのダウンタイムを最小限に抑えると共に、電力変換効率を最大化する。
目標
ESSのTCOを改善する。それに向けて、BMSの信頼性と性能を向上し、ESSの寿命を延伸する。また、ESSのメーカーが製品を市場に投入するまでの時間を短縮する。更に、事業者が自社でBMSを開発/保守することを不要にする。
未来へのビジョンの共有
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もともと、Nuvationとアナログ・デバイセズは10年間にわたって協業していました。そして、2021年に未来へのビジョンを共有していることを認識した両社は、より緊密な協調関係を結ぶようになりました。そうしたビジョンには、EV用バッテリのセカンド・ライフ・バッテリとしての再利用や、電動化に関連するエコシステムの拡大などが含まれており、Nuvationは既にそれらの市場で重要な役割を果たしていました。
Nuvationはアナログ・デバイスと共に、自社の第5世代(Gen 5)の技術/製品の共同開発に取り組みました。具体的には、ESSをターゲットとし、長期にわたる信頼性を確保することが可能な高電圧/低電圧対応のBMSの開発を進めました。その後2年間にわたり、Nuvationは信頼できるパートナーとしてアナログ・デバイセズと緊密な連携を図りました。その成果として、それまでの技術的な成果を統合し、新たな課題を解決することができました。
課題の克服
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広範な電圧と温度への対応
様々な検討とテストを経て、Nuvationはアナログ・デバイセズの高精度のセル・モニタであるLTC6811を選択し、BMSを実現することにしました。同ICをはじめとする技術的な要素を組み合わせることで、高電圧/低電圧(60V~1500V)に対応しつつ、エネルギー密度の高いリチウム・バッテリをより高い精度で監視/管理することが可能になりました。Nuvationのセル・バランシング技術とSOC(State of Charge)の推定用アルゴリズムは、バッテリの使用可能な容量を最大化し、システムのダウンタイムを削減することに貢献します。
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複数種のバッテリ・プロファイル/化学組成への対応
アナログ・デバイセズは、BMSでセルを監視するためのセンサー技術を提供しています。それを利用することにより、Nuvationは柔軟性の高いバッテリ管理ソリューションを開発することができました。そのソリューションは、様々なバッテリ電圧、広範な温度、多様な充放電プロファイルに対応するようプログラムすることが可能です。また、アナログ・デバイセズのセンサー技術を活用することで、ESSのプロバイダは様々なベンダーから様々な化学組成/容量のバッテリを調達できるようになります。
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新規のバッテリの統合
想定されるアプリケーションでは、新規の管理用プロファイルや化学組成に対応する新たなバッテリが追加される可能性があります。NuvationのBMSであれば、ESSにおけるそうした将来的な拡張に対応することができます。NuvationのBMSは構成可能なので、新規のバッテリであっても容易に統合できるということです。
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サポートするバッテリ
NuvationのBMSは、リチウム・ベースのバッテリをサポートしています(他の化学組成を採用したバッテリにも対応します)。リチウムをベースとするメインのバッテリは、他の化学組成のバッテリよりも高価です。しかし、電力の貯蔵量と充電速度の面で優れています。使用率の低いサブ・バッテリは冗長性を得るために追加されます。これを用意することで、サイクル時間を延ばすことができます。サブ・バッテリとしては、より安価な化学組成のものが使用されます。このバッテリの充電時間は長くなる可能性があります。
パッシブ方式と連続方式のセル・バランシング機能
ESSのバッテリを充電している期間はダウンタイムに相当します。システムを運用する立場からすれば、それは無駄なコストを費やしている状態だと言えます。生産性の高いESSを実現するには、ダウンタイムを削減すると共に、充放電のサイクルにおけるバッテリの損傷を回避することが不可欠です。以下では、充電の際に適用されるセル・バランシング機能について説明します。2つの方式を取り上げ、それらの効率を比較することにします。
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パッシブ方式のセル・バランシング機能では、充電サイクルにおける最高レベルの電圧の値を使用します。そして、同機能によりすべてのセルが満充電されます。そのため、各バッテリのバランスの状態によっては、ESSの動作期間が短くなってしまう可能性があります。BMSは、セルの電圧と温度を監視し、AC/DC変換またはDC/AC変換に対応する電力変換システム(PCS:Power Conversion System)に重要なデータを提供します。それにより、充放電の際にバッテリに損傷を与えないようにします。また、必要に応じて予防安全の対策を実行します。
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連続方式のバランシング機能は、この全範囲で実行することができる
従来のバランシング機能は、この領域でしか実行できない
一方、連続方式のセル・バランシング機能では、Nuvationの「G5 BMS」とアナログ・デバイセズの高精度の測定技術を利用します。最も速く充電されるセルの充電状態が100%に達したら、各セルがどのようなアンバランスな状態にあるのかという推定が定期的に行われます。そして、NuvationのBMSがシステムの稼働中に残りのセルのバランスを取ります。このようなプロセスを適用することで、ESSは迅速にフル稼働の状態に復帰できます。Nuvationは、同社の革新的なセル・バランシング機能を適用すれば、多くのユース・ケースにおいて99%を超えるESSのアップタイムを実現できるとしています。1
セカンド・ライフの市場
IEA(国際エネルギー機関)の「New Policies Scenario(新政策シナリオ)」では、2030年までに1億2500万台を超えるEVが路上を走るようになるとの予想が示されています2。EVを8~10年使用した段階でも、バッテリ・パックは70%~80%の充電容量を維持しています。そのバッテリ・パックを定置型のESSで再利用すれば、最長で更に10年間活用できることになります。
アナログ・デバイセズが提供する高精度のセル・モニタは、EV用バッテリの購入者と販売者の間で信頼関係を構築することに貢献します。それらのセル・モニタは、セルの電圧と電流に関する正確なデータを提供します。それらのデータを利用すれば、バッテリのライフサイクル全体にわたる充電状態を判断できます。つまり、それらのデータは、バッテリがEVからセカンド・ライフの市場に渡る際にも活用することが可能です。
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EVの販売台数。IEAの「Global EV Outlook 2023: Catching Up with Climate Ambitions(EVに関するグローバルな展望、2023年版:気候変動への対応が進む)」から引用しました2。
NuvationのCEO(最高経営責任者)を務めるMichael Worry氏は「EV用のBMSは、EVに特化した形で設計されます。そのため、EVでの使用という条件下では最適に機能するはずです。ただ、定置型のESS向けに設計されたBMSであれば、それよりも高い性能が得られます。また、より大きな規模で利用することが可能です」と指摘しています。その上で同氏は、「当社のお客様は、定置型ESSでセカンド・ライフのEV用バッテリを使用するにあたり、ESS専用に設計された当社のBMSを選択しました。そうすれば、より高い性能を達成し、より大規模なシステムを構築できるからです」と述べています。
現在、セカンド・ライフ・バッテリ市場の醸成を経済面ならびに環境面から引き起こす要素が明らかに存在しています。それらは、Nuvationとアナログ・デバイセズが共有するエコシステムの戦略において非常に重要な要素となります。この市場のESSでは、風力や太陽光を基に生成された余剰の電力を貯蔵するためにEV用バッテリを再利用します。つまり、大量の使用済みバッテリを管理する組織にとっては新たな収益源が得られることになります。また、バッテリの生涯価値(EVのコストの約30%)を高められるので、TCOを削減できます。バッテリの寿命が長くなれば、原材料の採掘にかかる負担も軽減されます。更に、埋め立て地に廃棄されるバッテリの数を削減することも可能になります。
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ESSのエコシステムを醸成するパートナー
Nuvationは現在、自動車メーカー、システム・インテグレータ、バッテリを保管する倉庫会社に対し、エネルギー管理用の先進的なソリューションとESSの設計サービスを提供しています。それにより、それら顧客のEV用バッテリのライフサイクル戦略に“セカンド・ライフ”という要素が追加されたと言えます。強固なセカンド・ライフ戦略により、大量の使用済みバッテリを管理する組織は新たな収益源を得ることができます。また、EV用のバッテリを倉庫に保管するためのコストを削減することが可能になります。更に、バッテリを再利用できるのであれば、バッテリのリサイクルのタイミングを遅らせることができます。Nuvationのソリューションは、分散型のエネルギー資源を活用するために役立ちます。つまり、廃棄物の量を削減し、エネルギーの浪費を最小限に抑えることを可能にします。また、同社のソリューションは、オープンなエネルギー市場を醸成することにも貢献します。なぜなら、商用マイクログリッドの事業者や発電事業者が、グリッドの安定性の維持に貢献しつつ、余剰の再生可能エネルギーをグリッド向けに販売することが可能になるからです。
アナログ・デバイセズで持続可能エネルギー担当ゼネラル・マネージャを務めるNitin Sharmaは「当社は、これからもNuvationとの緊密な連携を維持します。それだけでなく、エコシステムのパートナーに同社を紹介していきます」と述べています。一方、NuvationのWorry氏は「当社は、アナログ・デバイセズを非常に重要なパートナーだと位置づけています。同社の協力を得ながら、次世代のプラットフォームやシステムの重要な課題を解決し、顧客に向けて優れたESSのソリューションを生み出して、電力貯蔵の市場を開拓していきます」と語っています。
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参考資料
1Battery Management Systems(バッテリ管理システム)、Nuvation Energy
2 「Global EV Outlook 2023: Catching Up with Climate Ambitions(EVに関するグローバルな展望、2023年版:気候変動への対応が進む)」、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)