蓄電システム:バッテリ・パックを簡単かつ安全に管理する方法
概要
リチウムイオン(Liイオン)やその他のバッテリの化学組成は、オートモーティブの分野における重要な要素であるだけでなく、蓄電システム(ESS)においても広く用いられています。例えば、ギガファクトリでは、再生可能発電により1日あたり数MWhのエネルギーを取り出すことができます。エネルギー・グリッドに24時間中課せられる様々な負荷にどう対処したらよいでしょうか? これは、グリッド対応でバッテリベースの蓄電システム(BESS)を用いることで解決できます。本稿では、ESSの開発と展開の両方における、バッテリ管理(バッテリ・マネージメント)コントローラ・ソリューションとその有効性について説明します。
リチウムイオン・バッテリの課題
Liイオン・セルを使用するにはバッテリ管理システム(BMS)が必要です。Liイオン・セルには危険性があるため、BMSは不可欠です。過充電になると、Liイオン・セルに熱暴走が生じ爆発するおそれがあります。過放電になると、電荷保持能力に永続的に影響する化学反応がセル内に発生します。どちらの場合も、危険でしかも損失の大きい形でバッテリ・セルを失うことになります。更に、Liイオン・セルは多くの場合スタックされてバッテリ・パックを形成するため、その点においてもBMSが必要です。スタックされたセルの充電は、多くの場合、定電流源をスタックに並列に適用して直列に行われます。しかし、これには、全てのセルを同じ充電状態(SOC)に保つ操作であるバランシングという課題が伴います。どのようにしたら、バッテリ・スタックのどのセルも過充電や過放電させることなく、全てのセルを完全に充電または放電できるでしょうか? バランシングは、優れたBMSが持つ多くの重要な利点の1つです。BMSの主な機能は次のとおりです。
- セル電圧、セル温度、セルに流入するあるいはセルから流出する電流などのセル・パラメータを監視。
- 上述のパラメータを測定する他、クーロン・カウンタを用いてアンペア秒(A.s)単位で充放電の電流を測定することでSOCを計算。
- 全てのセルが同じSOCとなるよう、セルのバランシング(パッシブ)を実行。
バッテリ管理システム・ソリューション
アナログ・デバイセズには、BMSデバイスの広範なファミリ(ADBMSxxxx)があります。例えば、ADBMS1818は、工業用アプリケーションおよびBESSアプリケーションに最適で、18セルのバッテリ・スタックを測定できます。ADBMS ICの動作にはマイクロコントローラが必要です。マイクロコントローラ・ユニット(MCU)はBMSと通信を行い、測定データを受け取って計算を実行し、SOCなどのパラメータを決定します。ほとんどのマイクロコントローラがBMSと通信できますが、全てが適しているとは限りません。広い処理能力を持つマイクロコントローラが望まれます。BMSがフィードバックするデータは大量なものになることがあります。これは特に大きなセル・スタックが必要な場合に当てはまります(スタックによっては1500Vに達し、最大32個のADBMS1818をデイジーチェーン接続するものもあります)。この場合、マイクロコントローラは、システム内の様々なBMS ICと通信すると同時にその結果を処理できるだけの、広い帯域幅を備えている必要があります。BMSプラットフォーム・ソリューションの一部として、MAX32626マイクロコントローラは、PowerPath™コントローラを通じて管理される2つの電源を備えています。PowerPathコントローラは、ボードの電力需要(接続されている周辺機器や処理負荷など)に応じて電源の優先順位付けを行います。
アナログ・デバイセズのほとんどのモニタリングICは、高電圧システム用にスタック可能なアーキテクチャを採用しているため、複数のアナログ・フロント・エンド(AFE)をデイジーチェーン接続できます。そのため、同時に複数のAFEと連携することが、蓄電コントローラ・ユニット(ESCU)と呼ばれるBMSコントローラ・ボードの主な特性の1つになります。
図1に代表的なBMSのブロック図を示します。この図では、ESCUを青色で強調表示しています。このESCUは機能安全アプリケーション用に最適化されたものではありませんが、保護回路や冗長性を実装することで、特定の安全度水準(SIL)要件を満たすことができます。
図1 アナログ・デバイセズのBMSソリューションでサポートされたBMSの簡略ブロック図
BMSコントローラ・ボードのハードウェアおよびソフトウェア
ハードウェア情報
アナログ・デバイセズのESCUは、様々なBMSデバイス(AFE、ガス・ゲージ、isoSPIトランシーバー)とインターフェースできます。BMSコントローラ・ボードのハードウェアおよびコンポーネントの重要な点は以下のとおりです。
- オンボードMCU:蓄電アプリケーションには、Arm®Cortex®-M4 MAX32626が適しています。このデバイスは低消費電力で動作し、また、最大96MHzの周波数で動作する内部発振器を備えているため速度の点においても優れています。低消費電力モードでは、節電のため4MHzまで動作速度を落とすことができます。600nAの低消費電力モード電流や、リアルタイム・クロック(RTC)の有効化など、優れたパワー・マネージメント機能を備えています。また、MAX32626は、SPI、UART、I2C、1-Wire®インターフェース、USB 2.0、PWMエンジン、10ビットADCなど、最大限に多様な周辺機器に対しホストとして動作します。このMCUには、最新のセキュリティ機能を備えた信頼保護ユニット(TPU)が組み込まれています。
- インターフェース:ESCUは以下に示す複数のインターフェースに対しホストとして動作します。
- SPI、I2C、CAN。
- 高電圧障壁を通じて堅牢で安全な情報伝達を行うためのisoSPI。
- ボードに給電し、また、MCUと一括してやり取りするためのUSB-C。
- マイクロコントローラのプログラミングとデバッグを行うためのJTAG。
- Arduino(アルドゥイーノ)コネクタ(イーサネット・シールド、センサー・ボード、Proto ShieldなどのArduino互換ボードを追加できるような柔軟性を実現します)。
- isoSPIトランシーバー:2個のLTC6820からなり、1つのトランスを用いてデイジーチェーンのBMS ICとの間でisoSPI通信を行います。これにより、このボードが高電圧バッテリ・スタックに接続されたBMS ICと完全に絶縁できるようになります。デュアルisoSPIトランシーバー構成とすることで、冗長で反転可能な絶縁型通信が可能になり、それによってホストMCUは通信ポートを交互に切り替えて信号の完全性をモニタできます(このボードの今後の開発品には、データ・レートを向上すると共に、アナログ・デバイセズの最新のBMS ICがもつ低消費電力セル・モニタリング(LPCM)機能に対応する、ADBMS6822(デュアルisoSPIトランシーバー)が含まれます)。
- パワー・マネージメント:
- 電力は、DCジャック、またはUSB 2.0インターフェースを介してPCに接続されるUSB(USB-Cコネクタが使用可能)のいずれかで供給できます。
- LTC4415を使用するプライオリタイザ回路が電源の管理と選択を行います。これは、コントローラおよび周辺機器側の負荷に基づきDCジャックかUSB-C入力かを選択します。例えば、Arduinoシールドが接続され稼働中であれば、ボードの消費電力が増加し、USB-Cの供給能力を超えてしまいます。その場合、LTC4415の理想ダイオードORアーキテクチャが、DCジャックを電源として選択するよう切り替わります。
- 電力チェーンは様々な電圧レール(3.3V、2.5V、5V)を提供しており、これらはジャンパで設定できます。
- 安全性および保護機能:MAX32626は、オンボードの絶縁型ゲート・ドライバであるADuM4120を制御します。このデバイスは、外付けの接触器(バッテリ・ボードなどに配置されます)に接続されたN-FETを駆動します。これには、MCUがADuM4120を通じてMOSFETのオン/オフを切り替えるときの保護機能があり、緊急時やフォルト時にコントラクタを開放しバッテリを切り離します。
図2に、ESCUの主要部品にスポットを当てた概略ブロック図を示します。
図2 ESCUの詳細なハードウェア・ブロック図
PCBは10cm × 9cmと小型です。主なインターフェースを図3に示します。
図3 ESCUの上面図
ソフトウェア情報
ソフトウェア面では、アナログ・デバイセズでは、コントローラ・ボードと通信を行うために用いることのできるオープンソースのグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)を含む、フル機能ソリューションを提供しています。このGUIは、デイジーチェーンに接続された最大3個のADBMSデバイスに対応します。
GUIは、明確に定義され容易に拡張できるオープンソース通信プロトコルを通じて、MCUとの間で通信を行います。このプロトコルは、シリアル・ポートを介してMCUに送信されるメッセージを定義します。メッセージには巡回冗長検査(CRC)による保護が行われ、エラー検出が可能です。これらのメッセージを用いることで、MCUとの逐次的な接続/切断、システム・パラメータの設定、測定の実行、イネーブルおよびフォルト・チェック、ADBMS部分への必要なコマンドの書込みなどを行うことができます。MCUのアプリケーション・コードは、FreeRTOSのスレッドを利用して並列動作を実行します。フォルト・インターバル時間を提供できるよう、測定スレッドをフォルトチェック・スレッドと並行して実行できるため、便利です。
ソフトウェアのインターフェースは、BMSコントローラ・ボードと共に提供され、Pythonで書かれています。主なユーザ・セクションは次のとおりです。
- システム・タブ:これは、アプリケーションのメイン・ランディング・ページです(図4)。これを使うことで、シリアルPC通信の確立、接続するAFEボード数の選択、過電圧および低電圧のチェックを行うために使用する測定間隔およびスレッショルドの決定を行うことができます。接続の確立後、測定を開始できます。[System Status]のライトが両方とも緑色になったら(図4参照)、ユーザが入力したボード数に応じて測定タブが表示されます。
図4 ユーザ・アプリケーションのシステム・タブ
- 図5に示すように、BMSタブは、各接続AFEに対してESCUが処理した測定結果を表示します。BMSタブには、セルとGPIOの電圧、状態、AFEボードによるフォルト読出しが示されます。セル電圧の測定結果はグラフ表示され、リアルタイムでプロットされます。
図5 BMS測定タブ
- リファレンス・タブ:GUIには、ボードと回路図の概略ブロック図を表示するリファレンス・タブがあります。
回路図とガーバー・ファイルは、評価用ファームウェア、GUI、ユーザ・ガイドと共にオープンソースであり、アナログ・デバイセズから提供されています。
まとめ
急速に進化しつつあるエネルギー市場において、BESSの必要性はますます高まっています。すぐに展開できるフル機能ソリューションに対する要求を満たすことは、急を要するものとなっています。市場投入までの時間を短縮し、不測の遅延を加えないための支援も必要です。アナログ・デバイセズは、そのESCUでこの要求を完全に満たすことができます。このボードはBESSが必要とする重要な機能を備えており、また、更なる開発を行うための柔軟性を持ったフル機能の基盤を提供します。
アナログ・デバイセズのBMSコントローラ・ソリューションを用いることで、以下が可能になります。
- このソリューションはスタック可能でスケーラブルなアーキテクチャを対象にしているため、複数のAFEを同時に評価できます。追加のisoSPIトランシーバー・ボードは不要です。
- オンボードJTAG、ステータスLED、各種コネクタおよびインターフェースを備えているため、BMSシステムをシームレスにデバッグできます。
- オープンソースのハードウェアおよびソフトウェアを活用することで市場投入までの時間を短縮できます。
アナログ・デバイセズのBMSコントローラ・ボードは、BESSに必要な主要機能を備えており、将来の開発に必要な柔軟性のある基盤を提供します。
参考資料
「Lithium-Ion Battery Energy Storage Solutions」アナログ・デバイセズ、2022年。
「蓄電ソリューション」アナログ・デバイセズ。
Amina Bahri. 「AN-2093: ADBMS1818 Slave Module Solution 」アナログ・デバイセズ、2021年。
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産業向けソリューション
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