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閉じるEVバッテリ、リサイクルか再利用か?答えは両方
道路を走っている車をご覧ください。燃焼機関が無いのでその音に気が付かないかもしれませんが、電気自動車(EV)は道路を走るその割合を静かに増やしています。実際、世界経済フォーラムによると、2020年の電気自動車販売台数は230万台となり、5年前のEV販売台数の4倍となっています。この劇的な変化は、消費者需要により促され、EVバッテリを充電するインフラストラクチャの拡大、国や都市における電動化を促進する法規制の制定につながっています。EVは、燃焼機関や化石燃料に代わるグリーンな代替燃料車として取り上げられますが、弱点もあります。その弱点とは、自動車に給電できるだけの電荷を蓄積できなくなったときに、重さが0.5トンにも達するバッテリをどう処置すればよいのかというものです。
この疑問に対しては、現時点ではEVバッテリをリサイクルするというのが一般的な答えになります。つまり、コバルトやリチウムといった材料の一部(すべてではない)を回収する処理を施すということです。ただ、EVバッテリのリサイクルにはコストがかかります。また、これに関する規制は設けられておらず、明確に定義されたサプライ・チェーンも存在しません。
ADI技術ディレクタのGina Aquilanoが、彼女と彼女の家族にとっていかにバッテリの再利用とリサイクルが大切かを話す動画をご覧ください。
廃棄されるバッテリのコストが増加
バッテリは、電気自動車のコスト効率面で主な焦点となる部分です。バッテリは電気自動車の心臓部であり、EVのコスト全体の約30%を占めます。しかし、顕著な改善が見込まれています。バッテリ・ケミストリと電子機器が大幅に進化することで、コストが削減され、効率的なバッテリの再利用とセカンド・ライフ、EVバッテリのリサイクルが可能になります。これにより、転換点を越えるEV導入の推進力として必要なコスト面での利点を提供できます。
Electric Car Statistics and Facts 2021(2021年電気自動車の統計) | Policy Advice
バッテリの最初の用途とそれ以降の用途を通じて効率的にバッテリの状態をモニタリングすることで、バッテリの購入者と販売者の間で信頼関係を築くことができます。この信頼関係により、OEMはバッテリの初期投資の一部を回収し、その価値を消費者に提供できる資産として扱うことができるようになります。
2035年以降、毎年1000万個のEVバッテリが廃棄される可能性がある(ギザの大ピラミッドの重量以上)
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現在、1000万台のEVが使用されており、2025年までには、毎年1000万台のEVが販売されると予測されています。1EVバッテリの平均耐用年数が約10年であることを考慮すると、2035年までに毎年廃棄されるEVバッテリの数は、ギザの大ピラミッドの重量の1.3~1.5倍(580万トン)になります。2
1. Global EV sales by scenario, 2020-2030 – Charts – Data & Statistics(2020~2030年シナリオ別世界EV販売 – グラフ – データと統計)- IEA
2. As electric vehicles take off, we'll need to recycle their batteries(電気自動車の時代、バッテリのリサイクルが鍵に)(nationalgeographic.com)
最初に再利用してからリサイクル
バッテリの再利用プロセスでは、パック内でまだ充電可能なセルを特定し、パックを分解してから、その充電可能なセルを使用して再度組み立てを行います。このリサイクルに代わる選択肢(正確には暫定的な措置)として浮上しているのが「バッテリ・セカンド・ライフ」と呼ばれる方法です。車載リチウム・イオン・バッテリの充電容量は、通常8~10年間使用すると当初の70%~80%まで低下します。そうすると、車両を効率的に充電することができなくなり、交換が必要になります。使用済みのバッテリは増加の一途をたどっていますが、それにより全く新たな市場機会が生み出されています。それがセカンド・ライフ・バッテリです。
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今後5年間で、EVの数は5倍に増加します。EVのバッテリの再利用とリサイクルにより、省エネと消費者に対する価値の構築を可能にする循環型経済を作り出すことができます。Patrick Morgan
自動車の電動化およびサステナブル・エネルギー担当コーポレート・バイス・プレジデント | アナログ・デバイセズ
バッテリ・パックは電気自動車の店頭表示価格の30%以上を占めるので、バッテリ・メーカー、自動車メーカー、規制機関、また保険会社すらも、二次市場を育てる明らかな経済的、環境的なメリットがあります。最も直接的な方法は蓄電システム(ESS:Energy Storage Systems)を使った用途です。この用途では、使用済みバッテリ・パック内の充電可能なセルを再生可能エネルギーのグリッドの中で再利用できるようにすることで、風力発電、太陽光発電、水力発電、地熱発電により生成された過剰な電力を貯蔵することができます。EVバッテリはより小さなバッテリ・モジュールに分解して、電動工具、フォークリフト、電動スクーターなどのより電力使用量の少ない用途に使うことができます。
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初期段階にあるセカンド・ライフ・バッテリ市場には、技術、品質管理、実装に関して障壁が無いわけではありません。例えば、現在のEVバッテリはバッテリの充電状態をモニタリングできるようにする電気ハーネスを使用しています。このようなハーネスは他のハーネスも含めて、バッテリを再利用する前に、バッテリから取り除く必要があります。このため、コストと設計の面で複雑さが増します。最終的に寿命を迎えた製品の分解を考慮した製品設計の増加に対応するため、設計者はハードワイヤ接続されたバッテリ・マネージメント・システム(BMS)をワイヤレスBMS(wBMS)技術で拡張することができます。ワイヤレスBMSにより、電気自動車のサイズ、重量、材料費を削減できるばかりでなく、バッテリ・パックをロボットで分解および組み立てるプロセスをより安全かつスケーラブルにすることができます。

wBMSでワイヤ・ハーネスが不要になるため、バッテリ・ハーネスという以前の制約で実現できなかった数多くの可能性を切り開くことができます。例えば、ハーネスが不要になることで、バッテリ・パックのロボットによる組み立てと分解が可能になり、バッテリのセカンド・ライフの用途への移行が効率化します。Roger Keen
E-Mobility担当ゼネラル・マネージャ | アナログ・デバイセズ
バッテリ・セカンド・ライフ:電気自動車のバッテリ寿命を延長
一部の予測では、セカンド・ライフ・バッテリの用途により、さらに6~30年バッテリの寿命を延ばすことができるといわれています。しかし、最終的に寿命を決めるのは、最初の用途でバッテリがどのような状態で使われていたかです。その点に関して、ワイヤレス・バッテリ・マネージメント・システム(wBMS)技術は、バッテリの全寿命にわたって非接触な方法でバッテリのデータを収集できるため、他にも重要なメリットがあります。この貴重なデータはクラウドで集約された後、バッテリのセキュアな識別番号に再び関連付けられます。
バッテリの販売者は、バッテリを再利用に回す前に、取得したデータを使用して各バッテリの劣化状態の履歴を作成することができます。そのEVの所有者はフル充電や部分充電(または放電)を何回くらい行ったのか、そのEVは事故に遭遇したことはあるのか、そのEVのメンテナンス記録は何を表しているのかといった履歴です。さらに、従来はデータの収集が困難だった状況下でも、このような粒度の細かい状態監視機能を提供できるようになるのです。例えば、新しいバッテリまたはセカンド・ライフ・バッテリが倉庫で適切に保管されていたか、輸送中に問題はなかったか、などがモニタリングできます。
最終的には、全てのバッテリは使用後に再利用されると、分解されリサイクルされます。ワイヤレスBMS技術は非接触による在庫特性の管理を大規模に行えるようにすることで、再利用かリサイクルかに関する迅速な判断を支援します。ワイヤレスBMSなどの技術により提供される劣化状態に関するデータに基づいて、再利用かリサイクルかの判断が行われると、購入者と販売者は一定の水準で信頼関係を築き、バッテリの価値を公正に評価してから、販売価格を決定できます。業界では、使用期間が短く、状態の良いバッテリとメンテナンスの悪いバッテリを区別するために、評価基準が策定される可能性もあります。
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EVの中核となる要素は、勿論、バッテリです。バッテリ・マネージメント・システム(BMS)は、バッテリの信頼性と寿命を最大化して、EV導入の障壁を低くするために欠かせません。BMSの精度向上に伴い、バッテリ・セルの状態をより良く把握し、より多くの容量を引き出し、バッテリ・パックの動作の信頼性を向上させることができます。Mike Kultgen
バッテリ・マネジメント・システムグループ ゼネラル・マネージャー | アナログ・デバイセズ
電気自動車用バッテリの先にある持続可能な新しい世界
電気自動車の世界は急激に成長しており、バッテリはより環境に優しい交通手段に貢献し、大きな役割を果たすでしょう。セカンド・ライフ・バッテリの再利用は、リサイクルの前に高い価値を生み出す暫定的な措置で、その成功はバッテリの最初の用途とその後の用途に全体を通じて対応できるかに大きく左右されます。バッテリとBMSの設計はバッテリの寿命全体を考慮して行う必要があります。このために、バッテリ・サプライヤーと自動車メーカーの考え方の切り替えが求められるかもしれませんが、長期的にはこれらの組織が環境的に持続可能でかつ経済的に成り立つ新しい市場経路の構築に重要な役割を果たすことになるでしょう。

これだけでなく、自動車業界は、現在そして将来に良い結果をもたらす数多くの環境や社会に関する取り組みを始めています。これらの取り組みには、問題視される採掘方法を考慮してバッテリ・ケミストリからコバルトを排除すること、アルミニウム、プラスチックなどの自動車用材料の生産で発生する排出量を削減し、ゼロカーボン車の実現をめざすことなどが含まれます。*
また、ADIは環境持続可能性の積極的な目標のために努力しています。これらの目標には、2050年以前のネットゼロ・エミッション実現、2030年までのカーボン・ニュートラル実現、CO2およびCO2e排出量とADIの全施設での水使用量を2030年までに半分に削減などの目標があります。
近い将来、地球環境に良いことをしているという気持ちでEV車のドライブを楽しむことができます。また、未来の車では、運転している車に搭載されているEVバッテリが蓄電システムなどの別用途でセカンド・ライフとして活用され続けると知ると、さらに運転が楽しいものになります。