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閉じる岐路に立つヘルスケア・テクノロジー -- リモート・ケアとバリューベース・ケアへの対応が急務に
ヘルスケアの業界は急激な変化に直面しています。同業界は、重大な岐路に立たされていると表現してもよいでしょう。米国では、医療費がGDP(国内総生産)の17.7%を占めています1。残念ながら、それだけ多くの医療費を費やしているのにもかかわらず、他の先進国と比べて米国の人々の健康状態は良好だとは言えません。米疾病予防管理センター(CDC)の国立衛生統計センター(NCHS:National Center for Health Statistics)が2023年に公開した暫定データによると、米国の出生時平均余命は2021年に2020年の77歳から76.1歳まで低下しています1。2年間の寿命低下率で見ると、2019年~2021年には1921年~1923年以降、最大の低下幅を記録しました2。
米国では、コストに対する圧力が特に顕著です。一方で、医療費の増加は、世界中の人々にも影響を与える重大な関心事です。このことには非常に多くの要因が絡んでいるのですが、アナログ・デバイセズは1つの事柄に大きな可能性を見出しています。すなわち、慢性的な疾患や病状の管理に対して技術がもたらす価値が、この状況を打開する鍵になると考えています。
最新のニュースから:アナログ・デバイセズは、当社としては初めてFDA(米食品医薬品局)の認可を取得した製品「Sensinel™ CPM System」を発表しました。これは次世代の心不全管理システムであり、自宅にいる患者をリモートで監視し、急性心不全を発症する兆候を検出する機能を提供します。詳細についてはこちらをご覧ください。
慢性疾患の管理
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米国では、数千万人が糖尿病、心臓病、喘息などの慢性疾患を患っています。10人のうち6人が慢性疾患を患っており、10人のうち4人は2つの慢性疾患を抱えているという状況です。そうした疾患は、衰弱を招くだけでなく、死をもたらすことも少なくありません。つまり、これらの疾患は多くの人々の生活に大きな影響を及ぼしています。しかも、慢性疾患は人の健康だけではなく、医療制度に対しても悪影響を及ぼします。医療費が増大することで、過度の経済的な負担が生じてしまっているのです。なお、病院に関する費用全体を見ると、上位35種の疾患によって70%以上の費用が費やされています4。
米国では、心疾患と脳卒中に1日あたり約10億米ドルもの医療費が費やされている5
医療費が急増したことにより、ヘルスケアの方法や経済的な側面に変化が生まれました。それだけでなく、テクノロジー主導のソリューションを導入することへの意欲にも変化をもたらしました。この点がより重要です。新しいソリューションを市場に導入する取り組みはこれまでも行われてきましたが、いくつかの事柄が理由となってまだ成功には至っていません。例えば、医師が新たなソリューションを受け入れてくれない、患者が使用法を守ってくれない、患者をケアするためのワークフローにうまく適合しない、拡張性に問題があるといった具合です。
バリューベース・ケアがもたらすメリット
一方、政府や市場は、慢性疾患による人的な損失と経済的な負担の両方に対処できるよう働きかけてきました。そうした働きかけが組み合わさって、いくつかの変化も生み出されています。その一つの例がバリューベース・ケアという概念です。バリューベース・ケアとは、病院や医師を含む医療提供者(provider)が、エビデンスに基づく方法により患者の健康増進、慢性疾患の影響や発症率の抑制、より健康的な生活を送るための支援を行った場合に、その医療提供者に対して報酬を支払うというものです。このシナリオにおいて、医療提供者は患者の健康転帰(予防や治療の結果として得られる健康状態)を実現することで意欲と報酬を得ることができるのです。
バリューベースのプログラムの例としては、次の2つが挙げられます。
- 民間の保険会社が提供するメディケア・アドバンテージ・プラン(MAP:Medicare Advantage Plan)
- ACO(Accountable Care Organization)が提供するメディケア・シェアード・セービング・プラン(MSSP:Medicare Shared Savings Plan)
現在、米国では6500万人を超える患者がメディケア(Medicare)に加入しています。その中でメディケア・アドバンテージ(MA)に加入している人は3100万人以上に達します6。MAの加入者数は、2026年までに3700万人以上にまで増加すると予想されています7。以下のグラフを見ると、この動きが加速していることがわかります。
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医療の管理に関するこの変化の重要性は、どれだけ強調しても足りないほどです。バリューベース・ケアにおいて、医療提供者は保険者(payor)との間で書面による契約を結びます。その際、医療費の支払い条件は、臨床状態、患者の転帰、治療方法に関連づけられます。このようなバリューベースの契約によって、医療提供者の組織の中で質への意欲が高まり、費用のかさむ緊急医療を最小限にすることにもつながります。
従来のモデルとの決定的な違い、保険者と医療機関が享受するメリットとは?
バリューベース・ケアのモデルと対比されるのは、従来のFFS(Fee for Service)のモデルです。FFSでは、より多くのサービスを提供することが奨励され、そのことがモデルの機能不全を招く原因となっています。それに対し、バリューベース・ケアでは、患者の医療費の削減が、保険者と医療提供者の双方にとってのメリットになります。この点が両者の決定的な違いになります。
自宅でより容易にケアを受けられるようになれば、慢性疾患との闘いにヘルスケア・テクノロジーの進歩を活用するという前例のない機会がもたらされます。CMS(Center for Medicare & Medicaid Services)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応するために在宅での治療とモニタリングのための支払いコードを追加しました。それにより、患者は医療機関以外の場所でも高度な検査やモニタリングといった処置を容易に受けられるようになりました8。バイオセンサー、ウェアラブル・モニター、アルゴリズムなどの技術は、医療機関以外の場所で患者にケアを提供する方法に抜本的な改革をもたらす可能性があります。
バリューベースの医療機関に成功をもたらすためには、注目すべき重要な要素があります。それは、現在1兆1000億米ドル(約166兆円)もの医療費を費やしている慢性疾患の患者の治療方法を改善することです9。つまり、そうした患者の日常生活機能を改善し、ケアの負担を軽減することが非常に重要になります。そのための1つの方法は、在宅でのモニタリングを実現することです。言い換えれば、診療所や病院以外の場所にケアの場を移すことが重要になります。
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最大の鍵は「早期の検出」
慢性疾患を患う多くの患者は、健康的で快適な日常生活を送れるように疾患を管理することを望んでいます。ウェアラブル機器を使用して自宅で高精度のセンシングを行えるようにすれば、患者は医療機関での検診や医師による診察を待つ必要はありません。自宅にいながら、毎日測定を行い、自分の健康に関する小さな変化を把握することができます。各患者に固有の確かなデータ・セットを活用し、適切なアルゴリズムを適用すれば、そうしたわずかな変化を一層特定できるようになります。その結果は、患者の症状が悪化した場合に速やかに警告を発するために利用することが可能です。早期検出によって予防的な処置の機会がもたらされ、救急医療/緊急医療が必要になるケースを減らすことができます。言うまでもなく、急性的な症状の発生を回避し、生活の質を維持できることには大きな価値があります。
デジタル・ケアの管理を阻む3つの大きな障壁
自宅で継続的に慢性疾患を管理することにより、患者のケアを改善するというのは新しい概念ではありません。ただ、経済的なメリットが明白であるのにもかかわらず、今日でもその導入は進んでいるとは言えないでしょう。これについては、アナログ・デバイセズ社内の専門家による評価の結果から、いくつかの原因が明らかになっています。特に大きな問題としては、以下の3つが挙げられます。
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情報のオーバーロード
多くの患者に対し、自宅で利用するためのモニタリング機器が提供されたとします。そうすると、様々な種類の新たな機器によって種類の異なる膨大な量のデータが生成されることになります。医療提供者は、それらのデータを基に発せられる重要なアラートに応じ、患者に対するケアを提供しなければなりません。しかし、医師や看護師は、既に余裕のない状態で業務にあたっています。そのため、人材の確保という問題を解決する必要があります。
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臨床現場の受け入れ姿勢
医療用機器のメーカーが、合理的で適切な解釈が可能な臨床手法に基づいてソリューションを開発したとします。しかも、それによって良好な転帰が得られることを確信できる状態になったとします。そうだとしても、明確な医学的説明を行えなければ、医療従事者はそのソリューションの受け入れに消極的になる可能性があります。例えば、自身のトレーニング・プロトコルに照らし合わせて理解可能な方法の方が、医療従事者にとっては受け入れやすいかもしれません。実際、既存のシステムに加えて新たな技術を導入するよう医師を説得するのは、かなり骨の折れる作業になるでしょう。
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スケーラビリティ、エコシステムのパートナーシップ
1人の患者に対しては有効であるものの、より大きなコミュニティ全体に拡張することはできないソリューションが存在したとします。当然のことながら、そのソリューションは経済的には有用なものだとは言えません。顧客(医療提供者と保険者の両方)が必要としているのは、スケーラビリティを備える公衆衛生ソリューションです。単なる医療用機器ではなく、情報の流れを大きく変更せずに既存の治療の流れに組み込めるソリューションが求められています。
問題を特定するだけでは不十分
多くの医師は、時間と注意力を要する決断を毎日のように下すことを求められます。実用的なデータを医療従事者に提供する新たなテクノロジーは、高精度で信頼できるものでなければなりません。疾患の進行に関する重要な判断を行えるようにするには、臨床的な関連性を考慮しつつ、生理学的なデータを適切に抽出できるインテリジェントなアルゴリズムを導入する必要があります。そうした判断は、患者の症状の悪化に早急に対処できるよう速やかに行われなければなりません。患者の管理をインテリジェントな手法で実施できれば、医師の活動を支援しつつ、効率的かつ効果的な慢性期医療を維持することが可能になります。この新たな一連の流れに適合するソリューションを提供するには、どうすればよいのでしょうか。そのためには、まず適切なデータが取得されることを保証しなければなりません。また、疾患のケアに関する管理基準に従う必要があります。そうした十分な理解に基づき、医師が意思決定を行うプロセスで利用できる信頼性の高い情報を提供しなければなりません。
新時代のヘルスケアには、統合とパートナーシップが必要です。1つの組織が単独で市場のニーズに応えることはできません。業界の専門家がエコシステム全体にわたる組織と協調し、バリュー・チェーン全体で価値を創出する必要があります。現在、MAPやMSSPによって意欲を促す新たな仕組みが出来つつあります。それにより、市場を取り巻く環境は、機会、協調、成長に向けてかつてないほど熟した状態になっています。
アナログ・デバイセズは、ヘルスケア向けのソリューションの開発に対するコミットメント、メーカー/医師/保険者との協調体制、世界中の患者の生活と健康をより良い方向に導くための取り組みに注力しています。その中で、ヘルスケア・テクノロジーを進化させるという課題に対して真摯に向き合ってきました。当社は、医療活動の軸になり得る洞察を医師に提供するために、信頼性の高い測定値を取得できる先進的な技術を確立しています。
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1 U.S. Health Care from a Global Perspective「2022: Accelerating Spending, Worsening Outcomes(グローバルな視点から見た米国のヘルスケア、2022年の時点で膨れ上がる医療費と悪化する転帰)」
2 American Economic Association「NCHS: U.S. Life Expectancy Fell from 78.8 Yrs 2019 to 76.1 Yrs 2021 (8.31.22), State Variation 2020 (8.24.22)(NCHS:米国の平均寿命、2021年には2019年の78.8歳から76.1歳まで低下(8.31.22)、2020年における状況の変化(8.24.22))」
3 Centers for Disease Control and Prevention「Chronic Diseases in America(米国における慢性疾患)」のインフォグラフィック
4 BusinessInsider.com「Most Expensive Health Conditions in the US(米国で最も医療費のかかる疾患)」
5CDC Foundation「Heart Disease and Stroke Cost America Nearly $1 Billion a Day in Medical Costs, Lost Productivity(心疾患と脳卒中による医療費の増大と生産性の低下、米国では1日あたり約10億米ドルの損失が発生)」
6 Center for Medicare Advocacy「Medicare enrollment numbers(メディケアの加入者数)」
7 Axios「Medicare has become more of a private marketplace - and it’s costly(メディケアはより民間寄りのものに変化、コストは高騰)」
8 MS.gov「Coding and Billing Information(コーディングと請求に関する情報)」
9 Milkeninstitute.org「The costs of chronic disease in the U.S.(米国で慢性疾患によって生じるコスト)」