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閉じる電気自動車用のバッテリは「脱コバルト」へ
自動車の電動化は、その市場を形成する企業(エコシステム)や消費者からの強い支持を得ています。実際、電気自動車(EV)の人気は高まる一方です。それに伴い、バリュー・チェーンに対しては、倫理的かつ持続可能なオペレーション/プロセスを採用することが強く求められるようになりました。EV用のバッテリは、材料の採掘に始まりセカンド・ライフ(再利用)を経て非常に長いライフ・サイクルを全うすることになります。その全体にわたり、自動車関連の市場を形成するエコシステムは、より倫理的な基準を導入し、持続可能な未来への移行を更に促進しようとしています。
現在、ほとんどのリチウム・イオン・バッテリは、正極(リチウム・イオン・セルの一要素でありストレージ容量を決める)の基本的な材料としてコバルトを使用しています。その種のセルは、他のバッテリ・ケミストリを採用したものと比べて、使用可能な期間が長く、充電状態の測定と管理が容易になるという長所を備えています。しかし、コバルトを使用するバッテリは、長きにわたって激しい論争の種になっていました。コバルトは、その採掘に関する大きな問題を抱えているからです。
倫理的なジレンマをもたらすコバルト

世界で使用されるコバルトの約70%は、コンゴ民主共和国で採掘されています。残念ながら、同国は貧困、腐敗、人権問題でよく知られた国だと言えるでしょう1。コンゴにおけるコバルトの採掘には様々な問題が伴います。例えば、児童に労働を強いる、採掘に危険が伴う、作業員が不当に扱われるといった具合です。電動化を推し進めるエコシステムは、社会の持続可能性と環境の持続可能性の両立を目指しています。そのため、コバルトの使用量を抑えたバッテリ・ケミストリ(NMCとNCA)、更にはコバルト・フリーのリン酸鉄リチウム(LFP)のようなバッテリ・ケミストリに対する関心が高まっています。多くのメーカーはこのような動きを歓迎しています。実際、Teslaは、コバルトが少ない、または含まれていない高エネルギーのセルを開発し、持続可能なエネルギーへの移行を加速するという計画を明らかにしています2。
コバルトのコスト
LFPを採用したバッテリは既に生産実績を積み重ねています。自動車の業界でも10年以上にわたって使用されてきました。また、主力技術として全面的にサポートしている大手自動車メーカーも存在します。一方で、コバルトを使用するバッテリは、LFPを採用したバッテリと比べてエネルギー密度が10%~20%高いという特徴を備えています。つまり、1回の充電でより長い時間使用できるということです。このような高い性能を実現できる半面、コバルトを使用するバッテリはリスクも抱えています。例えば、LFPと比較すると、コバルトには引火点が低いという特徴があります。そのため、バッテリが発火するリスクが高くなります。また、LFPを採用したバッテリはコバルトを使用するバッテリよりも低コストで製造できます。加えて、破裂や熱暴走といった安全面でのリスクも低く抑えられます。更に、電力容量の大きいLFPベースのバッテリは高速充電にも対応可能です。
バッテリ・ケミストリの種類
LFP |
LMO |
NMC |
LCO |
NCA |
リン酸鉄リチウム | マンガン酸リチウム | ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム | コバルト酸リチウム | ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム |
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用途 | ||||
EV、電動工具、電気バスに最適 | EV、携帯型電子機器 | 主に、EV、電動工具、電動自転車 | 主に、携帯型電子機器(携帯電話機、タブレット端末、カメラ) | EV、携帯型電子機器 |
性能 | ||||
高い安全性、 長い寿命 |
高い信頼性 | 高い(比較的安全、自己発熱が少ない) | 良好(比較的安全) | 高いエネルギー密度、十分な寿命(最低限の安全性) |
コスト | ||||
低い | 比較的低い | 低い | コバルト含有量が多いため高価 | 高い |
EVのメーカーは、高価で高性能の車種には最新のバッテリ技術を適用しようとします。一方、低価格帯の車種ではLFPを採用しています。コバルトを排除すれば、コストを低減できるからです。結果として、かなり手ごろな価格で一般向けに提供できるようになります。LFPを使用するバッテリを採用すれば、コバルトをベースとする場合と比べて、手ごろな価格と高い安全性を実現できるということです。但し、LFPには放電曲線が平坦になるという重大な問題があります。このことから、バッテリの充電状態を正確に測定するのが非常に難しくなってしまうのです。
アナログ・デバイセズは、この課題の解決に取り組んできました。その成果として実現されたのが、高精度のバッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム・ソリューションです。
アナログ・デバイセズのバッテリ管理システム(BMS)を使用すれば、業界で最も高い精度で充電状態を測定することができます。それにより、LFPをベースとするバッテリにおいて、充電が必要であるか否かを効果的に管理することが可能になります。その結果、自動車メーカーの負担が大幅に軽減されます。同時に、低コストで安全性が高いというLFPの潜在的なメリットを享受することが可能になります。現在、EV用バッテリのセカンド・ライフについては、エネルギー・ストレージなどでの活用が有望視されています。LFPは電力密度が高く、寿命が長く、広い温度範囲で運用コストを低く抑えられるという特徴も備えています。そのため、エネルギー・ストレージのようなアプリケーションでの再利用にも最適です。

"Zero Cobalt is a powerful, key piece of the sustainable future for automotive"Mike Kultgen
バッテリ・マネジメント・システムグループ ゼネラル・マネージャー | アナログ・デバイセズ
ゼロ・コバルト・バッテリに向けたアナログ・デバイセズのビジョン
ケミストリ | ニッケル・ マンガン酸リチウム |
リン酸鉄リチウム | ニッケル・コバルト・ アルミニウム酸リチウム |
|||
略称 | NMC | LFP | NCA | |||
エネルギー密度〔Wh/kg〕 | 220 | 120 | 260 | |||
サイクル寿命 | 1000–2000 | 1000–2000 | 500 | |||
熱暴走 | 210°C | 270°C | 150°C | |||
コバルトの含有率 | 高い | なし | 高い | |||
コスト | 1.2倍 | 0.8倍 | 1倍 | |||
ゼロ・コバルトのメリット ● 児童の労働や強制的な労働を伴わない ● コスト構造に優れる ● 熱暴走が発生しにくい ● エントリー・レベルのEVに最適 |
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LFPを採用したバッテリは、EVの購入に立ちはだかる価格の壁を低くすることに貢献します。つまり、消費者がEVをより購入しやすくなります。その結果、EVへの移行が加速されることになるでしょう。現在、EVの店頭表示価格(総コスト)のうち51%はバッテリに関連するコストが占めています7。コバルトへの強い依存から脱却することができれば、自動車のサプライ・チェーンはより倫理的なものに変化します。LFPによって得られる多くのメリットによって、バッテリに関連するエコシステムはより環境に優しくなり、持続可能な未来に歩みを進めることができます。また、LFPを採用したバッテリは、再利用先のアプリケーションにおいて、より高い効率を実現することに貢献します。
References
1Dafydd Davies「Restrictions on sourcing of cobalt are changing(コバルトの調達に関する制限の変化)」pv magazine、2020年3月10日
2Bridie Schmidt「Tesla has been using high-energy nickel 4680 batteries for months
(Tesla、ニッケル・ベースの「4680」を採用した高エネルギーのバッテリを数か月にわたり使用)」The Driven、2020年9月28日
3Nickel price(ニッケルの価格)(2021年1月11日) https://markets.businessinsider.com/commodities/nickel-price
4Aluminum price(アルミニウムの価格)(2021年1月11日) https://markets.businessinsider.com/commodities/aluminum-price
5Manganese price(マンガンの価格)(2021年1月11日) https://tradingeconomics.com/commodity/manganese
6BU-205: Types of Lithium-ion(リチウム・イオンの種類)(2021年1月 11日 https://batteryuniversity.com/learn/article/types_of_lithium_ion
7Gustavo Henrique Ruffo「How Much Does The Powertrain Represent Out Of Total Cost For An EV?(1台のEVにかかる総コストのうち、パワートレインのコストが占める割合は?)」InsideEVs、2020年2月5日