TNJ-087: ADIの RF IC でトラッキング・ジェネレータを作りたい(中編)
はじめに
前回と今回、そして次回は、アナログ・デバイセズの RF IC を使った「仮想設計ストーリー」として、スペクトラム・アナライザ(スペアナ)用のトラッキング・ジェネレータ(トラジェネ)の設計手順をご説明しています。
いまだに入手してみたいと思う VFO モジュール「VFO-7」
ミズホ通信の VFO-7 という、バリアブル・コンデンサ(バリコン)で構成された可変周波数発振器を使って製作した7MHzのAMラジオは全く動かず(ピー!ギャー!という AF異常発振だけはしていた…涙)、これがトラウマでプロの無線通信回路設計者になりたいとも思ったものです。今なら手持ちの各種測定器を使ってやれば、ちゃんと動くものができるはずです…。
と書きました。私の電子回路の原点は「無線・ラジオ」です。当時は技術力だなんてレベルではなく、とにかく作ってみよう!というレベルでの電子工作でした。ここ 10 数年でいろいろと測定器をそろえてきたのは、「もう一度、自作で無線機を作ってみたい」という想いがあったからだろうと、今、自らの行動を顧みております…。
その「VFO-7 を使った 7MHz 受信機」がどこに掲載された記事だったのかは当然のごとく記憶はありませんし、当時の雑誌類は捨ててしまい手元にはありません。サーチしてみると(これが仕事で忙しいとか言いながら、かなりの時間をかけて…)、『ラジオの製作』1980 年 12 月号のようです。これまた「オークションでゲットしてみよう!」などと画策しましたが、入手できず…。
その代わり、「これを WEB ラボの表紙となる図 1 に飾ろう」と、図 1 の雑誌を 1000 円で落としてしまいました。オークションの商品タイトルに「ミズホ通信の VFO-7 を改造!」という記事名が記載されていたからです。なお私は、当時は電波新聞社の雑誌「ラジオの製作」派でありました。
届いてびっくり!オークション・ページのタイトルにあった当該記事以外にも「プリント基板の作り方」、「はんだ付けの上手なやり方」、そしてなんと「割り込み(インタラプト)と乗算・除算について」なんという、当時のプロ向けか!と思われるような記事が満載でした!これはたまげた…、です。私ももう一度読んで勉強しましょう!
その 7MHz の信号を発生させる「ミズホ通信の VFO-7」は VFO = Variable Frequency Oscillator で、VCO ではありません(笑)。VFO-7 もオークションで落としてみるか!(でもってスペアナで実測してみるか!!)とか鼻息荒くサーチしてみましたが、なんと 1 個(40 年くらい前のユニットですが)5 千円から 1 万円で取引されています!

7MHz の周波数可変発振回路は、現代なら DDS を使えば(たとえば WEB ラボの記事 [2])余裕で作れるものです。単にスペアナで実測して実験してみるだけで、以降は部品箱の中で窒息死してしまいそうになるものを、5 千円から 1 万円で落とす理由もありません(笑)。
それでも調べてみると、VFO-7の取り扱い説明書[3]を見つけることができました。回路図も記載があり、3.5MHz で発振させて2逓倍している構成です。「ああ!サブ・ハーモニックスのレベルなど、スペアナと差動プローブで実測してみたい!」と、再度、RF 技術屋の心をくすぐられる状態に陥ってしまったのでした(汗)。
ミキサ LTC5562 の LO 入力接続の設計
まずは ADF4356の RFOUT出力レベル
PLL ADF4356 の出力 RFOUTA 端子の 3.9GHz 出力時の電力レベルは、データシートの Figure 10 から+4dBm 程度と確認できます(図 2)。出力電力レベル設定により-4dBm, -1dBm, +2dBm も出力できます。


ADF4356 の RF 出力は図 3 のように差動出力となっており、RFOUTA+端子と RFOUTA-端子があります。この「+4dBm 程度」というのがどのような測定方法(シングルエンドなのか差動なのか)か気になるところですが、データシート p. 5 の Table 1 下の Note 4 に、「RF output power using the EV-ADF4356SD1Z evaluation board is measured into a spectrum analyzer. Unused RF output pins are terminated in 50 Ω」つまり「RF 出力パワーはスペアナで測定。未使用端子は 50Ωで終端」と記載があります。この説明から、シングルエンドで測定していることが分かります。
これを RFOUTA+端子と RFOUTA-端子との差動信号レベルで考えてみると、振幅が 2 倍になり、負荷抵抗が 100Ωで 2 倍になりますから、+3dBとなり+7dBm 程度が得られます。この計算はあとで改めて考えてみます。
とはいえさらにデータシートを見てみると、OUTPUT STAGE の節に「An output power of 5 dBm requires an external shunt inductor to provide higher power levels」つまり「+5dBm を出す場合は外部にインダクタが必要」と説明されています。Figure 10 の条件では、たしかに 7.4nH のインダクタを接続しての測定です。ADF4356の RFOUTA端子の出力等価回路には、図 3 のように内部に 50Ωの抵抗が電源端子 VRF との間に接続されており、これでこの図の差動トランジスタが(外部にインダクタを接続することなく)動作できるようになっています。インダクタを接続しないと、-4dBm, -1dBm, +2dBm が出力電力レベル設定により出力できます。
ミキサ IC LTC5562 の LO 注入レベルは、データシートの ACELECTRICAL CHARACTERISTICS のところの規定から-1dBmが最適なようです。このレベルを狙うのなら、ADF4356 からの電力をわざわざ+5dBm(3.9GHz では+4dBm 程度という状態)にすることなく、+2dBm に設定しておけば(ロスを考慮しても)十分ということが分かります。これは以降にも詳しく検討していきます。なお入力レベルのことを RF 屋の世界では「注入レベル」と古くから呼びます。LTC5562の LO入力駆動方式を考える
LTC5562 においては、LO は差動入力構成になっていますが、データシートでの LO注入はシングルエンド方式が主に説明されています(図 4)。せっかく ADF4356 が差動出力なのですから、それをわざわざ片側を殺して LTC5562 にシングルエンドで渡すことも「もったいない」です。
LO に差動で信号を加える「こだわり」の理由(メリット)は、データシートに「If driven differentially, the LO to OUT leakage may improve」つまり「差動で駆動したほうが出力への LO リークが低減する」として記述があります。次回に示すように、LO リーク(LO 入力の信号が出力に現れる漏れ。フィードスルーとも言います)はトラジェネの機能としてキー・ポイントです。そのため差動で ADF4356 と LTC5562 をインターフェースしてみましょう。
マッチング設計をしてみる(LTC5562 の入力インピーダンスを見極める)
ということで、今回も「そこに山があるから登ってみる」という感じ(笑)で、ADF4356 と LTC5562 のマッチング回路を設計してみましょう。
上記に示したように ADF4356 は 50Ωがコレクタに接続されています。トランジスタのコレクタはインピーダンスが高いため(電流源として取り扱えるため)、シングルエンドでの出力インピーダンスは基本的には、内部でコレクタに接続されている 50Ω、これと 1pF かそれ以下程度の周辺容量が存在すると推測されます(以降の検討のように、この容量は無視しています)。ここでは 7.4nH のインダクタは接続しないものとします。


LTC5562 の LO 入力を差動で駆動した場合、その周波数である3910.7MHz における入力インピーダンスは、図 5 のデータシートの Table 3 から、3910.7MHz にいちばん近い 4000MHz において純抵抗成分が 99.6Ω、並列に接続されるリアクタンスが-40.2Ωと読み取れます。
この入力インピーダンスは、PIN FUNCTION の部分には「The LO input impedance is approximately(約)220Ω」と記述がありますが、4000MHz においては周囲の寄生成分との影響で、純抵抗成分が 99.6Ωとして見えていると判断できます。図 5 の Table 3でも低い周波数の 10MHz では 222.3Ωとなっていますので、PIN FUNCTION の部分の記述も正しいことが分かります。
なおこの Table 3 では「並列接続」という記述がありませんが、Table 1 に「Parallel Equivalent Impedance」との記述があること、また以降に示すような計算においてもすべて辻褄があうことから、「並列接続での数値」と判断することができます。ともあれ、これを並直列変換してみると、
というインピーダンスになります。
なお 4000MHz において、リアクタンス−𝑗40.2 Ωは 0.989pF と計算できます。同じく図 5 の Table 3 に記載のある Parallel Equivalent「並列等価」も 1pF ということですから、ここでも「並列接続」という見立てと辻褄があうことになります。
ちなみに REFL. COEFF.; Reflection Coefficient = 反射係数は、この Differential Impedance をそのままシングルエンド 50Ωで計算した反射係数になっています…。メーカーの人間がいうのもイケマセンが、RF 屋の視点からするとちょっと分かりづらいですね(読者の皆様、ましてやお客様、すいません)。
LTC5562 の LO 入力をミスマッチのまま駆動もできるはず
ADF4356 は上記に説明したように、出力レベルを可変できます。そのためマッチングをとらないミスマッチ状態であっても、図4 に示した LTC5562 の LO+, LO-端子のベース端子を規定のスイング電圧(以下に示すように-1dBmに相当する)で振ることができれば、LTC6652 の規定の動作(変換利得 = Conversion Gain)を満足できるはず、という考え方もあります。
なおミスマッチによる伝達ロスをミスマッチ・ロスとよび
と表されます。ここで𝛤は反射係数です。これは信号源側が 50Ωなどの正規化インピーダンスにマッチングしている条件での計算で す。しかし以降にも示すように 、 信号源側であるADF4356 の出力インピーダンス等価回路は分かりません(寄生成分が分かりません)。そこでこの計算そのものを適用することはできません。
またこのような RF屋的計算式でなく、LCRで等価回路を作り、計算か LTspiceでシミュレーションする方法もあります。しかしこれも残念ながら、上記のように全体の等価回路を作ることができませんので、このケースでは適用できないのですが…。
それでも「ADF4356 からの出力電力を大きめにし、アッテネータ(以降でも説明しますが)を挿入して、アッテネータの抵抗をとっかえひっかえして変換利得を見ながら微調整する」という方法もあります。しかしこれでは WEBラボ的ではありません(笑)。
マッチング設計をしてみる
ということで(汗)、上記までの検討により、PLL IC ADF4356の RFOUT差動出力から MIXER IC LTC5562 の LO 差動入力にかけての等価回路は、図 6 の左側のように描くことができます。ADF4356 の周辺容量などの寄生成分は不明なので記載していません。LTC5562 の入力インピーダンス(差動インピーダンス)の実部 REAL = 99.6Ωは 100Ωに、虚部 IMAG = 0.989pF は 1pF に変更しました。
この図の右側に、この差動回路をふたつのシングルエンド回路として置き換えするために、LTC5562 の LO 差動入力の RL とCL をふたつに分割してみたものを示します。
これからこの差動回路のシングルエンド等価回路を考えてみると、図 7 のようになります。


PLL IC ADF4356 のデータシートでの RFOUT差動出力レベルの測定は「measured into a spectrum analyzer」ですから、負荷抵抗 50 Ω での測定条件です。つまり ADF4356 の負荷となる RL1 と CL1の合成が 50Ωに見えればよいと設計を見切ることができます。そこで RL1 と CL1 の合成インピーダンスを 50Ωにマッチングさせてみます。
図 8 は Mr. Smith [4]というスミスチャート・ソフトウェアで、3900MHz において RL1 と CL1 の合成インピーダンスをプロットしたものです。ここからスミスチャート上で図式的にマッチング回路を構成できますが、このケースはそこまですることなく簡単で、CL1 のリアクタンスを並列共振でキャンセルすればよいことに気がつきます。まず CL1 の 3900MHz でのリアクタンスは
これは図 5 の Table 3 にある IMPEDANCE IMAG の半分です(ここまでの議論の繰り返しなのですが)。このリアクタンスを3900MHz で並列共振でキャンセルできるインダクタンスを計算してみると
から𝐿𝑃 = 0.83nHと計算できます。もともとの差動接続からすれば、この 2倍の 1.6nHが接続すべきインダクタンスになります。
図 9 は上記の考えで LTC5562 の入力インピーダンス(シングルエンド相当にしたもの)を 50Ωにマッチングさせたようすです。これは LTspice でのシミュレーション回路ですが、1A の電流源を回路に加えることで、𝑉=𝐼𝑍で𝐼=1だとすれば𝑉=𝑍になり、その端子のインピーダンスを電圧量として答えを得られる、というテクニックを応用したものです。
それでも図 7 や図 8 から考えると、Q 値が
と高めになっていますので、特性が-3dB 変化する周波数範囲(半値幅)は 2900 / 2.45 = 1184MHz と計算できます。インダクタンスの誤差や周辺素子定数のバラツキにも幾分、注意が必要です。
図 9 のシミュレーション結果を図 10 に示します。3900MHz においてインピーダンスの大きさが 50Ω、位相がゼロと、きちんと純抵抗の 50Ωのインピーダンスが実現できています。ここに 50Ωのマイクロストリップ・ラインを接続して、その先にADF4356 の RFOUT 差動出力を接続すれば、ADF4356 からはデータシートどおりの電力レベルを出力できることになります。それでもさきの Q 値の計算のとおり、50Ω付近を維持できる周波数範囲も限定されるため、各種バラツキに注意が必要です。
ADF4356 の RFOUT 差動出力は、その等価回路として図 3 のように 50Ωの出力抵抗ですが、本来はその出力インピーダンス(寄生容量や寄生インダクタンスも含めた)を考慮する必要があります。しかしこのようなアプローチをとったのは、ADF4356 のデータシートには出力インピーダンスの詳細が記載されておらず、「RF 出力パワーはスペアナで測定、つまり 50Ω負荷」となっているので、伝達電力の実値を把握できるようにするためでありました。
インダクタンス 0.79nH は一般的ではありませんが、差動であればこの 2 倍の 1.6nH、実際は 1.5nH を用いることになります。この定数であれば現実的(素子として入手ができる)ということが分かります。
![図 8. スミスチャート・ソフトウェア Mr. Smith [4]で図 7 の位置をプロットした](/jp/_/media/analog/jp/education/web-lab/tnj087/tnj-087_08.png?la=en&w=450&rev=23c553e7894e43eca6dd29eb7a04078e)


LTC5562 の LO 注入レベル
LTC5562 の LO 注入レベルがどれほどかと(先にもちょっと示しましたが)、データシートを読んでみると、AC CHARACTERISTICS の表から PLO = -1dBm が各種数値の前提条件になっており、またその表の中の規定では LO Input Power として、-4dBm min, -1dBm typ, +2dBm max、また条件は「Single-Ended or Differential」となっています。
これはシングルエンドでも差動でも同じ電力量を注入することを意味します。ターゲットを-1dBm にしてみます。
ちょっと考えれば「シングルエンドで-1dBmを加えるなら、差動では片側 1/2 で-3dB、つまり-4dBm になるから、ADF4356出力を-4dBmにセットしてそれを加えればよいのでは?ちょうどいいじゃん!」と考えますが(最初にも同様な話しを示しましたが。またこれは正しいのですが)、「この計算は正しいのか」と、ふと疑問がわくことから、これを考えてみましょう。
差動信号は図 11 のようにモデル化でき、図 12 のようにふたつの波形同士が同じふるまいで逆極性になっています。この図 11、図 12 は ADF4356 の-4dBm出力を 50Ω負荷でうけたときのその抵抗に現れる電圧です。差動信号の振幅は倍の800mVp-pとなり「電圧比では 2 倍!+6dB だ!」と思いがちです。




しかしここでのミソは、負荷抵抗が 50Ωから 100Ωに変っていることです。つまり電力で 2 倍となり、めでたく+3dB ということになります。PLL IC ADF4356 のそれぞれの RFOUT端子から-4dBm を供給し、差動信号として MIXER LTC5562 の LO 端子に加えれば、ターゲットの-1dBmの注入レベルを満足することができることになります。
OK でしょうが、RF 回路は思いもよらぬロスが発生します。そのため「もうちょっとレベルを上げたい」というケースも出てきます。
しかし PLL IC ADF4356 の RFOUT端子からの出力電力レベルは、-4dBm の上は-1dBm となり、もしこれがこのまま MIXER LTC5562 の LO 端子に加わると、差動信号で両極性合わせて+2dBm で、LO Input Power の max 規定と同じになってしまいます。まあ目をつぶってよしとしてしまってもよいでしょうが(趣味の自作などの場合)、プロの設計とすればそういうわけにもいきません。
LTC5562 の LO 入力レベルを調整するためにアッテネータを接続する
そこで ADF4356のRFOUTを-1dBmに設定し、アッテネータ(減衰器)をこの間に接続することにします。
差動信号のアッテネータは図 13 のように接続します。この定数算出も図 14 のように、ふたつのシングルエンドで動作する回路として考えます。そのシングルエンドで目的の減衰量を実現できる抵抗値を設定し、グラウンドにシャントされている抵抗間を接続(抵抗値 2 倍の 1 個の抵抗で差動間を接続)すればよいことになります。
なお最終的に実機を製作した際には、このアッテネータのレベルを大きくたり少し小さくしたりして、LTC5562 の変換利得の変化をプロットし、適切な変換利得が得られるアッテネータ減衰量がどのあたりかを見極めておけばベストです。
ADF4356 も RFOUT 端子の出力レベルをさらに増加できますから、もし LTC5562 の LO 差動入力への注入レベルが不足していたときの対応の柔軟性もさらに確保できます。
ミキサ LTC5562 の IN
入力LTC5562 の IN 入力には前回説明したように、スペアナ 8560E の1st LO OUTPUT から 3910.7MHz~6810.7MHz の周波数の信号が加わります。非常に広帯域なので適切に処理できるか心配もあります。この 1st LO OUTPUT のシングルエンド信号を差動信号に変換するため、データシートの Figure 2(図 17)では(この帯域においては)Mini-Circuits 社の TCM1-83X+が使用されています。この高周波トランスは 10MHz から 8000MHz まで使える驚異的に広帯域なものです。ここはこれをこのまま使います。
3910.7MHz~6810.7MHz は、ほぼ 1 オクターブ(2 倍の周波数)という広帯域で、ミキシング周波数特性にうねり(リプル)が生じる可能性もあります。しかしスペアナをトラジェネとして活用する際には、図 15 に示すように、校正を最初に行える機能(トランスミッション校正)がスペアナに用意されていますので、これを活用すれば測定時に周波数特性をフラットにできます。



ミキサ LTC5562 の OUT 出力
LTC5562 の OUT 端子からは 0Hz から 2900MHz が出力され、これを取り出し、DUT に注入します。この周波数も非常に広帯域かつ低い周波数からなので、どのように回路を構成するかが難題です。
チョーク・インダクタの選定
図 16 のように LTC5562 の OUT 端子は、チョーク・インダクタの接続が推奨されています(データシートの Figure 11 から抜粋)。
同データシートの Table 6.から、3900MHzあたりにおいては𝐿1 =𝐿2 = 𝐿3 = 3.6nH となっています。
チョーク(Choke)という表現のとおり、とくに𝐿2, 𝐿3はOUT端子に対して窒息(ハイ・インピーダンス。よりデンキ的日本語では「閉塞(へいそく)」というほうがよいかと)にする必要があり、0Hz から 2900MHz はさすがに無理にしても、できるだけ広帯域でチョーク動作ができる(ハイ・インピーダンスになる)インダクが望まれます。いっぽう図 16 の𝐿1は周波数特性が出るのでこの接続は不適切(不要)です。
広帯域でチョーク動作を実現するためには、とくに低域側が問題で、インダクタンス値の高いインダクタが必要です。しかしそうすると共振周波数が低くなり、こんどは高域で適切に動作しません。
ネットをサーチしてみると、BCR-802(Coilcraft 社)とか、C225SM11047G6(GOWANDA 社)という型番で、「コニカル・インダクタ」なるものが販売されています[5, 6]。コニカルのとおり円錐形状で、共振周波数を高く維持したままで、大きなインダクタンスを形成できる構造です。ここでご紹介した製品はそれぞれインダクタンスがなんと 8μHもあり、一方で周波数も(BCR-802 では)40GHz まで動作すると記載があります。2900MHz までが目的ですから十分です…。調べてみると、アナログ・デバイセズでも関連する記事 [7] がありました!
それでも下限側を考えると、8μH が 670Ωになる(670ΩはLTC5562 の差動出力抵抗。データシートの Figure 10 参照)周波数は 13.3MHz となり、実際にはこの 10 倍の 133MHz あたりが動作の下限と考えられます。トラジェネとして動作させたい場合には、もう少し低域を伸ばしたいところです。
これはどうやって実現すればよいでしょうか。
とりあえず今回もここまでで
今回も書き始めてみると、あっという間にノートのページ数が増加していってしまいました。IC 2 個から 3 個程度の回路ですが、「回路検討には相当時間がかかってしまうのね」とあらためて驚いた次第です。とりあえず今回もこの辺にして、次回の技術ノートに持ち越ししたいと思います。
次回はこのチョーク・インダクタの低域周波数の伸ばし方からスタートしてみます。
またも不要物を落札してしまった
前回もとある用途のエンジン系のものをオークションで購入したとご紹介しました(何モノかはヒミツですが…)。
さて、このトラジェネ・シリーズは「ラジオ」がテーマですが、そんな執筆の日々(次の TNJ-088 も含めて脱稿間近のころ)、図 18 のような「電源入りません、不動品。完全ジャンク」をまたまたヤフオ◎で落札してしまいました(笑)。
この受信機、JRC NRD-515 は WEB の情報では、1979 年 12 月に発売 [8] とあります。それこそ私がアマチュア無線に学業も忘れてはまりきっていたころです。当時の雑誌に掲載されていた広告の高貴さと価格(当時の定価は 258,000 円らしく [9])に、「高値の花」だった通信型受信機です。
それこそ 40 年前の受信機ですが、ネットに落ちていた取扱説明書にある回路図をみると、マイコンを使わずにも、とても高度なデジタルの PLL 回路を実現しています(100Hz ステップ PLL VFO です)。非常に洗練された回路に「流石…」と思いました。「内部動作を解析したり、デジタル(PLL VFO制御)部分を最新FPGAや CPLDに交換してみたい」と思い、使うこともないだろうと悩みもしましたが、このように落札してしまいました(当時の定価の 11.24031 %。税抜き^o^;)。
なんと AGC が効いた 455kHz の 2nd IF 出力も背面から出ています。「ということは、SAR ADC と FPGA 使って SDR = Software Defined Radio(なんてほどでも無いか…。デジタル・ラジオですね)もできるじゃないの!」と夢は膨らむのでした。
また内部のトランジスタや IC は入手不能・入手困難なものが多いようで、ここは代替品・代替回路(IC などは等価回路を構成して)で対応してみたいな、などとさらに夢は膨らむのでした。
しかし!図 18 は「修理は当面おあずけ!」と思っていたものの、いてもたってもいられなくなり、「電源が入るくらいまでは」と思い、トラブルシュートを開始した状態です(笑)。15V 系の 7815 レギュレータが故障しており(フューズも飛んでいた)、1 時間かからず解決し、電源は入るようにはなりました。
見かけ上動くようにはなったものの、仕事で忙しい昨今、これ以上の修理(トラッキング調整やトランジスタ交換)に取り掛かったり、内部を解析・改造したりして、「無線」を楽しめる日はまだ先かなあと、それでも思ったのでありました…。なお、開けてみて残念!、CW フィルタのオプションは実装されていませんでした(ここもなんとかしたい!)。

著者について
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多...
この記事に関して
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