概要
設計リソース
設計/統合ファイル
- Schematic
- Bill of Materials
- Gerber Files
- Allegro Files
- Assembly Drawing
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- AD9139-DUAL-EBZ ($582.62) Dual Synchronized AD9139 Board
- AD-DPG3 Digital Pattern Generator Platform
デバイス・ドライバ
コンポーネントのデジタル・インターフェースとを介して通信するために使用されるCコードやFPGAコードなどのソフトウェアです。
機能と利点
- 広いIQ帯域幅(1150MHz)
- 低エラー・ベクトル振幅(EVM)
- 同期チャンネル
参考資料
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CN0432 User Guide2019/09/19WIKI
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CN-0432:2 個の AD9139 デバイスによるマルチ DAC 同期を使用した広帯域ベースバンド I/Q トランスミッタ (Rev. 0)2019/09/19PDF2 M
回路機能とその特長
図1に示す回路は、最大1150MHzの非常に広いI/Q帯域幅に対応する同期型の広帯域トランスミッタです。この回路の設計は、高いスプリアスフリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)、低エラー・ベクトル振幅(EVM)、平坦な周波数応答など、広帯域にわたり高いインバンド信号性能を実現します。
特に、直交誤差補正(QEC)には複数チャンネル間の同期性能が重要です。マルチチップ同期が有効で、正しく調整された同期クロックを使用すれば、コンバータ間の遅延によるミスマッチを1クロック・サイクル以内にできます。
高速の同期を実現するための課題は、幅広いプロセス・電圧・温度(PVT)にわたってD/Aコンバータ(DAC)のクロック・サイクル精度を確保することです。クロック・サイクルの精度を確保するため、DACに同期ロジック・ブロックを実装します。そして、同期ロジック・ブロックを機能させるには、基板レイアウトとクロック方式を慎重に設計する必要があります。
この回路は、ゼロ中間周波数(ZIF)と複素中間周波数(CIF)を実現できるため、Eバンドでの広帯域ポイントtoポイント・アプリケーションに使用できます。優れた同期性能により、レーダーなどのアプリケーションに要求される厳しいアライメント条件に対応することが可能です。


回路説明
図2に示す基板は、2個のAD9139シングル・チャンネルTxDAC、ADL5375-05ワイドバンド直交変調器、AD9516-1クロック発生器を使用しています。
AD9139の最大データ・クロック入力(DCI)周波数は最大575MHzです。立上がりエッジと立下がりエッジの両方でキャプチャされたデータは1つのDACに送られるため、1×モードでの最大データ・レートは1150MSPSまで高くすることが可能です。直交データに対応するため、2個のAD9139デバイスを使用してベースバンド・データを生成します。すべてのチャンネルのアナログ出力は、各チャンネルに接続されたローパス・フィルタに送られます。これにより、このリファレンス設計は1150MHzまでの最大複素帯域幅に対応することができます(図3参照)。このような広い範囲では、平坦性が重要です。AD9139には、DACが持つsincロールオフの影響をキャンセルする反転sincフィルタが内蔵されているため、回路全体の平坦性を確保するには、DACの後段に接続するフィルタの平坦性が重要となります。575MHzのDDRクロック周波数は、並列の低電圧差動伝送(LVDS)インターフェースにおいては非常に高い値です。LVDSインターフェースのタイミングは慎重に設計する必要があります。

直交変調器
ADL5375-05は、400MHz~6GHzの出力周波数範囲を備えたブロードバンド直交変調器で、400MHz~6GHzの幅広い周波数範囲をカバーするI/Q変調器としてAD9139とインターフェースします。AD9139の出力とADL5375-05の入力は、0.5Vの同じコモンモード・レベルを共有します。
クロック生成に関する考慮事項
同期条件に関する考慮事項として、DACCLK、同期クロック、および両方のAD9139デバイスのフレーム・クロックが正しく調整されている必要があります。AD9516-1は、必要なクロック分配機能をサポートしていると共に、より高い周波数を生成するために電圧制御発振器(VCO)とフェーズ・ロック・ループ(PLL)を内蔵しています。VCOとPLLを無効化し、AD9516-1をクロック分配モードで動作させると、高速のアライメントでのクロックの位相ノイズは改善します。クロック分配モードでは、分周比= 1および1GHzの出力のとき、10MHzオフセットにおける付加位相ノイズは−147dBc/Hzです。優れた位相ノイズ性能を持つSMA100A(Rohde & Schwartz製)をAD9516-1の入力として使用すると、AD9516-1の出力における全位相ノイズはクロック分配モードでの最小値に近い値になります。
AD9139のマルチチップ同期
QECでは、デュアル・チャンネル間の同期が重要です。DACCLKと同期クロックが対称にレイアウトされている必要があります。更に、DACCLKと同期クロックの位相がセットアップおよびホールド時間のウィンドウに入っていない(keep out window(KOW)とも呼ばれます)ことが必要です。
この同期メカニズムにより、幅広いPVTでのDAC出力におけるマルチ・チャンネル間のミスマッチを、DACの1クロック・サイクル未満の性能まで向上させることができます。このテスト性能を達成するには、以下のガイドラインに従ってください。
- DACCLK 1とDACCLK 2は、AD9139のピンにおいて十分に調整されている必要があります。DACCLK 1とDACCLK 2のミスマッチは、出力における最終ミスマッチに追加されます。
- Sync Clock 1とSync Clock 2は十分に調整されている必要があります。Sync Clock 1はDACCLK1に、Sync Clock 2はDACCLK2によってサンプリングされ、リファレンスとして使用されます。
- DACCLKと同期クロックの相対位相がKOWの範囲に入らないようにする必要があります(図4参照)。

LVDSインターフェースの設計
DCI = 575MHzとすることは、通常、幅広いPVTにわたるLVDSインターフェース設計の課題です。このセクションでは、1つの例を通じてインターフェースの設計と最適化の方法を示します。
図5では、例としてDCI = 491MHzを使用します。AD9139データシートの仕様に基づき、AD9139のピンにおいてDCIとDATAのエッジを正しく調整すると、遅延ロック・ループ(DLL)の位相をゼロに設定したときにKOW(セットアップ時間+ホールド時間)を有効ウィンドウの中央にすることができます。

データの有効マージンは、次式によって定義されます。

幅広いプロセス変動、電圧、温度でデータを正確にサンプリングするためには、TDATA VALID MARGIN > 0にする必要があります。
DCI = 491MHzのとき(図5参照)、
- TDATA PERIOD = 1018 ps
- THOLD + TSETUP = 517 ps
- TDATA SKEW + TDATA JITTERは、PVT全域で501ps未満にする必要があります。これはユーザが実施しなければならない条件です。TDATA SKEWには、LVDSデータ・バスの遅延によるミスマッチ、DCIとDATAバスの間のスキューなどが含まれます。
以下を実施することでインターフェースの設計を最適化できます。
- プリント回路基板(PCB)のパターンを同じ長さで配線し、可能な限り短くします。
- 以下に従ってFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)を最適化します。
- AD9139のピンでDCIとDATAのエッジを十分に調整します。
- DCIとDATAの間のドリフトは、温度・電圧によらず可能な限り小さくします。
- DCIとDATAのジッタは可能な限り小さくします。
DLLの位相を掃引することで、AD9139のサンプル誤差検出(SED)機能を使用してDCIとDATAのタイミングの相関をチェックすることもできます。
ローパス・フィルタの設計
試験用のため、このボードでは、フィルタによってAD9139の性能が制約されないように240MHz以下で良好な平坦性と群遅延性能を持つフィルタが設計されています。実際の製品開発においては、フィルタの次数を上げることで帯域外除去性能を向上させることができます。
図6に示すフィルタ回路は、コーナ周波数が900MHzの5次バターワース・フィルタです。このフィルタの応答特性(シミュレーション値)を図7に示します。DC~240MHzの範囲における平坦性のシミュレーション値は±0.1dBです。このフィルタの群遅延(シミュレーション値)を図8に示します。



レイアウトに関する推奨事項
AD9139とADL5375のインターフェース・レイアウトには特に注意を払う必要があります。良好なノイズ性能とスプリアス性能を得るための推奨事項を以下に示します。図9はレイアウトの上面図で、以下の推奨事項に従っています。
- DAC、フィルタ、変調器をPCBの同一面に配置します。
- タイトなフィルタ・レイアウトを採用して、LとCのキープ・アウトのマージンを減らします。
- グランド・プレーンに接地するシャント・コンデンサの容量を3倍にします。
- DACから変調器までの距離を短くします。
- I/Qのすべての差動パターン長を十分に一致させます。
- フィルタの終端対抗を変調器の入力にできるだけ近づけて配置します。
- DAC出力の50Ω抵抗をできるだけDACの近くに配置します。
- LとCは、0402サイズのものを使用します。
- フィルタ回路のパターン幅を広くして、信号損失を減らします。
- DAC出力パターン、フィルタ回路、変調器の出力パターン、およびLO入力パターンのすべてのパターン周囲にビアを配置します。
- 局部発振器(LO)と変調器の出力は、異なる層に配置するか互いを90°の角度に配置してカップリングを防ぎます。

適切なレイアウトの詳細については、www.analog.com/CN0432-DesignSupportの設計サポート・パッケージに含まれるAD9139-DUAL-EBZのPCBレイアウト・データを参照してください。
回路の評価とテスト
ここでは、ボードのセットアップおよびテスト方法について説明します。このデモと結果を再現するために必要となる基本的な手順を、以下に概説します。詳細については、AD9139-DUAL-EBZ評価用ボードのクイック・スタート・ガイドを参照してください。
必要な装置
以下のハードウェア類が必要になります。
- AD9139-DUAL-EBZ
- AD-DPG3
- Agilent E3631A電源(または同等品)
- スペクトラム・アナライザPXA N9030A
- Rohde & Schwartz SMA100A信号発生器
- USBポートを備えたPC
- USBケーブル
以下のソフトウェアが必要になります。
- DPGダウンローダ
- ACEソフトウェア
テスト・セットアップ
ここでは、64 QAMのデジタル変調器を使用して隣接チャンネル・パワー(ACP)と変調誤差比(MER)の性能を測定する方法について詳しく説明します。このテスト・セットアップは柔軟性が高く、他の測定を行うことも可能です。テスト・セットアップを図10に示します。AD9139-DUAL-EBZ評価用ボードのハードウェア、SPIソフトウェア、クイック・スタート・ガイド(QSG)、DPG3のハードウェアとソフトウェアはすべて発売されています。
P5/P6では、ボードの5V電源供給用にKeysight E3631を1台使用しています。R&S SMA100Aの1台を使用して、ボードのAD9516-1に入力クロックを供給します。もう1台のR&S SMA100Aを使用して、ADL5375-05にLOクロックを供給します。シリアル・ペリフェラル・インターフェース(SPI)ソフトウェアによってAD9139を設定します。AD9139で伝送されるベクトルを生成し、DPGDownloaderをPC上で動作させてDPG3にダウンロードします。ADL5375-05の出力をKeysight PXA N9030Aに供給します。

測定結果

