AN-968:電流源の回路と動作
はじめに
多くのアプリケーションで、センサー駆動用、正確な計測用、その他のアプリケーション用のデバイスを励起する電流源が必要となります。このアプリケーション・ノートでは、アナログ・デバイセズのIC を使って電流源をデザインする際に使用できるいくつかのオプションについて説明します。特定のデバイスに組込まれるマイロアンペア・レンジの電流源から、中電力や高電力ディスクリート・アプリケーションの1 A レンジまでの電流源の例も示します。
低電流—ADC アプリケーション
ADC によっては、定電流源 (励起電流とも呼ばれます)を内蔵するセンサー直接実装向けに特別にデザインされているものもあります。
AD7794 デバイスは、10 μA~1 mA で設定可能な励起電流を持っています (図1 参照)。この電流源はレジスタ(I/O レジスタ)から制御され、2 本の出力ピンの内の1 本(この場合IOUT1)に流れる電流をイネーブルします(詳細については、図1 を参照してください)。これは、センサー消費電力が小さい携帯型アプリケーションには十分な機能です。
AD7719 ADC には、最大電流400 μA の同様の電流源があります(図2 参照)。同様に、2 つの電流源も使用可能です。両電流源は200 μA であり、AD7794 ADC と同じ方法で制御することができます。すなわち、一方または両方の電流を出力ピンへ流すことができます。図2 では、両電流がIOUT1 ピンに出力されて、ブリッジとリファレンスを駆動しています。詳細については、AD7719 データ・シートを参照してください。
アナログ・デバイセズは、定電流源機能を内蔵する多くのADCを提供しています。詳細については、www.analog.com/adcs をご覧ください。
マイクロコントローラ
アナログ・デバイセズは、低電流レンジの電流源を内蔵した広範囲なマイクロコントローラも提供しています。詳細については、www.analog.com/microcontrollers を参照してください。
低電流—オペアンプ・アプリケーション
電流源に対するディスクリート・オプションは、オペアンプ駆動の回路です(図3)。AD8610 オペアンプは駆動電流が比較的大きいオペアンプで、±12 V から駆動されます。
VIN の負電圧がオペアンプを制御して、このデバイスの電圧出力を持ち上げます。アンプの出力電流が1 Ω の検出抵抗に流れます。帰還オペアンプの入力電圧が上昇して、制御オペアンプ入力に逆極性の電圧を発生させます。平衡状態に達して、定常状態の電流が1 Ωの検出抵抗に流れます。検出抵抗は電流の測定に使いますが、負荷抵抗も高価な検出抵抗のコスト削減のために使うことができます。この方式の欠点は、負荷がなくなった場合、たとえばアンプが飽和した場合に回路が未知状態になることです。
AD8610 は優れた電流ノイズ性能と電圧ノイズ性能を持っているために選択されたことに注意してください。詳細については、AD8610 データ・シートを参照してください。この回路では、正または負の電圧をVIN に与えることにより、10 mA 以上の電流をそれぞれシンクまたはソースすることができます。
中電流—バイポーラ・アプリケーション
図4 に、100 mA 以上の大きな電流を持つ電流源の例を示します。この回路では、負荷へ電流を供給するためにプッシュプルのオペアンプ出力ドライバ・ステージを使っています。正の電圧をVIN に与えると、制御オペアンプの出力電圧が上昇して、Q1 をターンオンさせるので、10 Ω の抵抗を通して負荷へ電流が流れます。この10 Ω の抵抗は、熱暴走を防止するために必要です。電流が増えると、検出抵抗の電圧も大きくなるので、制御オペアンプへの電圧帰還も増えて平衡状態に到達します。平衡状態になると、VIN の固定入力電圧に対応する定電流が負荷に流れます。これにより負荷へ電流を供給するので、これは定電流源になります。
VIN 入力電圧が負の場合には同様の状況が発生しますが、Q2 がターンオンするために電流が逆向に流れます。VIN の一定電圧に対応して、一定の電流が負荷に流れます。VIN にステップ入力電圧を与える場合、すなわち周波数20 kHz で±100 mV のVIN電圧を与える場合でも、回路は約3 μs の電流セトリング・タイムで良く動作します。このスイッチングから、回路の安定性を知ることができます。
帰還ループにアンプを追加すると、VIN での感度が低下します。たとえば、ゲインを10 にすると、±1 V のVIN 制御電圧が可能になります。
大電流—MOSFET アプリケーション
大電流アプリケーションが必要な場合には、前述の回路でプッシュプルをMOSFET と数個の部品で置き換えることにより負荷電流を増やすことができます。
図5 の回路では、MOSFET (IRF640 N チャンネル)のゲート電圧を設定するために制御ループを使っています。図5 の回路では、検出抵抗と帰還アンプを使って、前述の例で示したようにVINの感度を低下させています。図5 の最大電流は1000 mA です。ただし、MOSFET と検出抵抗のみを変更することにより、さらに大きな電流の駆動に対して同じ制御ループを使うことができます。また、図5 の回路の利点は、ジャンパーLK2 で示すように、回路の電源とは異なる電圧の電源を負荷に対して使うことができることです。これは、200 V の絶対最大定格を持つIRF640 のような高電圧のMOSFET を使用する場合、回路の他の部分に供給される15 V より高い電圧でこの回路が動作できることを意味します。
この回路では、1000 mA の電流をシンクするようにMOSFET と検出抵抗が選択されています。したがって、100 mΩ の検出抵抗では、最大負荷での合計電圧が0.1 V になります。検出抵抗の消費電力は0.1 W です。制御アンプに対する合計電圧帰還が2.0 V になるように、帰還回路のゲインは20 に設定されています。このため、負荷から1000 mA の電流をシンクするために必要なVIN の電圧は2.0 V になります。シミュレーションでの応答については、図6 を参照してください。DAC を使ってVIN を駆動してこの電圧を制御すると、負荷を流れる電流が変化するため、可変電流源にすることができます。VIN の電圧を1.0 Vに固定すると、500 mA の定電流源になります。
動作させる場合、負荷はMOSFET のドレインまたはソース、あるいは電流パス内の任意の場所に接続することができます。
MOSFET の発熱も重要であるため、MOSFET を選択する際にはRDS(ON)の値が非常に重要な要素になります。このケースでのRDS(ON)の値は、150 mΩ (typ)です。電流がこれより大きいときは、可能な場合20 mΩ以下のRDS(ON)値を使用してください。
レイアウト・モジュール
広範囲な電流源アプリケーションで使用できる電流源レイアウト・モジュールを開発するときは、約1 mA~約1000 mA に対して、図7 の回路を使ってください。そうすると、必要とされる電流範囲に応じて必要な部品のみをPCB に実装して、同じモジュールを使うことができます。
結論
定電流源または可変電流源の安定性は、正確な計測を行う場合に非常に重要です。アナログ・デバイセズは、図1 と図2 のようなIC 部品として、または図3、図4、図5、図7 のようなディスクリート部品として、広範囲なアプリケーション向けに柔軟で信頼度の高い電流源を実現できる広範囲なデバイスを提供しています。