アプリケーション・ノート使用上の注意

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アプリケーション・ノート使用上の注意

AN-2561: ユニバーサル・シリアル・バスのペリフェラル・アイソレータ回路

回路の機能とその利点

ユニバーサル・シリアル・バス(USB)は、ほとんどのPC ペリフェラルの標準インターフェースとして急速に広まりつつあります。USB は、優れた高速性と柔軟性を備えると共にデバイスのホット・スワップに対応していることから、RS-232 やパラレル・プリンタ・ポートに取って代わっています。産業機器および医療機器メーカーの一部からも、このバスを使用したいという強い要望がありましたが、採用は遅々としたものでした。それは、危険な電圧を制御する機器との接続や、医療用途における低リークで除細動への耐性のある接続に対して、要求される絶縁性能を実現する良い方法がなかったためです。

ADuM4160 は、医療用および産業用のペリフェラルに対し、低コストで簡単なアイソレーション・バッファを実現します。対応しなければならない課題は、以下のようなものでした。

  1. マイクロプロセッサで使われている既存のUSB インフラストラクチャを使用できるようにするため、USB のD+ラインとD−ラインで直接、アイソレーションすることが必要。
  2. 外部の制御ラインを必要とせずに制御データのフローを自動化する方法の導入。
  3. 医療グレードのアイソレーション。
  4. すべてのペリフェラルでUSB-IF 認証規格を満足する性能。
  5. フル・スピード(12Mbps)とロー・スピード(1.5Mbps)の信号レートに対応。
  6. 柔軟性のある電源構成に対応。

図1 は、既にUSB インターフェースに対応済みのペリフェラル・デバイスを絶縁する回路です。この回路では、ペリフェラルを明確に定義していないため、このソリューションで提供されるのは、アイソレータの2 次側を駆動する電力です。この回路をペリフェラル設計のPCB に組み込む場合、電力はアプリケーションのニーズに応じて、ペリフェラルのオフ・ライン電源、バッテリ、もしくはUSB ケーブルのバス電源から供給することができます。

Figure 1. USB Peripheral Isolator Circuit. 図1. USB ペリフェラルのアイソレータ回路
図1. USB ペリフェラルのアイソレータ回路

ここに示すアプリケーション回路は、多くの医療用および産業用アプリケーションで標準的なものです。

回路の説明

上流側のUSB コネクタへの電力は、USB ケーブルの5V VBUS電圧から供給されます。ADuM4160 を使用しないとすると、必要な信号、プルアップ抵抗、プルダウン抵抗のすべてをペリフェラル・デバイスが用意しなければなりません。下流側の電力は、AC アダプタと低ドロップアウト(LDO)レギュレータのADP3338(5V オプション)によって供給されます。このLDOは極めて低いドロップアウト電圧を提供できるため、AC アダプタに必要とされるレギュレーション条件を緩和することができます。小型(SOT-223)で1A の出力電流能力を備えているため、ペリフェラル・デバイスを動作させるためにケーブルの電力が必要となる可能性もあるこの汎用回路には、最適です。

ADuM4160 には、必要な電力、速度、保護機能に応じていくつかのオプションがあります。最初に決めるのは、ペリフェラルの動作速度です。ペリフェラル・デバイスは、ロー・スピード(1.5Mbps)、フル・スピード(12Mbps)、ハイ・スピード(480Mbps)のいずれかで動作します。ADuM4160 は、ハイ・スピード動作をサポートしておらず、このスピードのネゴシエーションを行う信号のハンドシェイクをブロックします。ハイ・スピード・モードはフル・スピード設定として開始され、ペリフェラルは、ハイ・スピード・チャープと呼ばれるプロセスを通じてハイ・スピードに対応するようリクエストを出します。ADuM4160 はこのハイ・スピード・チャープを無視します。そのため、このハイ・スピード動作のリクエストはホストには決して届かず、ペリフェラルはフル・スピードでの動作を続けます。これにより、USB バス上のペリフェラルの速度は、ロー・スピードかフル・スピードのいずれかになります。必要な速度は特定のペリフェラルによって決まります。ADuM4160は、SPU ピンとSPD ピンの状態を介してこの速度に一致するよう設定する必要があります。回路図中では、SPU ピンとSPD ピンは内部で安定化された3.3V 電源VDD1 およびVDD2 に接続され、フル・スピード動作に設定されています。

電力は、VBUSx ピンを通じて5V として提供でき、3.3V の信号電圧はVDDx ピンの内部3.3V レギュレータによって生成されます。その代わりに、3.3V 電源をVBUSx とVDDx に供給することもできます。デバイスはこの外部電源を直接使用し、内部レギュレータはディスエーブルします。

このオプションにより、ADuM4160 を5V のUSB ケーブルで動作させるか、あるいはペリフェラルから得られる5Vまたは3.3Vレールの電源で動作させるかの、いずれかが選択可能です。回路図では、どちらの側も5Vに接続され、内部レギュレータはアクティブになっています。

ADuM4160 には、ペリフェラルの制御下にある上流のプルアップを遅延させるオプションがあります。この機能はPIN 入力で制御されます。このアプリケーションでは、PIN 入力はハイにジャンパ接続され、ペリフェラルの電源が印加されるとすぐに上流のプルアップが行われるようになっています。他のアプリケーションでは、PIN 入力をコントローラのGPIO ピンに接続したり、固定の遅延回路を利用したり、あるいはこの回路に示したようにPIN 入力を接続することも可能です。この機能をどのように使用するかは、設計者の選択となります。

この回路には、保護デバイスが含まれています。これらのデバイスは、幅広い部品を提供するメーカーから選びました。また特定の部品については、これらを回路から外した場合に0Ωショートによって置き換えることの可能な部品が選ばれています。保護デバイスは、外部保護を使用しない場合から、トランジェント抑圧特性やフィルタ素子など必要な機能をすべて揃える場合まで調べた上で選択してください。この回路に含まれている回路素子は、標準的な高い保護レベルの構成になっています。

回路が動作しているとき、パケットが検出され、データがアイソレーション・バリアの両側を往復します。代表的なフル・スピードの伝送について、図2 に時間領域のデータ、図3 にアイ・ダイアグラムを示します。このリアルタイム・データの特長として、パケットの開始時には受動的なアイドル状態であり、この状態からドライブJ に移行し、伝送が終了するパケットの終了時にはシングルエンドのゼロ状態の後にアイドルJ が続きます。この自動の制御フロー、および特別なロジック状態のハンドリング方法は、市場においてADuM4160 独自のものです。

Figure 2. Full Speed Test Packet Traffic Driven By the Upstream ADuM4160 Port. 図2. ADuM4160 の上流ポートによって駆動されるフル・スピードのテスト・パケット・トラフィック
図2. ADuM4160 の上流ポートによって駆動されるフル・スピードのテスト・パケット・トラフィック
Figure 3. Full Speed Eye Diagram Showing Exclusion Zone. 図3. 禁止領域を示したフル・スピードのアイ・ダイアグラム
図3. 禁止領域を示したフル・スピードのアイ・ダイアグラム

図2 と図3 に示すデータは、USB-IF の品質評価プロセスの一環として生成されるものです。図2 は、ADuM4160 の上流ポートからホストに伝送されるテスト・データ・パケットを示しています。最初のアイドル状態に注意してください。これは、パッシブな抵抗回路をアイドルJ 状態に保持します。パケットの中央部分はJ状態とK状態の混合です。パケットの右側はエンド・オブ・パケット(EOP)マーカーで、シングルエンドの0 の後にドライブJ が続き、アイドルJ に移行します。

以下は、適用可能なテスト・リファレンスです。

  • アップストリーム・フル・スピード信号品質テスト・リファレンス—USB 2.0 規格、セクション7.1.11、セクション7.1.2.1。
  • アップストリーム・フル・スピード立上がり時間テスト・リファレンス—USB 2.0 規格、セクション7.1.11、セクション7.1.2.2。
  • アップストリーム・フル・スピード立下がり時間テスト・リファレンス—USB 2.0 規格、セクション7.1.11、セクション7.1.2.2。

図3 はフル・スピードのアイ・ダイアグラムで、ADuM4160 が充分なオープン・アイを提供し、禁止領域からは充分に離れていることを示しています。ロー・スピードの評価でも同様のデータが得られています。

代表的なアプリケーション回路の写真を図4 に示します。I2C 対応インターフェースを備えた4 チャンネル、12/10/8 ビットADCのAD7991 の評価用ボードに、ADuM4160 の評価用ボード(写真の左側)が接続されています。ADC の評価用ボードがペリフェラルとして動作し、(ADC のテストと評価のため)USBポートを介してPCと接続されています。ADuM4160のUSBポートとADC 評価用ボードの間で全回路の絶縁を実現しています。

Figure 4. Photo of ADuM4160 USB Evaluation Board Connected to USB Port of AD7991 Evaluation Board. 図4. ADuM4160 USB 評価用ボードをAD7991 評価用ボードのUSB ポートに接続した写真
図4. ADuM4160 USB 評価用ボードをAD7991 評価用ボードのUSB ポートに接続した写真

この回路はエッジ速度が速いため、システムのEMI/RFI テストに合格するためには、レイアウト、デカップリング、グラウンディングに高い技術が必要とされます。詳細については、チュートリアルMT-031チュートリアルMT-101アプリケーション・ノートAN-0971 を参照してください。