質問:
電源が極めて重要なアプリケーションにおいて、高い信頼性で給電を継続できるようにするにはどうすればよいでしょう?

回答:
アプリケーションの種類を問わず、どのような状況下にあっても電源電圧を連続的に供給するのは非常に重要なことです。しかし、実際にそのような状態を維持するのは必ずしも容易なことではありません。本稿では、停電が発生した場合でも給電を継続できる無停電電源(UPS:Uninterruptible Power Supply)の設計例を紹介します。その設計コンセプトは、最適なソリューションを非常にコンパクトに実現するというものです。
実際、UPSが必須の要素であるアプリケーションは少なくありません。その一例としては、データ・ストレージの冗長化を実現するRAID(Redundant Array of Independent Disk)システムが挙げられます。その種のシステムでは、データのバックアップ処理を行っている際などに、不都合なタイミングで停電が発生してもデータが消失しないようにしなければなりません。また、リアルタイム・クロックを備えるシステムも連続給電を必要とします。そうしたシステムでは、バッテリやその他のバックアップ・ソリューションを使うことによって対応を図ります。また、自動車分野で使われるテレメトリのアプリケーションにもUPSが必要です。あるいは、医療分野で使用される制御型インスリン・ポンプのような投薬管理システムにもUPSが必要になります。
図1は、産業分野で使われる標準的なUPSのブロック図です。このUPSは、産業用のセンサーに給電することを目的として構成されています。この回路を含むシステムの信頼性は、センサー用の電源によって大きく左右されます。システム電圧を通常の状態で利用できる場合、黒い実線の経路によってセンサーへの給電が行われます。同時に、リニア方式の充電用レギュレータICによってスーパーキャパシタ(電気二重層コンデンサ)の充電が実行されます。ここで、何らかの要因によってシステム電圧が低下したとします。すると、蓄電システムにおいて、スーパーキャパシタのエネルギーを基にした昇圧処理が行われます。つまり、昇圧回路によって、センサーに給電するために必要な電圧が生成されます。このシステムは、連続給電という目的を果たすために適切に動作します。しかし、種類の異なるいくつかのコンバータ(レギュレータ)が必要になるので、実装は容易ではありません。また、多くのアプリケーションでは、蓄電システムから電源に向かってエネルギーが逆流しないよう注意を払う必要があります。図1のシステムにおいて、スーパーキャパシタはセンサー回路に給電するという目的を果たすためだけに使用します。言い換えれば、24Vのラインに接続されている(図1の左側にある)他の電子回路にスーパーキャパシタから電力が供給されてはなりません。通常、蓄電システムは、24Vの電源電圧に接続されたシステム全体ではなく、局所的な負荷に電力を供給するように設計する必要があります。そのため、図1の回路にはダイオードDを適用しています。
図2は、アナログ・デバイセズの新たなコンセプト「Continua™」の概要を示したものです。そして、このコンセプトを具現化したものが「MAX38889」です。Continuaは、最大5Vの電源レールに対応する集積度の高いバックアップ・ソリューションです。このソリューションで使用するのは、1個のICと数個の外付け受動部品だけです。MAX38889は、高効率の降圧モードと昇圧モードで交互に動作するハーフ・ブリッジを内蔵しています。
図3に示したのが、MAX38889を使用した実際の回路です。必要なロジック回路やパワー・スイッチはすべて同ICが備えています。そのため、スーパーキャパシタ以外に必要なのは、チップスケールのインダクタが1個、バックアップ用のコンデンサが数個だけです。
MAX38889が内蔵するハイサイドのパワー・スイッチは、アナログ・デバイセズのTrue Shutdown™技術に基づいて動作します。それにより、CAPピンとシステム電圧を切り離せるようになっています。つまり、CAPピンの電圧が高くなった場合でも、同ピンからシステムに電流が流れることはありません。
市場には、様々な電圧/電流範囲を対象とした数多くのバックアップ・ソリューションが提供されています。ContinuaをベースとするMAX38889は、それらとは一線を画すバックアップ・ソリューションだと言えます。なぜなら、5V/3.3Vの電源ラインに簡単に追加できるコンパクトな設計を実現可能だからです。また、このソリューションは、充電モード、放電モードにおいて最大94%という高い変換効率を実現します。加えて、蓄電システムのサイズとコストを最小限に抑えることを可能にします。