RFの謎を解き明かす――RFアッテネータとは何なのか?

質問:

RFアッテネータとは何ですか?  アプリケーションに最適な製品を選択するにはどうすればよいのでしょう?

RF Demystified—What Is an RF Attenuator?

回答:

アッテネータ(減衰器)は制御用のコンポーネントの一種です。その主な機能は、自身を通過する信号の強度を下げることです。アッテネータは、最終的なアプリケーションの設計において、シグナル・チェーンにおける信号レベルの測定、システムのダイナミック・レンジの拡張、インピーダンスのマッチング、様々なキャリブレーション機能などを実現するために使用されます。

はじめに

この連載では、RFが専門ではない技術者を対象とし、様々なテーマを取り上げて解説を行っています。今回は、アッテネータICの種類や、内部回路の構成、仕様について説明します。本稿の目的は、各種のアプリケーションに最適なアッテネータ製品を選択できるよう技術者を支援することです。なお、本連載に関連する記事としては、「アプリケーションに適したRFアンプを選択する方法」、「周波数生成用のコンポーネントはどう選ぶ?」、「RFの謎を解き明かす――波の反射とは何なのか?」があります。

アッテネータの種類

主要な機能という観点から見ると、アッテネータは減衰量(減衰レベル)が不変の固定アッテネータと、減衰量を調整できる可変アッテネータに分類できます。可変アッテネータは、減衰量を制御する方式によって更に細分化することが可能です。具体的には、アナログ制御を行う電圧可変アッテネータ(VVA:Voltage Variable Attenuator)と、デジタル制御を特徴とするデジタル・ステップ・アッテネータ(DSA:Digital Step Attenuator)に分類できます。

VVAでは、所定の範囲内であれば減衰量をあらゆる値に設定できます。また、その量を連続的に調整することが可能です。このようなアナログ方式で制御されるVVAは、自動ゲイン制御、キャリブレーションによる補正処理、平滑かつ高精度の信号制御が求められる処理などに使用されます。

一方、DSAでは減衰量の設定は離散的な形で行います。つまり、信号の強度の調整は、あらかじめ設定されたステップ・サイズで実行されます。多くの場合、デジタル制御方式を採用したRF対応のアッテネータICは、マイクロコントローラと接続するための制御インターフェースを備えています。DSAは、複雑な設計において、機能の面で完全性を提供する優れたソリューションとして利用されています。

内部回路の構成

アッテネータICの内部回路は、抵抗、PINダイオード、FET、HEMT、CMOSトランジスタなどを使用して構成されます。製造プロセスとしては、GaAs、GaN、SiC、CMOSが用いられます。図1に、アッテネータの機能を実現するための基本的なトポロジを示しました。それぞれ、T型、π型、ブリッジT型と呼ばれています。アッテネータICとしては様々なものが製品化されていますが、それぞれの回路では基本構成としてこれらのトポロジが使われています。

図1. アッテネータの基本的なトポロジ。(a)はT型、(b)はπ型、(c)はブリッジT型と呼ばれます。
図1. アッテネータの基本的なトポロジ。(a)はT型、(b)はπ型、(c)はブリッジT型と呼ばれます。

固定アッテネータは、いずれかのトポロジを採用することにより、値が不変の減衰量を提供します。この種のアッテネータは、薄膜と厚膜のハイブリッド技術で形成した抵抗を使用して実現されます。

可変アッテネータについて見てみると、VVAは通常、T型またはπ型で構成されています。また、非線形の抵抗領域で動作するダイオード素子またはトランジスタ素子が使われています。それらの素子の抵抗特性は、制御電圧を変化させることで必要な減衰量を得るために利用されます。

一方、DSAでは、制御用の個々のビットに対応する複数のユニットをカスケード接続した回路が使用されます。それらのユニットは、求められる減衰量を実現するために、入力または出力に対する接続を切り替えられるようになっています。図2に、DSAの設計に使用される回路の構成例を示しました。図2(a)の回路では、SPDTスイッチにより、減衰用の回路(パッド)とスルー・ラインのうちどちらで入力ポートと出力ポートをつなぐかというトグル制御が行われます。また、図2(b)のスイッチド・スケールド・デバイスの設計では、スイッチによる制御が可能な抵抗としてトランジスタやダイオードが使用されます。図2(c)のスイッチド・レジスタの構成では、入力または出力に接続される抵抗が切り替えられるようになっています。図2(d)のデバイス組み込み型の設計では、トランジスタまたはダイオードが不可欠な要素として使用されています。

図2. DSAを構成するために使用される回路。(a)はスイッチを内蔵したπ型の構成、(b)はスイッチド・スケールドFETの構成、(c)はスイッチド・レジスタの構成、(d)はFET組み込み型の構成を表しています。
図2. DSAを構成するために使用される回路。(a)はスイッチを内蔵したπ型の構成、(b)はスイッチド・スケールドFETの構成、(c)はスイッチド・レジスタの構成、(d)はFET組み込み型の構成を表しています。

アッテネータのトポロジは、図3のような反射型、平衡型の設計として図式化することができます。反射型のアッテネータでは、同じアッテネータを3dBの直交カプラの出力に接続して使用します。通常はダイナミック・レンジが広いという特徴が得られます。一方、平衡型の構成では、3dBの直交カプラを2つ使用し、一対の同一のアッテネータを組み合わせます。この構成の場合、優れたVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)とパワー・ハンドリングの能力が得られます。

図3. アッテネータの設計トポロジ。(a)は反射型、(b)は平衡型を表しています。
図3. アッテネータの設計トポロジ。(a)は反射型、(b)は平衡型を表しています。

アッテネータICを実現するためには、ここまでに紹介したもの以外にも様々な種類の回路が使用されます。本稿では、それらについての詳細な説明は割愛します12

主要な仕様

アプリケーションに最適なアッテネータを選択するためには、主要な仕様について十分に理解しておかなければなりません。基本的なパラメータとしては、減衰を実現する能力や、入力インピーダンス、出力インピーダンス、挿入損失、反射損失といったものが使われます。それら以外にも、アッテネータ製品の特徴を示すためには様々な仕様が用いられます。主なものとしては以下のような仕様が挙げられます。

  • 周波数範囲(Hz):IC が、規定された特性を維持できる周波数範囲を表します。
  • 減衰量(dB):挿入損失を上回って実際に抑制可能な量を表します。
  • 周波数応答:周波数範囲の全体にわたり、減衰レベル(dB)がどのように変動するのかを表します。
  • 減衰範囲(dB):コンポーネントによって得られるトータルの減衰値です。
  • 入力の直線性(dBm):通常は 3 次インターセプト・ポイント(IP3)で表します。IP3 は、スプリアス成分の電力が、基本波成分と同じレベルに達する入力電力レベルの仮想ポイントを定義します。
  • パワー・ハンドリング(dBm):通常は入力 1dB 圧縮ポイントで表されます。入力 1dB 圧縮ポイントは、アッテネータの挿入損失が 1dB 低くなったときの入力電力レベルを定義します。多くの場合、パワー・ハンドリングの特性は、安定した状態ならびにホット・スイッチング・モードにおける入力電力レベル(平均/ピーク)に対して規定されます。
  • 相対位相(度):アッテネータによって信号にもたらされる位相シフトを表します。

可変アッテネータについては、上記の一般的なパラメータに加え、立上がり時間/立下がり時間、オン時間/オフ時間、RF出力信号の振幅/位相のセトリング時間といったスイッチング特性も仕様として使われます。通常、スイッチング特性はナノ秒の単位で表現されます。

また、各可変アッテネータにはそれぞれに固有の特性があります。

まず、VVAについては、アナログ制御の動作に関連して次のような仕様が用いられます。

  • 電圧制御範囲(V):減衰範囲内において、減衰量を調整するために必要となる電圧を表します。
  • 制御特性:減衰レベルを制御電圧の関数として表す際、通常は減衰量の傾き(dB/V)と性能曲線が使用されます。

一方、DSAについては、次のような固有の仕様が用いられます。

  • 減衰精度(dB):減衰量の公称値に対するばらつきの最大値を表します。状態誤差とも呼ばれます。
  • 減衰ステップ・サイズ(dB):連続した 2 つの減衰量の差のことです。
  • ステップ誤差(dB):減衰ステップ・サイズの公称値に対するばらつきの最大値のことです。
  • オーバーシュート/アンダーシュート(dB):状態が遷移する際の信号のトランジェント(グリッチ)のレベルを表します。

一般に、優れたアッテネータ製品は、動作周波数範囲の全体にわたり、平坦な減衰性能と良好なVSWRを提供します。また、十分な精度とパワー・ハンドリング能力を備えています。更に、優れたアッテネータ製品であれば、状態の遷移中にも信号の歪みがほとんど生じないスムーズなグリッチ・フリー動作を保証しているか、または線形制御特性を備えているはずです。

まとめ

アッテネータICとしては、多種多様なものが提供されています。本稿では、それらすべてを網羅したわけではありません。例えば、周波数に対する依存性を持つ製品もあれば、位相補償機能を備える製品も存在します。あるいは、減衰量が温度に応じて変化するアッテネータや、D/Aコンバータを内蔵するプログラマブルなVVAといったICも提供されています。そうしたなか、本稿では最も一般的なアッテネータICに注目し、その主なトポロジと主要な仕様について説明しました。アッテネータ製品を選択する際には、ぜひ本稿の内容を活用してください。

アナログ・デバイセズは、多種多様な製品で構成されるRF ICのポートフォリオを提供しています3。当社のアッテネータICは、様々なアーキテクチャやフォーム・ファクタに対応することが可能です。つまり、システムの条件に応じて最適な製品を選択できるだけの柔軟性が設計者に対して提供されています。当社の製品は、クラス最高レベルの性能と高い信頼性を維持しつつ必要な機能/動作が得られるように設計されています。特に、計測、通信、防衛、航空宇宙といった分野では、アプリケーションに対して非常に厳しい要件が課せられます。当社の製品は、そうした要件にも対応できるように設計されているということです。

参考資料

1 Inder J. Bahl「Control Components Using Si, GaAs, and GaN Technologies(Si/GaAs/GaN技術をベースとする制御用コンポーネント)」Artech House、2014年

2 Ian Robertson、Stepan Lucyszyn「RFIC and MMIC Design and Technology(RFICとMMICの設計と技術)」The Institution of Engineering and Technology、2001年11月

3RF/マイクロ波/ミリ波IC セレクション・ガイド 2021年版」Analog Devices、2021年5月

著者

Anton Patyuchenko

Anton Patyuchenko

Anton Patyuchenkoは、アナログ・デバイセズでフィールド・アプリケーション部門を担当するテクニカル・リーダーです。2015年に入社しました。RF分野で15年以上の経験を持つスペシャリストとして、同分野に関連する業務に注力しています。2007年にミュンヘン工科大学でマイクロ波工学の理学修士号を取得。卒業後は、ドイツ宇宙航空センター(DLR)のマイクロ波/レーダー研究所で研究職に就いていました。